2020年5月22日
#691 桶谷 宗汰 『開幕戦に出る』
3年前、新人としてトップリーグ開幕戦でデビューを果たした桶谷宗汰選手。その頃の勢いとは別の何かを、3シーズン目に得ることができたのでしょうか?新たなシーズンへ向けての意気込みを聞きました。(取材日:2020年4月下旬)
◆毎日毎日を必死でやる
――サンゴリアスでの3シーズン目はどんなシーズンでしたか?
みんなそうだと思うんですが、不完全燃焼なシーズンでした。第2節NTTコミュニケーションズ戦でリザーブから試合に出させてもらいましたが、開幕戦で負けているということもありましたし、開幕戦に出られなかったということもあり、何としてでも第2節にはメンバーに入りアピールしようと思っていました。結構いい準備が出来て試合に臨み、実際にパフォーマンスも良くて、みんなから「良かった」と言ってもらえたんですが、その試合で怪我をしてしまいました。そのリハビリをしていたら、シーズンが終わってしまったという感じです。
――怪我はもう大丈夫ですか?
もう治りました。最終的に第2節の時よりもコンディションが良くなっていて、「ここから挽回するぞ」と思っていたら、そこでシーズン終了となってしまいました。
――これまでの3シーズンの中で、結果的に1シーズン目がいちばん出場数が多かったですね
1シーズン目がいちばん試合に出ていましたし、年々試合に出られなくなっているというのは事実だと思います。今のところポジションが全く同じ後輩はいませんが、2020シーズンをもって大島さん(佐利)が引退されましたし、試合に出ているという結果がなければ自分のラグビー人生が急に終わってしまうということもあると思います。まだまだラグビーを続けていきたいので、歳を重ねるごとに、そういった恐怖のような感情が出てきますね。
――そういった状況にどう取り組んでいこうと思っていますか?
結局は、試合に出ることがそういった不安を解消することになると思います。試合に出るためには練習でアピールしなければいけませんし、練習でアピールするためには日々のトレーニングで、少しでもレベルアップしていけるように取り組んでいかなければいけないと思っているので、本当に目の前のちょっとしたことにも本気で取り組まなければいけないと思います。例えば、ウエイトトレーニングで1回でも多く上げるとか、全体練習が終わってみんながロッカーに戻っても、少しでも自主練をするとか、毎日毎日を必死でやるしかないと思っています。
◆ブレイクダウンでボールに絡める選手に
――課題は何だと思っていますか?
大学までは、自分の身体のサイズでもアジリティーなどを活かして、そこそこアタックは出来ていたんですが、トップリーグのレベルではそこが今まで通りにはいかなくなっていて、「自分はこれだ」と言える強みが無くなってきていることが、自分としての課題だと思います。先ほども言いましたが、試合に出るためには練習でアピールすることが必要だと思っていますが、「じゃあ、練習で何をアピールするんだ」と思うことがありましたし、そこで不安を感じ、「ラグビーをしていて自分は何をしたいんだ」と思うこともありました。
――深く悩んだと思いますが、何か答えのようなものは見つかりましたか?
大学までは自分の好きなプレーを頑張っていたら、それが通用したので強みにしていましたが、トップリーグに入ってアタックもあまり通用しないし、ディフェンスでもタックルのアベレージがそこまで良いわけでもない、そして身体もそんなに大きくないとなって、「じゃあ、自分は何が出来るのか」と考えましたし、あとは周りの環境も考えました。
そこで自分だったらと思ったことが、ブレイクダウンとディフェンスです。その部分に関しては、言い方が悪いですが、センスがなくても毎日の練習や自分の気持ちでどうにか出来ると思ったんです。もともとフィットネスは他の人よりもある方だと思っているので、毎回の練習でたくさん走って、たくさんタックルしてという意識で取り組みましたし、ブレイクダウンでも常に危機感を持って取り組むようにしました。
――学生時代に強みにしていた好きなプレーは何でしたか?
ボールを持つことが好きでしたね。大学までは良いアタックも出来ていましたし、ボールを持っている時がいちばん楽しく感じていました。フィットネスがあるからたくさんボールを持って、たくさんアタックするということを強みにしていました。
――将来的には、またそういったプレーもしたいと思っていますか?
