SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2021年4月30日

#744 森川 由起乙 『今の調子は目玉焼き5つのおかげ』

セットプレーの安定感に加え、ボールキャリーでも存在感を見せている森川由起乙選手。好調の秘密を聞きました。(取材日:2021年4月下旬)

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◆悩みをひとつずつ消す

――プレーオフトーナメント2回戦 NEC戦の前半38分のトライ、気持ち良かったですか?

NECを崩すためのテンポをテーマにして臨んで、あの場面では流からのクイックタップからトライまで繋がりました。意識していたリアクションの部分で、自分がしっかりとサポートに入ってトライ出来たことは良かったと思います。

――常に狙っていないと出来ないプレーでは?

駿太(中村)からパスをもらったんですけど、駿太も気を遣えるプレーヤーです。日頃からコミュニケーションを取っていますし、いつも一緒にやっているので、プレッシャーが強い中でも一声かけただけで、あのようなパスを出してくれるので安心して走って行けます。

――前回のインタビューでジョー・ムーディー(クルセイダーズ)のプレーをよく見ていると話していましたが、ジョー・ムーディー選手のようなトライでしたね

スクラムが良くなると、元から持っている自分の強みがどんどん表に出てきていると思います。あと今シーズンはずっとタックルの精度が悪かったんですけど、NEC戦はタックル成功率100%だったので、そういうところかなと思います。悩みをひとつずつ消す作業が出来て、自信を持って自分のプレーができていたり、チームのプロセスに沿って自分の役割を遂行できているのかなと思います。その結果、自分の良さも少しずつ出てきているのかなと。

――トライしたプレー以外でもボールキャリーをしているシーンがありました

昨年の9月くらいに体脂肪率を測ったんですが、クラブチームレベルの選手並みだったんですよ。そこから栄養士さんと若井さん(S&Cコーチ)と、「なぜこんなに体脂肪率が高いんだ」ということを話し合いました。それまでは朝ご飯を抜くことが多かったんです。ご飯を抜いている時間が長い分、摂取した時に脂肪になりやすくなっていたということが分かりました。

それでまずは朝ご飯を食べるように食事の改善をしたら、体脂肪が減って、それによってダッシュ回数が増えて、リアクションも速くなってきました。自分でもビックリするくらい、サポートに行く回数が増えたと思います。GPSの数値でも、昨シーズンと比較してもダッシュメーターやダッシュ回数が増えていますし、走る距離も増えています。

グラウンド内外での取り組みをひとつひとつ見直して、しっかりと自分と向き合えたので、今のパフォーマンスがあるのかなと思います。栄養士さんやコーチなど色々な人に支えてもらい、コミュニケーションを取って、それを遂行して、今のパフォーマンスがあると思います。

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◆決めたことから逃げない

――自分でも分かるくらい変わるというのは大きな変化ですね

一昨年くらいから、"言い訳をせず決めたことをやり切ろう"と決めて、そこから徐々に身についてきたと思います。"決めたことから逃げない"とか、当たり前のことなんですけど難しいことで、そういう部分が今の結果にも繋がっていると思います。

――逃げずに出来るようにするため、どうやったんですか?

悩んだ時期が多くて、そういう時ってシンドイ選択をした次は楽な選択をしてしまっていました。人間誰しも、変わる時や変わりたいと思う時って、そこがポイントなんだと思います。シンドイことを選択してそれを乗り越えても、またすぐ次のシンドイことが出てきて、そこでどっちを選ぶかだと思います。

いまパフォーマンスが良い状態ですが、ここで満足したり、現状維持を考えたりすると、すぐに他の選手に追い抜かれたり、パフォーマンスが悪くなったりすると思います。パフォーマンスが良い状態の時も自分からシンドイ選択を探していかないと、このパフォーマンスが今シーズンで終わってしまう可能性があると思っています。そういうことと向き合いながら、上手くオンとオフを切り替えながらやっています。以前と比べて、だいぶ考えるようになりましたね。

――大変だけれども楽しいですか?

