2020年6月26日
#700 中村 亮土 『日本人でももっと出来る』
2019年のラグビーワールドカップでより成長した中村亮土選手。現在の心境、そして未来に向けての目標を聞きました。ロングインタビューとなりましたので2回にわたってお届けします。(取材日:2020年6月上旬)
◆我慢
――緊急事態宣言中は、どう過ごしていましたか?
僕の人生の中でもいちばん大きい怪我をして、ちょうどそのリハビリのタイミングだったので、ちゃんと向き合う時間が取れました。あと、ずっと家にいることがなかったので、初めてちゃんと子どもの面倒を見たり、一緒に過ごす時間がありましたね。
――自分にとって、そういう時間はどうでしたか?
新鮮でもあり、でもやっぱりストレスはありましたね。自粛生活はみんなストレスがあったと思いますけど、ラグビー出来ないストレスであったり、僕もストレスを感じていましたね。ふだんの休みの日には、趣味に時間を使ったり、何もなくても外に出て気分転換したりしていたんですが、それが毎日家にいる生活になったので、だいぶストレスがありました。
――そのストレスはどう乗り越えましたか?
もう我慢しかないですね(笑)。これは自分だけじゃなく、みんな同じ状況だから、簡単に言うと仕方ないですよね。だから、我慢するしかないという感じですね。
――怪我は教訓になりましたか?
もっとラグビーに対して身体が慣れていくまで、時間をかけて準備をしないとキツい部分はありますね。リハビリ中、あまりラグビーに関わらない状態で、試合に出る週も走る距離やコンタクトの量とか、制限された状態で練習していました。正直、ラグビー勘とか、あまり練習が出来ていない状態だったので、ここ最近ではいちばん不安な状態で試合をやっていましたね。
――リーグ戦が中止になる前はどんな気持ちでしたか?
最初の頃は早く怪我を治そうという気持ちでしたね。中止が決まる前は、5月のプレーオフには戻れるようにスケジューリングでやっていこうというタイミングでした。中止が決まってからは、本当に残念な気持ちでしたね。ここからチームがもっと強くなっていくと感じていたので、それを見ることができないのは残念だと思いました。
――現在の怪我の状態はどうですか?
まだ100%じゃないですけど、治ってきています。変な話ですけど、焦らなくて済む期間になったので、そこだけにフォーカスして治せる期間になっています。
――今の復活の目標は?
秋の日本代表期間くらいには治せていると思います。
◆普通の人に近い僕が伝えるメッセージ
――これからはプロ選手として活動していくということですが、プロになった理由は?
僕としては社員選手としての在り方に魅力を感じていたので、今までプロにならなかったんですが、ワールドカップが終わって、今までラグビーをやってきて、これまでの経験してきたことを伝えることの方が、子どもたちとか、これからのラグビー選手、スポーツ選手にとって、有益なんじゃないかと思ったんです。僕しか感じていないことであったり、僕しか経験していないことの方に、より有益なものがあるんじゃないのかなと思いました。そのことを考えた時に、コーチングをしたいという結論に至ったんです。
僕にはそんな特殊能力はないですし、「ザ・日本人」みたいな選手だと思っています。2019年の日本代表で言うと、そんなに身体が大きくない、速くもない、そういう日本人はあまりいないと思うんですよ。やっぱり特殊能力を持って日本代表に選ばれている人が多い中で、普通の人に近い僕が伝えるメッセージは、他のメンバーよりも伝わりやすいんじゃないかなと思うんです。考え方とか、やり方次第でという夢を、感じてもらえる選手なんじゃないのかなと、客観的に思っています。
――それは2019年ワールドカップでの経験が更なる自信になったということですか?
それもあるんですが、そこでの実績がない限り、次のステップはないと思うんですよ。だから、ワールドカップで5試合に出場したということは、ラグビー選手としての実績だと思います。その実績を得たことで、伝わり方が違うのかなと思います。
――ラグビーを通じて、人に何かを伝える、繋げるという想いが強くなった?
