2021年6月 4日
#749 中村 亮土 『キャプテンになったからこそ、自分自身のパフォーマンスにフォーカスし続けた』
サントリーサンゴリアス第19代キャプテン・中村亮土選手。優勝に挑んだ今シーズンを振り返ってもらいました。(取材日:2021年6月上旬)
◆自信もあったからこそ悔しい
――キャプテンとして、今シーズンの結果をどう捉えていますか?
結果は、やはり悔しいですね。今シーズンは代表合宿などもなく、チーム全員でちゃんと準備が出来た1年であり、自分たちでちゃんと納得した上で最後の試合に臨めました。自信もあったからこそ、悔しさがあります。
――いま考えると、決勝での5点差は何だと思いますか?
正直、分からないです。試合の入りの部分で、サントリーの流れの中、ポーンとインターセプトされました。ラグビーで起きたことなので、そのひとつの原因で負けたということはありませんが、あれはもったいない流れの渡し方をしたなと思います。ただ全体的に言えば、今はまだ分からないですね。
――そこから追及して、練習して、試合に臨むということが来シーズンになるんですね
そうですね。もう一度、ちゃんと振り返って、レビューして次に繋げないといけないと思います。
――決勝までのシーズンの流れはどうでしたか?
接戦が少ない中で準備していかなければいけないシーズンでもあったので、その難しさは少しありました。メンタルの持ち方というか、マインドセットのところで、本当に自分たちにフォーカスしないとチームの成長が出来ないようなところがありました。接戦もありましたが、接戦を繰り返していくことでチームは強くなると思います。だから、力の差があるチームと試合をする時の持っていき方として、自分たちにフォーカスして準備することを意識しました。
――その部分は出来た部分ですか?
そうですね。そこが出来た部分の大部分を占めていると思います。
――試合の結果だけを見ると、ボーデン・バレット選手が決勝点をあげたり、いわゆる試合を決めるプレーがありましたが、バレット選手の影響は大きかったですか?
大きかったと思います。最後に決めるところとか、やはりスター性がありますね。ただそれだけではなく、試合の中で80分間通して彼の役割があるので、その役割をしっかりと果たしてくれていたと思います。
――そういう中心選手がチームを離れて来シーズンを迎えるということについてはどうですか?
大丈夫だと思いますよ。逆にそういう選手がいなくなった時に、チームの進化とか、チームの成長の伸びが著しいと思うので、非常に楽しみにしています。
◆分かりやすく成長した部分
――自分自身を振り返ると、目指している世界一のセンターには今シーズン近づきましたか?
分からないですが、一貫性を持って、自分が納得できるパフォーマンスを出せたということは、良かったと思います。評価するのは自分ではないので、誰が日本一のセンターとか世界一のセンターとかは分かりませんが、僕が求めるレベルには近づいていると思います。
――今シーズン、いちばん成長したと思うところはどこですか?
絞って言うと、キッキングゲームですかね。キッキングゲームのところは、ちゃんとオプションになったかなと思います。キックのスキルも含めて、チームの中でのひとつのオプションになれたと思います。
――練習でも重点的に取り組んだんですか?
やっていましたね。個人練習でも毎日のようにやっていました。
――決勝では、蹴ったボールを自ら取ってトライした場面もありましたね
本当に分かりやすく成長した部分だと思います。
◆これだけはっきりと感じる成長って、なかなかない
――反対に、成長させようとして出来なかったところはありますか?
ないですね(笑)。他の全般的なスキル、ランニングやパスなども、もっともっと良い判断をして、精度高く出来る余地があるので、そこは毎回修正して、ステップアップしていかなければいけないと思います。あとはプレッシャーがかかった中で、どれだけ精度高く出来るかとか、そういうところはまだまだレベルアップ出来ると思います。
――そこが来シーズンへ向けた課題になりますか?
そうですね。これだけはっきりと感じる成長って、なかなかないと思うので、今シーズンが特別と思い、細かなスキルなどを、毎回毎回、レベルアップしていければ良いなと思います。
――これだけはっきりと成長を感じることが出来たという要因は?
自分自身のパフォーマンスにフォーカスし続けたということがあると思います。キャプテンになったからこそ、そこを意識し続けようと思い、実際に続けられたと思います。これまでも個人としてのパフォーマンスを発揮しなければいけないと思っていましたが、キャプテンとしてチーム全体をまとめることも必要ですけど、1人の選手として、しっかりとしたパフォーマンスを発揮し続けなければいけないと、ちゃんと意識し続けたことによっての結果だと思います。
――キャプテンになって良かったですね
どうなんですかね(笑)。僕は周りのメンバーに頼りながらやっていたので、気負いせずにやれたところがあったかもしれません。
――これまでよりも更に自分に厳しく取り組んだ結果ですね
なんかカッコよく聞こえますね(笑)。みんながやっていることと一緒で、毎回ベストパフォーマンスを出すために準備するということだけだと思います。
◆チームとして戦えるような環境を作る
――プレー以外も含めてチーム全員が同じ方向を向いていたように感じましたが、どうでしたか?
僕1人がチームに与える影響って少ないと思います。今シーズンはリーダーが11人いて、その11人がチームに与える影響は大きいと思います。僕はそこをまとめて、リーダーとスタッフのコネクションをいかに保ち、同じ絵を見せられるようなミーティングを行ったり、そこのまとまりについてを意識しました。監督を含めたスタッフと、選手を代表するリーダーたちの強い信頼関係があった上でチームが成り立っていかないと、決して良い方向に動かないので、そこにはちゃんとアプローチしましたし、それを自分なりのやり方でやりました。
――そこが重要だと思ったきっかけは?
