SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2021年1月29日

#731 梶村 祐介 『相手をぶち抜く瞬間、自分が支配できた瞬間』

良い意味で、柔らかくなった雰囲気を醸し出す梶村祐介選手。「ラグビーがしたい、試合がしたいという気持ちを、早く試合にぶつけたい」という言葉に、今シーズンへの期待感が高まります。(取材日:2021年1月中旬)

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◆ラグビーがすごく楽しくてそれがいちばん

――待ちに待った開幕が延期となってしまいましたね

昨シーズンは途中で終わってしまい不本意なシーズンだったので、ずっとラグビーがしたいという想いがありました。今シーズンはコロナの関係で昨シーズン以上に難しいシーズンになるとは思っていましたし、シーズンの途中で中断する可能性もあると思っていたので、遅かれ早かれそのタイミングが来てしまったなという感じでした。

昨シーズンが終わり、準備段階がとても長くて、メンタル的には「早くラグビーがしたい」、「早く試合がしたい」と思っていました。トレーニングが出来るようになって最初の頃はトレーニングが出来ること自体が幸せだったんですが、それからはどんどん試合をしたいという想いが出てきましたし、プレシーズンでもチームとして良い準備が出来ていたので、その中で開幕が延期ということは残念でした。

――プレシーズンでは練習試合を4試合行いましたが、その時の気持ちは?

やっぱり嬉しかったですね。自分のプレーどうこうよりも、まずはラグビーがすごく楽しくて、それがいちばんでした。もちろん試合が出来る喜びもあったんですが、自分がいちばん感じたのは、試合に向けた1週間の緊張というか、試合が近づいている感覚が7~8ヶ月ぶりだったので、あの感覚は久々でしたね。

――それは練習では味わえないものですね

そうですね。練習だけではあの緊張感は味わえないですね。試合がない週だとやっぱり変わってくるものがあって、みんながちょっとピリピリするような雰囲気があって、やっと戻って来たなという感じがありました。

――どんな要素で緊張すると思いますか?

今回で言えば、準備期間が長かっただけに、久々にラグビーが出来るという喜びであったり、久々に人とぶつかる緊張感とか、色々な感情が混じっていましたね。

――普段は緊張するタイプですか?

緊張はしますね。笛が鳴っちゃえば緊張は取れるんですけど、キックオフまでは緊張しますね。それは公式戦でも練習試合でも一緒です。

――緊張することは良いことと捉えていますか?

良いことだと思います。

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◆しっかりと結果を示すことが大事

――練習試合だとしても、普段の練習から掴めるものと試合とでは違いましたか?

練習で上手くいっていることが試合では上手くいかないことの方が多いので、それを毎回修正して積み重ねていくことが大事だと思っています。それはどのスポーツにおいてもだと思います。練習で感じられることだけではなく、試合で感じられることがいちばん成長に繋がると思っています。

――その上で、練習の大事さはどこにあると思いますか?

試合で起こった自分の反省だったり、新しく取り組むことに時間を割けることが練習の良さじゃないですかね。自分の良くないところ、上手くいかないところって、そう簡単には治らないので、それを練習の中で何度も何度も反復して取り組んで、それが試合で出来た時には喜びに変わりますし、自信に変わるので、そのサイクルだと思います。

――以前のインタビューで、感覚を大事にするという話がありましたが、その部分はどうですか?

練習でやる部分は細かいところだと思っていて、色々な分野を分割してやるイメージで、試合になるとそこまで細かくは考えていないので、試合中に起きた状況で自分の感覚を大事にしたいと思っています。ただその根本には、練習で培ってきたスキルだったり、細かい部分があるということです。

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――自分に足りないところや戦術面などは、どこでどうやって気がつくんですか?

やっぱり引き出しが多い選手の方が、余裕を持ってプレー出来ると思います。僕はこれまで引き出しが少なかったので、状況によって上手くいかなかったことが多かったんです。上手くいかなかったその瞬間では、自分の足りないところには気づけないんですが、あとで映像を見て振り返った時に「あの時はこういう感覚でやっていたな。相手がこうしたからこうしようと思ってプレーしたな」と思い返して、「こうすればもっと上手く出来るな」と修正していく感じです。だから、プレー中に考えてから動こうとしたことは、正直ないですね。

感覚でやることに毎回結果が伴ってくれば、間違いではなくなると思います。そこで結果がついてこなければ、周りから「もっと考えてやれ」と言われてしまうので、僕としてはしっかりと結果を示すことが大事だと思っています。

――その感覚を活かすためにも、出来ることを増やした方が良いという考えですか?

