2021年4月23日
#743 下川 甲嗣 『痛いことを率先してやるのってカッコいい。練習の中で身体をぶつけて学んでいる』
卒業1ヶ月も経たないうちにデビューし、いきなりトライをあげた下川甲嗣選手。期待に応えた新人選手は、どんな心技体を持っているのでしょうか?デビュー戦2日後に話を聞きました。(取材日:2021年4月中旬)
◆出来ることを思いっきりやろう
――第7節に途中出場でデビュー、直後ファーストタッチでいきなりトライを獲りました!普段から思い切りがいいんですか?
大学まではトライを獲る回数も多くなかったですし、大学でも1トライしか獲ったことが無くて、トライを獲る印象のある選手ではなかったと思うんです。今回のトライは、メンバーに選ばれて自分に出来ることって限られていると思いますし、そんなに期待もされていないだろうという思いから、出来ることを本当に思いっきりやろうということだけは決めていたので、その気持ちが表れたんだと思います。あとは、齋藤先輩(直人)に「いけー!」って言われて、そこで自分も決心して、それで生まれたトライです。
――齋藤選手の言葉に背中を押されたんですね
たまたま僕の足元にボールが転がってきて、拾い上げて周りを見たんですよ。自分でも「行けるかもしれないな」と思った時に、直人さん(齋藤)からの言葉が本当に後押しになって、行くという決断に至りました。
――絶妙なタイミングで声がかかったということですが、早稲田大学時代にもそういうことがよくあったんですか?
直人さんは試合中にずっと喋っている選手ですし、周りを動かすのが上手いですし、直人さんの声は通るので、大学時代を思い出しましたね。トライを獲れたことは、自分でもビックリしました。
――今はもっとトライを獲ってやろうという気持ちですか?
トライを獲ったら、やはり気持ち良かったので、獲れるものならば獲りたいですね。
◆自分の強みはワークレート
――3月まで大学生、4月から社会人となり、早くも4月のトップリーグに出ましたが、どんな気持ちですか?
4月からはトップリーグに出る資格があると聞いていて、出られるならば本当に出たいと思っていましたし、そういう気持ちで練習に取り組んでいました。ですけど、まさかこの早いタイミングでメンバーに選ばれるとは思っていませんでした。
――サントリーのラグビーにはフィットしている感覚はありましたか?
僕としては大学2年からロックをやっていて、サントリーではバックローを中心にやっています。バックローとしての動きも、サンゴリアスのシステムも、まだインプットされたばかりだったので、実戦でどこまで通用するかなどは考えられませんでした。
――どこを評価されてメンバーに選ばれたと思いますか?
自分の強みはワークレートというところなので、そこを練習中に評価されたんだと思います。そこがいちばんだと思います。
◆出来ることを全力でやろう
――物怖じしない性格ですか?
そこに入り込んでしまえば、怖がることなどはないと思います。試合が始まるまでは緊張するんですが、試合が始まってしまえば、緊張に影響されず思いっきり行けます。
――話している表情を見ていると、優しそうな感じがしますね
周りからは「もっと喋れよ」って言われます。
――もともとポジティブですか?
そんなにポジティブではないんですが(笑)、試合になると自然とスイッチが入るというか、ネガティブなことは切り捨てられます。試合では、自分の中で最低限の目標を決めて、自分が出来ることと出来ないことを決めて、出来ることを全力でやろうというマインドセットで、失敗を恐れずにやっています。
――第7節の試合で「最低限これだけはやる」と決めていたことは何ですか?
ブレイクダウンでファイトすることと、ボールキャリーでボールを持ったら前に出続けるということです。あとはコミュニケーションを取り続けるということです。
――コミュニケーションについては出来ましたか?
僕が入った時には、試合の展開としてディフェンスをすることがあまりなくて、1回だけタックルに入りましたが、上手くコミュニケーションが取れていたと思います。アタックについては、最低限のコミュニケーションは取れていたかなと思います。
――目指していたことは出来ましたか?
試合の展開でプレーしやすかったということはあったと思いますが、出来ていたかなと思います。
◆危機を察知する
――大学のトップチームでのデビューも早かったんですか?
大学1年の初戦から出場しました。大学の時も社会人の時と似ているんですが、花園(全国高校ラグビー大会)にもかすらないような高校から早稲田大学に入って、大学1年の初戦で試合に出たので、なんか不思議な感じですね。
――大学時代はそこから順調に成長していきましたか?
