SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2021年2月 5日

#732 尾﨑 晟也 『自分にもチームにも期待しかない』

クレバーさが増幅した雰囲気の尾﨑晟也選手。自分自身にフォーカスして自分を常に見つめ直しているからこその成長、インタビューを通してそんな印象を受けました。(取材日:2021年1月下旬)

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◆自分たちにフォーカスする

――髪の毛が伸びましたが、今後は伸ばしていくんですか?

開幕の直前に切ろうと思っています。特に髪型について意識したことは無いんですが、昨シーズン、坊主にしたのは色々あって(笑)。別に悪いことをして坊主になったわけではありません。僕はくせ毛なんで、あまり伸ばすよりは短髪がいいかなと。高校とか大学でも気持ちを入れる時に、かなり短くしたりしていました。

――最近、また短くしているということは、気持ちが入っているということですね

そうですね、しっかりと気持ちが入っています。

――開幕が延期になりましたし、ラグビーが出来たり出来なかったりという状況が続いてきていますが、どう精神的なコントロールをしていますか?

そういう状況に関しては、自分でコントロール出来るものではないので、こういった状況の中でいかに自分をコントロールして、その中で自分が出来ることにしっかりとフォーカスしてやるということを、コロナ禍の中で学んできました。今回、開幕が延期となり残念な気持ちはあるんですが、しっかり準備が出来ますし、「やりたい」という気持ちがどんどん高まっているので、開幕した時に思いっきり爆発させられれば良いなと思っています。

――自分がコントロールできないことを気にしても仕方がないという考え方はいつ頃から持っていますか?

大学の時から「自分たちにフォーカスする」ということを学んできました。その考え方のもと、今回の状況は自分でコントロール出来ないことで考えてもフラストレーションが溜まるだけで悪循環になってしまうので、上手く自分をコントロール出来ているんじゃないかなと思います。

――開幕に向けては準備万端ですか?

長い期間、準備も出来ましたし、自分自身としてもプレシーズンの練習試合3試合を通して、プレー面で調子が上がっていて、長い期間で身体を作ってきたので、いつでも開幕できる状態です。

――どう身体を作ってきたんですか?

身体を大きくしつつスピードを落とさない、強い身体を作ることを意識してやってきました。食事を魚中心に変えたり、食事のタイミングを含めて、自分に合うものが見つかってきた感じです。食事のタイミングとしては、夜ご飯は早めに食べるようにして、夜遅くには何も食べずしっかりと胃を休めて、朝もしっかり食べるようにしています。元々太りやすい体質で、気をつけないと太ってしまうところがあるので、そこは気をつけるようにしました。

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◆持っていたスタイルと違う自分が出てきた

――遠くから見ているのと、実際に近くで会うとでは、印象が違いますよね

周りからよく言われるのは、立ち姿とか姿勢が良いと言われるので、グラウンドに立っている時にはそれほど小さくは見えないんじゃないかなと思います。

――姿勢は意識しているんですか?

意識をしたことは無いんですが、昔から姿勢が悪くて指摘されるということは無かったですね。親からも姿勢は良いと言われていました。姿勢を良くして、少しでも身長を高く見せようと(笑)。

あとは体幹は強い方だと思いますし、「身体の使い方が上手いね」と言われたりもしますね。特に意識しているわけではないんですが、そういう点は身体が小さいからこそ生まれてきているものなのかなと思います。大きい選手に当たる時の姿勢や、コンタクトのシーンで正面から当たるのではなく少しずらして当たったりすることなど、身体の使い方が小さいからこそ自然と身についてきたのかなと思います。

――それを理論的に考えるのではなく、本能的にやっているんですね

意識したことは無かったんですが、小さい頃から身体が大きくなくて、あまり得意ではなかったんです。それでもコンタクトでは負けたくなかったので、そういった部分で本能的にやっていたんじゃないかなと思います。

――これまでウイング、フルバックとやっていて、想像の話ですが、自分自身が2人いて、どっちのポジションも自分がプレーしていたら最強だと思いますか?

ちょっとイメージがつかないですけど、最強でありたいですね。お互いの気持ちとプレーを理解していると思うので、最強ではあると思います。実際には他の選手とプレーするので、考え方については共有していますが、人によってタイプは違うので、ウイングが僕でフルバックが僕となることよりも、僕とスペシャルな他の誰かが入った方が強くなることもあると思います。

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考え方のところでお互いに共有していくことは大事だと思いますが、能力値で言えばもっと素晴らしい選手はたくさんいるので、その選手の考え方も自分が受け入れて合わせていかなければいけませんし、自分がして欲しいことも伝えて、もっと良いものにしていければいいなと思っています。そういう選手がサントリーにはたくさんいるので、色んな選手と組み合わさっても自分を出せるようにしていきたいと思います。

――自分の新たな力が引き出されるのはどんな時ですか?

