2020年11月27日
#723 サム ケレビ 『ラグビーのために何でもしたい』
昨シーズンからサンゴリアスに加入したサム・ケレビ選手。その突破力は何度もスタンドを沸かせました。2シーズン目を迎えて、目指すラグビーについて聞きました。(取材日:2020年11月上旬)
◆みんなをハッピーにする
――いつもハッピーな雰囲気を醸し出していますが、人をハッピーにするという自覚は?
基本的にはポジティブに考える習慣がありますし、フィジー出身という国民性もあると思います。周りのみんなをハッピーにする影響があって、それをパーソナリティーと呼んでいます。ラグビーはハイプレッシャーの中でプレーをするので、真剣に取り組まなければいけない面もあれば、その中に楽しさを見つけていかなければいけないので、そのバランスをどう保つかを普段から考えながらプレーしています。
あと、チームにはリーダーたちがたくさんいるので、私としては自分なりのメッセージの伝え方であったり、厳しいメッセージを受け入れられない選手もいると思うので、上手くメッセージが伝わるようにやっています。
――ケレビ選手から見ると、日本人は物事を真面目に捉えすぎると思いますか?
みんなとてもプロフェッショナルだと感じていますが、シーズンは長く、その中でバランスを取っていかなければいけません。サントリーのフィットネスレベルについては、私がこれまで所属したチームの中でも高いと感じているので、自分たちのピークをどこに持っていくかをしっかりと考えてやっていくことが大事だと思います。ファイナルやシーズン後半の重要な試合にしっかりとピークを合わせなければいけないので、最初から常にハードワークして上げすぎてしまうと、メンタル的にもフィジカル的にも休まらない状態を続けてしまうことになり、上手くピークを合わせることは出来ません。だから、最初から上げすぎないようにすることが必要になってくると思います。特に日本の選手は大学の頃からずっとハードワークをしていると思うので、ピーキングのところを注意してやっていかなければいけないと思います。
――レッズ(スーパーラグビー)でキャプテンを務めていましたが、自分自身のキャプテンシップについてはどう思っていますか?
人間としてリーダーとして、求められるものを持っていないといけないと思うので、まずは人間としてしっかりしている部分が重要だと思っています。自分からキャプテンをやりたいと思ってやってきたことはありませんし、サントリーでもキャプテンをやりたいと思ってプレーをしている訳ではありません。求められることはパフォーマンスであったり、周りの選手を巻き込んで、周りの選手の力を最大化することだと思いますし、それらがやっていかなければいけないことだと思います。なので、まずは自分のゲームでのパフォーマンスをしっかりとすること、それが出来れば良いお手本になれると思いますし、他の選手からもフォローされると思うので、そういう意気込みでやっています。
――陽気だけれども物事をしっかりと考える、フィジーの人にはそういう人が多いんですか?
フィジーの人は結構リラックスしていますし、周りで起こっていることを理解していて、色々な考えを持っている人が多いと思います。 またキリスト教徒でもあり神への信仰心が強いので、聖書を読んでいて、そこに書かれていることを行動に移していたりもしています。なので、ラグビーにおいても、誰かから言われたことに対して感情的に反応するのではなく、一歩引いて客観的に見られるようにするということを普段からやっています。
◆U20フィジー代表、U20オーストラリア代表
――フィジーからオーストラリアに移った理由は何ですか?
両親が家族全員を養えなくて、祖父母と一緒にソロモン諸島へ一時移住し、生活の基盤を作ろうとしました。そうしたら、ソロモン諸島でクーデターが起きてしまいフィジーに戻ろうとしたんですが、フィジーでもクーデターが起きて戻れなくなってしまいました。ニュージーランドに行くという選択もありましたが、その途中のオーストラリアに行きついて、そこでラグビーの契約も勝ち取れることになり、チャンスがあるということで、祖父母とオーストラリアに移住しました。
――それは何歳の時ですか?
7歳の時です。まだ小さかったので理解できなかった部分があって、どちらかと言えば、ホリデーのような感覚でした(笑)。
――その時にはラグビーをやっていたんですね
フィジーの人はほとんどラグビーをやっていて、学校が終わったら毎日、ラグビーとか7人制などをやっています。
――オーストラリアは合っていましたか?
その時は英語が喋れなかったので、学校に行って友達を作ることを考えていました。あとブリスベンには大きなフィジー人のコミュニティーがあったので、カルチャーやラグビー、友達などのベースは、すべて教会を中心に出来上がっていきました。
――ラグビーを本格的にやっていくと思ったのはいつ頃ですか?
プロとしてやっていこうと決めたのは2013年頃だったと思います。2012年にU20フィジー代表として南アフリカで試合をして、その後にオーストラリアのU20代表にセレクトされ、自分の夢でもあったので、そこからプロとしてやっていこうと思いました。
実は、2013年には家族に不幸があり、ラグビーではなく鉄鉱石関係の仕事を始める予定もありました。ブリスベンは私の第二の故郷ですし、クラブラグビーをやっていたので、オーストラリアでプレーしたいという想いがありました。U20オーストラリア代表には選ばれましたが、ビザの関係で大会には参加できず、その時に祖母が亡くなったんです。そこでラグビーを辞めて仕事を始めようかと思ったんですが、幸いにもレッズからプロのオファーをもらえたので、ラグビーを続けることにしました。
――ラグビーの魅力は何だと思いますか?
