2020年5月 8日
#687 竹下 祥平 『自分がどれだけ出来るのか』
「やり切った」という言葉がインタビューの最初に出てきた竹下祥平選手。8年間続いた選手生活で、何をやり切ることができたのでしょうか?その思いを聞きました。(取材日:2020年4月中旬)
◆やり切った
――2020シーズンをもって引退となりましたが、今の心境をお願いします
やり切ったという気持ちがあります。もともとサンゴリアスにチャレンジするつもりで入ってきて、正直ここまで長く出来ると思っていなかったので、今はやり切ったなという気持ちが大きいですね。
――具体的にはどんなチャレンジをしようと思い入ってきたんですか?
トップリーグにチャレンジするという想いもありましたが、僕がサンゴリアスに入った時のバックスのメンバーって凄かったんです。日和佐さん(篤/現 神戸製鋼)、フーリー・デュプレアがいて、トゥシ・ピシ、晃征さん(小野)、ライノ(ニコラスライアン)、平さん(浩二)、小野澤さん(宏時)、剛さん(有賀)、ヤスさん(長友泰憲)がいて、本当に日本や世界を代表するような選手ばかりで、その中で出来るというのが僕の中でのチャレンジでした。
当時は、自分のスキルとか力とか、細かくどうチャレンジするかまでは考えていませんでしたが、サンゴリアスで試合に出られれば日本代表に直結していると思ったので、そういったところでのチャレンジでしたね。
日本代表は後からついてくるのかなとざっくり考えていたので、まずはサンゴリアスで先発メンバーとして試合に出るということを目標にしていました。やっぱり日本や世界を代表するような選手たちの中でやって、自分がどれだけ出来るのかという、好奇心ではないですが自分の可能性を試してみたくてサンゴリアスを選びました。
――サンゴリアスは思っていた通りの世界でしたか?
そうですね。想像通り皆さん凄くて、その中に身を置いたことで、スキルもメンタルもとても成長できたという実感があります。
◆ラインブレイクを狙う
――大変なチャレンジだったと思いますが、実際に高い壁にぶつかってみてどうでしたか?
高かったですね(笑)。そこでどうしようとは思わなかったですが、スタッフがいてS&Cコーチがいて、そういう人たちと話をして、コツコツやっていく中で結果に繋がればいいなと思っていましたね。自分の目指すべきラグビーを持って、それをやり続けることを考えて取り組んでいました。その中で、僕のプレーは単純なので、どういうプレーをするのかは分かってもらえたと思いますし、「こうした方がいい」というアドバイスももらっていたので、改善しながらやってきたつもりです。
――監督によってポイントが変わったりしませんでしたか?
試合のメンバーを選ぶ上で、僕が求められていることはあまり変わらなかったと思うので、それは感じませんでした。
――具体的に、どういうことを求められていたんですか?
やっぱりフィジカルの部分がいちばんだったと思います。ブレイクダウンやボールキャリーの時にラインブレイクを狙うということです。
――フィジカルを求められていて、身体を大きくすることにも取り組んだんですか?
サンゴリアスに入った時と比べると、身体もだいぶ大きくなりました。身体を大きくすることをターゲットにしながら、あまり大きくし過ぎると走れなくなるので、そのバランスを考えS&Cとコミュニケーションを取りながらやっていました。
――走るというところが強みでもあったんですね
そうですね。若い頃は走ることを武器にしていましたが、歳を重ねるごとに思ったように走れなくなっているとも感じていました。
――そう感じるようになったのはいつ頃ですか?
ここ2~3年ですかね。もともと走るのも好きですし、身体を当てることも嫌いではなかったので、ブレイクダウンなどフィジカルの方に強みを出していくようになりましたね。
◆改善していくことがモチベーション
――思い出に残っているプレーや試合はありますか?
タックルして立ち上がって、そこからボールを奪ってアタックし返すというプレーが何度かあったので、それは強みを出せたプレーかなと思います。
――一方で、悔いが残るシーンは?
