2020年6月 8日
#696 西川 征克 『精神的な部分と理論的な部分の割合をコントロールする』
自ら意識しているという"最年長"社員選手となった西川征克選手。緊急事態宣言の真っ只中に行ったインタビューは、オフの雰囲気が漂いながらも、ラグビーに対しての地に足のついた考え方が、次々に出てくると感じるインタビューになりました。(取材日:2020年5月上旬)
◆休める時には休む
――今は毎日どんなことをしていますか?
今はとりあえず仕事をしています。仕事もリモートなので家にこもってやっています。今まではラグビーをしながらで限られた時間の中で仕事をしていましたが、今は以前よりも時間に制約がないので、仕事の面では良い部分もあります。
――仕事内容は営業ですよね?
営業ではあるんですが、今は担当店を持っていないので、内勤に近い仕事をしています。
――身体は動かしていますか?
とりあえず身体は休めています(笑)。まだあまり動かしてはいません。今後のスケジュールなどある程度決まらないと心の準備も出来ないので、オンオフを使い分けて、休める時には休むようにしています。今後の政府の発表などによってチームの活動も決まってくると思うので、それ次第ですね。全く動いていないわけではありませんが、まだ頑張りすぎないで、チームの始動時期などが決まってからかなと思います。
――それはこれまで経験したことをもとにしているんですか?
そうですね。目的無く、あのキツいトレーニングは出来ないですからね(笑)。
――通常のオフの場合は、どれくらい休むものですか?
いつもだと1ヶ月半くらいは休んでいると思います。それと比べても、いま休んでいる期間が長いわけではないので、いつも通りと言えばいつも通りという感じですね。ただ、身体を動かしたいと思ってもクラブハウスにも行けないので、辛いところですね。
◆初レッド
――2020シーズンを振り返ると、開幕戦でチーム初トライが西川選手で、幸先の良い出だしかと思いましたが、その後すぐにレッドカードを受けました。どんな開幕戦でしたか?
開幕戦に対する準備はしていたんですが、ああいうことを起こしてしまいました。やってしまったことは変えられないので、自分の中で切り替えなければいけないと思いましたし、開幕戦で負けてしまいチームに対しても申し訳ない気持ちでした。3試合の出場停止となり、その期間にチームがしっかりと準備して試合に臨めるように、と考えて取り組もうと思いました。
――自分自身というよりもチーム全体が、ということですか?
そうですね。自分が試合に出られる出られないということは個人的な問題ですし、チームが開幕戦で負けてしまっていたので、チームに対して出来ることをやろうと思って取り組んだ3週間でしたね。
――やはりあのような結果になったことはショックでしたか?
初めてレッドカードをもらいましたからね。心の中では引きずることもありましたが、そこから出来ることをやろうというだけですかね。
――佇まいから落ち込んでいる感じは伝わってきました
そうでしょうね。内面がそうだったんで、出ていたかもしれないですね。
◆限られた中で100にする
――いつも感じますが、考え方がポジティブですよね
いや、心はネガティブですよ。それは外には出しませんし、このチームでやってきているので、ポジティブにならざるを得なかったのかもしれないですね。
――それは意識してやっているんですか?
意識の中で言うと、これまで経験してきて、1日1日でベストを尽くせる状態を作るということですかね。サントリーで10年やってきて、自分がコントロール出来る範囲を超えてしまうと自分自身が潰れてしまうということが分かったので、そこに至らないようにしていかなければいけないと思っています。若い頃は耐えられましたが、今だと心も身体もどちらも潰れしまうと思うので、コントロール出来るところはコントロールして、限られた中で100に近い状態にすることを意識しています。
――コントロール出来ないことに対して、それを断ち切るコツのようなものはあるんですか?
なんですかね。コントロール出来ることと出来ないことを、仕分けるような感じに近いかもしれないですね。
――村田選手も話していましたが、それが若い頃には出来なかったと言っていました。キャリアを積むことで分かることなんですかね
そうですね。時代にもよると思いますけど、精神的な部分と理論的な部分の割合のコントロールが、自分のバランスを保つためには必要になってくると思います。自分のバランスとレベルアップは、どっちかが崩れてはいけないんです。言葉で伝えるのが難しいんですが、そこをコントロールするんです。
――そこはコーチや先輩から言葉で教えてもらうことが難しい部分ですね
僕らの1年目と、今の1年目の環境は絶対に違いますし、人によって持っている土台が違うので、自分で自分のことを考え作っていかなければいけないところがあると思います。
――そこに行きつくかどうかが、長くプレーを続けられるかどうかにも繋がっていくかもしれませんね
そうですね。やっていて分かってくる部分は、あると思います。
◆どんどん課題が明確になっていった
――2020シーズンが中止になる前には、チームが良い状態に上向いてきていたと思います。チームがまとまっていくような感覚はありましたか?
