2020年6月 5日
#695 辻 雄康 『大きいけれど動ける選手になる』
未完の大器という雰囲気を醸し出す辻雄康選手。新人の年に何を得て、そして2年目のシーズンに向けて何を目指しているのでしょうか?電話の向こうから聞こえてくる声は、元気に溢れていました。(取材日:2020年4月下旬)
◆ジョギングや坂道をダッシュ
――今はどんな毎日を過ごしていますか?
仕事とラグビーです。個人として成長できるように家でのトレーニングを行ったり、仕事でもしっかりとレベルアップしていきたいと思っているので、先輩方に色々と教えてもらっています。
――仕事はもうだいぶ覚えましたか?
だいぶ覚えました。まだ分からないこともあるんですが、少しずつレベルアップして、1年前よりは成長できていると思います。
――家でのトレーニングはどんなことをしているんですか?
人のいない時間に外を走ったり、家の中で筋力トレーニングを行ったりしています。あと自分に足りないスキルなどを、弟に手伝ってもらいながらトレーニングしています。
――弟は何歳ですか?
4つ離れているので、今年21歳です。大学生ですが、弟はラグビーはやっていません。
――どのくらい走っていますか?
ジョギングや坂道をダッシュしたりしているんですが、毎日6km以上、多い時で10km走っています。人とすれ違わないように、人がいない時間や夜などに走るようにしています。
◆自分で自分の足を引っ張ってしまっていた
――1シーズン目が終わりましたが、どんなシーズンでしたか?
サントリーのシステムや様々なことに対応できなくて、あまり良いスタートではなかったと思います。徐々に慣れてはいきましたが、その場で言われたことをすぐに出来るという対応力が無くて、自分で自分の足を引っ張ってしまっていたと思いますし、そういうところで影響が出てチームからの信頼を勝ち取れなかったシーズンだと思います。練習の中で自分のフィジカルレベルが分かり、自分の中で成長できたと思うフィジカルの部分は少し自信になりました。
――あまり良いスタートではなかったとは、具体的にどういうことですか?
馴染んでフィットするようになると頭よりも先に体が動くようになり、良いプレーに繋がっていくんですが、対応力がありませんでした。今でもミスはしたりしますが、最初の頃により多くのミスをしてしまい、そういったキャラクターだというイメージがついてしまったことが良くなかったと思っています。でも最初だけが原因ではなくて、対応力の無さが継続的にあって、そういうイメージがついたことは間違いありません。そんな中で最初の頃により多くのミスをしてしまっていたと思います。
――具体的には、どういったことへの対応力ですか?
新しいラインアウトのサインだったり、新しい練習メニューの入りだったりなどで、他のみんなは1回で分かるようなことを、僕は2回、3回と聞かなければいけなかったりして、周りに追いつけない部分がありました。みんなが高いレベルで練習をしていて、そのレベルに追いつかなければいけない中で、上手く出来なかったと思いました。
――苦労して身についたものの方が、ずっと忘れないんじゃないでしょうか
苦労して手にしたものは、試合などで勝手に体が動いて良いプレーに繋がることがあるとは思います。ただ、サントリーのラグビーでは、週が変わるごとにどんどん新しいことにチャレンジしていくので、毎回違うと言っても過言ではないと思います。それにフィットする自信があまり持てなくて慌ててしまう部分があり、自分に負けてしまった部分があったと思います。
――その課題を解決するためにはどうすればいいと考えていますか?
日々の予習と復習を他の人よりも多くやり、分からないことには分からないとはっきりと言う。その場で言われてすぐに練習がスタートする時もありますが、分からないまま練習に入らないようにすることが大事だと思います。高いレベルで練習をすることに焦ってしまっている自分がいて、周りの流れに合わせようとしてしまっていたので、そのレベルに追いつくために予習、復習をすることは当たり前で、それに加えて分からない状態で練習に入ることが絶対にないようにしていきたいと思います。
◆少しずつ信頼を勝ち取れるように
――フィジカルについては、どんな手応えがありましたか?
試合や練習でのフルコンタクトなどの激しい接点の場面で、信頼を勝ち取れるようになってきたと思いますし、外国人選手に対しても「自分がやってやるんだ」という気持ちでした。そういうメンタルが仲間にも伝わるように練習をしていたので、それが少しずつ結果として現れている部分があり、自分の中で自信になりました。
――プロフィールを見ると、身長190cm、体重113kgとなっていますね
シーズン中も体重はほぼ変わりませんでしたが、自分の中で大切にしている筋肉の部位である肩甲骨周りやお尻など、自分がフォーカスしていた箇所にしっかりと筋肉がついたので、そこは結果に繋がったと考えています。
――自分としてはどういうところが強みだと思っていますか?
大きいけれど動ける選手になるために努力をしています。
――そういう部分は社会人でも通用しそうですか?