自然な流れでラグビーを始めましたが、フィジーの人にとってはラグビーはカルチャーのようなもので、もちろん他のスポーツもありますが、ラグビーがいちばんで、15人制でやるのか、ラグビーリーグでやるのかはありますが、プロとしてラグビーをプレーすることはとても夢のあることです。
ラグビーの魅力や好きなことは、どこでプレーしていても変わっていません。好きという気持ちがなければ向上心が無くなっていくと思うので、人を愛することと一緒だと思いますが、ラグビーのために何でもしたいという想いが根底にあります。ラグビーに真摯に取り組んでいる中で、自分のベストを引き出せると思っていますし、自分自身のことについてもしっかりと理解できると思っています。ラグビーでは人が見ていないところで努力をしなければいけませんし、かなり辛いプロセスもあったりしますが、そういう努力を惜しまずに出来るということは、やっぱりラグビーがすごく好きだからということだと思います。
◆世界一のセンターになることが目標
――ワールドカップにも出場していますが、日本で開催された2019年のワールドカップはどんな経験でしたか?
ワールドカップは人生で一度しか経験できないかもしれませんし、当たり前にあるチャンスではないので、自分のベストのパフォーマンスを出してプレーしたかったんですが、残念ながら結果はついてこなくて、セミファイナルにも進めませんでした。日本でのワールドカップの経験がサントリーに来るためのモチベーションにもなりましたし、自分たちをどう迎え入れてくれているのかという部分でもすごく好感を持てたので、良い経験になりました。
――オーストラリアを離れ日本でプレーするということはチャレンジでしたか?
スーパーラグビーとトップリーグを比べることはとても難しくて、どちらも違うゲームと考えています。特にトップリーグは速い展開の試合が多く、フィットネスのレベルが高いので、もしトップリーグのチームがスーパーラグビーのチームと試合をするならば、グラウンド全体を使って走り勝つような試合になると思います。オーストラリアでプレーしていた時も、ニュージーランドのチームは試合の展開が速くてフィジカルで、南アフリカのチームは特にフィジカルが強いので、色々な試合を経験できました。ですのでオーストラリアから日本に来るということには、適応することが必要でした。
日本で2シーズン目になりますが、1年目のシーズンは途中で終わってしまいました。ただ、その中でもチームの結束を感じましたし、みんなで遠征に行くことも経験して、とても楽しめました。昨シーズンは4試合しかプレーしなかったので、早くプレーしたいですね。
――昨シーズンでは、自身が持っている力は出せましたか?
もっと改善できると思いますが、出せたと思います。自分のハイスタンダードをキープしたいと思いますし、世界一のセンターになることが目標です。サントリーでこれまでの中でのベストなサム・ケレビを見せたいと思っているので、どんどんバージョンアップしてプレーしていきたいと思います。
◆キックオフにスイッチを入れる
――自身の強みと思っているところと、更に改善したいと思っているところはどこですか?
全てにおいて高いレベルのプレーをしたいと思っていますが、自分の強みはボールキャリーとオフロードになると思います。キックやパスのスキルはもっと磨かなければいけないと思っていますし、ディフェンスももっと上手くなりたいと思っています。そして、自分の中で攻守のバランスをしっかりと取った上で、全体としてオールラウンドなプレーヤーになっていきたいと思っています。
――日本のラグビーをやる環境についてはどう感じていますか?
良いプレッシャーを感じながらプレー出来ているので、すごく良い環境にいると思います。フィットネスレベルが高いですし、求められるスキルレベルも高く、その中で良いプレッシャーを感じでプレー出来ているということが、チームが良くなっていく上では重要なので、とても良い環境だと思います。トレーニングも週によっては試合よりも大変な1週間があったりします。
――普段と試合とでは雰囲気がガラリと変わりますが、スイッチの切り替えはどう意識していますか?
他の選手がどう切り替えているかは分かりませんが、私の場合は、キックオフまではシリアスに考えないようにしています。キックオフにスイッチを入れるような感じで、これから仕事が始まるというような感覚で、そこからマインドセットが変わります。
試合では予期せぬことが起きるものなので、試合前に考えすぎたり、想定し過ぎたりしないようにしています。もちろん試合前に研究することは必要なんですが、試合では想定していないことが起きるので、そこで慌てないようにやっています。
――ご家族について教えてください
兄弟が2人、日本でプレーしています。僕は結婚はまだしていなくて、オーストラリアに彼女がいます。彼女はこれまで3回ほど日本に来ましたが、コロナが落ち着いたらまた来てくれると思います。
――最後に、今シーズンの目標は?
自分の中のベストなバージョンになって、その上でチームに貢献したいと思っています。そしてシーズンを通してベストなセンターであり続けることが目標です。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]