SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2020年5月28日

#693 吉水 奈翁 『サンゴリアスはずっとラグビーの原点を目指している』

ニュージーランドの警察官から転職して6年、サンゴリアスの日々のハードワークをやり切った吉水奈翁通訳。例えばスピリッツ・オブ・サンゴリアスで言えば、通訳・吉水さんのスケジュールが取れない、あるいは急に変更になる...そんな事情で外国人選手のインタビューがなかなかできない状況も生まれた程の多忙さでした。勿論本人へのインタビューもなかなかできなかった訳ですが、今回、勇退を機に4年振りのインタビューとなりました。(取材日:2020年4月下旬)

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◆オールマイティー

――2020シーズンが終了しチームを離れることになりましたね

色々と成長できた部分があったんですが、そこから更に成長していきたいという想いがあったので、自分の中で色々と考えながら、次の道に進むことがまた新たなチャレンジになるのかなということで、チームを離れることを決めました。

――サンゴリアスに6年在籍し、2年目の時にインタビューしましたが、そこから更に4年を経た今思うことは?

毎年毎年、一生懸命やっていて、あっという間でした。監督やコーチなど、色々な人が入ってくると色々なやり方があるんだなと勉強になりました。チームって生き物みたいで、中では本当に色々なことが起こっていて、そこで上手くバチっとまとまった時には、チームとしてとても良い結果が出るということを感じることも出来ました。

――チームの中でどういう役割があったと自分自身を振り返って思いますか?

もちろんメッセージをしっかりと通訳して伝えるということが、メインの役割です。そしてどの部分にも入り込むので、たくさんの情報が入ってくるんですが、やっぱりチームの目的は「勝ちたい」というひとつだと思うので、そこに向けてどうバランスを取って、チームが上手く回るようにしていくのか。そこに自分の役割があったと思います。トランプで言えばジョーカーのように、オールマイティーとして色々な部分に入って、「こう伝えるのはどうかな」とか、「あのコーチはこういう意味で言っていたんじゃないかな」とか、考えながらやっていました。色々なことを伝えるので、チームのまとめ役というと少し偉そうに伝わってしまいますが、助言やアドバイスが出来るポジションだったのかなと思います。

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◆コミュニケーションとフォローアップ

――メッセージをしっかりと伝える方法、そのポイントは何でしょうか?

例えば、監督が誰かに伝えたいことや、他のコーチに伝えたいことなどがあった時に、ミーティングではそこで話したことを通訳しますが、その後に監督やコーチと更にコミュニケーションを取っている中で、「あのミーティングで言っていたことはこういう意味だったんだ」ともっと具体的に分かる時があります。それはミーティングの前にも、具体的に分かるケースもあります。

ミーティングで話したい意図が、前後の会話で細かく分かるんです。ミーティングだけではキツい内容に感じたことが、実はそういう意図ではなかったんだなと分かることがある訳です。ですから、そういうコミュニケーションを大事にしていました。言われたことだけを伝えることが仕事ではなくて、前後のコミュニケーションで気づいた意図を、別途伝えてあげたりとか、フォローアップすることを大事にしていました。

――自分からよく話す人と、あまり話さない人など、色々なタイプの人がいますよね

あまり話さない人に対しては、自分からアプローチして「こういう意図で言っていたんだよね?」と聞いたりすると、「そうだよ」とか「ちょっとそうじゃないな」とかリアクションがあるので、そこから更にコミュニケーションを取っていきます。また、ミーティングの中では一瞬一瞬で訳していかなければいけなくて、意図までは汲み取ることが難しかったりするので、後から「あれはどういう意図があったの?」と聞いたりして分かることがあります。そういうコミュニケーションが大事だと思います。

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――日本語を英語に訳したり、英語を日本語に訳したり、また日本人がいたり外国人がいたりという状況ですが、立ち位置としては、どこに自分を置いておくイメージなんですか?

常に真ん中にいなければいけないと思いながらやっていますね。立場としてはコーチやスタッフ側になるので、監督やコーチの思いを選手に伝える時には、監督などとしっかりとコミュニケーションを取って、選手に意図を伝えなければいけません。そして選手が監督やコーチに伝えたい時がある時は、「この選手は何を伝えたいのか」と選手に寄り添って、後でフォローアップするとこともあります。そう考えると真ん中にいるんだけれど、誰が何を伝えるかによって、どちらかに寄ることもあると思います。

――ただ訳すのではなく、当然ラグビーのことも分かっていなければ務まらないですよね

フォワードやバックスなど、ポジションによって細かな部分もあるので、自分もまだまだ学んでいるところです。英語が話せてもラグビーのことを分かっていないと、難しいかもしれないですね。

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◆「こう言えば良かった」と思い返す

――一番大変だと感じたことは何ですか?