今まではフルバックに入った時、相手を抜いて自分でどうにかしていくことが強みだったんですが、ウイングに良い選手が多いので、早めにパスを出したり、そこからもう一度自分がもらったりするイメージが湧くようになりました。あとセンター陣はオフロードパスが上手いので、特にサム(ケレビ)はどこからでもパスを繋げられるので、そこに付いていってもらうタイミングが磨かれたりしました。今まで自分で動いていたこと以上に、周りによって引き出されていくような感じはありますね。今まで自分が持っていたスタイルと違う自分が出てきたことが、今はすごく楽しいです。

――これからまだまだ引き出されそうですか?

そうですね。最初は葛藤というか、今までやってきた自分のスタイルを崩すというか、これがいちばん強いと思い込んでいたことと違うことを試しながら、徐々に強みになってきているので、どんどん強みが増えてきている感じがして、自分の中ですごく成長していると感じています。もっともっと出来るんじゃないかと自分に期待しています。

――フルバックをしていて、前にスペースを見つけても、パスをすることもありますか?

自分でここは行けるというシーンでは行きますけど、前が空いていると思っても外側がチャンスだったら早めにパスして勝負をしてもらって、その後にボールをもらいに行くとか、そういうことを今はしていますね。

――その経験は逆にウイングとしてはどういう広がりになるんですか?

ウイングとしたら先に欲しいという要求も結構ありますし、自分としてもスペースがあったら先に欲しいなという気持ちがあったり、この場面ではもう少し仕掛けて欲しいなと思うこともあるので、パスをするタイミングやボールをもらうタイミングが良くなると思います。

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◆最後に全員で笑いたい

――ディフェンス面ではどうですか?

フルバックに入ると運動量がすごく多いですし、見えない部分で後ろで走ったりしています。ディフェンスでは外側のウイングやフルバックがコントロールしていて、ディフェンスラインがしっかりと整っている時って、もちろん内側の選手の役割がはっきりとしていて、外側がしっかりコミュニケーションを取って、どういうディフェンスをするのかというところまで指示をしているのですが、そういった面では昨シーズンよりも多くコミュニケーションが取れていますし、プレシーズンの練習試合でもだんだん良くなってきていて、開幕戦でディフェンスを見てもらうのが楽しみですね。

――コミュニケーションの量と質が大切になりますか?

そうですね。両方ですね。正確な情報をより多く伝えなければいけませんし、後ろのスペースも守らなければいけないバックスリーが前にも指示を出さなければいけないので、後ろ3人が上手く連動して動きながらコミュニケーションを取ることが大事になります。なので、日々の練習でも常にコミュニケーションを取っていますし、そこがいちばん大事だとみんなが思っているので、今シーズンは段々と練習中から良いコミュニケーションが取れるようになってきたと思います。

――今シーズンはボーデン・バレット選手が加わりましたね

やっぱりスーパースターって感じですね。僕が感じたのは、もちろん世界一の選手なので、スキルも高いと分かっていたんですけど、人柄も良くて、コミュニケーションをすごく取ってくれます。あといちばん素晴らしいなと思ったことは、サントリーの練習に参加して1週間経たないうちに、チームにフィット出来ることですね。完全にフィット出来たわけじゃないですが、サインの言葉だったり、動きだったり、そういうところが出来るというのは、かなり準備をしたんじゃないかと思います。

知らないチームに入って1週間で、言葉の壁などがある中でも動きがしっかり出来るというのは、グラウンド外のところで準備する努力があるから出来ていることだと思うので、そういうところでラグビーに対する情熱や人柄の良さとか、バレットの素晴らしさや奥深さを感じました。

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――バレット選手以外にも素晴らしい選手がたくさんいて、そういう中でラグビーをする楽しさはどうですか?

常日頃からレベルの高い練習が出来ていると思うので、これだけ素晴らしいいメンバーが各国から来ていますし、日本の中でもトップの選手が多い中で練習できる楽しさがとてもありますし、その中で練習が出来ることで日々の成長を、自分自身も感じています。チームの雰囲気もとても良くて、今シーズンは最後のトップリーグでもあるので、最後に全員で笑いたいなと強く思っています。このチームで優勝したいという気持ちが、今いちばん強いですね。

――ライバルについてはどうですか?

