2020年4月24日
#685 竹本 竜太郎 『リロードする』
外国人選手を含めての年齢順でバックスの中では3番目の年長者となった竹本竜太郎選手。3月中旬にインタビューし、まだ中止が決定していなかった今シーズンに懸ける思いを聞きましたが、その後、日本選手権を含めての今シーズンの終了、さらには竹本選手自身の引退が決まりました。引退への思いを含め、2回にわたるインタビューを [インタビュー1] [インタビュー2] として掲載します。(取材日:2020年3月中旬&4月中旬)
[インタビュー1]
◆爪痕を残したかった
――第6節日野戦で途中出場し、久しぶりのトップリーグ出場でしたね
出来については、もう少し爪痕を残したかったですね。20分間の出場となったんですが、もっと良い判断が出来るところがあったと思っています。ボールは5~6回くらいは回ってきたと思いますが、そこで良い判断が出来ていなかったと思います。タックルについては、ある程度の回数は出来ていたと思います。
――チームがディフェンスをテーマに掲げていますが、やっていてどうですか?
僕らのアイデンティティーとしては、アグレッシブ・アタッキング・ラグビーがあるんですが、その中でディフェンスにフォーカスしてやっているのは、良い意識を持てていると思います。今のラグビーの傾向として、どんなにアタックの力があっても、ディフェンスがしっかりと出来ていないとトップにはなれないと思います。ディフェンスのシステムが整ってきていて、トライが取りにくい環境になってきているので、ディフェンスが出来ていないと始まらないという感じですね。ただ、その中でも、アグレッシブ・アタッキング・ラグビーというアイデンティティーは変わりません。
――選手としてはディフェンスに対してどう意識しているんですか?
練習の中でアタックする側とディフェンスする側に分かれるんですが、改めてそこを全力でやろうという意識です。アタックする側は全力で抜きに行きますし、ディフェンス側は全力で止めに行きます。その中で、ディフェンスのコネクションなど、ディフェンスに特化した練習は少し増えたと思います。
――チームは良い状態だと思いますが、ディフェンスを意識したことが影響しているんですか?
それもあると思いますし、今シーズンはプレシーズンが短かったんですが、やっていく中で選手間でのコミュニケーションが密に取れていますし、スタッフともお互いにコミュニケーションが取れているので、良いサイクルの中で練習が出来ているんだと思います。
――選手数が増えたことで、それぞれのポジションで争いが激しくなっていますね
そうですね。11月の沖縄合宿で同じ時間を共有し、チームが同じ方向を見るようになっていきました。プレシーズンが短くて全員が集まってから開幕までが短かったので、どんどんチームがまとまっていく感覚は臨場感があって楽しかったですね。
◆蹴る勇気
――今シーズンのチーム内での自分自身の役割はどう考えていますか?
センターには良い選手がいますが、その中でもチャンスは巡ってくると思っていたので、日野戦でそのチャンスを掴めたと思っています。もちろん先発で試合に出ることがいちばん良いことですが、ポジション的にもなかなか難しい状況ではあります。その中で試合に出られたのは嬉しかったですね。
――試合に出続けるための課題は何だと思いますか?
やっぱり試合で結果を残すことだと思います。
――日野戦で出た課題はどこでしたか?
出場した時には点差が開いた状況だったので、もっと強気な判断をしても良かったと思っていますし、チームとして勢いがついている時って、ボールを持っていれば良いプレーが生まれやすいと思うんですよ。そういう状況の時には、もっと自分から仕掛けていっても良かったんじゃないかなと思いました。次にまたチャンスをもらった時には、その意識を持つことと、リザーブで入った時のコミュニケーションが大事かなと思います。
――シーズンを通しての課題は?
リザーブはフィニッシャーという立場になります。どのチームもどんなに点差が離れていても最後まで全力で戦ってきますし、僅差であれば尚更タフに戦ってくると思うので、試合をしっかりと見て、相手の弱みをつけるようなプレーとハンドリングやキック、基本的なプレーを正確にやることだと思います。安定したプレーが重要になってくると思います。
――自分の強みで意識していることはありますか?
僕の場合は左足でのキックが強みだと思っていて、キックを狙いつつプレーしなければいけないと思いますし、リザーブでの出場でも蹴る勇気を持たなければいけないと思います。もっと強みを出していかないといけないと思います。
◆会社の元気印
――会社員としてラグビーを続けていることに関して、考えていることは?
長年、先輩たちが築いてきたものがありますし、ラグビー部が創部した時の5箇条があって、その中にラグビーも仕事も100%出来るのがカッコいい男、という内容があるんです。それが創部した時から続いてきていて、その中にプロ選手も加わって新しいエッセンスを加えてくれて、本当にチームとして成長してきていると思います。
これがプロ選手だけのチームになったらどうなるのかは想像することが難しいですが、社員選手が試合に出ていたら、会社の他の社員が応援してくれると思うんです。会社の元気印じゃないですけど、そういう存在でありたいなとは思います。今後、チームがどういう形になろうが、アグレッシブ・アタッキング・ラグビーというラグビー面も、サントリーらしさとか、そういう創部の精神の部分も、変わらないと思います。
これからラグビー界がどう変化していくのかは、僕としても興味深いですし、どう変化していくのかをしっかりと見ていきたいと思います。その中で自分で出来ることはやっていきたいと思っています。そして、このチームは良い方向に進んでいくんだろうとも思っています。
――将来的には、どうラグビーに関わっていきたいと考えていますか?
どう関われるかは分かりませんが、サンゴリアスでやってきたという誇りはずっと持ち続けると思うので、何かしらラグビーには関わっていくと思いますし、同期で引退した長野直樹や木下博史、柳原瑞樹などは応援団として試合に来てくれています。将来的には、僕も後輩たちの活躍を応援していきたいと思っています。
――次世代への指導には興味はありますか?