まだ絶対的な自信にはなっていませんが、少しずつ実感できるようになってきました。接点のところで練習中に自分からコンタクト強度を上げて行けるように、やり合う時にしっかりとやり合って、そのタイミングをしっかりと選別して、そこでアピールをしていくということが自分の強みだと思っています。それに自分の足りないところを補っていって周りのレベルにしっかりと追いついて、少しずつ信頼を勝ち取れるようになっていきたいと思います。そして、チャンスをいただいた時にその成果がしっかりと出せるようにしていければと考えています。
◆自分に負けない
――前回のインタビューで、全体を見ることと無我夢中でやることのバランスが難しいと言っていましたが、それについては今はどうですか?
ラグビーは1人じゃなくチームでやることですし、その選別はしっかりとやるべきだと思っています。もちろん大学のレベルとは全然違いますし、独りよがりでやってはいけないと考えているので、チームメイトにしっかりと合わせることも必要だと考えています。ただ、周りに合わせることは必要だと思いますが、自分の野心であったり、そういう気持ちはしっかりと軸をブラさずにやっていきたいと考えています。
――座右の銘は今もNever Give Upですか?
もちろんそうです。僕はコンタクトが特に好きというわけではありませんが、そういう時に自分をしっかりと追い込めるようにという意味で、"自分に負けない"ということを日々やっているつもりです。
――ラグビー選手はコンタクトが好きな選手が多いと思いますが、そういうわけではないんですね
好きか嫌いかで聞かれたら、別に嫌いではないですが、「今すぐ体をぶつけたい」というタイプではないです(笑)。自分の役目をしっかりと全うしたいという気持ちが強いですし、そうやって勝った時の喜びの方が大きいので、そういう選択を日々しています。
――佇まいを見ていると他のスポーツでも良い選手になったと思うんですが、自分ではどう思いますか?
手先が器用ではないので、そういった部分でラグビーが合っていたということもあると思います。あまり結果を出せていないので言えないんですが、そう言っていただけることは有難いです。
◆メンタルでやり残したことがないように
――あまり結果が出せていないことに対する想いはどうですか?
結果が出ていなくてオフシーズンになったので、ここで成長して次のシーズンで見返したいという気持ちがあります。2020シーズンで勉強になったことであったり、練習を重ねるごとに自分の中で成長していた部分もあったと思います。サントリーは層が厚く、その壁を超えられるくらいの信頼は得られなかったので、次のシーズンでは「自分は変わったぞ」というところを見せたいと思います。いま家で出来ることはフィジカルレベルのアップであったり、次のシーズンへの準備です。試合の映像を見ることもそうですし、そういう準備ををしっかりとやり、良いスタートが切れるように頑張りたいと思っています。メンタルのところでやり残したことがないように頑張りたいです。
――1年目とは変わったというところを見せたいということですね
フィジカル的にも規律的にも、相手を気遣うということにしろ、色々な意味で社会人として「変わったぞ」ということをしっかりと見せていけたらなと思っています。
――ポジティブ思考ですか?それともネガティブ思考ですか?自分としてはどちらだと思いますか?
ポジティブな部分もありますし、ネガティブな部分もあるんですが、どちらかと言うとネガティブかなという感じです(笑)。変なところがポジティブだったりするので、よく「変わっているね」と言われます。
最終的には自分を信じているという部分はありますし、自分は自分にとって大切な存在ですし、自分を大切にしてあげたいという想いがあるので、最終的にはポジティブに考えていますが、自分の中で自分を追い込んでしまうところがあります。それには良い意味も悪い意味もあると思いますが、例えばミスをしてしまった時など、気持ちのアップダウンが激しくなってしまってコントロール出来なくなることは、ネガティブが悪い方向に働いているのかなと思います。
――そこはどう改善していこうと思っていますか?
そこに関しては、今までやってきたことをとにかくやり続けるという部分で、試合にしろ練習にしろ、今までやってきた努力が無駄にならないように、誠実に頑張っていければと思っています。
◆自分自身に価値を見出す
――辻選手からは、物事の意味を考え本物を掴みたいという姿勢が見えるのですが、どう意識して取り組んでいるんですか?
自分にとって必要かどうかは考えていますし、他人から言われたことが自分の意味になると思って1年間行動してみて分かったような気もしています。生活面やプレー面でもリスペクトという部分でもっと成長していきたいと思ったので、そういう面では1年目よりも成長できたと思いますし、もっと詰めていきたい部分があるので、フィールドでの甘えが出ないように頑張りたいです。
――辻選手にとっての本物とは何ですか?
自分にとって、自分自身に価値を見出すことかなと思っています。試合に出て活躍して、自分の努力や振る舞い、行動が間違いじゃなかったというように感じたいですね。
――次のシーズンの目標をお願いします
次のシーズンは、とにかく試合に出ることです。そして、試合で活躍してMVPを取ることです。出た試合でMVPを取ることが昨シーズンの目標だったので、その目標を継続させ、チャンスを掴み出た試合でMVPが取れるよう頑張っていきたいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]