SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2020年5月 1日

#686 芦田 一顕 『いちばん体を張ろうと激しく』

8年間の現役生活に終止符を打った芦田一顕選手。レベルの高いライバルが多いスクラムハーフというポジションで、なかなか試合に出られなかった後悔と、チャレンジし続けた満足と、チームメイトやファンへの感謝の気持ちを語ってくれました。(取材日:2020年4月中旬)

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◆何度も気づかされました

――新型コロナウイルスの影響によりシーズンが早く終わり、引退となりましたね

8年間サンゴリアスでお世話になり、しんどい時期が長くてなかなか試合にも出られなかったので、それについては後悔があるんですが、サンゴリアスのスクラムハーフとしてチャレンジ出来たということについては、僕の中では満足しています。

やっぱり上には日和佐さん(篤/現 神戸製鋼)がいて、下には流がいて、そして今年、早稲田大学から齋藤直人が入ってきて、日本代表のトップレベルの人たちと一緒に出来たので、いちラグビープレーヤーとしては良い環境で取り組めて、チームには感謝しかありません。

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――同じポジションの選手に対しては、どういう想いがありますか?

当然、競争という意味では、練習中はライバル心を出してやっていますが、全体練習後の個人練習では一緒にアドバイスをしながら出来ました。それは、このチームの良さだと思います。そして一緒にやることや話をすることも参考になるんですが、実際に練習や試合でのプレーを見ることが、とても参考になりました。「やっぱりここはこうした方がいいんや」と何度も気づかされましたからね、それを自分が出来るかどうかは別ですけれど(笑)。良いところは吸収して、「これは自分の方が正しいんじゃないか」と思うところは、曲げずにやってきました。

――しんどい時期が長かったとのことですが、その時期を思い出してどんなことがまず頭に浮かびますか?

いちばんは、なかなか試合に出られなくて、日々の練習のモチベーションを保つことがとても大変でした。そこで落ち込んでいても何も変わらないので、どこかにモチベーションを見出して取り組むということですが、それは何年も経験して身につきましたね。そのモチベーションは、試合に出るメンバーにチャレンジするということです。それがいちばん大きくて、僕の場合は他チームを相手にするよりも、サンゴリアスの試合メンバーを抜いてやろう、絶対にトライを取らせないとか、そういうことをモチベーションに日々取り組んでいました。

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――試合メンバーに勝てていると感じることもありましたか?

そう感じる時もありましたね。練習で試合のメンバーが上手くいっていない時の方が、意外とその週の試合では出来が良かったりしました。ノンメンバーの出来が良いと、その週の試合は確実に良い試合になります。そこでチームの勝利に貢献できていたという感覚はありましたね。

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――試合のメンバーに選ばれた時は、どう試合に臨んでいたんですか?

若手の頃はチャンスをもらっても緊張してしまい、なかなか自分のパフォーマンスを出せなかったんですが、歳を重ねるにつれて落ち着いて出来るようになっていきました。何事も平常心でやらないと日々の練習の成果は出せない、と実感しましたね。自分が出来るなと思い始めたのは、2018-2019シーズンのカップ戦からです。カップ戦では9番で出させてもらうことが多くて、自分自身でも手応えがありました。試合に出るということが何よりもモチベーションになりますし、成長にも繋がるんだなと感じました。

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◆小さい成功を積み重ねる

――8シーズンの中で良い思い出は?

トップリーグではリザーブで出ることが多いので、特別に思い出に残っているものはないんですが、カップ戦では、あの時はほぼ日本人メンバーで戦っていて、決勝でトヨタ自動車に負けはしましたが、僕以外の日本人選手にとってもすごく自信になったと思いますし、僕としても良い期間を過ごせたと思っています。

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――その経験が今のサンゴリアスのひとつのベースになっていると思いますか?

そうだと思います。サンゴリスとしては外国人選手に頼るのではなく、ベースとなる日本人選手が高いレベルのラグビーが出来るということが大前提なので、2018-2019シーズンのカップ戦は自分にとってもチームにとっても良かったと思います。

――そういう時は、どんな感覚なんですか?

そういう時って、やることが明確になっていて、僕1人だけじゃなくチーム全員が同じことをやる、そういうことが完全に分かっているような感覚でしたね。

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――なぜそういう感覚になったんだと思いますか?

