2020年9月 3日
#711 小澤 直輝 『関わった周りの人みんなが喜んでいるという感覚』
視野の広がりはベテランらしく、想いの熱さは新人選手の様な小澤直輝選手。成長し続ける小澤選手に、いま考えているラグビー、そして仕事についても聞いてみました。(取材日:2020年8月中旬)
◆月に1kg
――今、どう過ごしていますか?
出来ることをやる、という想いで過ごしています。コロナウイルスの自粛期間の影響により、最初は体重が6kgくらい落ちてしまいました。クラブハウスが使えず、家で出来ることをやっていたんですが、実際には筋力や体力が落ちてしまっていました。
このことをコーチたちとミーティングをした時に、「あまりストレスに感じなくていいんじゃないか」という話をされました。コロナウイルス自体は仕方のないことなので、あまり一喜一憂せず、あまりストレスに感じ過ぎず、トレーニングが始められるようになったらしっかりと準備をしていこうと思い、出来ることをやっています。
――体重が6kg落ちた時にはどんなことを考えましたか?
「結構、落ちたなー」って思いましたね。多少の焦りのようなものは、あったと思います。ですが仕方のないことは仕方ないと思って、その中で最善策をとって、クラブハウスが使えるようになってからトレーニングを積み重ねているところです。
――筋力は戻ってきましたか?
体重は4kgくらい戻りました。5月末の時点では週3回、1回あたり2時間くらいしかトレーニングが出来ませんでしたが、その後3ヶ月くらいトレーニングを重ねて、月に1kgちょっとくらいずつ増えてきました。
――体重が戻って来たことで自信も戻ってきましたか?
体重が落ちるスピードが速かったので驚きましたが、トレーニングを始めれば筋力も体力も戻るだろうとは思っていました。
――落ちるスピードが速いということは、相当作って鍛えているということですよね
身体を動かさなくなると体重が増える人が多いと思いますが、僕の場合はシーズンオフとかになって身体を動かさなくなるとすぐに減ってしまいます。
◆気にし過ぎない
――マイナスからのスタートとなりましたが、ターゲットとして元々の体重よりプラスにしていこうと考えているんですか?
無理に体重を重くしようとは思っていなくて、自分の身体と相談しながら一番動ける状態にしようと思っています。
――身体の強さが必要で、更に動けなければいけないポジションなので大変だと思いますが、そのバランスへの意識は?
そうですね。いま思えば、2番(フッカー)でプレーしていた時はもう少し体重がありました。体重で言えば2kgくらいの差なんですが、あの頃は身体が重かったと思いますし、どのくらいの体重だったら動きやすい、という感覚は持っています。
――フッカーもフランカーも役割が多くて、メンタルや身体の強さ、体力だけじゃなく、頭もスキルも使わなければいけませんよね
自分としっかりと向き合う、じゃないですけど、長い時間やっている中で自分の調子が良い時も悪い時もあります。どういう時が良い時なのか、はっきりと分かっているわけではありませんが、調子が良いと思った状態に出来る限り持っていくように心がけています。
――逆に、どういうことをすると調子が悪くなるということは分かるんですか?
どちらかと言うと、気持ちの部分が大きいのかなと思っていて、自分のテンポが崩れると調子が悪くなったりします。仕事をやりながらラグビーもやっているので、全部が自分の思い通りにはいきませんが、良くも悪くも気にし過ぎないことが大事かなと思います。最初に言った体重のことにも繋がってくるんですけど、性格的には結構気にするタイプではあるんですが、気にしないように意識しています。
――それはラグビーに関してですか?
そうですね。仕事では気にすることが多いかもしれないですね(笑)。まあ、仕事に関しては細かいことを気にした方がいいとは思います。
――社会人10年目となるので、その辺りのコツも分かってきましたか?
2年前に飲食店の担当に、いわゆる外食とかの業務用と言われる部署に異動して、そうなると自分の中で転職したような感覚になって、仕事内容が全然違うんです。色々なことを覚えながらやってきましたが、仕事に関しては細かいことが重要かなと思います。
何か大きいことを成し遂げる人は、細かいことを気にしながら大胆に行けるところは大胆に行くので、そういうところも勉強していかなければいけないかなと思っています。
◆スキルも大事
――仕事でもラグビーでもポジションが変わることを経験したんですね
ラグビー部は仕事ではみんな営業をやっているんですが、大きく分けると家庭用と業務用の2つのジャンルがあって、そのどちらも経験した方が良いんじゃないかなと思っています。人間には得意不得意があると思いますが、自分の居心地が良いところにずっといると、決められた枠にハメられてしまうのかなと思います。
ラグビーに関しても、毎年毎年新しいことをやっていかないと、自分の中で新しい発見もないですし、自分の足りない部分にも気づけないと思うので、進化は止まってしまうのかなと思います。やっぱりストレスがかかった環境にいた方が、自分としての成長が見えてくるのかなと思います。
ラグビーではかなりハードな期間もありましたが、いま振り返ると、そういう経験があったから今に繋がっているとも思いますね。多少のことでは気持ちが折れないというか、そういう経験で強くなれたかなと思います。けれど、今の環境の方が楽なのかと言えばそういう訳ではないですし、今は身体を大きくしながら走れないといけないので、強度が上がっている部分もあると思います。
――環境が変わったことで得た新しい発見はありますか?
