2020年6月19日
#698 垣永 真之介 『今日をどう生きるか』
タイトルだけ見ると禅問答のようですが、人間の強さだけでなく弱さも隠すことなく語る垣永真之介選手。トップリーグカップ2019でのキャプテンの経験により、新たな一面が引き出されたのかもしれません。(取材日:2020年5月中旬)
◆マスクしてロードワーク
――今はどんなことをして過ごしていますか?
仕事はリモートで行っていて、トレーニングは出来る限りのことをやっています。あと家族一緒にこれだけ長い時間を過ごすことがなかったので、そういう幸せを実感しながら過ごしています。この期間に何もしない人と何かをした人では、必ず差は開くので、いかに突き進めるかだと思います。
――出来る限りのトレーニングとは、どんなことをしているんですか?
僕は走ることがめちゃくちゃ嫌いなんですけど、マスクをしてロードワークをしています。あとはクラブハウスから器具を借りてきたので、ベランダで出来る筋力トレーニングをしています。
――お子さんと一緒にやったりもしますか?
ベランダにいることはありますが、一緒にはやっていないです(笑)。
――外を走ることはあまり人に会わない時間帯にやっているんですか?
そうですね。朝走っています。本当に「何年振りに公道を走ったんだろう?」っていう感じで、たぶん中学生以来だったんですけれど、まずは4kmから始めて、今は6.5kmですね。継続できるくらいの距離を走っています。
――少しずつ伸ばしているんですか?
伸ばしていきたいですね。ただ地面がアスファルトということと体重があるので、これで故障してしまったらいけないですからね。
――仕事もトレーニングも家で行うというのはどんな感じですか?
どうですかね。あまり特別な意識はないですね。なんか家に居られて楽しいなくらいですかね(笑)。
――ポジティブに捉えているんですね
そうですね。僕としては不快とか不満は感じていません。
◆一喜一憂する日々
――グラウンドでの練習が終わった後の表情などを見ていて、迷いがないような感じを受けていましたが、自分ではどんなことを意識してましたか?
僕ですか?いやー、毎日が戦いですよ。ちゃんとその日にやれているかとか、まぁ積み重ねですよね。昨年はまだ代表を狙える状況でしたし、チームで試合に出て優勝という目標もありましたが、個人としてはあまり思うような結果が出なくて、日々戦いで、一喜一憂する日々を過ごしていました。
――戦いがちゃんと出来ているかどうかは、どこでわかるんですか?
ラグビーって分かりやすくて、相手に勝ったか負けたかじゃないですか。やっぱりそこですね。
――例えば、スクラムは1人でやるわけではないですが、そこでの勝った負けたは?
もちろん8人で組むことが前提ですけど、強い選手だったら1人でもある程度は戦えると思うんですよ。それくらいの選手にならなければ、サントリーで試合に出ることは難しくて、そういう選手でなければ出られないと思います。
――その中で、今日は負けた、今日は勝ったということがあるわけですね
自分自身、少し焦っていたこともあって、毎日毎日そういう感覚がありました。結果をすごく追い求めていたというか、いま振り返ると、そういう毎日だったと思います。
――焦っていたのはなぜですか?
試合に出て活躍することが、いちばんじゃないですか。そこで初めて色々な結果にも繋がります。ただ、試合に出られないからといって、オフフィールドでしっかりした姿を見せなければ、うちのアイデンティティーを持てないですし、チームマンじゃないので、そういうカッコ悪いことはしたくはありませんでした。そういう戦いと葛藤があり、チームのことも大好きですし、色々な感情が入り交ざったシーズンだったと思います。
◆自分のパワーアップに繋げたい
――どちらかと言うと、勝てなかった日が多かったという感じですか?
個人的にはそうですね。チームにとっては開幕戦と第3節で負けましたけど、かなり調子は良くなっていて、これからという時に中止になってしまいましたが、良い方向に向かっていたと思います。
――課題としてはどんなことがありましたか?
スクラムとかフィールドプレーとかですかね。自分の描くレベルに達しなかったですし、求められるレベルにも達しなかったと思っています。
――そのレベルに達することが出来れば先発ですね
達した人が試合に出て、達しない人が試合に出られないということです。2020シーズンに関しては、達することが出来なかったかなと思います。
――スクラムやフィールドプレーをどう強化していくんですか?
それは各コーチからのフィードバックもありますし、それを参考にしながら、今は自分の時間がたくさんあるので、それを活かして自分のパワーアップに繋げたいと思っています。
――それはパワーやスキルなどですか?
色々な要因はあると思うんですが、スクラムで言えば体の柔軟性や、いかにパワーを発揮できるかなど、そういうところに結び付けて準備していきたいと思っています。
◆チームをより好きになりました
――トップリーグカップ2019はキャプテンとして戦いましたが、そういう役割は自分に何かを残しましたか?
すごく良い経験が出来たと思っています。チームをより好きになりましたし、今までは若手で個人の結果にコミットすればいいという感覚でしたが、色々な経験をしてきたからこそサポートしなければいけないこともありますし、色々とチームのために出来ることもありますし、そういうことに気づけた期間だったと思います。
――そういう部分での喜びはどんなものがありましたか?
チームが勝っていく姿を見ると、違った感情で嬉しいですし、承認欲求というか必要とされることは人間の中でかなりの喜びを占めると思うんですが、そういう部分がありましたね。
――キャプテンとしてチーム全体を見た時に、実際に自分がプレーする上で必要なことも見えてきましたか?
