2020年5月15日
#689 村田 大志 『1分でも長くグラウンドに立つ』
常に前向きで安定感あふれる村田大志選手。自分を知りチームを知る年長者となっても、1プレーヤーとしての目標を静かにそして熱く語ってくれました。(取材日:2020年4月下旬)
◆会社に貢献
――現状はどんなことをやっているんですか?
ほとんど何もやってないです(笑)。若井さん(正樹/ヘッドS&Cコーチ)がZoomを使ってトレーニングをやってくれていて、それに参加できるときはやっています。あとは夜に家でサントリー製品を飲んで会社に貢献しています(笑)。仕事もリモートで行っていて、毎日テレビ会議を行ったり、いつも以上に同じ職場の人と接する場面が増えて、こういうのも良いかなと思います。
――途中終了となった2020シーズンについての振り返りをお願いします
みんな試合をやりたかったと思いますし、勝負をつけたかったとは思うんですが、こういう状況になって、改めてスポーツはお客さんがいてこそだなと思いました。「優勝したい」という気持ちが強く自分たちの勝敗だけにこだわりがちですが、やっぱりお客さんがいてその中で試合をやってこそだなって、改めて思いましたね。中止となったことは良い判断だったと思います。
――チームとしての調子はどうでしたか?
トップリーグ2020シーズンの開幕戦だった東芝戦で負けたことが、個人的には良かったのかなと思います。あぁいう形で負けはしましたが、集まって準備する時間が短かった分、自分たちで模索しながらやっていました。負けたことで選手もスタッフも正直に話し、お互いがやりたいラグビーを話し合った結果、良い方向に向かったと思います。神戸製鋼戦も負けましたが、自分たちがやりたい方向性には自信が持てて、上向いてきていたと感じていました。
――毎シーズン、同じ方向を向くことは全員が努力をしなければ難しいんですね
スタッフも選手も大きく変わってやることも変わりましたし、同じことをやるにしても落とし込み方が全然違いますし、同じように聞いているかなと思っていても捉え方が違う選手は意外とたくさんいます。そういう小さなすれ違いをひとつにしていく作業は、毎年難しいと思いますね。
◆変えちゃいけない部分
――そういう中で、村田選手はチーム全体を見ているように感じますが、そこは意識していますか?
年々、引いた位置から見るようになっていて、いつか見えなくなる位置から見るようになるかもしれません(笑)。
――なぜそうなっていると思いますか?
それは自然なことなのかなと思いますね。リーダーも選手もスタッフも変わって、チームに長くいればいるほど、チームを客観的に見えるようになるのは普通のことですし、見える人が見るべきかなと思います。
――そうなると、チームの状態の変化にも気づきやすいですか?
チームの雰囲気が良いとか悪いとかは分かりやすいんですが、サンゴリアスというラグビーチームである以上は、ラグビーの結果が全てということだと思うんです。どれだけ良い雰囲気で良い準備が出来たとしても、ひとつ負けたことでドドドっと負け続けることもあります。あるいはどんなに調子が悪くても勝てば上向きになったりして、感じていることと実際にその日の試合の内容が違うことが多々あるので、難しい部分ではありますね。
――引いた立場で見るということを、どうチームに貢献させようとしているんですか?
チームは変化をしながら進化したり前に進んで行ったりするものだと思うんですが、変えちゃいけない部分って絶対にあると思います。強いチームに絶対にあるもの、勝てないチームになぜかあるものってきっとあると思っていて、そういう部分って小さいことですが、そういう部分が変わっていないかなと気にしてみています。ただ、そういう部分に流(大)も敏感で、流は小さいこともミーティングなどで言えるので、わざわざ自分が言う必要はないかなと思っています。
――例えば、どういうところですか?
例えば、本当に小さいことですが、「自分が飲んだペットボトルを片付けられなくなっていないですか?」とか、あとはクラブハウスの使い方であったり、自分たちで決めたはずのルールを守れないというのは、そういうことの積み重ねでゲームでのディシプリンが無くなることに繋がったりすると思います。めちゃくちゃ厳しくすることはないと思いますが、そういう部分がルーズになっていないかと見たりしています。
――まだ選手会長ですか?
今は選手会長という立場の人はいなくて、グラウンド外でのチャレンジはカルチャーグループがやっているんですが、僕はそのグループには入っていません。自分から率先してグラウンド外のことに関わっているという感じではないんですが、節目節目で前に出て何かを言わされるということはあります(笑)。
◆どういう選手でありたいか
――選手としてアピールしたいと思うポイントはどこですか?
今までのシーズンに比べてあまりゲームに出られなかったので、第5節のトヨタ自動車戦は久しぶりだと感じました。やっぱりゲームに出られない時に人間の本質が出るんだなと改めて思いましたし、自分がなかなか上手くいかない時に変わったと言われないように意識していました。どういう人間でありたいか、どういう選手でありたいかをいつも考えるようにしています。細かくこの部分を伸ばしたいというよりは、変わらないようにと気をつけています。
――それは態度や発言ということですか?
