SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2020年7月31日

#706 中靍 隆彰 『自信の表現の仕方』

試合でトライをいくつ取っても、シーズンでMVPを獲得しても、常に変わらず謙虚な中靏隆彰選手。2020シーズンは、新たな発見があったそうです。本質は不変でも、常に成長し続ける中靏選手に、現状や目標を聞きました。(取材日:2020年7月中旬)

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◆2021年1月をターゲットに

――クラブハウスでの個人トレーニングも、人数を制限して始まったそうですが、どんなことをやっているんですか?

まずは、ウエイトルームが使えるようになったので、器具を使ってしっかりと筋トレをして下地を作っていたり、走り込みもやっています。

――これまでのシーズンと比べると、ペースとしてはゆっくりなんですか?

そうですね。コロナの影響で特殊な状況ではあるので、時間はたくさんあって、今はある程度は個人に任されている感じがありますね。

――コロナの影響で考える時間もあると思いますが、どんなことを考えていましたか?

2020シーズンが途中で終了して、次のシーズンが始まるまでにかなり時間が空くので、他の人たちは「まだだいぶ先だから」とか「今から上げても持たない」とか、そういうことを考えると思うんですが、僕の場合は中止になった次の日から、2021年1月をターゲットに動いていました。

――そこにはどんな気持ちがあったんですか?

そこをターゲットにしていない人がいるんだったら、先に僕がターゲットにしていれば、その分の差をつけられると思っていました。

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◆朝から試合を楽しみに

――2020シーズンの手応えは?

チームとしては、開幕戦で負けはしましたが、徐々に調子が上がってきていましたし、個人としてもすごく手応えはありました。トップリーグカップ2019からずっと自信があって、調子も良かったですし、良い選手がたくさんいるので試合に出られないことはありましたが、チームからの信頼も得られてきたかなという段階だったので、まだ試合をしたかったというのが本音ですね。

――新たに掴んだことや新たに自信になったところはありましたか?

メンタルの部分であったかなという感じです。試合に対する臨み方のところで、もともと試合で緊張することは無いんですが、出来ることは全部準備するとか、割と肩に力が入って入れ込むタイプだったと思います。それでパフォーマンスを出せる時もありましたし、失敗だとは思っていなかったんですが、第3節の神戸製鋼戦の前に、Netflixでコナー・マクレガーという格闘家のドキュメンタリー番組を見たんです。それでビッグゲームでも試合を楽しみにしているというか、朝起きた時から試合を楽しみにしていて、全然ネガティブなことを考えていなくて、試合までに準備をしてきたことに自信を持っている感じでした。

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僕もしっかりと準備をしてきたという自負がありますし、試合はそれを出すだけなので、朝から試合を楽しみにしている状態でいようと思って神戸製鋼戦に臨んだら、試合中も良い緊張感を持つことが出来て、緊張感はありつつも視野を広く持つことが出来て、試合には負けてしまいましたが、入れ込みすぎることもなくすごく良いメンタルの状態でした。掴んだと言えるか分かりませんが、これまでとは変わったメンタルの状態で試合に臨んで、「こういう臨み方もあったんだな」と思いました。

別に軽い感じの臨み方ではないんですが、次の日野戦でも同じようなメンタルで臨んで、すごく良いパフォーマンスだったので、「このまま毎週こうやって試合を重ねていきたいな」と思っていたので、それは良い発見でした。

――考え方を変えられる見どころがコナー・マクレガーのドキュメントにあったんだと思いますが、それはどこだったんですか?

試合まではやるべきことをしっかりとハードワークして、試合当日には、夜の試合に向けて、普通に朝起きて楽しそうに「今日は試合だ」としている感じです。自分にはその感じがないなと思いましたね。試合の前日までは同じなんですが、当日の感じが僕とは違っていました。もちろん僕も試合は楽しみなんですが、例えばビッグゲームなどでは、これまでは「こういうサインプレーがあって、試合ではこうしよう」とかを考えていて、それも別に良い過ごし方だとは思うんですが、その時に少しネガティブなことも考えたりしていたんです。もう8年目ですが、自分に自信を持つ大切さ、その自信の表現の仕方を、改めて感じました。

――神戸製鋼戦と日野戦の2試合で、その方法が確立できていれば、これからが楽しみですね

そうですね。その臨み方で、例えばコテンパンにやられたり、ミスをしてしまった時に、自分がどう思うのかは分からないですが、すごく大事なことではあるのかなと思います。

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――たまたま結果が悪く出た時に、その臨み方のせいではないと分かるといいですね

そうですね。単純に「相手の方が凄かったから、またイチから練習しよう」と思えると思います。

――そういう発想の転換をすると、準備の仕方が今までよりもハードになりそうですね

当日楽しむためにはそれまでの準備が大事になりますが、そこは自信があります。自分の知らないところでやっている人はたくさんいると思うので、あまり言いたくはないんですが、コロナでの自粛期間中も誰よりもやった自信があります。ただ、やったから偉いとかではなく、ラグビーが好きで、自分のパフォーマンスを出してチームに貢献して勝ちたいという想いがあるので、そのパフォーマンスを上げたいという楽しさですかね。

――試合当日をポジティブに捉えると、ラグビーの楽しさを新たに発見したことなどはありませんか?