そうですね。そこから試合に出続けられたので、成長し続けられたんじゃないかなと思います。高校時代はシステムなどもなかったので、そういった意味でも毎回の練習で学びがあって、それを自分の中にどんどん取り入れていったので、成長していったんじゃないかなと思います。
――これから更に伸ばしていきたいところはどこですか?
伸ばす項目を増やすというより、タフな試合でもこの前のようなプレーが安定して出来るようになることが、大事かなと思います。
――それをやるためのポイントは?
それが出来るかどうかは、実際にそういう状況にならないと分からないと思います。これまでだったらトップチームを相手に練習をしているという感じでしたが、ブレイクダウンでのファイトやボールキャリーが練習から出来るかどうかが、実戦のタフな状況でも出来るかということに繋がっていくと思います。
――今の課題は何ですか?
新しいポジションに挑戦していて、そのポジションの動きに慣れるというか、どういうところを意識して動いたらいいかということを身体で覚えるところ。そして求められているところは、タックルやジャッカルだと思いますが、ジャッカルのスキルがまだあまりないですし、バックローに求められるスキルが自分にはまだまだ足りないと思うので、そこをもっと向上させていきたいと思っています。
――他の選手に負けない部分はどこですか?
ずっと強みだと思っているところは、ワークレートのところです。あとは周りからは、危機を察知することが出来ると言われることが多いと思います。なんか嫌な予感がするんですよね(笑)。周りを見た時に、ここが危ないかも、ということに気づけるということがあるかもしれないですね。
――普段の生活でも危機を察知することはありますか?
普段の生活では、あまり心当たりがないです(笑)。
――身体は丈夫ですか?
怪我をしない身体のつもりだったんですが、大学では何度か怪我をしました。怪我をしてからは身体をケアするようになりました。
◆ボールの落下地点を予測できる
――プロフィールを見ると、野球が好きそうな感じですね?
野球、好きです。野球を習ったことはないですが、遊びで毎日野球をやっていました。小学校からずっとラグビースクールに通って、週末にはラグビーをやっていました。中学校では陸上部に入って、平日は陸上をやって、週末はラグビーをやっていましたね。
――陸上競技は何をやっていたんですか?
短距離をやっていました。足はそんなに速くはないです(笑)。もともと足が遅かったので、速くなりたくて陸上部に入ったんですけど、結局そんなに速くなりませんでした。
――野球の魅力は何ですか?
野球ってチャンスが目に見えるというか、塁に走者が溜まっていって期待出来るというところで、見入ってしまいます。そしてそういうところで打てる選手が、カッコいいなって思います。遊びでしたが野球をやっていて、ラグビーと繋がっていると感じる部分は、ボールの落下地点を予測できるところだと思います。あとはキャッチングも、そこそこ出来ると思っています。
――ラグビーの魅力は何ですか?
何ですかね。元々は痛いことが嫌いだったんですが、大学の時から痛いことを率先してやるのってカッコいいなって思うようになって、早稲田色に染まっていったと思います(笑)。そこが魅力かなと思います。
◆目標にしている選手はショーン・マクマーン
――目標にしていたり、憧れている選手はいますか?
いま目標にしている選手は、ショーン・マクマーン選手です。練習で手を抜くことが無くて、どの練習でも常に100%で取り組むので尊敬できます。ずっとショーン・マクマーン選手のプレーを見ていましたし、本当に素晴らしい選手だということも聞いていたので、サントリーにショーン・マクマーン選手がいることも、サントリーに入るきっかけになっています。
――実際にマクマーン選手から教わることもありますか?
まだショーニーさん(ショーン・マクマーン)に聞きに行くスキルまで自分が達していないので、今は練習の中で身体をぶつけて学んでいるという感じですね。体重は僕とそんなに変わらず、身長は僕よりも少し小さいくらいだと思うんですが、パワーの次元が違います。
――マクマーン選手がいるという理由以外のサントリーに入るきっかけは何ですか?
いちばんの理由は、自分がここからどこまで出来るか、自分に挑戦したかったんです。周りからも言われたんですが、どこのチームに行くよりもサントリーでは試合に出ることが難しいし、サントリーでラグビーをするのは厳しいと思うと言われました。自分でも分かっていたんですが、レベルが高くて厳しい環境に身を置いて頑張りたいという想いがありました。
――サントリーに入って良かったと思いますか?
はい、思います。
――これからも試合に出続ける自信はありますか?
今のままでは全然ダメだと思いますけど、この前の試合で少し自信がついたところもあります。試合に出続ける自信はあります。
――今シーズンの目標は?
プレーオフで1試合でも多くメンバー入りすることです。そして、日本一を目指すチームに貢献したいですし、チームの力になりたいと思っています。またメンバーに入りたいです。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]