そういう感覚にはあまりなれなかったですね。自分がキャプテンだったと改めて考えると、僕は勝てるキャプテンではなかったかなと思います。
――それはなぜですか?
理由を説明するのは難しいですが、流(大)を見ていると、大変なキャプテンシーがありますし...。
――垣永選手がサンゴリアスに入ってからのキャプテンは?
僕が経験しているのは、真壁さん(伸弥)と流ですね。
――垣永キャプテンは、その2人のキャプテンとはまた違った感じがします
どちらかと言えば、真壁さん寄りですかね。僕が出来ることなんてたかが知れているので、みんながいたからこそ役割を全う出来たと思っています。
――2人のキャプテンは、どちらも2連覇しましたね
そうですね。いま、ラグビー自体の時代が変わってきていると思っています。説明するのが難しいんですけれど、チームが一体になることは、もちろん大事ですが、そこだけでは勝てなくなっていると思います。勝てる組織に出来るかどうかだと思います。流のキャプテンは、そこに長けていると思っています。
――勝てる組織とは?
帝京大学などで連覇してきた感覚だと思うんですけど、そういう経験のある選手だと思います。
――自分と比較して、流選手のキャプテンとしての力があるところはどこだと思いますか?
難しいですね(笑)。彼の人徳もあると思います。やっぱりキャプテンって、なりたい人がなるものじゃないですからね。考えたことがなかったので、答えるのが難しいですね。
◆代表以上の価値
――これからどういう選手になっていきたいとイメージしていますか?
選手としてはパフォーマンスがいちばんだと思います。東芝との練習試合が大志さん(村田)の復帰戦だったんですが、やっぱり大志さんが試合に出ると安心するというか、周りをそういう感覚にさせるプレーヤーってすごいなって思いました。一緒に出た選手も、試合を見ていた選手もそう感じたと思います。どうすればその領域に達することが出来るか分かりませんが、この後どれくらいあるか分からないキャリアの中で、その領域に達することが出来れば、僕の中では代表以上の価値があるんじゃないかなと思っています。
――具体的に、どういう感覚を感じたんですか?
普段の姿勢もあると思うんですよ。練習中の態度、試合での態度とか、発する言葉とか、大志さんは10年目になると思うんですが、これまでやってきた1日1日の積み重ねの成果だと思います。なので、今日からなろうと思ってもなれるものではないと思うんですよ。もちろんパフォーマンスもそうですけど、常にチームをサポートする態度というか、個よりもチームなんですけど、しっかりとパフォーマンスも出すというところですかね。そういう選手って本当に大事だと思うんですよ。
これから新リーグに向けてプロ選手も増えていくと思うんですが、より個にコミットするかもしれないですし、より個のパフォーマンスが重要とされる時代になるかもしれないじゃないですか。その中でチームのことをよく見て、常にチームのことを考え、チームのことを最優先で動けて、それがプレーにも出る選手って、サンゴリアスのカルチャーを作っていますし、引き継がれるべき文化だと思います。
――プレーだけじゃなく発する言葉からも、そう感じるわけですか?
もちろん、それもあります。具体的には言えないですけどね(笑)。
――次のシーズンでは、その領域に行こうと思っているわけですね?
そう簡単には達することは出来ないと思うので、1日1日の積み重ねをしっかりとして、そこでしっかりと結果を出していくことかなと。やっぱり日本代表にもなりたいですし、チームでも試合に出て優勝したいですし、そこにコミットしながらも、そういう姿を見せていけるようになれたらいいなと思います。
◆二歩進んで一歩下がる
――新リーグについてはどう考えていますか?
すごく良いことだと思います。僕がサントリーに入った時にはそういう感覚はなかったですし、ずっとこういう体制かなと思っていましたが、2015年ワールドカップをきっかけに、どんどんラグビー界も変わっていって、良い方向に進んでいると思います。その結果、どうなるかは分かりませんが、それをきっかけにまたどんどん進んでいけばいいと思いますし、これからラグビーが日本にとって大事なものになっていくような気がします。
――プロ選手という選択肢もありますか?
僕は全く考えていないですね。今後のラグビー界の状況によって、その時その時で考えればいいかなと思います。僕は今が良ければそれで良いという感じなので。
――1日1日戦い、毎日頑張るために大事なことは何だと思いますか?
僕も出来ていないんですよ(笑)。毎日毎日、一喜一憂している時点でダメだと思うんですよ。良い時も悪い時も安定して上に上がり続けることが大事だと思うので、この日は良いけど、この日はダメというのが良くないと思うんです。二歩進んで一歩下がるとか、良い日が増えていけばいいと思いますが、まだそういう感じでもないですからね。
――いま考えている、1日1日を精一杯やるために気をつけていることはありますか?
以前チームにいたカープス(デレック・カーペンター)が、サンゴリアスを去る最後のシーズンの最後の練習の前に「これが俺の最後のテストマッチだ」って言って練習に入っていったんですよ、っていう話を聞いたんですけど(笑)、やっぱりそういうところかなと思います。いまコロナウイルスが流行っていて、いつそういう状況になるか分からないじゃないですか。ラグビーがどうなるか分からないですし、人生がどうなるか分からないので、「明日のために今日は」とかじゃなくて、「今日をどう生きるか」という気持ちでやっていかないと、サンゴリアスで試合に出ることはすごいことなので、命を懸けて取り組まなければ出るものも出ないと思いましたね。
――今は出来ていますか?
やっぱり妥協する日もありますね(笑)。それも一喜一憂なので、自分のせいだと思って、また明日何とかしようと、1日1日を必死に生きている感じです。本当に戦いの日々です。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]