そう思っています。僕はそんなに器用な選手ではないので、考えてからプレーすることが得意じゃないということもありますが、僕は昔からその瞬間瞬間で自分が思ったことをやってきたつもりなので、根本を変えるつもりはないですね。周りの人の声を聞かないということではなく、色々な情報を自分の中に入れつつ、それを自分の中で整理して選択していくという感じですね。

――感覚を大切にしているということは、試合が大事ですよね

そうですね。練習では相手が常にチームメイトで、相手がどうしてくるか分かっているので、試合に勝る経験値は無いですね。

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◆ボールを持った時がいちばん活き活き出来ている

――ボーデン・バレット選手が入団会見で「予測できないプレーを見て欲しい」と言っていましたが、その感覚が分かるんじゃないですか?

別格なので、僕と同じではないかもしれませんが(笑)。けれど、バレットは型にはまらないですね。自分のやりたいプレーをやっていますし、色んなスキルを持っていますし、色んなことが出来る選手なので、相手としたらとてもやりづらいと思います。あぁいう選手はお手本になりますね。

――練習中に相対した時に驚くことがありますか?

まず彼を見ちゃうじゃないですか。パスが速くて、ランも出来て、キックもあるとなったら、絶対に相手1人は止まるので、そうなると他の選手にチャンスが生まれますよね。ダン・カーター(元神戸製鋼)と初めて対峙した時と似た感覚があります。

――そういう選手が身近にいて、自分はどうしたいと思いますか?

他にもセンターで良い選手がたくさんいますが、僕には僕にしかない良さが絶対にあると思っています。今まではどうしても試合に出ている選手と比べたり、「この選手がこれが出来ているから自分もやった方が良いのかな」と思ったりして、他人と自分を比較して考えようとしていたんですけど、最近は僕には僕なりの持ち味があって、それをチームからも求められているとしっかり自覚してプレー出来ています。僕はボールを持った時がいちばん活き活き出来ているので、周りと差をつけるのはそこですかね。

――ボールを持った時に、相手としたら何をするか分からないという感じですか?

これをすると決めてプレーしないというか、まずは自分でしっかりと勝負することを心掛けていて、その最後にパスとキックがついてくる感覚ですね。だから、まずは自分で勝負するということを心掛けています。

――自分で勝負して上手くいかなかった時に反省をしたりするんですか?

2シーズン前までは、試合のファーストプレーの良し悪しでその後のパフォーマンスが左右されるということが結構あったんですが、昨シーズンの途中くらいからそれをしっかりと修正して、自分のファーストプレーがあまり良くなくても、次に向けてしっかりと切り替えられるようになったので、「今日は調子が悪いな、あまり良くないな」と思うことは無くなりましたね。

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◆しっかり準備をしてきたから今がある

――ファーストプレーで影響を受けていたのは、なぜだったと思いますか?

自分で気にしてしまっていたというか、自信がなかったので、良くない時に「今日はダメだな」とか、そういうふうに感じてしまっていました。今は自分自身に自信を持っています。

――そうなることが出来たのはなぜですか?

ここ1年くらいは試合が出来ませんでしたが、しっかりと準備をしてきましたし、ラグビーに対してしっかりと考えてきたつもりで、そういう小さいことの積み重ねが、いま自分の中で大きな自信になっています。だから、いま感じている「ラグビーがしたい、試合がしたい」という気持ちを、早く試合にぶつけたいと思っています。

社会人になって、初めて自信を持ってプレー出来ています。1年目、2年目の時は、サントリーの12番、13番を背負うことに対して自信がなかったんですよ。1年目の時は使っていただいていたという感じで、あまり高い評価をしていなかったんですけど、今は自分自身に対して高い評価をしているつもりはないですが、自分がスタメンで出られた時には「しっかり準備をしてきたから今がある」と思えるようになりました。

――そう思えるようになったのはどの辺りからですか?

昨シーズンの中止となる前くらいですかね。自分には自分の良さがあると思えるようになって、周りと比較しなくなったことが大きいかもしれないですね。昨シーズンはスタメンで出たり出なかったりして定着できない状態でしたが、試合での手応えはありましたし、自分の良さが出た試合も何試合かあったので、もっと自信を持って良いんだなと思うようになりました。

――もともとポジティブなんですか?

