2021年5月13日
#746 ボーデン バレット 『生涯の友情』
来日会見以来、笑顔がとても印象的なボーデン・バレット選手。インタビュー中も絶やすことのないその笑顔の理由をはじめ、魅力の根源にいろいろな角度から迫ってみました。(取材日:2021年4月下旬)
◆直感的な感覚にコミットしてプレー
――ジャパンラグビートップリーグ2021得点王、おめでとうございます
トライを量産してくれるチームにいるということもあるので、自分としてはゴールキッカーの役割を果たしました。アグレッシブにアタックするチームにいられることを、とても楽しんでします。
――第5節トヨタ自動車戦、第6節クボタ戦と試合を決める得点を挙げましたが、そういう時はどんな気持ちですか?
チームとしてハードワークしてきているということもありますし、今後プレーオフで重要になってくる試合を決める局面で、しっかりと勝利を掴めるようにやっていこうと思っています。そういう局面はいつ訪れるか分からないので、試合を決めるようなポイントを取れたことには、とても満足しています。
――スタンドオフとしてのプレーだけでなく、自分自身が走ること、トライを取ることも楽しんでいるように見えます
10番というポジションは、自分たちの戦術面で大きな影響力があり、9番から最初にボールを受け取るということもありますし、ボールタッチの回数もたくさんあります。フルバックはどちらかというと、与えられたボール、スペースに対して攻めることが多くなります。ランニングスキルを得意としていますが、10番でプレーすると、いつどこで走るのかも自分で選択できます。ボールをスペースに運ぶことなど、自分でコントロールしながらプレー出来ますし、チャンスを伺いながらプレー出来るので、10番でプレーすることを楽しんでいます。
――サンゴリアスのホームページの「得意なプレー・注目してほしいプレー」に「恥ずかしくて言えない」と書いてありますね
書いた理由は忘れてしまいましたが(笑)、自分の本能や直感を信じてプレーしている部分があるので、そこに関しては何の疑いもなくプレー出来ていると思っています。
――直感の部分は、どうやって高めているんですか?
スキルセットや試合での意識など、普段からどういうシチュエーションでどういうプレーをするかというところは、しっかりと1週間準備して試合に臨んでいます。試合で同じような場面や、自分がこういうプレーをすべきという状況になれば、数秒の中で判断をして、直感的な感覚にコミットしてプレーしています。
――やはり直感を活かす時が面白い時ですか?
そうですね。自分で走っていて相手ディフェンスにギャップが見えたり、どこかに穴が見えた時、そこに走り込む時は楽しいですし、綺麗にオフロードパスを決められた時、穴を見つけてオフロードパスを決めた時も楽しいです。キックのスペースを見つけて、そこに上手く蹴ってトライに繋がるようなことになれば、自分の中でも良いプレーだと思っているので、そういうところで楽しんでいます。
◆人にポジティブな影響をもたらす
――いつも笑顔でいられる理由は何ですか?
子どもの頃からずっとそうでした。今はインターナショナルレベルやワールドカップのレベルでプレーしていて、皆さんからの期待やプレッシャーなども上がっていく中にいますが、それでも楽しむことを忘れずにプレーすることを大切にしています。試合でも練習でも、楽しむことを重要なこととして取り組んでいます。そして自分の中で楽しめなくなってきた時が、引退する時だと思っています。
――普段から笑顔を絶やさないですね
自分の中でも意識していることなので、よく観察してくれていて、ありがとうございます。誰でもそうだと思いますが、良い時もあれば悪い時もあって、自分としては出来る限りポジティブな影響をチームや家族にもたらしたいと考えています。常日頃から、人に良い刺激やポジティブな影響をもたらすことができるようにと考えています。世の中で色々なことが起こっている中でも、良い影響をもたらすことができるよう努めています。
――他の選手たちはバレット選手の準備が素晴らしいと言っています。そういった準備が出来ているから余裕が持てて、笑顔を絶やさないでいられるのでしょうか
準備のところは自分でも意識していて、しっかりと準備をすることによって自信を持ってプレーすることにも繋がっています。完璧に準備することが出来ないこともありますが、自分が求めているレベルでしっかりとプレー出来るように準備をしようと考えて取り組んでいます。少し変える時もありますが、毎回同じ準備をして、良いパフォーマンスを継続させることに、しっかりと意識をもってやっています。
――試合中の集中力が途切れないように見えますが、ゾーン(フロー=超集中状態)に入ったりしますか?
