2020年6月29日
#701 中村 亮土 『世界一と言われる12番になりたい』
2019年のラグビーワールドカップでより成長した中村亮土選手。現在の心境、そして未来に向けての目標を聞いたロングインタビューの2回目です。(取材日:2020年6月上旬)
◆考え方と思考が大事
――中村選手が言う「メンタルを支える『考え方』」について詳しく教えてください
心・技・体ってあるじゃないですか。今のラグビーで僕は、逆三角形の下が心で、技の比重が大きいと思うんですよ。僕としては四角があって、その四角が考え方とか思考で、心・技・体が一体化する上で、全てにおいて考え方とか思考が大事になってくると思っています。
今のラグビーで、高いレベルになればなるほど、技術が勝負を左右するわけです。ただ、技術を活かすためには体力がなければいけませんし、その技術と体力を活かすためにはメンタルがしっかりしなければ、その2つは発揮されないんです。考え方や思考で周りをガチっと固めると、絶対に倒れないような心・技・体になると思っています。
心がブレないように、日頃の思考や考え方が大事で、「自信を持て」ではなく「自信をつける」ことが重要です。自信をつけるために技を磨く、技を活かすためには、その時の精神状態と体力が重要。そういう考え方を持って、現代のスポーツを見ています。
――ワールドカップが終わった直後には、フィジカルが課題と言っていましたが、そことの繋がりはどう考えていますか?
ワールドカップの南アフリカ戦では、フィジカルが圧倒的な差だったんですよ。だから持っている技術も通用しなかったんです。メンタルや考え方はしっかりとしていたんですが、一定の戦える差までにならなければ、日本人が持っているスキルとかテクニックが活かせないんです。そこを使わせてもらえないくらいのフィジカルの差でした。フィジカルを高めることで、僕らの持ち味とか、テクニック、スキルを活かせるようになって、もっと良くなっていくんじゃないかなという考え方です。
――日本代表の練習が、更にハードになりそうですね
フィジカルと言っても、種類がたくさんあります。怪我をしにくいとか、スピードとか、腕力、パワー、フィットネスと、たくさんあった上で、さらに個人のフィジカルもあるし、チームが一体となったフィジカル、例えばスクラムとかモールなどの何人かが結集して力関係が生まれるようなものなどの要素もあります。1対1での状況やパワーは、トータルで考えたら、それほど大きな差はないと思うんですよ。ただ、それを集結した時に、南アフリカはプラスアルファの力というか、付加価値が大きくて、掛け算みたいになっていました。そこでやられた部分はあったのかなと思います。
――どう掛け算を作るか、ということですか?
そうだと思います。もちろん個人としてレベルアップすることも必要だと思いますが、試合の中で活かせるパワーをつけなければいけないと思います。人によっては「体力の差を上回るくらいスキルを伸ばせ」と言う人もいれば、「フィットネスがものを言う」と言う人もいて、それぞれの考え方があると思うんですが、僕は今の現代スポーツを見ていると、先ほど伝えたようなことが大事だと思っていて、追い越せとまでは言わないですけど、コンタクトスポーツに関してはある程度戦えるレベルに達してないと、スキルが発揮できないと思っています。
――それをどうサンゴリアスに活かそうと思っているんですか?
いやー、どうですかね。正直、サンゴリアスにいる選手って、自分の考え方ややり方があって、いちプロフェッショナルな選手として確立されているメンバーだと思います。監督でもコーチでもない立ち位置の僕が、いち考え方を提言することは変な感じもしますし、逆に僕が違う選手から言われたら違和感があると思います。そこは自分の考え方や価値観の問題なので、サンゴリアスに対してどうするとかは無いですね。
――先ほどの心・技・体での考え方の話は、サンゴリアスの日本人選手にも有効な話だと思います
考え方や思考は、やっていった方が良いかもしれないですね。「こういう時はどういう考え方でいるべきか」とか。けれど、どうですかね。僕って、自分の立場じゃないことをやりたくないというか、しゃしゃり出たくないというか(笑)。なので、チームやチームメイトから求められたら伝えますけど、自分からは言わないですね。
――将来、指導する立場になった時に活用するということですね
そう、そうです。
◆タックルが起きる前の動き方
――今の目標は?
長期目標としては、コーチングで成功したいというのがありますね。ラグビー選手としては、目標におくのは、やはり2023年のワールドカップです。あと、トップリーグでは絶対に優勝したいですね。神戸製鋼に勝って優勝したいです。
――2023年にはどんな選手になっているとイメージしますか?
世界一と言われる12番ですね。評価する人の5割以上が、世界一は僕と言えば、それは世界一だと思うので、そういう選手になりたいですね。
――そのための今の課題は何だと思いますか?
ボールを持っている時の突破力であったり、ボールキャリアーとしてのスキルかなと思います。世界の12番の中では、そこが後れを取っている部分かなと思っています。
――2019年ワールドカップでは、中村選手と言えばディフェンスというイメージが出来たと思いますが、それはどう自分のものにしたんですか?
接点が起こる前の考え方、仕掛け方、予測の仕方を、自分のプレーを見て考えて、深くレビューして、ということを繰り返しながらやったおかげで、そうなれたのかなと思います。タックルという点だけで見れば、もともとタックルの強さは身についていたと思います。その強さを10回のタックルのうち1回しか出せなかったり、ちゃんと力が伝わるようなタックルが出来ていなかったので、それを出すためにどうすれば良いかを考えて、タックルが起きる前の動き方などを勉強しました。
◆脚が大事
――強いタックルのコツは?
正面からぶつかった時は、身体の大きい選手にも当たり負けていなかったと思っています。そこは身体の使い方とかタイミングで、あとはタックルのスキルもたくさんあるんです。タックルで大事なのって、腕とか肩じゃなくて、脚なんですよ。脚をどれだけ活かせるか、脚がどれだけ死なないかがすごく大事になってきます。そこに気づいて、じゃあどういう脚の運び方をすれば良いか、その脚の運び方をするためには、その前にどういう準備をしたら良いか、どうやってそのポジションに相手を持ってくるか、そういうことを考えていました。
――なぜ脚が大事だと気付いたんですか?
身体が進む方向とか力が伝わる方向って、地面から脚に伝わって、そこから身体が動くので、全てはそこなんですよ。そこに気づいたのが、ヤスさん(長友泰憲/広報兼採用)が現役の時で、一緒に練習している時に気づいたんです。2017-2018シーズンとかですかね。その前から脚が大事なことは何となく分かっていたんですが、ちゃんとディフェンスにフォーカスしてやったのが、その時からでしたね。
――ディフェンスはかなり自信を持っていますか?
そうですね。タックルだけじゃなく、全体を見てディフェンスのコントロールの仕方とか、ディフェンス全体を見た時のいちセンターとしての役割は、他の選手よりも働けるし、動けると思っています。アタックでもボールを持っていない時の動き、チームを上手く機能させられるという点では、負けない自信があります。
今までは自分がボールを持った時の優先順位として、一番目がパス、二番目がボールキャリーだったところを、その時のバランスを見ながら、優先順位を場面ごとに変えてもいいのかなと思っています。
――ロングインタビュー、ありがとうございました
いや、この時期は喋ることないですよ(笑)。まとまりのない考え方とかを喋っただけです。色々な経験をして、5年後とかにこのインタビューを読み返した時に、「まだこんなことを考えてたのか」と思いたいですね(笑)。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]