大学を卒業するまではめちゃくちゃポジティブで、ネガティブなことなんて全く思わなかったんですが、社会人になってネガティブになってしまいました(笑)。色々な経験をして、もちろん公式戦の経験もそうですし、日本代表落選の経験もそうですし、どこかのタイミングで「もっと自信を持って良いんだ」と感じた時にすごく変わることが出来たので、今は身体も心も良い状態で準備が出来ていると思います。昨シーズンに比べたら成長できていると思いますし、センターというポジションでは上の年代からも下の年代からもプレッシャーがあるので、良いプレッシャーの中でプレー出来ているので、良い環境で出来ていると思います。

――自信を持つ選手が増えたように感じますが、選手としてそういうことを感じることはありますか?

サンゴリアスはどの選手が出ても同じラグビーが出来ると、全員が思っているので、そのための準備をみんながしています。自信がついたかについては、なんですかね、成功体験なんじゃないですかね。ポジション争いの競争は相当激しいと思います。どのポジションでも、それが日本代表の選手でも、保証されている選手はいなくて競争をしているので、みんな良いプレッシャーがかかった状態で出来ていると思います。だからこそ、周りと比べなくなったのかもしれません。気にしても仕方ない、というメンタルになれたのかなと思います。

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◆勝った時、みんなが真っ先にザ・プレミアム・モルツを飲む

――改めて、ラグビーの楽しさ、面白さ、魅力は何ですか?

やっぱり自分が相手をぶち抜く瞬間が楽しいんじゃないですかね。あとは味方が良いプレーをするアシストをしたり、自分が良いプレーをするそのプレーの一瞬を、自分が支配できた瞬間が気持ちいいですね。その気持ち良さを知ってしまっているので、またあの感覚を味わいたいと思うんですかね。僕の場合は自分がトライをしたいという欲は無いんですけど、自分がトライへのアシストをした瞬間というのは、自分がトライをする時以上に喜びを感じるので、だから今は誰かのトライをアシストした時がいちばん気持ちいいかもしれないですね。味方の良いプレーを引き出せたり、それに絡めた時が嬉しいです。

――味方が良いプレーをする時には、自分自身も良いプレーをしているということですね

そうですね。結果的に引き出せたというだけで、引き出しに行こうとは思っていません。自分が良かったからそういうプレーに繋がったということがいちばんですね。そこで自分の自信にもなりますし、ラグビーが楽しいと感じますね。プレーで言うとそういう時なんですけど、ラグビートータルで見ると、勝った後のロッカールームがいちばん好きですね。あの雰囲気というか、あの空間はあの瞬間しかないので、あの瞬間を味わいたくて試合をしたいという感じですかね。

――試合に負けた時はどうですか?

ダメなことは無いですけど、やっぱり勝った時とは違いますよね。勝った時は、試合を振り返って他の選手と話すこともあるんですが、みんなが真っ先にザ・プレミアム・モルツを飲むところが楽しいんじゃないですかね(笑)。試合後にみんなでお酒を飲む、あのロッカーがいちばん、社会人になって「この雰囲気良いな」って思うようになりましたね。

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――サントリーというチームに入って良かったですね

めちゃくちゃ良いですね。やっぱり会社からのサポートもすごいですし、すごく応援されているチームだなって思います。だからこそ、勝った時には自分たちも喜ぶし、ファンや会社の人も一緒に喜んでくれる、そういうチームだと思います。試合に勝って、喜びながらサントリーのビールを飲むって、これ以上ない幸せですよね(笑)。そして優勝した時に飲むお酒はもっと美味しいと思うので、それも体感してみたいと思います。

――まだ優勝経験はありませんか?

人生の中でまだ一度もないですね。準優勝は直近だと、大学4年の時と社会人1年目の時です。特に社会人1年目の時は大敗しているので、次はあそこで勝つ側に回りたいですね。あの後が、カップ戦はありましたが、トップリーグで言えば中断した昨シーズンになるので、まずはしっかりと1シーズンを戦いたいと思います。

――シーズンが終わる時には、どういう自分をイメージしていますか?

今のシーズン前の状態としては、メンタル的にも身体のコンディション的にもとても良い状態なので、こうなっていたいというイメージはありませんが、準備してきたことをしっかりと結果として示したいと思っています。シーズンが終わった時には、「今シーズン準備してきたことがしっかりと発揮できたな」と思えるようなシーズンにしたいです。

――ファンが注目すべきところはどこですか?

昨シーズンまではずっとディフェンスを重視してきて、ディフェンスで何とかしたいと思っていたんですけど、もちろん継続してディフェンスも強化しつつ、自分の持ち味であるボールを持った時のプレー、ボールを持っていない時の運動量、この2つは他の選手に絶対に負けたくないので、そこに注目して見てもらいたいです。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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