2020年7月17日
#704 中村 駿太 『1年でも長くサントリーでプレーしたい』
入部4年目の中村駿太選手、強力なライバルがいながらも、ほとんどの試合に出続けています。新たなシーズンに向けて、どんなことを考え、どんな目標を立てているのでしょうか。大好きなスポーツについても聞いてみました。(取材日:2020年7月上旬)
◆メリハリの利いた生活
――元気に過ごしていると聞いていますが、どう過ごしていますか?
そうですね(笑)。仕事の時間は仕事をして、ラグビーの時間はラグビーをして、メリハリの利いた生活をしています。
――ある程度は練習も出来るようになったんですか?
緊急事態宣言が明けてから、少しずつですけど、フィットネスやウエイトなどの基礎作りをしっかりとやっている段階です。
――緊急事態宣言が明ける前は?
必要以上に外に出ないことを意識して生活していたので、外を走るのも家の周りとか、人がいない時間に近所の大きい公園に行って、フィットネストレーニングをやるという感じでした。最初の頃は鉄棒を使って懸垂をやっていたんですが、途中からは使用禁止の張り紙が貼られて出来なくなってしまったので、ウエイトトレーニングは自重で出来ることのみをやっていました。
――ウエイトトレーニングは自重だけでやると限界があるんでしょうか?
自重でもちゃんと鍛えられると思うんですが、重いウエイトを上げる場合は使う筋肉が違ったり、慣れがあるので、久しぶりにウエイトトレーニングで重りを上げた時に、「久しぶりにこんなに上げられない自分を見たな」と思うくらい上がらなかったです。
――1人でトレーニングをしていた状況から、少しずつ少人数でトレーニングが出来るようになってきての感覚の違いは?
1人で黙々とずっとやるのはキツいじゃないですか。そういう意味で言うと、周りに人がいて、みんなもキツいことをやっていて、そこに自分も入れてやるというのは、何と言うか楽しさのようなものがありますよね。
――では、今の状態は、まだまだこれから作っていくという感じでしょうか?
そうですね。やり始めてすぐに怪我をしてしまい、2週間くらい走ることが出来なかったんですが、やっと先週から走れるようになったので、本当にこれからですね。急にトレーニングのボリュームを上げ過ぎちゃったので。
◆選手は応援によってパワーをもらっている
――プロ野球や他のトップスポーツが試合をやり始めましたが、それについてどう見ていますか?
まず、すごく羨ましいですね。自分たちも早くラグビーをやりたいなとは思うんですが、変な意味ではなく、野球やサッカーとは違ってラグビーはコンタクトスポーツですよね。なので、野球やサッカー以上に、競技をするには時間がかかるんじゃないかなと思っています。仕方ないという想いを持ちながら、ラグビーが出来るようになった時に良いパフォーマンスを出せるように、身体も心もしっかりと準備してやっていこうと思っています。
――無観客の試合を見ていてどうですか?
いやー、寂しいですよね。僕は野球を見に神宮球場やナゴヤドームに行きますけど、絶対に応援席に座って応援をするので、それが出来ないことも悲しいですし、選手は絶対に応援によってパワーをもらっていると思うので、やっている選手も寂しいんじゃないかなと思いますね。
――応援席に座って応援するのは、どの辺が魅力ですか?
ひとつになっている感があるからじゃないですかね。僕は中日の応援歌だったら、たぶん20種類くらいあると思うんですが、それをほぼ全て歌えますし、周りがそういう人たちばかりなので、一緒に応援していると一体感があって気持ちいいんです。
――ずっと中日ドラゴンズのファンですか?
ずーっと中日ファンです。祖父が巨人ファンなんですよ。だから、祖父としては僕を巨人ファンにしたかったみたいで試合に連れて行ってくれたんですが、僕はどちらかと言えば、反抗したいタイプというか、「おじいちゃんが巨人を応援しているから、僕はこっち」という感じで、たまたま中日の試合が多かったんです。それで初めて見に行った試合が中日で、ピッチャーが川上憲伸でした。うちって祖父も父も明治大学出身で、川上憲伸のプロフィールを見たら明治大学出身って書いてあり、「わっ、この人いい!」と思い、小学1年生くらいからずっと中日ファンです。
しかも自慢すると、たまたまなんですが、明治大学の商学部に入ってゼミに入ったら、そのゼミのOBに川上憲伸さんがいたんです!それでゼミの先生が退官される時にお祝いのムービーが送られてきて、それを見て1人で興奮したことを今でも覚えています(笑)。
――実際に会ったたことは?
会ったことはなくて、ずっと先生に会わせて欲しいとお願いしています。
――今でも応援に行っているんですか?
めちゃくちゃ行っていますよ。昨年は祝原と一緒によく神宮球場に行っていました。ドラゴンズはここ何年かはずっと結果を残せていなくて、僕が見に行く試合もほぼ負けていたんですが、昨年5~6回見に行って、半分くらいは勝ったんですよ。だから、すごく嬉しくて、気持ちよくなって帰りました。
――野球の魅力は何ですか?
ラグビーには無い応援歌の文化でしょうか。応援の文化が違いますよね。ラグビーはどちらかと言うと良いプレーに対して拍手するような感じがあるんですが、野球はガンガン音を鳴らして応援するので、ラグビーには無い応援なので良いですよね。
――その応援をラグビーに取り入れたいと思いますか?