そうですね。楽しいですね。

――先ほどジョー・ムーディー選手のようなプレーと言われて、どうですか?

やってきたことに対して自分では評価できないじゃないですか。身近な人だったり、周りで支えてくれている人だったり、見てくれている人から評価されるというのは、本当に嬉しいですね。自分がやった結果に対して言葉になって返ってきているものなので、純粋にとても嬉しくて、次にまた頑張るための糧になっています。

――スクラムについてはどうですか?

実は僕はジョー・ムーディーのスクラムしか見ていません。フィールドプレーは真似した人がいないというか、正直同じことは出来ないですからね。感覚とか、相手ディフェンスの表情とか、相手がどういうディフェンスをしてくるのかなど、映像で見た時とは違うこともありますし、試合になると前半と後半でも違ったり、先発で出るのかリザーブで出るのかによってボールのもらい方も変わってきます。そういった部分は自分のイメージトレーニングというか、常に人を見て動きを変えたり、もちろんサントリーの形を根本において、その中で自分の味を出すということを考えています。

スクラムではバインドの左手の使い方とか、日本の中でも色々な特徴がある3番が相手にいるので、どういうところが武器なのかということを1本、2本くらいで感じて、優位に運ぶようなスクラムを組むようにしないといけないと思っています。プレーオフなどでは、フォワードのセットプレーがゲームの流れを8割近く決めると思います。ミスが許されないプレッシャーはありますが、その分、そこに打ち勝つとチームにとって大きなプラスになるので、その精度にはいちばんこだわっています。

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◆ショートトークで修正

――スクラムで悩んでいた時期があったと思いますが、そこをポジティブに捉えられるようになったのはいつ頃からですか?

2019年くらいからですかね。

――今シーズンのサンゴリアスはセットプレーも良いですよね

良い感じですね。相手チーム側に手が挙がるスクラムもありますが、修正の速さと、同じミスを二度繰り返さないことを基本としてやっています。試合に向けた週のスタートの月曜日にフロントローで集まって、対戦相手のフォーカスポイントを、フロントロー、セカンドロー、バックローそれぞれで出すようにしています。

そういう取り組みもあって、全員が喋れるようになりましたし、誰が出ても同じスクラムが組めて、80分間相手にプレッシャーをかけて勝ち切るというプロセスが作り上げられていると思うので、それをしっかりとグラウンドでパフォーマンスとして出さなければいけないという責任感を持ってやっています。

――試合の途中で修正できるようになったポイントは何だと思いますか?

スクラムのベーシックな部分が出来ると、自分たちのいちばん良いスクラムを体で覚えることが出来ます。そして、ここが崩されると自分たちのスクラムがおかしいと分かるようになります。試合中、1番、2番、3番でよく喋っているんですけど、「今のはこうだった」「俺はこう思う」という話し合いをパパっと済ませられたりするんです。

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今シーズンは1番が僕で、3番がカッキーさん(垣永真之介)という組み合わせで多くやらせてもらっているんですが、カッキーさんは"ここはスクラムで流れを変える時"という時に、もう一度ギアを上げるというか、そういう言葉を出してくれたりします。

あとカッキーさんは試合のポイントをスクラムで表してくれて、そこでしっかりとペナルティーを取ったり、マイボールにしたりすることが出来ていると思います。お互いに分かっているから、ショートトークで修正する質が上がったと思います。

――ショートトークは試合中のいつ行っているんですか?

例えば、バインドが合わなくてレフリーに止められた時とか、組み直し中にボソボソっと(笑)。ワーワー喋り合っても仕方ないので、フッカーがコントロールして喋っています。

――組み直しではなく、スクラムを組む最初にも喋っていたりするんですか?

そこはウォーミングアップの段階で喋っていたり、月曜日に話し合ったことをフォーカスするために言ったりしますね。ただ、スクラムは映像で見た時とは違うプレッシャーのかかり方とかあったりするので、そこで違いを感じたことをバックファイブに伝えたり、そういう細かいトークを、2~3本目には修正できるようにパパっと伝えたりします。

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◆本当に細かいところ

――自分たちのスクラムの良い形は、どうやって身につけるんですか?