そうですね。ずっと僕が思っていたことなんですが、外国人選手に負けたくないんですよ。日本人の誇りというか、日本人でも出来るところを見せたいですし、そういう人材をたくさん育てたいという想いがあります。対抗心じゃないですけど(笑)、そういう想いがずっとあって、普通の人でも勝てるようになるということを伝えたいなと。
◆マインドセットが大事
――日本代表には、外国人選手であったり、国籍は日本人だけど外国出身選手がいたりしましたが、チーム内でのライバル心もあったんですか?
というよりは、評価のされ方ですかね。その選手に対してというよりかは、その上にいるトップの人たちに対してのメッセージですかね。例えば、海外でバリバリやっていた超有名選手が来たとして、日本人選手がその選手と同じ能力を持っていたとしても、外国人選手の方を選ぶじゃないですか。そのイメージを払拭したいというか、日本人でも、という想いがあるんですよ。「日本人でももっと出来るんだよ」ということを伝えたいですね。
日本人って、名前負けしたり、他の選手を上に見すぎたりするところがあるんですけど、意識を変えるだけで、その後の取り組み方とか本気度って、変わってくると思うんですよ。そこに関しては、他の選手に比べたら僕の場合は伝わりやすいんじゃないかなと思います。
――コーチングという意味では、どう伝えていこうと思っていますか?
世代とかジャンルにもよると思います。いま僕が話したようなことは、どのカテゴリーでも伝わると思うんですけど、トップリーグの中でも引け目を感じている選手もいますし、中学校や高校では「まだラグビー経験が少ないから」と差を感じている人がいると思うので、どのカテゴリーでも言えることだと思います。いま言ったことはメンタル、マインドの部分ですが、それに戦術や戦略という部分でも、もっともっと勉強して教えられるようになっていきたいと思っています。
――大きなこととしては、マインドを伝えるということですね
そうですね。どういう気持ちを持って、どういうマインドセットで、ということが大事になってくると思います。
――マインドセットの部分では、それぞれのカテゴリーで共通することってあるんですか?
正直、まだ僕の中でまとまっていないんですよ。どういう順序で伝えるべきなのかとか、どういうタイミングで教えるべきなのかとか、そこら辺がまだ固まっていないので、ちゃんとした答えは持っていない状態です。ただ、僕の中でまだ言語化できていない経験や気持ちとかはあるんですよ。そこをこれからラグビーをやりながら、ちゃんと言語化できるような、ちゃんと理にかなって納得できるようなものを自分の中に持って、やっていけるようにしていきたいと思います。今は時間があるので、感じたことであったり伝えたいことを、ざっくりと書き留めているんですが、まだまとまらないですね。そこは、まだ現役の間は、綺麗にまとめる必要もないのかなとも思っています。
◆負けたくないというエネルギー
――自分自身を振り返って、外国人選手と対等、もしくはそれ以上に出来たのは、なぜだと思いますか?
それは簡単ですよ。根底に、僕よりも優れている人や僕よりも評価されている人に負けたくないという気持ちがあったので、負けたくないというだけのエネルギーでしたね。そこで難しいのが、そう思えない子どもたちってたくさんいるじゃないですか。そこで終わってしまう子や、その状態を鵜呑みにしてしまう子とか。そういう子どもたちにどうやって自信を持たせて、レベルアップさせていけるかが難しいところかなと思います。僕が人よりも優れているのって、そこだけだと思うんですよ。そこを持っていない子どもたちに対して、どうアプローチするのかが難しいところかなと。
――気持ちの部分が人よりも優れていることについて、何がその要素になっていると思いますか?
もちろん良い環境でラグビーをやらせてもらっているので、考え方とかやり方とか、色々なことを学ぶという意味では、環境が育ててくれたと思います。ただ、メンタルに関しては、僕がもともと持っていたものかなと思いますけどね。メンタルを支えるものって、大きく考えると、「考え方」ということもあると思います。考え方次第でメンタルも変わってくると思います。考え方というものは、僕が育ってきた環境の中で培ったものだと思うので、一概にメンタルは生まれ持ったものとは言えないですよね。
(つづく)
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]