全員が合流したのが遅かったので、そこからどんどん課題が明確になっていったことは良かったと思います。
――中止になったことについてはどうですか?
残念な部分と仕方ない部分がありますよね。仕方ないの方が大きいですかね。言ってしまえばコントロール出来ない部分だったので、仕方ないと思っています。
――"絶対悲観主義"という言葉があり、物事が自分の思い通りいくという期待を出来る限り持たないようにする、「上手くいかないだろうな。でもちょっとやってみるか」と構えておくという考え方なんですが、その言葉を聞いて西川選手を思い出しました。そういう傾向はありますか?
あるかもしれないですね。僕らは監督を選べないので、それに順応することも大事だと思っています。そういう部分では、コントロール出来ないことに対してコントロールしようとしても無駄なことであって、その限られた中で自分が出来ることを探すことが、大事になってくるのかなと思っています。
◆チームにどう溶け込み、チームにどう還元できるか
――10年目のシーズンが終え、11年目のシーズンに入っていきますが、歳を重ねるごとに良くなっていて、まだまだ先は長いという感じでしょうか?
要領は良くなったかもしれないですね(笑)。2020シーズンで同期の大島(佐利)が引退して、社員選手では僕が最年長になるんです。そこは考えていかなければいけないと思っています。最年長としてどうあるべきか。その中で自分が出来ることと出来ないことの選択をして、それをチームにどう還元するかということを考えていかなければいけないと思っています。
――どうあるべきだと考えていますか?
最年長として相応しい姿。態度などがいちばん上だから偉そうとか、そういうことではなくて、チームにどう溶け込み、チームにどう還元できるかを考えていかなければいけないと思います。具体的なものは、まだ正直分からないです。
――先頭に立ち引っ張るということではなく、後ろから全体を見てみんなを支えるというイメージでしょうか?
そうですね。そっちに近いのかなと思います。
――そういうこともある種のリーダーシップだと思いますが、リーダーシップについて考え始めたのは最近ですか?
意識はしていないですけど、取捨選択ですかね。自分が引っ張っていくのは無理だというところから始まって、出来ないことを削っていって、残ったものが自分に合っていることかなと。チームという組織の中での役割を、考えなければいけないと思います。
◆オフなので欲がない
――新シーズンに向けて楽しみにしていることはありますか?
まだ身体も動かしていないですからね(笑)。まだ分からないですけど、コロナなどの状況が収束し、無事に開幕が迎えられたら良いなというところですかね。
――プレーヤーとしては、自分自身にどういうことを期待していますか?
今はオフなので、その欲がないですね。やってみて「ここがダメ、ここが良い」ということが分かるので、そういうところを見てからですかね。
――それは毎年、そうやってきたんですか?
そうですね。大学の時はアタックしかしていませんでしたが、社会人になってアタックが通用しないと分かり、「じゃあ何をしなければいけないのか」と考えました。そこでディフェンスを意識するようになりましたし、やっていく中で「ディフェンスのここが出来ていないから伸ばそう」とか「ここが得意だから推していこう」とか、そういう感じで細かく砕いてやってきて、ベース自体は上がってきているので、そこからまた新たなものが見つけられたら良いなと思っています。
◆話せる部分では素を出している
――西川選手にインタビューをしていると、安心感や安定感を感じます。強い人なんじゃないかと思うんですが、どうと思いますか?
そう言ってもらえて有難いですが、正直、そういう意識はないですね。話せる部分では素を出しているからですかね(笑)。
――新型コロナウイルスなどで不安定な状況が続いていますが、そういう世の中に対して、またそういう状況で生活しているファンに向けてメッセージをお願いします
世の中に対しては僕が決められないので難しいですが、政府に対して色々な批判があって、おかしいなと感じる部分はあります。これだけ人がいるので、賛成する人、反対する人が出てくるのは当たり前で、それをコントロールすることは難しいことだと思います。僕は言われたことに対して従順な性格なので(笑)、決められたことに対してやっていくことが良いのかなと思います。
ラグビーも同じで、ひとつの方向に向かえば、それが正解なのかは分からないですけど、結果は出ると思うので、みんながしっかりと守って、早く自分がしたいことが出来る環境をみんなで作れたらいいなと思います。
――言い残したことはありますか?
身体がなまっています(笑)。
――お子さんは何歳になりましたか?
上が男の子で5歳、下が女の子で2歳になりました。上の子はラグビーが怖いって言っていてやらないですね(笑)。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]