本当に試合が楽しいですよ。相手もワールドクラスの選手がたくさんいて、自分のチームにも凄い選手がたくさんいて、その中でみんなに活かしてもらいながら自分の長所を活かせて、その結果が出る、練習したものがしっかりと出せるというのは本当に楽しいですよね。

――その話を聞いていると、一生ラグビーを続けていきそうですね

一生やりたいですね(笑)。

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◆社員選手は本当に楽しめる

――社員選手としてラグビーをやっていて、大切にしている価値観は?

ラグビーに限らずプロスポーツ選手のドキュメンタリーを見るのが好きですし、若くて時代が違えば、僕もプロになっていたかもしれないですからね。ただ、自分の家族もいますし、社員選手の良いところは会社の人たちの応援をいちばん近くで感じることが出来るところだと思います。

元プロ野球選手のイチローが「プロは職業にすると楽しめない」と言っていますが、それほどの覚悟でプロ選手はラグビーに臨んでいると思うんです。例えば、プロ選手は怪我などで試合に出られないということになれば、生活にも影響しますし、そういう見えないプレッシャーから楽しめない状況に陥ってしまうかもしれません。

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表現が難しいですが、軽い意味ではなくて、僕としては社員選手は本当に楽しめるんじゃないかなと思っています。僕の日々のスケジュールやどんなことをやっているかを知らないと、僕の考えを趣味と捉えられ、「所詮、その程度でしかラグビーに向き合っていないんだな」と思われてしまうかもしれないんですが、その姿を見ている家族などは、僕がどれだけ没頭してラグビーに取り組んでいるかを分かってくれると思います。

――サントリーとしての仕事がラグビーに及ぼす好影響は?

結果的にかもしれませんが、2019年9月に担当が変わって、最初は全然うまくいっていなかったんですが、それでも仕事に対して真摯に取り組んで、練習後にも会いに行ったりしていたら、取引先の方がラグビーも応援してくれるようになりました。一般の社員と比べたら「全然仕事していないだろ」くらいのレベルかもしれませんが、そういうことがあると仕事もラグビーも真面目にやって良かったと思いますし、それが日々の練習に臨むメンタルにも良い影響を与えてくれていると思います。

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◆みんなが見て凄いと思うようなトライを取りたい

――10月に30歳を迎えますが、改めて目指しているのはどんな姿ですか?

僕はあまり先の目標に取り組むことは得意じゃなくて、1年単位、1週間単位などで考えて取り組んでいて、本当にその年その年でチームに貢献して優勝したいという気持ちでやっています。だから、今いちばん試合に出たいという想いなので、次のシーズンの開幕戦にスタメンで出て、納得のいくパフォーマンスをしたいですね。もちろんたくさんトライを取りたいという想いはありますが、1試合で何トライとか、シーズンで何トライという具体的な数字は考えていないですね。

漠然としていますが、みんなが見て凄いと思うようなトライを取りたいとかは思っていますけど(笑)。みんながボールを繋いでくれて、最後インゴールにボールを置くだけのトライも大事ですが、見た人が「中靏すげー、はえー」って感じてくれるようなトライは、自分も気持ちが良いですね。

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――では、気持ちが良いトライを取った時には、ボールを上に投げるなどパフォーマンスをしてもらえますか?

いやー、それは無いですね(笑)。大学の時に指導されて、片手でトライしただけで、次の日はオフだったんですが呼び出されたことがありました。だから、基本的には両手でトライしています。

――だから、トライを取った後の姿が謙虚なんですね

トライは周りの選手たちがいてこそ、ですよ。たくさんトライをしたシーズンも、全然トライが取れないシーズンも経験して、周りが自分を活かしてくれると本当に感じています。

――トライをした瞬間はどんな気分なんですか?

もちろん嬉しいですよ。みんなが喜んでくれたり、集まってくれるのが嬉しいですね。やっぱりチームとチームの戦いで、サントリーとして負けたくないという気持ちでいるので、1つの勝ちに向けて得点を取ることが出来て、みんなで喜べることが嬉しいですね。

――今の状況をそれぞれの立場で過ごしている皆さんに対して、メッセージをお願いします

先の状況が見えなさ過ぎて、例えば家で腹筋のトレーニングをやるにしても、何に繋がるのか分からなくて続かない人も多いと思うんですが、僕の考え方としては、誰かとか他の何かと比べるよりも、やったことの効果とかも考えず、それをやった自分とやらなかった自分のどちらが良いかを考えるようにしています。例えば、朝トレーニングに行くか迷った時、1年後のことを考えたりすると行かない選択をしてしまったりすると思うんですが、僕はやった自分とやらなかった自分のどちらが良いかと考えて、自粛期間中を過ごしました。スポーツ以外でも、ちょっとずつ積み重ねていくしかないのかなと思っています。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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