SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2020年8月14日

#708 祝原 涼介 『低いスクラムを組む』

ルーキーシーズンを終えて2年目に入った祝原涼介選手。レギュラー奪取に向けて、新シーズンの課題も明確な様です。現状、課題、目標について聞きました。(取材日:2020年7月下旬)

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◆上のカテゴリーに上がっていく近道

――現在の調子やトレーニング状況などを教えてください

週5日はトレーニングをしています。会社の離席が週2日認められているので、その2日は15時くらいからクラブハウスに行き、残りの3日は朝の7時から9時か、仕事終わりの17時から19時でトレーニングをしています。筋力トレーニングのメニューがあり、そのメニューを月、水、金と3日間やっていて、木曜と金曜は走らずに、背中を大きくするトレーニングに当てています。今の自分には背中を大きくすることが必要なので、そこにフォーカスして木、金の2日間は筋力アップに使っています。

――背中を大きくする理由は何ですか?

JP(ジョン・プライヤー/S&Cアドバイザー)と話をして、プロップとしての僕の身長と体重を考えた時に、背中を大きくすることによって力強いスクラムを組めるようになるということになりました。胸の筋力はあるんですが、背中とのバランスが弱いことが分かったので、昨シーズンから取り組み、それを継続して行っています。

――背中を意識して強化することは初めてのことですか?

高校や大学の時も鍛えてはいましたが、今回大きくフォーカスしたことはベンチプレスとスクワット、チンニング(懸垂)でした。それによってそれらの数値は、サンゴリアスの中でも真ん中よりも上にいます。あまり背中の細かいところまではフォーカスしていなかったので、また新しいことを取り入れられる、とプラスに捉えてやっています。

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――背中を強化するとは、具体的にはどうトレーニングするんですか?

重いウエイトを上げたり、スクラムのフォームのままチューブを使っておもりをぶら下げるなど、体幹を固めながらじゃないと出来ないようなトレーニングなどをしています。筋力だけじゃなく体幹を使わなければいけないので、おもりは少し軽くなるんですが、不安定感は出るので身体の使い方によりフォーカス出来るんです。

――新たな発見もありそうですね

ありますね。スクラムポジションになる時に、左足が前で右足が後ろと、右足が前で左足が後ろというように、1番と3番の両サイドをやるんですが、僕は3番の方が長かったので右足を前に出していた時の方がポジションが楽というか、上手く使えていてバランスが取りやすいんです。左足を前に出す時にはバランスが崩れてしまったりしているので、そういうところを修正していかなければいけないと思っています。今は1番をやっていて両サイドで出来るようにならなければいけないので、そういう発見がありました。

――理想としては、1番でも3番でも同じようなバランスで出来るようになることですか?

そうですね。この先1番も3番も同じように出来た方が、上のカテゴリーに上がっていく近道になると思っています。

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◆寄り添いながらやっている

――今の状態はどうですか?

次のシーズンで試合に出るためには、慎太郎さん(石原)、由起乙さん(森川)とポジション争いをすることになるんですが、そこで足りないところはスクラムのスキルやパワーだと思います。クラブハウスに来た時には、毎回アオさん(青木佑輔/スクラムコーチ)とスクラムのトレーニングをしていて、シーズンに向けて足りないところを伸ばすようにしています。

クラブハウスも使えず家でトレーニングをしていた時には身体が小さくなったかなと思っていたんですが、クラブハウスでのトレーニングが出来るようになって1ヶ月半くらいが経って、だいぶ筋力が戻ってきましたし、チームの始動までにはターゲットの数値はクリア出来そうなので、順調に上がってきています。

――気持ちの面ではどうですか?

プライベートと仕事とラグビーと、上手くバランスが取れているので、良い状態だと思います。

――仕事の方はどうですか?

昨年よりも慣れて、自分のやり方を見つけられました。営業の予算という部分ではまだまだ足りないんですけど、昨年の今頃は他の人から教わったり、新しいことをやったりしていてバタバタしていたりしたんですが、今はオンとオフや仕事とラグビーを上手く切り替えて出来ています。まだ分からないことがあったりしますが、去年よりは落ち着いて出来ていると思います。

――ラグビーが仕事に繋がっていることもありますか?

僕の担当エリアが府中なので、ラグビーをやっていると分かってくれている人が多いですし、新たに担当することになったお店も、ラグビー部の先輩から引き継いだところだったりするので、分かってくれていますね。あと、ラグビー部が行きつけのお店を担当しているので、よく「ラグビー部の人が来たよ」とか教えてくれますし、ラグビー部と交流があるお店が多くて色々な情報が入ってくるので、やりやすい環境だと思います。

――仕事での面白さはどんなところですか?

コロナの状況で厳しいお店が多いので、まずはやれることをやって、お店を立て直すお手伝いをしています。お店側がどうして欲しいのかを寄り添いながらやっているので、売り上げが戻ってくるとやりがいを感じますね。

――もともと合っていたと思いますか?