発言の回数は減りましたし、チームにとってはそれで良いと思いますが、態度のところがいちばん大きいかもしれないですね。
――どういう態度でいたいと思っていますか?
成長したいという意欲はもちろんありますし、先ほど変わらないと言いましたが、成長したいと思い続けることが変わらないことだと思うので、そこですかね。あまり深くまでは考えていないです(笑)。ただ、今まで以上に気をつけないと、「まぁいいっか」と思ってしまうと思っています。
――プレーヤーとして伸ばしたい部分は?
今シーズンの試合を見ていて、もちろん先発で試合に出たいですけど、先発で出る機会は減ると思っていました。あまりリザーブの経験がないので、そういう意味では途中から出る選手としてどういった役割を果たしていけるのか、そしてゲームを読むということが必要になってくるのかなと考えています。コンディションのところがいちばんだと思っていて、自分が思うように身体を動かせるようにしておくことが大事だと思います。
――そのためにどういうことに気を遣っているんですか?
怪我の予防やケアの部分ですね。練習前の準備に時間をかけてやっていますが、良かったり悪かったりあるので、練習や試合前のアップをS&Cと一緒に考えながらやっています。
――悪かったりということは、やりすぎてしまうこともあるんですか?
そうですね。あと、感覚的に、足が重くなっただけだったと感じることもあります。
――量よりも質というか、感覚を大事にしているんでしょうか?
自分としては感覚の方が大事かなと思っています。ゲーム中には出来るだけ怪我のことや痛い部分を考えたくないですし、集中さえできれば練習や試合でパフォーマンスを出せると思っています。だからゲームに集中できるように、コンディションを整えることを大事にしています。
――コンディションが整えば、いつでも集中できるという感じですか?
それは間違いなく出来ると思います。自分はあまり深く考えすぎない時の方が集中できるので、コンディションを整えることが大事ですね。「なんかここが痛いな」とか「これ以上スピードを出したら肉離れしそうだな」とか、そういうことが少しでも頭にあると感覚で動けなくなってしまうので、そこが難しい部分でもあります。
◆自分に期待しない
――自分自身の中で、いちばんの強みはどこだと思いますか?
毎試合、パフォーマンスが変わらないところですかね。
――どうすれば浮き沈みをなくせるんですか?
自分に期待しないことじゃないですかね。ある意味、仕方ないと思うというか、自分の120%のプレーとか良いプレーをしようと思うと、どうしても固くなってしまうので、これまでやってきたことしか出来ませんし、普段からやってきたことに対して自信を持ってやるだけです。
――やってきたことが出来なかったとしても、あまり気にしないんですか?
ゲーム中は悩まないですね。試合が終わってから「もっとこう出来たな」とかは思いますけど。
――ゲーム中は悩まないということは、もともと出来ていたんですか?
昔はめちゃくちゃ気にしていました。けど、気にしても何も変わりませんでした。エディーさん(ジョーンズ/ディレクターオフラグビー)がよく「自分のコントロール出来ないことを気にしても仕方ない」と言うんですが、終わったことって絶対にコントロール出来ないですし、それだったら次のプレーのことを考えた方が良いと思います。
◆100%選手としてやり切りたい
――いま目標にしていることは何ですか?
優勝したいですね。あと何回チャレンジ出来るか分からないけど、1回でも多く、あの最高の瞬間を味わいたいと思っています。
――そのためにどう貢献したいと思っていますか?
もちろんプレーヤーとして少しでも成長して、チームの力になることです。あまりグラウンド外のことは考えていなくて、グラウンドの中でどれだけパフォーマンスを出せるかということだけにフォーカスしています。
――選手としての目標は?
1試合でも多くゲームに出たいですね。グラウンドに立ってラグビーをするためにキツい練習をしているので、1分でも長くグラウンドに立ってチームの勝利に貢献したいですし、その上で同じポジションのメンバーとコンペティションをすることも楽しいです。1分でも長くグラウンドに立つということがいちばんの想いですかね。
――1分でも長くグラウンドに立つためには何が大事ですか?
怪我をしないことです。大きい怪我をすれば、もうそのままラグビーが出来なくなる可能性がありますからね。ただ、大きい怪我を気にしてやっても、きっと楽しくはないと思います。もしその日の練習が最後の練習になっても後悔がないように過ごそうと、毎回思っています。
――プレーヤーだけじゃないラグビー人生は、見えていたりしますか?
考えたことないですね。プレーヤー以外は向いていないと思います(笑)。先のことは考えていないですが、とにかくプレーヤーとして出来る時間は本当に限られていますし、どんどん同期もいなくなっていますし、プレーヤーとして出来るのであれば、そいつらの分まで100%選手としてやり切りたいと思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]