そこは青木コーチ(佑輔/アシスタントコーチ)はじめ、今シーズンに向けて話し合ったことをしっかりと積み重ねて、練習からお互いにやり合って、試合でも結果を出して、そういうところからイメージを共有していると思います。試合中に大きく変えることはないので、例えば、レフリーが「クラウチ」という前の準備のところを修正したり、クラウチと声がかかった時のフロントローのお尻の位置とか、そういう本当に細かいところを話して、組んだ後の話などはしないですね。

――そこは後ろの選手たちが教えてくれることもあるんですか?

いや、そこは前3人が感じると思います。後ろの選手たちは重りだけを常に伝えてくれています。前がガタガタになると後ろが不安になったり、どうしたらいいのか分からなくなったりするので、後ろには「重さだけ欲しい」ということを伝えて、あとは前3人の肩の繋がりであったり、立ち位置であったり、表現が難しいんですけど、そういうところです(笑)。

――例えば日本代表の場合など、いつも組んでいないメンバーで理想の形を見つけるのは、どういうやり方になりますか?

大体は形が変わらないと思いますが、代表のスクラムコーチである長谷川慎さんが、どういうスクラムを求めるか、あとはフッカーがどう要求してくるかで変わってくると思います。例えば、1番からしたら右肩の位置は変わらないので、そこにどう自分がコミットするか、押す位置や方向というところだと思います。方向性さえしっかりとしていれば、そんなに時間はかからずに出来るようになると思います。

サントリー以外のフッカーとは組んだことがないので、どういうフッカーがいるか、どういうサポートをしてくれるかという部分は未知ですけど(笑)、代表では自分をしっかりとアピールしなければダメなので、コミュニケーションを必要以上に取ろうとは思っています。

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◆チームのために全力を尽くすだけ

――日本代表スコッドに選ばれましたが、まだキャップは持っていないので、ぜひファーストキャップを

評価していただいたことは素直に嬉しいですけど、そこはあまり意識せずというか、今シーズンにまずやるべきことはサントリーで優勝することなので、そこだけにフォーカスをおいています。チームプレーと自分の役割を果たせば、見ている人は見ていると思って、チームのために全力を尽くすだけです。あと、怪我が自分にとってもチームにとっても、もったいないことなので、そこは常にケアしながらやっていきます。

――今のチームの雰囲気や状態はどうですか?

雰囲気も良いですし、急にチャンスが来た選手もチームにコミットして、自分に託されたチャンスを掴み取る選手もいます。入ったばかりの下川甲嗣など、チームに勢いをもたらすようなプレーをしてくれますし、下の選手たちのレベルアップがすごく速いので、チームの状態は良いと思っています。

でも、ちょっとした隙を見せてしまう部分があって、ここ2試合、30点以上取られてしまったと思います。アタックはとても良いんですけど、相手にまだとどめをさせてない時に隙を見せてしまっていると思います。キャプテンはじめリーダー陣がそこを言っていますし、その部分から目をそらさずに、チーム全員で受け止めなければいけないと思います。

僕らはここ2年間タイトルを取れていないので、チャレンジャーの気持ちを忘れずに、次のリコー戦でもう一段階上げて、そこから更にもう一段階上げて、まだまだ成長のポイントはあると思うので、優勝できるチームになっていきたいと思います。

――もう一段階上げるために必要なことは何だと思いますか?