それはちょっと違うのかなと思います。野球は選手1人ずつ応援歌がありますが、ラグビーはその使い分けが出来ませんし、それが野球の応援の文化なのかなと思います。
◆セットプレーが成長した
――2020シーズンについて、自分自身の手応えはどうでしたか?
めちゃくちゃ良かったですよ。シーズン通してパフォーマンスが良かったですし、大きな怪我もしなかったので、すごく良かったと思います。
――パフォーマンスについて、具体的にどう良かったんですか?
セットプレーが成長したと自分でも感じましたし、フィールドプレーも自分のイメージ通りに動けていたので、そこが良かったですね。セットプレーでは、ラインアウトのスローで、たぶんシーズン中にノットストレートをしていないと思いますし、スクラムについても、第2節のNTTコミュニケーションズ戦でマルコム・マークスに少しやられましたが、それ以外は良いスクラムを組めていたと思います。フィールドプレーについては、口で言うのが難しいですが、身体がよく動いていましたし、スキルも判断も良かったと思います。ライバルには日本代表キャップを持っている選手が2人もいて、その中でサンゴリアスでシーズン通してほぼ2番で出場できたということは、自信にもなりました。
――そこには2019年ワールドカップの日本代表に選ばれなかった悔しさなどもあるんですか?
悔しさというよりはどちらかと言うと、焦りというか、「このままの評価では自分は絶対に出られない」と思っていたので、自分自身に良いプレッシャーを掛けられたかなと思います。
――どうやってプレッシャーを掛けていたんですか?
例えば、「この1本をミスれば、次の試合には出られない」とか、「ここで良いパフォーマンスを出せなければ次のチャンスは無い」とか、そういうことを常に思っていました。
――甘えが出ず、常に良いプレッシャーを掛け続けられた秘訣は何ですか?
試合に出たいという強い想いですね。プライドの部分もあって、小学校からラグビーを始めて、ほとんどのチームでずっと試合に出てきましたが、2020シーズンでは、すごいライバルが2人もいて、試合に出られない可能性があり、危機感がありました。それが良いプレッシャーになりましたね。
――そこで自信を得て、次への課題は何ですか?
それは、やっぱり続けることですね。野球でも1年間は良い結果を出しても、2年目、3年目でつまづくパターンが多いと思うんですよ。良いパフォーマンスを続けないと、チームにとっても大事なピースにはなれないと思うので、良いパフォーマンスを出し続けられるようにすることが大事だと思います。
――そのポイントは何だ思いますか?
ひた向きにやり続けることだと思います。自信を持つことはとても大事なんですが、慢心せず、現状に満足せず、やり切ることが大事かなと思います。
――普段からひた向きなんですか?
そんなことは無いですけど、ラグビーに関してはひた向きにやっていかなければいけないと思っています。
――向上心も常に持っているんですね
向上心というよりどちらかと言うと、不安の方が大きいのかなと思います。「試合に出られなかったらどうしよう」とか、「いつ引退しなければいけなくなるか分からない」ので、そっちの方が大きくて原動力になっているかなと思います。
――物事に対してしっかりと準備をして臨むタイプですか?
ある程度はそうだと思います。計画性を持って準備しますけど、その結果として出来なければ仕方ないという想いもあります。ポジティブに考えると、準備をして結果が出なかったとしても準備自体はしているわけなので、それを続ければ次には結果が出ると思っています。
――準備のことをかなり考えているんですね
ある程度、自分の中で、今までの経験などをもとに考えています。例えば、Yo-Yoテスト(シグナル音に合わせて20mの往復走を繰り返す、シャトルラン形式の持久力測定テスト)のターゲットに対して、「クリアするためには、この時期にはこのくらいの状態になっていなければいけないな」とか、「そのためには週に何回フィットネストレーニングをやった方がいいかな」とか、自分でも考えますし、コーチに相談してメニューを考えてもらったりしています。
◆おじちゃんになっても本気でぶつかり合っていたい
――フッカーに2人も日本代表キャップを持つ選手がいるチームにいますが、自分自身のレベルを上げるためには良い環境だと思いますか?
本当に良い環境だと思います。良いフッカーが2人いるから、それでプレッシャーを感じで自分のパフォーマンスが絶対に上がっていると思います。
――今後、目指すところは日本代表でしょうか?
そうですね。日本代表もそうですが、1年でも長くサントリーでプレーしたいですね。もちろん日本代表になりたいですし、ワールドカップも出たいですけど、サントリーで長くやりたいです。僕は社員なので、プロになって移籍しない限り、サントリーから「引退してください」って言われたら僕のラグビー人生が終わっちゃうんですよ。そう考えると、あっという間に終わってしまうのは寂しいですし、ラグビーが無くなった時にどうなってしまうんだろうという不安がありますね。
――そんなラグビーの魅力は?
難しい質問しますね(笑)。1番から15番まで違う役目があって、色んな体型の人が出来て、足が遅くても出来るポジションがあって、尚且つ体が小さい人でも大きい人にタックルに行かなければいけないという理不尽なスポーツは無いですよね。それを30歳を越えた人も死ぬ気になって本気でやっているのはすごく魅力的だと思います。
――自分自身が目指すのも、そういう姿ですか?
そうですね。おじちゃんになっても本気でぶつかり合ってやり合いたいですね。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]