僕はあまりプラス思考の人間ではないので、そんなことばかり思っています(笑)。楽観的ではあると思うんですが、プラス思考ではないと思います。良かったプレーがあっても、悪かったプレーの方がずっと頭に残っていますね。逆にそういう部分があるので、試合へのモチベーションにもなっていたのかなと思います。ダメだったことをずっと考えて、そこを改善していくことがモチベーションになっていました。
――自信を積み重ねるという部分はどうやっていたんですか?
あまりないですかね(笑)。サンゴリアスに入る前から通用するとは思っていなくて、たまたま縁があってサンゴリアスに声をかけてもらい、そういう機会を与えてもらったのでチャレンジしてきたという感じです。大学の時にはトップリーグのチームに入れるとは、微塵も思っていませんでした。
――サンゴリアスに入って気持ちが挫けそうになることはありませんでしたか?
なかったですね(笑)。思った通りの高い壁だと思ったので、コツコツ地道に自分の出来ることをやっていこうと。
――サンゴリアスで8年できたということは、長かったと感じていますか?
長かったと思っています。
――その秘訣は何だと思いますか?
不思議ですね(笑)。試合に出たいという気持ちはありましたが、毎年、今年で終わりかなと思いながらやっていました。
――試合に出るということが、竹下選手の中では究極のモチベーションではないということですよね
周りが高いレベルでラグビーをしているので、その中でラグビーが出来ることの方がモチベーションだったのかもしれないですね。もちろん自分が持っているものを全て出して100%チャレンジした上で、それでダメだったら仕方がないという感覚ですかね。
――100%出したという自負はあるんですよね
サンゴリアスって常に自分の力を出し切らなければいけない状況を作ってくれて、周りのみんなも100%を出し切っているので、それが普通だと思っていました。自分の中ではやれるだけのことはやってきたと思っていますし、思っていたよりも長い期間サンゴリアスに身を置かせてもらって、結果はついてこなかったにしろ、やり切ったという想いがありますね。
――やれるだけのことをやり切るというのは難しいことだと思うんですが、なぜそれが出来たと思いますか?
やっぱり環境だと思います。サンゴリアスというチームが常に成長し続けようというチームなんです。見方は人それぞれで、もっと出来たんじゃないかって言う人もいると思いますが、僕の中ではチームのみんながやっていて、それに負けないようにと思い取り組めたと思っています。人間は優しい方に流されがちですが、みんながハードな姿勢を見せてくれていたので、それ以上のことをやらなければと思っていましたね。
◆ファンの皆さんの声に助けられた
――サンゴリアスに入って良かったと思うことは何ですか?
サンゴリアスでやっていて楽しかったということが大きいですね。みんなが高い次元でプレーしていて、やろうと思ったことが実際に出来て、それで結果的に試合に勝てたり、色々な経験が出来ました。単純にこのチームでプレー出来て良かったと思います。
――サンゴリアスのメンバーにメッセージはありますか?
感謝の気持ちでいっぱいです。ラグビーは1人では出来ないスポーツで、その中でみんなが頑張る姿を見て自分もやらなければという気持ちになっていましたし、1人1人が全力でプレーする姿を見て引っ張ってもらっていたと思っています。みんながいなければここまで出来なかったと思っていて、本当にみんなには感謝に気持ちでいっぱいです。
――ファンに対してメッセージをお願いします
試合に来て応援してくださったり、練習場まで来て声を掛けてくださったり、それが試合に出ていようが出ていまいが声を掛けてくださって、それが僕の活力にもなっていました。声を掛けていただけるということは見てもらえているということで、それによって選手の気持ちも変わってきますし、ファンの皆さんの声に助けられたことも多いので、本当に感謝しています。
――最後に言い残したことは?
ないですね(笑)。辛いこともありましたが、振り返るとやっていて良かったと思いますし、楽しかったと思うことがとても多いですね。先ほども言いまいたが、ラグビーは1人で出来るスポーツではなく、みんなの支えがあって、トップリーグで8年間、ラグビーを始めて24年間、本当に多くの人に支えられて出来ていたんだなと思います。
今後は社業に専念することになり、まだどこで仕事をするかは分かりませんが、もうプレーでは貢献できないので、サンゴリアスのOBとして現役の選手が引退した時に「ラグビー部だから任せよう」と思われるように、仕事でサンゴリアスの選手のサポートが出来るように頑張っていきたいと思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]