出来る限り自分がゾーンやフローの中にいることがベストだと思っているので、そういうことが意識的に出来るようになれば良いと思っています。
自分としてもとても興味深い部分なんですが、本当に世界のトップアスリートはゾーンに長く入ってプレーしていることが多いと思います。そうじゃない選手はゾーンからすぐに出てしまったり、ゾーンに入ったり入れなかったりを繰り返していると思うので、自分としてもとても興味深いですね。
自分は結構ゾーンに入ることがあると思います。重要なのは、自分がゾーンやフローに入っていない時に、しっかりとそれを認識することで、その上でまたゾーンに入れるように、そういう状態に戻れるようにやるということを意識してやっています。
◆ラグビーに対してスマートにアプローチしている
――サンゴリアスに来て良かったと思っていることは?
ワークレートやスキルレベルのところには驚かされたというか、良い印象を持っています。ただ、注意しなければいけないことは、ラグビーは自分の人生の中で大きな部分を占めることではないと考えていて、家族のことや他のビジネスのことなど、そういったこともやっていかなければいけないことと考えて生活しています。ハードワークすることは良いことなんですが、トレーニングも含めてラグビーに対しても如何にスマートに、効率よく、バランスよく、やるべきかということを考えながら、アプローチをしているところです。
――他のビジネスとは、どんなビジネスをしているんですか?
投資活動などをしています。自分の家族の将来などを考えてやっていることなので、ラグビーから離れても生活できると考えています。
――ご家族は日本で生活していますか?
はい、妻と子どもと一緒に生活しています。
――日本に来て良かったと思うところはどこですか?
特に経験の部分でとても良かったと思っています。色々と規制がある中での経験になってしまっていますが、違うチーム、違うスタイル、違うカルチャーを経験できたことと、チームメイトやマネジメントスタッフなど新たな仲間を作ることが出来ました。自分がチームから離れる時には、オークランドの自宅にいつでも泊まりに来て良いよと伝えようと思っています。
これからもシーズンは続きますが、生涯の友情を作れたと思っていますし、将来的にはまたサントリーでプレーする機会があると思っています。その時は規制などが緩和されていると思うので、両親なども日本に来て欲しいと思っています。
◆チームでトライが取れた時
――2019年のラグビーワールドカップでは、3兄弟が揃ってトライしましたね
3人揃ってプレー出来る時間はとても誇らしい時間ではあるんですが、あの試合は意識していた部分もありました。その中で3人ともスコア出来たので、素晴らしい経験になってとても満足しています。
――改めて、ラグビーの魅力は何だと思いますか?
ラグビーの魅力、素晴らしいと感じているところは、チームでトライが取れた時ですね。プランニングして、色々なプロセスを踏んで、どうやってプレーするかをチームで仕上げていって、その中で考えていた形でトライが取れた時が、自分の中では大きなラグビーの魅力なんじゃないかなと思っています。
そして勝利した後のロッカールームでビールを飲みながらチームメイトと談笑したり、負けた日でも、その次の試合のために、自分たちがどうやって改善してレベルアップし戦っていくかにトライしていくこと。毎日毎日、日々いかに成長していくかということを追いかけてやってきているので、そういうところがラグビーの魅力、やりがいなんじゃないかなと感じています。
◆自分たちは優勝できると全員が信じてやっていくこと
――選手としての目標、その目標に向けた課題は何ですか?
選手として取り組んでいるところで言うと、スキルセットの部分です。ラン、キャッチ、パス、タックル、ハイボールなど、必要なスキルがたくさんあると思いますが、それは自分のプロセスの中でどれも改善できると思って取り組んでいます。そういったプロセスを仕事として出来ていることに特権を感じながらやっています。
あと目標としては、決勝で勝利し、トップリーグで優勝した上で、ニュージーランドに戻ってオールブラックスでプレーして、ブレディスローカップ、2023年ラグビーワールドカップで優勝することが目標です。
――目指している選手像に対して、今はどの辺りまで来ていると思っていますか?
ベストの状態になるのは、これからだと思っています。
――人生の目標は?
妻と娘に対しては、良き父親であり、良き夫であるということですね。自分のビジネスでの目標などもあったり、ラグビーを引退した後のことは考えていないんですけど、良い人間として成長していきたいですね。良き人間であり、良き父親、良き夫でありたいということは変わっていかないと思います。
――プレーオフトーナメントにおいて、いちばん大切だと思っていることは何ですか?
信念を持ち、自分たちは優勝できると全員が信じてやっていくことがとても重要だと思っています。やっぱり「本当に優勝できるのか」と考えてしまうこともあると思いますが、そういう時でも全員が信念を持ち、「自分たちは出来る」と信じてやることが、プレーオフでは重要になってくると思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/通訳:山口祐二/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]