2020年9月18日
#713 尾﨑 晟也 『チームの流れを変えるプレー、チームを引っ張る存在感』
新シーズンに向けて、身体つきにかなり変化があったと言う尾﨑晟也選手。新しいシーズンに向けて、そこから生まれるプレーの進化に期待が高まります。(取材日:2020年8月下旬)
◆身体がシュッとなった
――今はどんなトレーニングをしていますか?
そうですね。緊急事態宣言が明けてからは、ずっと自主練をやっています。最初の頃は、一気に激しくせず徐々にという感じでやっていて、7月に入ってからは結構ハードに動いています。
――コンディションは出来上がってきている感じですか?
身体の調子的には結構良いと思います。身体つきも自分の中ではかなり変化があって、ウエイトトレーニングでも昨シーズンの数値をすでに超えているので、しっかりと準備が出来ていると思います。
――身体が大きくなったんですか?
どうですかね。自分としてはデカくなったというか、身体の質が良くなったと感じています。自粛期間中に食事を意識していましたし、トレーニングも考えながら取り組みました。周りからは身体がシュッとなったと言われるんですけど、体重をキープしつつ筋肉量が増えて、良い身体つきになったかなと思います。
――食事で気を付けたところは?
魚中心の食事にしました。もちろんお肉も食べますけど、魚と野菜を多く摂るようにして、運動ボリュームに合わせた炭水化物の摂り方などを意識しました。
――気を付けて食事を摂るということは結構大変ですよね
そうですね。まあ、これもある意味、コロナの影響という部分があるのかなと思います。家にいる時間が多かったので、そういうところでは良かったかなと思います。
――体質を改善させようと思ったのはなぜですか?
単純に昨シーズンよりもパワーをつけなければいけませんし、大きくしつつもっと走れる身体を作ることを継続して行いたかったんです。オフシーズンだったので一気に身体を大きくしようかとも考えたんですが、そうすると自分が求めているスピードであったり、質であったりが落ちると思ったので、時間がある中で徐々に上げていけるようにと計画的にやりました。
――その計画が上手くいったんですね
そうですね。今のところは上手くいっています。
――パワーアップとスピードアップの必要性は、途中で終わってしまったトップリーグ2020で感じたことだったんですか?
どこかでやりたいなという想いは自分の中であったんですが、時間がかかることで、シーズン中に普段のトレーニングと並行して行うことは難しかったんです。トップリーグ2020が途中で終わってしまいましたが、「次のシーズンまで多くの時間がある」とプラスに考えて、体質改善に取り組もうと思いました。
◆美学として最後はウイングがトライを取る
――トップリーグ2020では2試合のみの出場でしたが、その点は悔しかったですか?
そうですね。僕のラグビー人生の中では初めてに近いものでした。怪我もあり納得がいかなかったシーズンだったので、相当悔しかったですね。だから体質改善には、怪我をしない身体を作るという部分もあります。以前に怪我をした箇所や他の個所のケアも並行して行いました。
――まだ少し先ですが、トップリーグ2021の開幕に向けては、どういう構想を練っているんですか?
今の状態で完成ではないですし、これからも継続して伸ばしつつ、プレシーズンにしっかりと準備をしていこうと思います。あとは、プレシーズンで怪我をしないことです。昨シーズンも怪我が重なってしまって、完璧な準備が出来なかったので、開幕に向けて怪我をせずに、今の状態から継続して徐々に上げていくことを考えています。
――怪我をしないためには、何に気を付けるんですか?
チーム練習が始まれば、今のトレーニングよりも強度は高くなりますし、今はコンタクトすることからも離れている状態なので、そういった時にも怪我をしない身体を作っている段階です。プレシーズンが始まる前に今の状態まで作れているので、それが怪我予防にも繋がるかなと思います。
――ポジションについては、どこを本業としてやっていきますか?
僕が日本代表を目指すのであればウイングかなと思いますけど、15番(フルバック)も意識しています。どっちが本業かと言われると難しいですね。どっちのポジションも好きで、15番には15番の楽しさ、ウイングとはまた違う楽しさがあります。15番で出場する時には、周りを活かすことを心掛けていて、ウイングで出場する時にはトライを取ることを心掛けています。その両方とも楽しくて、僕としては両方を極めたいと思っています。
――松島幸太朗選手もサンゴリアスではフルバックで、日本代表ではウイングでプレーしていましたが、一緒にプレーしていて参考になりましたか?
幸太朗さんとタイプは全然違いますが、ウイングとフルバックを高いレベルで出来ている選手はそんなに多くないと思います。そういった面では、幸太朗さんと一緒に出来たことはすごく勉強になりました。
――松島選手の素晴らしい点はどこだと思いますか?
幸太朗さんはスピードや爆発力的な部分で違いますし、僕との違いは、行けると思ったら自分で持って行ける力があるところだと思います。僕はどちらかと言うと、周りと一緒に動きながら崩すというスタイルです。試合が終わった後に話したことがあるんですが、僕の美学としては、最後はウイングがトライを取る形です。昨シーズンの日野戦でもあったんですが、自分でもトライを狙えた状況でウイングにパスをしてトライに繋がって、それが僕のプレースタイルかなと。
そういうプレーに対して、幸太朗さんから「あそこで自分で行かないの、ちょっとな~」って、そういう話をよくしていましたね。そこで「あそこでパスをするのが僕のスタイル」と答えたりしましたが、笑いながら「俺だったら行ってる」とか言っていましたね。
――フルバックをやっている時には、全体をコントロールするような楽しさがあるんでしょうか?