NEC戦で全員がそう思っていたというわけではないんですけど、やっぱり前半からスコアが開いてしまうと、ホッとする様なところがあるかと思います。絶対的な安全圏になった時でも、"PRIDE""RESPECT""NEVER GIVE UP"というチームスピリッツがあるので、最後までサントリーらしい戦いをし続けなければいけないと思います。

あの試合が決勝であれば、後半の3つのトライは取られていないと思うんですよ。そういう場面では取られないのに、なぜNEC戦では取られたのかという話だと思います。それぞれに意見はあると思いますし、この件については他の選手と話していませんが、僕はそういうところだと思っています。マインドセットがどこまで持って行けているか、しっかりと80分間、相手を倒しきるというところが出来ていなかったので、そこを全員がしっかりと受け止めて、もう一段階上げないといけないと思います。

メンバーに選ばれた23人が、選ばれなかった選手が応援に来てくれている中、あのような試合を見せるということは失礼だと思いますし、選ばれた23人の責任を果たせていないと思います。メンバーに選ばれなかった選手が見て、気持ち良いと思われるようなラグビーをしないといけませんし、負けた後ではもう変えられない、勝ち続けなければいちばん上まで行けないので、そういう部分でまだ甘さがあったと思います。

――そこは改善されそうですか?

試合後に監督からも厳しく言われたので、全員が理解していると思います。チームの雰囲気も良いですし、やっぱり勝つことが大事なので、リコー戦に向けて100%の準備をして、しっかりと勝ち切りたいと思います。監督も言っていましたが、あと4つとか3つとかではなく、ひとつひとつ登っていくために、ひとつひとつ集中して、リコーに勝ったら次の目標に向かって全員が取り組むということを徹底すれば、もっともっとレベルアップしていくと思います。

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◆ミスをミスにしない

――現時点での個人としての課題は何ですか?

細かなところですけど、スクラムでもっとプレッシャーをかけられるところがあります。ノックアウト制のプレーオフは今まで以上にフォワードが大事で、1点でも多く取れば勝ちなので、もう一段階精度を上げなければいけないと思っています。個人としても、フォワード、チームとしてもですね。

――森川選手が交代した後に、モールで押されてトライを取られたシーンもありましたね

あのプレーはミスをした選手も分かっていると思いますが、やろうとしたことがやりきれない時って、決勝などでもあると思うんですよ。2017-2018シーズンのファイナルで12-8でリードして、残り時間2~3分になった時にボールをキープし始めたシーンがありました。そしてペナルティーで相手ボールになって、ゴール前5mまで迫られたけど、最後はパナソニックのモールを守り切って勝ったじゃないですか。そういうマインドをいかに持てるかだと思います。

ミスをミスにしないというか、NEC戦の時はモールでミスをしたんですけど、それをミスで終わらせないために、もっとハードワーク出来たんじゃないかと思います。ミスをしない人なんていないので、ゴールラインを越えさせないという強い気持ちをどれだけ持っているかというところだと思います。

――改めて感じるラグビーの楽しさは何ですか?

今シーズンの最初の頃は、ずっと膝が痛くて、痛くてブレーキをかけていた時もあって苦しみました。試合には出続けているものの、ずっと膝と向き合いながら、自分のパフォーマンスを上げていくということを、若井さんはじめトレーナー、ドクターと色々話しながらやってきました。それがようやく痛みを気にせず出来るようになっているので、準備してきてよかったなって思っています。もう一度、振り出しに戻らないためにも、準備を大事にしながら、今は痛みを気にせず思いっきりラグビーが出来るので、そこが楽しいところですね。

――朝ご飯を食べるようになったから膝の痛みがなくなったんじゃないですか?

卵を食べるようになりましたね(笑)。若井さんから「毎朝、卵を目玉焼きにして食え」と言われたんですよ。だから、若井さんと話すと「今の調子は卵のおかげだな」って言われます(笑)。今の朝ご飯は目玉焼き5つと鶏むね肉だけです。朝に自然から取れる油を摂ると良いと言われて、実践するようにしています。

――今の目標は?

相手が嫌がるくらいフォワードがセットプレーでゴリゴリいって支配して、バックスがとどめを刺すというゲーム展開にするために、もう一段階ギアを上げたいと思います。スクラムもそうですけど、自分の持ち味のボールキャリーだったり、相手が嫌がるようなブレイクダウンだったり、一発で倒すタックルだったりで、チームに小さいチャンスをちょっとずつ作り出せるようなプレーをしていきたいです。それに加え、トライも出来たら良いですね、その時は一生懸命、走ります(笑)。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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