一時期フッカーをやった時期があって、正直、フッカーとしてはあまり成長できなかったと思いますが、フッカーをやったことで試合に出ることが出来ましたし、フッカーの番号をつけながらバックローでプレーすることもありましたし、そういう機会を得られたということは自分の中でマイナスではないと思っています。あと、今のラグビーではパワーだけじゃなくスキルも大事で、僕としてはこれまでパワーを売りにしてきましたが、3シーズン前くらいからはスキルアップにも取り組んでいます。
――スキルも大事だと思ったきっかけは?
以前は、ボールの近いところに走り込んで、身体をぶつけながらゲインしていくというスタイルでプレーしていましたが、今はどこのチームもポッド(攻撃する選手が複数のユニットをつくり、ボールを左右に動かす戦術)でラグビーをやっていて、フォワードの中でも細かいパスとか、フォワードを経由してバックスに繋ぐとか、ラグビーの主流のスタイルが変わってきています。
だから、パスとかキャッチなどの細かいスキルも必要になっていますが、今の若手選手たち、駿太(中村)とか、やっぱり上手いんですよ。フロントローの選手もみんな上手いですからね。僕らが高校時代に習っていたラグビーより、彼らが高校時代に習ったラグビーの方が研ぎ澄まされていて、どんどん質が上がっていると思います。だから、花園の高校ラグビーとかを見ていても上手いなって思いますね。
◆ハードワークという文化
――フッカーをやったことで、バックローが合っていると感じた部分はありますか?
単純に、僕にはスローイングのセンスがなかったです(笑)。スクラムもみんな素晴らしいですし、やっぱり今のラグビーではセットプレーが重要なので、そこで自分にはセンスを感じませんでしたね。バックローでパワーを売りに出来る部分、コンタクトして起きて走ってそれをリピートするという部分の方が、自分には合っています。
――そういうプレーが好きでもあるんだと思いますが、なぜ好きなんですか?
キツいのはキツいんですけど、キツいことをやること、チームにはそういうハードワークという文化があり、それで結果も出ているので、結果に繋がるということを経験させてもらっていますし、勝った時の喜びって計り知れないものがあって、そこに向けてだったらキツいことも出来るんです。
――勝った時の喜びであったり興奮を言葉で表すと、どんな言葉になりますか?
個人スポーツで頂点を取ったことがないので分からないですが、チームスポーツと個人スポーツではちょっと違うのかなと思います。チームとしての達成感であったり、一体感であったり、結果が出ることで自分も嬉しいですけど、関わった周りの人みんなが喜んでいるという感覚が良いんだと思います。
――ラグビーは1チーム15人と、チームスポーツ中では一番多い人数なので、その分喜びも大きいんですね
そうだと思います。サントリーという会社に属しているので、選手やスタッフだけじゃなくて、会社の人も喜んでくれますし、やっぱり関わった人が心から喜んでくれて、喜びを共有できているのが良いんだと思います。勝った時にプレーしている選手が喜ぶのは当たり前だと思うんですが、本当に色々な立場の人が喜んでくれるというのがラグビーの魅力でもあるのかなと思います。
◆将来サンゴリアスに入りたいという目標
――ベテランの域に入ってきましたが、次のシーズンの目標は?
チームとしては、まずタイトルを取ることです。勝たなければいけないチームだと思うので、タイトルを取ることがいちばん大きな目標です。個人としては試合に出ることです。チームとしてどんどん大きく成長していくことで、多くの子どもたちが「将来、サンゴリアスに入りたい」という目標を持ってくれると思いますし、そういう魅力的なチームであり続けることも大きな目標ですね。
――日本代表は?
呼んでいただけたら行きたいと思います。日本代表に全く関われなかった時に言われたのが、「サントリーで活躍することが日本代表への近道だ」ということで、サントリーでスタメンとして活躍することが出来れば、日本代表に繋がると思うので、まずはサントリーで活躍することを考えています。
――代表として活動することの良さは何ですか?
国の代表として他の国と試合をするなんて、なかなか出来ることではないですよね。ワールドカップで日本代表は結果を出しましたし、国のみんなから応援してもらえるということは代表ならではだと思います。選手としたら、やっぱり多くの人に応援してもらった方が嬉しいですよ。
――もう一度、その良さを目指していきますか?
こだわらず、しっかりと足元を見て、目の前のことをしっかりと、チームでやっていきたいと思っています。
――まだまだ成長過程ですか?
まだまだ成長できると思っていて、選手である以上は辞める時までガツガツ行きたいですし、成長していく姿を見せたいですし、自分でも感じたいと思っています。選手である以上は、しっかりと成長を意識して頑張りたいと思います。
僕としてはベテランとしての役割に徹したくないと思っていて、チームをまとめたりすることがベテランのひとつの役割でもあると思うんですが、その役割を意識して自分のプレーを遠慮するということはしたくないですし、性に合っていないと思っています。少し引いた位置からチームを見たり、経験を伝えたりとか、やるべきことをやって、プレーに関してはガツガツ行きたいと思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]