ウイングって最後に取り切るフィニッシャーで、如何に良い形でボールをもらってトライを取るかを考えてプレーすると思うんですが、フルバックは如何にそのチャンスを作れるかだと思っています。ウイングはトライを取ることに集中してプレーが出来て、それはそれで楽しくて、フルバックだともっと視野が広がったり、より多くのポジションと繋がる部分が多いと思うんです。あとは、全体の流れを読んだりと、そういうところが楽しいですね。
◆「これが出来ない」ということがあるのが嫌い
――どちらか片方のポジションだけでプレーしていると、もう一方のポジションでもプレーしたくなったりしますか?
フルバックでめちゃくちゃ上手いなって思う人がいると、ウイングとして合わせてみたいって思います。幸太朗さんが15番の時は、僕がウイングで合わせたいなと思う時が結構ありましたね。ウイングもフルバックも両方の気持ちが分かって、「ウイングとしたらこういう時にボールをもらえたら嬉しい」とか、「フルバックとしてはこのタイミングでウイングに来て欲しい」とか、両方の気持ちやタイミングが分かるので、それはすごく良いことだと思っています。ウイングの気持ちしか分からないと、「15番はこのタイミングだと難しい」とか、「このタイミングだったら行ける」とか、そういう感覚的なところが養われていかないと思うので、その両方を経験することは自分にとっては結構大事ですね。
――ある部分、メジャーリーガーの大谷翔平選手のようですね
規模が大きくて分からないですけど(笑)、ピッチャーの心理とバッターの心理が分かるという、そういう感覚は近いのかなと思います。
――ウイングとフルバックでプレーするのは、いつ頃からですか?
高校からはずっとやっていますね。高校の最初の頃はウイングで、15番は松田力也で、僕はずっと活かしてもらっていました。高校3年になってキーマンが卒業して、「今度は自分が活かす番だ」となった時に初めて苦労しました。そこで自分は今まで力也君に活かされてプレーしていたと自覚しました。
――そこで周りを活かすという気持ちが生まれたんですね
そうですね。中学生の時には10番などもやっていましたが、結構自分で持っていくタイプだったので、最初は15番が難しかったですね。周りを活かすこととか、周りのタイミングとか気持ちを考えることが、感覚的に難しかったんですが、そこで色んな意見を聞いたり、ウイングやバックスリーとの会話を多くしていこうと思いましたし、自分が出来ないことが嫌だと思いましたね。
自分がラグビーをやっていて「これが出来ない」ということがあるのが嫌いです。だから、ウイングとフルバックの両方のポジションをやっていますし、どちらか片方だけを極めるという凄い人もいますが、僕はどちらのポジションもやっていて、周りに「15番だと微妙だよね」って思われるのが嫌ですね。
――それによって、10番であったり、極端に言えばフォワードでもプレーしようという考えになったりしますか?
そこは現実を見ていますね(笑)。やるかどうかは別として、幅を広げるという意味で言えば、13番は面白そうだなって思います。僕はサイズが小さいので世界的に見ると厳しいと思いますが、いつか機会があればやってみたいなとは思いますね。
――ラグビーはひとつ番号が違うだけで、役割が全然違いますよね
全然違うと思いますし、ポジションによって細かいスキルが違いますし、本当のトップの選手になれば1人1人のこだわりがとてもあると思いますし、人によっても変わってきますね。ひとつのポジションを極めることにも時間がかかります。
――ひとつじゃなく、ふたつのポジションを極めようとしているので、面白さは2倍ですか?
そうですね。僕は結構楽しくやらせてもらっています。
◆ウイングでもフルバックでも
――新シーズンの目標は?
毎年変わりませんが、全試合に出場することですし、年々チーム内の競争が激しくなっていて、今シーズンに関してはビッグネームが入ってきてポジションが被っている部分もあるので、その高いレベルで試合に出ることを一番の目標としてやっていきたいですね。そして、試合に出た上で、ハイパフォーマンスを毎試合出すことを目標にしています。
――それが実現したら、毎試合マン・オブ・ザ・マッチですね
そうですね。仮にそういった賞が取れなかったとしても、毎試合、チームの流れを変えるプレーをして、チームを引っ張る存在感を出していきたいですね。そこでのポジションはウイングでもフルバックでも、試合に出るチャンスがあれば、出たポジションでやっていきたいと思っています。
――日本代表についてはどうですか?
日本代表については、去年の合宿から外れてしまっていますが、まずはサンゴリアスで結果を出すことが日本代表に繋がってくると思っています。昨シーズンは2試合しか出られませんでしたし、そういった場でしかアピールするチャンスはないと思うので、これだけ世界のトップ選手が集まるチーム内での競争に勝って試合に出ることが、日本代表に大きくかかわると思っています。だから、まずはサンゴリアスでの目標を果たして、日本代表への道を切り開いていくことを考えています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]