やっぱり日々の練習、そして日本人選手だけで戦うとなった時に少し不安があったんですが、結果を出すことで自信になっていって、良い流れに繋がっていったんだと思います。

――どう準備をして結果をどう出すかが大事なんですね

大きい結果以外にも、試合や練習で小さい成功を積み重ねることによって、1人1人の自信になっていったんだと思います。

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◆信頼を勝ち取るために

――自分自身の性格は「穏やか」とのことですが

あまり一喜一憂しないというか、試合に出られないことが多かったので、「じゃあ次の試合に向けて準備しよう」とスイッチを切り替えられるというところが、穏やかに繋がっているのかなと思います。

――ポジション的には激しさも必要ですよね

スクラムハーフですけど、ディフェンスも好きなので、いちばん体を張ろうと激しくやっていました。

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――難しい質問かもしれませんが、試合に出られる・出られないのポイントはどこだったと思いますか?

チームからの信頼がいちばん大きいんじゃないですかね。特にスクラムハーフというポジションは、チームからも周りの選手からも信頼されていないと試合には出られません。トップリーグではあまり試合に出られなかったので、結果から言うと僕はそこが足りなかったのかなと思います。敬介さん(沢木/前監督・現サンウルブズコーチングコーディネーター)からは、「信頼を勝ち取るためにはどうすればいいか」とよく言われていました。そのためには、プレーに波がないことと、チームをリード出来ることが大事だと思います。それが出来るかどうかが、信頼を得られるかどうかに繋がるんだと思います。

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――チームをリードすることについてはどうでしたか?

自分のことで精一杯になってしまっていて、そこが出来ていなかったのかなと思います。そこがポイントだったのかなと思います。

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◆後悔はない

――いちばん良い思い出は何ですか?

やっぱり2015-2016シーズンで9位になりましたが、翌2016-2017シーズンで優勝できたことですね。9位のシーズンからチームがガラッと変わりましたし、試合には出られませんでしたが、そういうことを抜きにして、こんなにも変わることができるんだと思いましたね。

――どこが変わって、どう良くなったんですか?

敬介さんに代わり、チームのやるべきことが明確になって、選手としてもやるべきことが明確になったと思います。正直、9位になった時はバラバラな感じがありましたね。

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――それ以降もやるべきことは明確になっていましたか?

そうですね。今シーズンの神戸製鋼戦では、負けてしまいましたが内容は良かったと思いますし、チームが上向きになってきたところでシーズンが終了してしまったので、今シーズンに関しては残念という一言ですね。

――個人的にもやり足りなかったんじゃないですか?

今シーズンに限っては、そうですね。第7節三菱重工戦以降が中止となりましたが、その三菱重工戦に出場する予定だったので、そういう悔いはありますが、8年間を通して言えば、3~4年目くらいからいつ引退って言われてもおかしくないなと思っていました。だから、毎年最後のシーズンになるかもしれないという想いで取り組んでいたので、そういう意味で後悔はないです。

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――3~4年目あたりから最後のシーズンと思いながら、8年目まで続けて来られた要因は何だと思いますか?

ノンメンバーになって不貞腐れてしまう選手もいると思いますが、そこの態度を崩さなかったことが良かったんだと思います。

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◆感謝

――サンゴリアスのメンバーに対してメッセージはありますか?

メンバーに対しては感謝しかありません。9位になった時も2連覇した時も、良い時も悪い時も、みんな一緒に戦えたので、結果を出すということがどれだけ嬉しいかを知ることが出来ましたし、本当に貴重な経験をさせてもらったと思っています。

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――今後は社業に専念されるんですか?

そうですね。これから内示が出るので、まだどこに行くかは分かりません。ちょっと緊張しています(笑)。

――ファンに対してメッセージをお願いします

試合に出られない中でも、練習試合や府中のグラウンドに来ていただいて、「なんでお前は出えへんねん」とか叱咤激励の言葉をいただいて、とても励みになりましたし、試合に出てやろうと思いました(笑)。それがあったから今までやって来られたんじゃないかなと思っています。ファンの方々、応援してくださった方々にとても感謝します。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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