外国人同士でディスカッションが行われる時って、日本人選手が置いてけぼりになりがちなので、しっかりとディスカッションの内容を聞いて、その内容を日本人選手に伝えます。それが難しかったりしますね。外国人選手がリーダーという立場になることが多くなると、外国人同士のディスカッションでバーっと話し始めてしまうことがあるので、ミーティングの時に話せない場合は、終わった後に日本人選手には「さっきはこういう内容で討論していたんだよ」と伝えたりします。それを伝えるだけで日本人選手の気持ちが全然変わってきます。

――試合中での難しさは?

ここ5、6年ではスタンドにいたり、2020シーズンはグラウンドでウォーターボーイをやったりしていたんですが、両方とも違う難しさがありました。スタンドにいる時には、監督などのメッセージをグラウンド脇にいるスタッフにしっかりと伝えなければいけないので、事前にどういうことを考えているのかとか、メンバー交代のタイミング、誰と誰を代えるのかなどをしっかりと頭に入れておかなければいけません。

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グラウンド脇にいたりウォーターボーイをやっている時は、みんなが熱くなっていますし、その中でスタンドからの指示が入ってくるので、スタンドからの指示をしっかりと選手に伝えなければいけません。ただ、選手同士で既に話をしている時があるので、みんなに伝えるのではなくて、リーダーだけに伝えたりします。選手がリードしている時に、僕が全員の前で話をしても全く効果がないと思うので、グラウンドでの空気を読んで伝えたりしますね。それは僕だけじゃなく、ウォーターボーイをやっている人は、そういうところに気を遣ってやっていると思います。

――ハーフタイムのロッカールームも大変そうですね

そうですね。2020シーズンからジェシー(樋野)が通訳としてチームに入ってくれたので、役割分担が出来ましたが、それまでは通訳は僕1人で、ハーフタイムには選手たちはフォワードとバックスの2つに分かれてしまうんです。行ったり来たりすると中途半端になるので、そういう時にはどちらかだけに入るようにして、フォワードに僕が入って、バックスは晃征(小野)にお願いをしたりしていました。ただ、みんな熱くなっていて、バーッと話し始めちゃうので、そこでしっかりと冷静にコーチたちのメッセージを誰に伝えるかと考えながらやっていました。

熱くなっていてこちらのメッセージが届かない時もあったりするので、僕からも「しっかりと話を聞こう」と話しかける時もあって、そういう場面でまとめるのは大変でしたね。晃征は英語も日本語も話せて、サントリーのカルチャーも理解していますし、彼から「僕がバックスに入りますよ」とか言ってくれていたので、本当に助かっていました。

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――逆に、通訳冥利に尽きると感じた時はどんな時でしたか?

試合に向けた1週間の中で、選手たちがしっかりとゲームプランを理解して、試合までにやるべきことがクリアになっていて、それで良い試合をした時は、ちゃんとメッセージが伝わって選手全員がゲームプランを遂行してくれたと感じますね。通訳として監督やコーチのメッセージをしっかりと伝えられて、良い試合をして勝つということが自分にとっては嬉しかったですね。

――通訳としてのスランプのようなものはあるんですか?

毎回毎回、勉強だと思っているので、ミーティングが終わった後に「こう言えば良かった」と思い返すことが多々あります。それを次に活かすようにしていました。

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◆小さいことでもみんなで意見を言う

――チームがまとまるということは、通訳と言う立場から見ていて、どういう時にどういうチームに訪れると思いますか?

色々なコーチ、スタッフの中でやってきましたが、やはりチームが上手くいかない時はスタッフ間でも上手くまとまっていないところがあって、そういう状況の時には選手にもしっかりと落とし込みが出来なかったりして、全部が繋がっていると思います。スタッフ間で戦術も含めて、自分たちがどういうラグビーをするのかということに対して、ディスカッションもなく100%納得していない状況になってしまうと、最終的に全員が同じ絵を見ることが出来ないと思います。小さいことでもみんなで話し合って意見を言うということが、大事だと思います。そういうことが出来ないと、本当は小さいことだったのに、それが大きくなってしまってまとめらなくなってしまうと思います。

――そういう状況を変えるためには何が大事になるんですか?