人助けだと思いますし、もともとそういうことが好きなので苦手ではないですし、得意と言えば得意なのかもしれません。

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◆絶対的なスクラム

――1年目だった2020シーズンはどうでしたか?

トップリーグカップ2019、トップリーグ2020と、2つのシーズンがあったような感覚なんですが、怪我をしたら一気にシーズンが終わってしまうというイメージでしたね。大学の時は1シーズンが長かったですし、次の試合までに2週間空いたり準備期間がある程度はあったんですが、トップリーグは毎週のように試合がありますし、特に若手はチャンスが少ないので、1つとか2つとかのチャンスをモノにしないと試合には継続して出られないと感じました。

だから、怪我をしないことは絶対ですし、チームから何を求めているかをコーチたちから明確に言われているので、それを最大限アピールするためにはどうしなければいけないのかを考えて臨まなければいけません。同じポジションの慎太郎さんや由起乙さんは必ず良いパフォーマンスをするので、僕が試合に出るためにはそれを超える何かをしなければいけません。

そのためには、まずは劣っている部分をなくさなければいけないと思っているのですが、僕は2人と比べてスクラムが劣っていると思っています。その差を埋めて信頼を勝ち取らなければ、選手を起用する側の方たちは上位チームとの試合では使いずらいだろうと思います。ですから練習や試合で信頼してもらえるようなスクラム、1つのミスもないくらいのスクラムを、試合で組めるようにならなければいけないと思っています。そのために今の時期にしっかりと準備をして、次のシーズンに臨みたいと思います。

――第一にスクラムの部分をチームから求められているんですね

そうですね。タイ(マクアイザック/FWコーチ)からもアオさんやミルトン(ヘイグ/監督)からも、基本的にはスクラムのことしか言われません。プラスαでボールキャリーのことなども言われたりしますが、まずはどのコーチからもスクラムのことを言われるので、絶対的なスクラムを作らないと試合にでは出られないと思います。

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――スクラムでの課題はあると思いますが、自分のスクラムの良さは何だと思っていますか?

身体が大きくて、どちらかと言えば相手の方が小さいことの方が多いので、身体が大きい選手が出来るスクラムを組みたいと思っています。例えば、クルセイダーズのジョー・ムーディーは、身体が大きいけど低いスクラムを組んでいます。身体の小さい日本人だとあのスクラムを組むのが難しいと思うんですが、身体が大きい選手が小さい選手に対して低いスクラムを組むような、自分なりのスクラムを作りたいと思っています。身体が大きいのに低いスクラムを組むことを、強みにしていきたいと思います。

――低いスクラムが安定してできる様になるためには何が必要なんですか?

アオさんと練習をしてきて、やっと1番としてのルーティーンが出来つつあるので、まずはそれを自分の体に覚えさせることがいちばん大事だと思います。そこで色々な相手とスクラムを組むと自分の足りないところが見えてくるので、そういう部分を改善していって、色々な状況に応じたスクラムが組めるようにならなければいけないと思っています。

――ルーティーンは、スクラムを組む前、組む直前、組んでいる時、組んだ後でそれぞれあるんですか?

組んだ後は相手によって色々と違うと思うので、組む前からヒットする瞬間まで、同じ姿勢、同じタイミング、同じ場所で組むことがルーティーンだと思っています。

――その大きな3つのポイントの、どれがいちばん難しいんですか?

いまはひとつずつクリアしている段階です。ようやくバインドまでの姿勢ところで、高さや組みやすさが分かってきたので、その次の段階に入っていて、バインドからの駆け引きが難しいですね。

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◆自分なりのスクラム

――目指す姿のイメージは?

理想はジョー・ムーディーのようなスクラムを組みたいと思っていますが、その姿勢をそのまま真似するのは無理なので、自分なりのスクラムにしていかなければいけません。アオさんと1対1で組んで、その姿勢でカッキーさん(垣永真之介)や由起乙さんと1対1をやって、自分のスクラムを作っている段階です。それが完成した時には理想形になっていると思います。

毎回、アオさんが練習前と練習後でフィードバックをしてくれて、「もっとこうした方が良いよ」と言ってくれます。それに対して「もっとこうした方が良いんじゃないですか」と聞けば、必ずそれに対して意見を返してくれて、お互いの意見が合って実際にやってみるという感じなので、アオさんと僕と同じ理想形を描いて取り組んでいます。

――一緒に試行錯誤している感じなんですね

そうですね。先にルーティーンを作って、いまバインドのところをやっているんですが、例えばカッキーさんと1対1をやった時にバインドの前のところがダメだったとなれば、「じゃあ、どうするか」と前の段階に戻って取り組み直しています。9月までに自分の形を完成させようと思っているので、焦らずひとつひとつやっています。

慎太郎さんや由起乙さんと比べて経験値が少ないので、ひとつひとつ積み上げて、修正して、を繰り返さないといけないと思いますし、トップリーグ2020では2試合しか出られませんでした。慎太郎さんや由起乙さんは試合で成長できると思いますが、僕の場合は出場試合が少ないので、練習から経験を積んでいかないといけないと思っています。

――9月にはどういう姿をイメージしていますか?