もちろん競争に勝つことがいちばんですけど、お互いにギクシャクした感じではなくて、最後グラウンドに立った時には心から応援できるライバル関係でありたいですし、日ごろ自分たちがどうやったら良くなっていくかということは、ライバル同士でも話し合っていますし、厳しく言う時もありますし、そういう関係が築けているんじゃないかなと思っています。

――ライバルでありながらもお互いを高め合おうとしていて、どこを目指しているんですか?

本当にチームとして日本一になりたいと、みんなが思っていて、その中でのチーム内の競争だと思います。チームファーストで考える選手が多いと思いますし、その中で各々が試合に出たいという欲はあって、みんながそこを上手くコントロールしながら戦っていると思います。それらがチームの雰囲気にも表れていて、良い雰囲気だと思います。

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◆選手主体で動けている

――選手みんなに落ち着きがありますね

それはあまり考えたことは無かったんですけど、みんな自分にフォーカスしている感じがありますね。自分がコントロール出来ないことを気にしていても仕方なくて、周りに惑わされず、自分のやるべきことを理解している選手が周りにいるので、自然とそういう考えになるということもあると思います。亮土さん(中村)がキャプテンになってから一貫して、「自分にフォーカスする」と常に言われています。自分自身のパフォーマンスやチームの中での自分自身の役割があるので、そこにフォーカスすることが大事だと、今シーズンは特に感じていますし、それが出来ていることによってチームとしての繋がりが強くなっているのかなと思います。

――自分自身の役割とは、選手それぞれが考えたんですか?

ラグビーの部分に関しては、コーチやスタッフから提示されることもありますが、自分の中でこのチームで何をしなければいけないのか、このラグビーをするためには自分にはどういうプレーが必要なのか、そういうところは各々が考えていると思います。あと特に今シーズン感じるのは、選手主体で出来ていて、亮土さんを中心にリーダー陣がいて、その中で上手く話し合えていますし、スタッフとも上手くコミュニケーションが取れていますし、選手の言葉をスタッフが聞いてくれて柔軟に対応してくれているので、そこも選手主体で動けている要因なのかなと思います。

外国人選手もよく発言をしてくれますし、亮土さんやユタカさん(流大)の日本人選手も影響力ある発言をしてくれるので、それに周りの選手が影響を受けて多くのことを学んでいると思います。あとはプレシーズン中に若手がもっと引っ張っていこうという話もしていて、そういったところでも選手主体で動いている感じが見られるので、選手それぞれが"自分がチームを引っ張る"という意識を持っていると思います。亮土さんがバイスキャプテンの康介(堀越)にそういう話をしてくれたり、同時に康介、梶村、加藤とも僕ら同世代で「もっと引っ張っていこうな」という話もしていました。

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――若手世代がチームを引っ張るためには周りの環境も大切ですよね

それを受け入れてくれるチームのスタンスがあって、若手がどんどん発言していっても、それを受け入れてくれるベテラン選手やみんながいるので、思い切った発言が出来ると思いますし、そういうことをフラットに考えてくれるチームなので、すごく良いところだと思います。

――尾﨑選手もリーダー陣の一員になっているんですか?

そうですね。リーダーの1人になっています。リーダーの中でも役割を分けていて、アタックディフェンス、セットプレー、ブレイクダウンとか、そういうキーとなるところで分けてリーダーが引っ張ってやっているんですけど、それぞれが責任を持ってやっていますし、僕はディフェンスリーダーとして責任を持ってやっています。プレーだけじゃなくポジションの中でも僕が引っ張っていこうという意識でやっていますし、バックスリーの中で中心になってやっていかなければいけないと思っています。

――それぞれ役割別にリーダー・チームがあったりするんですか?

ディフェンスリーダーとしては、僕の他に亮土さんとトム・サベッジがいます。リーダー陣が10人くらいいるので、そのリーダーを分けてやっていて、それが上手く機能しているんじゃないかなと思います。そういうところで今シーズンのチーム作りが上手くいっているんだと思います。

――そういうやり方は初めてですか?

サントリーに入って初めてですね。リーダー陣を10人くらい立てて上手く分散させるのが、亮土さんのやり方なんだなと思います。

――多くの可能性が広がっていると思うので、やっていて面白いんじゃないですか?

だから、自分にもチームにも期待しかないですね。自分に対して本当に期待していますし、新しい自分が見つかるのが楽しくて、早くプレーしたいと思っています。

――早く髪を切りたいですね(笑)

そうですね、開幕に向けて髪の毛も早く切りたいですね(笑)。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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