本当にみんなが腹を割って話し合って、どんなことでもしっかりとメッセージを伝えて共有していくことが大事だと思います。

――言い過ぎるくらいの方が良いですか?

ミーティングルームではお互いにガツガツ言い合った方が良いと思っているので、それが出来ないと本当のディスカッションが出来ず、良いものは出来ないと思っています。そういう環境を作ることも大事だと思いますし、コーチやスタッフ全員が納得して、「これだ」ってバチっとなる時ってあるんです。そういう時って自然と勝つんですよ。9位も2連覇も経験させてもらって、それが分かるようになりましたね。

――今のチームは、以前と比べてコーチ陣が多いですし、外国人が多くなっていますが、そういう状況に関係なく、バチっとなる時があるんですか?

人数とかは関係ないと思います。本当にみんながやりたい気持ちを持って、お互いにディスカッションして、全員が納得して同じ方向を向けば勝利に近づくと思っています。

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◆ラグビーの一番楽しい部分

――ラグビーって面白いと思ったところはどこですか?

サンゴリアスの素晴らしいところってたくさんあると思うんですが、その中でラグビーの一番良い部分をスタイルとしてやっているチームだと思っています。アグレッシブに攻め続けるラグビーって、原点というか、ラグビーの一番楽しい部分ってそこだと思うんですよ。エキサイティングなラグビーって、全員が走り回って攻め続けたり、ディフェンスでも体を当て続けるというラグビーで、それがサンゴリアスのラグビースタイルだと思います。それがチームの軸になっているので、やっている選手も楽しいと思いますし、それが出来た試合は見ていてもすごく楽しいと思います。サンゴリアスはずっとラグビーの原点を目指しているので、楽しいですよね。

――自分自身でも身体を動かすことが好きだと思いますが、通訳として身体よりも頭を使うことが多い中で、ストレスと感じることはありませんでしたか?

ラグビーに関われている時点で嬉しいですし、それだけでハッピーで、ほとんどストレスは無いですね。チームが良くなっていく姿を見るだけで嬉しいですよ。

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◆新たなチャレンジ

――以前のインタビューでスケートボードをやっていたと言っていましたが、今でもやったりするんですか?

たまにやっています。もう歳を取ってしまったので、大会とかに出る感じではないですけどね(笑)。

――スケートボードの面白さは何ですか?

元々はストリートでやっていて、今は色々なところでは出来なくなっていますが、昔は街の色々なところで出来て、ひとつの技を覚えるのにもたくさんの時間を使って毎日練習して、その技が出来た時の達成感は嬉しいですよね。

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――では、実際にやっているのはラグビーよりもスケートボードですか?

そうですね。ラグビーはもうほとんどプレーはしていないですね。

――この後はどんなことをやっていくんですか?

新型コロナウイルスの状況にもよりますが、通訳として新たなチャレンジをすることになります。自分の中でのひとつの夢へのチャレンジです。ニュージーランドの警察官を休職して日本に来て、漠然と考えながらも、サンゴリアスでの通訳をやって、いつかはやりたいという想いを持っていたことです。サンゴリアスでの6年間で多くのことを学ぶことが出来たので、ここで新たなチャレンジをするということにも意味があるんだと思っています。やるからには100%の全力を出してやりたいとワクワクしています。

――やりたいことができるということに対して、ご家族も喜んでくれたんじゃないですか?

そうですね。いつもサポートしてくれているので、みんな本当に喜んでくれました。両親もニュージーランドから日本に戻ってきていて、2人もとても喜んでくれました。

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◆サンゴリアスのサポーターとして応援

――サンゴリアスのメンバーに対してメッセージをお願いします

自分にとっても本当に成長できる環境で、周りにいる人たちが温かくて、サンゴリアスにはみんながひとつになるファミリー感があったので、本当にかけがえのない6年間になりました。皆さんに感謝しています。選手もスタッフも、周りのご家族の方たちとも色々な出会いがあって、この出会いを忘れないですし、今後も続いていくと思うので、サンゴリアスのサポーターとして応援していきたいと思います。サンゴリアスは絶対に優勝できると思うので、これからもみんなで応援していきます。

――ファンに向けてメッセージをお願いします

府中のグラウンドや遠方の試合にもいつも来てくれて、特にワールドカップの後は多くのファンの方が応援に来てくれたので、選手だけじゃなくスタッフにも、皆さんのサポートが届いていました。そういうファンの方がいないとエキサイティングなラグビーをやる意味がないと思うので、これからもサンゴリアスを応援してもらいたいと思っています。本当にいつも感謝しています。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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