今は8人で組めませんし、5人でも組めるかどうか分からないので、スクラムとしての完成形は出来ないと思っています。その中で、自分としてのバインドまでのルーティーンを確立させて、ロックやフランカーを入れた状態でセットアップできるような状態にはしたいと思っています。

――まるで建築物を造っていくようですね

そうですね。もうひとつひとつやっていくしかなくて、角度や少しの動作であったり本当に細かいところまで、フッカー、ロック、フランカーの全員がストレスないようにやらなければ良いスクラムは組めません。だから細部にこだわってやっています。

――細部にこだわって作り上げていく経験は初めてですか?

はい、そうですね。大学時代も意識はしていましたが、これほど考えて取り組むのは初めてです。

――面白そうですね

深いですね。フロントローにしか分からない部分だと思います。いちばん最初にアオさんとやった時の映像を先日見たんですが、いまのスクラムとはまったく違いました。映像を見るとどう成長しているかが分かるので、その違いは僕らしか分からないと思いますが(笑)、そういう映像を見ると面白いですね。

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◆攻めるスクラム

――改めてラグビーの面白さはどこですか?

試合に出て、勝って優勝することがいちばん面白いと思います。先輩たちのレベルが高いので、そういう人たちと争えることが、ラグビーを楽しめているところかなと思います。

――次のシーズンでの目標は?

コーチやスタッフ、仲間の選手たちに信頼されるスクラムを作り、それを試合で発揮することです。スクラムを押すことだけが勝つことではなくて、ボールをクリーンに出す、ペナルティーを取るなど、色々な勝ち方があります。自分が崩してしまったり、押されたり、ペナルティーを取られたりすることを無くしていくと、自ずと任されるようになっていくと思うので、まずは安定したスクラムを組むことですね。

――素人目から見ると分からないんですが、崩してしまうのはどういった理由があるんですか?

状況によって違うので色々な理由があります。自分で落としてしまったり、相手から落とされたり、そこは相手との駆け引きなので、いま説明するのは難しいですね(笑)。

――1番と3番ではどちらをメインにしていくのでしょうか?

次のシーズンは1番をメインでやっていきます。

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――1番の面白さは何ですか?

僕は1番も3番もどちらも面白いと思いますし、サントリーのラグビーは1番も3番もみんなが動いてボールキャリアーをやるので、どちらも変わらないと思うんですが、強いて言えば、攻撃的に、攻めるスクラムを組めることがあると思います。まあ、3番でも攻めるスクラムが組めるので、フロントローの面白さかもしれないですね。

――他にもフロントローの面白さがありますか?

スクラムで相手を押した時、ペナルティーを取った時の感覚は面白いですし、サントリーのフロントローはボールキャリアーとしても良い選手が多いです。ボールも捌けますし、フィットネスの数値も高くて、何でも出来る選手ばかりです。サントリーにはフロントローだからこれが出来ないという選手がいないので、そういう部分でも戦える要素があると思います。

――スクラムでは負けたけど試合には勝ったということもありますよね

たまにありますね。そういう試合はスッキリしません(笑)。フロントローはみんなそうだと思いますよ。試合に勝ってもスクラムで負けたら後味が悪いんです。やっぱり選手には負けず嫌いが多くて、8対8の勝負なんですけれど、対面との1対1の勝負でもあるので、そこで負けると嫌な感じになりますね。

――スクラムで勝って試合にも勝つのが理想ですね

それがいちばんですね。スクラムは勝ち負けを周りから判断されるものじゃないので難しいんですけど、例えば前半はイーブンで組んでいて、後半の最後にスクラムを押した場合は、前半からスクラムでダメージを与えて最後に仕留めているので、前半に僕が出て、後半からは違う選手が組んでいたとしても、前半からパンチしていたことが最後でKOになったという感覚になります。全員でスクラムを組んで倒しているので、試合を通してのスクラムで勝ったということで、そういう勝ち方も気持ちはスッキリします。

――次のシーズンに向けて楽しみにしていることは?

ファンの人もそうだと思いますが、まずは試合が開催されることを楽しみに待っていますし、コンディション的にもベストの状態でチームが始動する9月に合わせて入っていき、慎太郎さんや由起乙さんとのポジション争いに勝って、試合に出られるように準備していきたいと思います。

――そうなると、日本代表も見えてきますね

見えてくると思います。まずは2人を超えることを目標に、練習からアピールしていきたいと思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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