今はディフェンスとブレイクダウンにこだわって、この先もやっていこうと思っています。ブレイクダウンのところは、コーチにジョージ・スミスがいて、本当にすごいプレーヤーでしたし、小澤さん(直輝)もシーズン中には何本も良いジャッカルを決めていました。日本人のように小さいフランカーでもブレイクダウンで戦えればチームに貢献できると感じたので、将来的にはブレイクダウンでボールに絡める選手になっていきたいと思っています。
◆ジャッカルはラグビー人生の財産
――スミス・コーチのコーチングはどうでしたか?
ジョージは主にディフェンスを見ていました。ジョージ自体もコーチをすることは初めてで慣れていない部分はあったと思いますが、個人的にブレイクダウンについて聞きに行ってみて、ジョージのジャッカルの教え方は本当に勉強になりました。毎日聞きに行っても一貫性を持って教えてくれて、「大事なことはここなんだなと」と感じましたね。
――ジャッカルをする上で大事なところは何ですか?
ポジションに入る速さと、ポジションに入った時の足の位置と、それによって強い姿勢を作ること。あとは自分を剥がしに来る相手を見ることと感じることです。そして、ジョージは「相手が来たらヒットしに行け」と言っていました。自分から当たりに行ったり、来た相手に対して「自分の腰とお尻の間くらいの横の部分をぶつけに行け」とアドバイスしてくれました。ジャッカルに入っている人を剥がそうとする時って、真正面から来るのではなくてサイド寄りに入って来たりするので、それに対して思いっきりヒットしに行くんです。
あとはボールの持ち方というか、絡み方のアドバイスをもらいました。教えてもらったのはジョージのやり方で「参考になるか分からないけど」と言っていましたが、結局は「自分のスタイルを作ることが大事だな」と気づかせてくれました。ディフェンスもとても勉強になりましたし、ジャッカルについては今後のラグビー人生においての財産になったと思っています。
――色々な質問を何度も聞きに行ったんですね
そうですね。何度も聞きに行って、ジョージから返ってくる答えが大体同じ内容だったので、何がキーポイントかが分かりましたし、このキーポイントを自分なりに突き詰めていくことが大事だと思いましたね。そして実際に教えてもらっている時のことを覚えて、あくまでも自分のやりやすいやり方を探すことに時間を使っていました。
――自分のやり方は見つかりましたか?
それにずっと取り組んで、第2節の後半から出させてもらった時に、今までの自分では考えられないくらいジャッカルの姿勢に入りやすかったり、ジャッカルしてからもボールが手についたりとか、そういうことを感じましたね。その試合で怪我をしてしまい、それ以降は実戦が出来ていないので、その感覚をもっと実戦でやりたかったと思いました。ただ、第2節であの感覚を味わえたことは、自分にとってとてもプラスになったと思っています。
◆キツいリハビリをやり切った後の楽しさ
――次のシーズンでの目標は?
まずは開幕戦に出ること。それだけに絞ってやっていこうと思います。目標に対する毎日の練習や姿勢を、3シーズン目で学ぶことが出来たので、継続してやっていきたいと思います。
――今後はどういうラグビー人生を歩んでいきたいと思っていますか?
今回は色々なタイミングが重なってラグビーが出来ていない状態になっているので、あまり先のことは考えられません。本来であれば今もまだシーズンの途中だったわけで、ふだんラグビーが出来ていたことは素晴らしいことだったんだなと思いました。だから、1日でも長くラグビーが出来れば良いなと思いますね。
――ラグビーをするという中にはキツイこともありますよね
今回リハビリが長くて、そのメニューがキツいものばかりでした。9~10週くらいやっていたんですが、それだけ長くリハビリをやっていたので、キツいリハビリメニューをやり切った後の楽しさを、今までにないくらい感じるほどでした(笑)。いまラグビーが出来ていないので余計に感じるのかもしれないですが、ラグビーを1日でも長くやることをキツいとは思わないですね。
――今のターゲットは自分に焦点を当てているという感じですね
もっとチームに貢献できることを探さなければいけない歳になってきていると思いますが、まずは自分が試合に出なければと思っています。今こういう状況で、好きなことが出来ない世の中になっていますが、今があることで、この状況が解けた時にラグビーが出来る幸せを感じられると思いますし、それが今の自分の状況とリンクしていて、4年目のシーズンに向けて良い準備が出来そうだなと感じています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]