きっかけと言うか、僕は1人で突っ走っていくタイプではないですし、試合中に身体を張ってめちゃくちゃインパクトを残すような選手でもないので、チームとして戦えるような環境を作るためには、そこが必要だと思いましたね。
――リーダーが一枚岩だった思いますが、リーダーをまとめる上で気を付けたことは何ですか?
まずはお互いにリスペクトすること。元々、僕がリーダーの他のメンバーを選ばせてもらって、シーズン中は積極的に頼っていました。そこで信頼関係が生まれますし、僕自身がやらなければいけないことも分担できましたし、他のリーダーも主体的に動いてくれました。
――なぜそうやろうと思ったんですか?
僕1人じゃ何も出来ないので(笑)。
◆プレーする時と同じような感覚
――帝京大学でもキャプテンを務めていましたが、その時も同じような形でやっていたんですか?
いやー、どうですかね。自分だけで出来ないから他の方法を取るだけで、プレーでも同じなのかなと思います。僕は他の選手とのコネクションを保つことによって、他の選手も僕も活きるようなプレーヤーだと思っています。だから、プレーする時と同じような感覚ですね。1人で出来るのであれば、それに越したことは無いと思うんですが、僕には出来ないですからね。
――出来ないことを言えなくて、1人で頑張ってしまう人もいると思います
それが出来ないですね(笑)。だから、周りにめちゃくちゃ頼りましたよ。リーダーだけじゃなくて、リーダーグループに入っていない選手にも役割を持ってもらい、コミュニケーションを取りながらやってもらっていました。
――例えば、任せた結果が上手くいかなかった時はどうフォローするんですか?
ひとつの失敗って、大したことではなくて、その次に違うことを任せればいいだけかなと思います。やっぱり人って得意不得意があるので、そういうところを見極めて頼ったり、役割分担して任せるようにはしました。ただ、そこで失敗したところで、悪い影響を与えることは無くて、ひとつのチャレンジが失敗に終わっただけで、そこから次に活かせればいいのかなと思います。あまり深くは考えていないですが、失敗は怖くないですし、それが次に繋がれば良いなと思っています。
――失敗が怖くないのはなぜですか?
え?だって、仕事でも失敗することは沢山あるじゃないですか。そこで一回一回、落ち込んでいたら、僕の場合は生きていけなくなってしまいますね。僕が出来ないことをショーン・マクマーンがやったり、ボーデン・バレットやサム・ケレビがやったり、堀越がやったり、それぞれのパートに責任を持ってやる人を立ててやっていました。例えば、僕が若手に「頑張ろうぜ」って言っても伝わらないので、年齢の近い堀越が若手を集めて、「今が大事な時期だから、ここで頑張らなければいけない」と言った方が伝わると思います。パートごとに適任者を決めてやっていました。
――大きなキャプテンシップという感じですね
いやー、そんな大したことはやっていないですけどね(笑)。でもキャプテンをやって大変だったという感じは無いですね。結果が結果なので、悔しさの方が大きいですよ。
◆結果が出なければ意味がない
――1シーズン、キャプテンをやってみて、キャプテンとしての自分の評価はどうですか?
キャプテンになったからには結果を出さなければいけないと思っていたので、最後の評価のところは、やっぱり良くないと思います。やっぱり勝たないといけないので。チームが良くなったところで、結果が出なければ意味がないと思いますし、リーダーシップやチーム力を上げるというところでは、まだまだ出来ることがあると思っています。
――監督のタイプによって影響が出ないレベルにチームはなってきていると思いますか?
良いところもあり、悪いところもあると思います。厳しい監督だとチームを高いスタンダードで保ってくれますし、選手に任せてくれる監督だと、自分たちが主体的に動いて責任を持って出来ますし、チームを作っていくという部分では楽しい部分があります。ただ、その場合は、自分たちでスタンダードを落とさないというシビアな部分もあります。
――今シーズン、リーダー陣と監督含めたスタッフとのコミュニケーションは良かった部分ですか?
良かったと思います。スタッフ側からの要望に対してリーダー陣で話し合いフィードバックしたり、前の試合の振り返りや次の試合のプランであったり、そういう部分で全体像が見えて、お互いのやりたいこと、やらなければいけないことを共有できたので、そこは次のシーズンでも続けていかなければいけないと思います。
――これまでは、選手がやりたいことを伝えることは、そう多くはなかったんじゃないでしょうか?
そこは大きく変わった部分だと思います。どっちが正解かは分かりませんが、結果が出た方が正解だと思います。
◆絶対は無い、それがスポーツの面白い部分
――今シーズン感じた、ラグビーの面白さは何ですか?
簡単なようで難しい質問ですね。......試合をやってみないと結果が分からないので、面白いですよね。決勝も、絶対に勝てると思っていたんですが、それを覆されたからこそ、絶対は無いですし、それがスポーツの面白い部分ですよね。
――グラウンドに向かう時に楽しみにしていることは何ですか?
練習は楽しくないですからね(笑)。練習って対自分だと思うんですけど、やっぱり、接戦になると思うような試合じゃないとワクワクしてこないんですよ。同じくらいのレベルの相手がいて、緊張感がある時が、いちばん楽しいですね。
――日本代表としての目標は?
ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズに勝ちます。個人としては、世界一のセンターになります。世界一のセンターというのは、ラグビー選手の間はそれを目指してやっていくことで、今回のツアーに関しての目標は、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズに勝つことです。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]