兄(竹本隼太郎/サンゴリアスOB)は大学で教えていますが、僕はどうなるか分からないですね。興味が無いということではないんですが、今のところはまだ考えていないですね。
――今シーズンの目標は?
新型コロナウイルスの拡大で、今後どうなるかは分かりませんが、1日1日を大切にして過ごすことと、平等ではないかもしれませんが、どこかにチャンスはあると思うので、そのチャンスが巡ってきた時にしっかりとグラウンドに立っていられるようにしたいと思います。チームとしての目標は、ディフェンスNo.1のチームになって優勝することだけです。
[インタビュー2]
◆悔いはない
――新型コロナウイルス感染症の拡大が収まらず、今シーズンは全て中止となってしまいました
ラグビーよりも人の命が大切なので、シーズンが終わるということは仕方がなかったことだと思います。ちょうどラグビーボールのような、どこに行くかどこに転がるか分からないようなシーズンであり、こうなってしまったのは仕方がないことですが、最後に引退が決まったことで、いつもだったら皆に顔を合わせる場があるんですが、それがないのが一抹の寂しさを感じるところではあります。
――今シーズンがあるなしに関わらず、引退の予感はありましたか?
今シーズンはワールドカップの関係で、選手の数をチームが増やしていたということがありました。ですので来シーズンは、今シーズンより人数が少なくなるということは予想していました。ですので引退する選手は何人かいるだろうなと考えていましたが、自分自身は、あと1シーズン行けるかな?とは思いつつも、どちらか分からない状況だなと理解していました。
――あと1シーズン行けたら、何をやりたかったですか?
今シーズン、このような形で終わったので、「やりたいな」という気持ちも勿論ありました。いろんな経験をさせてもらったこのクラブで、あぁしておけば良かった、こうしておけば良かったという小さいことはたくさんあると思うのですが、たくさんの出会いと経験をさせてくれたこのクラブに対して、そして引退することに対して、本当に悔いはないです。
◆体動かしてリカバリーしてご飯食べて寝る
――サンゴリアスでの出会いや出来事について聞かせてください
出会いについては、先ずは指揮官ですね。エディーさん(ジョーンズ)、直弥さん(大久保)、アンディ(フレンド)、敬介さん(沢木)、ミルトン(ヘイグ)、5人の方と一緒にサンゴリアスでラグビーをすることが出来ました。やっぱりその指揮官によって、サンゴリアスに文化があることを前提で、チームのカラーが出てくるなと思いましたし、たぶんそれは9年間やらせていただいて、長い期間やらないと味わえない経験でした。
それと同時にプレーヤーに関しても、いろんなことを考えている選手がいます。本当に自分のポジションのラグビーを突き詰めて考えているプレーヤーもいれば、チーム全体の調和を考えている選手もいます。ここで出会った人たちとは引退してそれでおしまいというわけではなく、この先も関係が続いていくと思っています。そういう意味でもいろんな人たちがいて、それが自分の財産になっていると思います。
――いちばん最初の指揮官がエディーさんということでそのハードワークに、社会人ラグビーは大変だなと思いましたか?
ちょっと想像できなかったくらいでした(笑)。ハードワークでした。大学でももともとフィットネスはある方だと思っていたんですけど、それ以上でした。いちばんキツかった思い出は菅平のフィジカル合宿です。初日は移動も兼ねていて軽いんですが、合宿2日目の朝6時から100%のトレーニングで、チームコンペティションをしたりして初日で全身筋肉痛。あとは体動かしてリカバリーしてご飯食べて寝る。考える暇もなかったです。
――それを最初からやったら自信というか、大きなベースになったのではないでしょうか?
あの練習をやりきれたというのは、自信になりました。そしてそこでハードワークをするスタンダードが出来ました。そしてどれだけ1人の選手がチームに影響を与えることが出来るか、ということをミーティング等でも教えられました。たまたまなんですが、僕が5時過ぎぐらいからトレーニングをしていて、その時はエディーさんより早かったんですけど、エディーさんがミーティングで「タロウはこういうふうにしていた。本当にこれは勝ちたいということだ」と言ってくれたんです。そういうことがチームに良い影響を与えるということを教えられたこともありました。そういうベースとなるハードワークについて、教えてもらったと思います。
――大変なのにさらに早く行ってやろうと思ったのは何故ですか?
やっぱりトップリーグに出たいのか出たくないのかと言われたら出たいので、それをやることが、その時はいちばんの手段だと思っていました。
◆ひとりにしない
――改めてサンゴリアスのラグビーとは?
いちばんに来るのは「アグレッシブ・アタッキング・ラグビー」です。サントリーの「やってみなはれ」精神と同じで、チャレンジ精神を持って挑戦し続けるということが、本当にその魅力だと思います。サンゴリアスは攻撃し続けるチームだし、前に立って新しいことにチャレンジして行かないといけないチームだと思っています。
それと僕が「サンゴリアスとは?」と言われて誇りたいことのもう一つは、全員がハードワークをして、誰が出ても同じサンゴリアスのプレー、質の高いプレーができるということだと思っています。そこに向けてサボっている選手は誰一人としていません。僕が新人で入ってきた時とは違って、今はオンライン上で練習を振り返って見ることができますし、スタッフの頑張りも僕らは見てきているので、選手が頑張って努力していることが分かるのは勿論、スタッフもチームを良くするためにやっていこうということが分かります。そういう中で、全員の勝利に向けてのベクトルを見ていると、手を抜いている人は本当にいません。
――それだけやっていたら改めて、勝てなかった時は本当に悔しいんだろうなと思います
勝てなかった時は誰でも悔しいと思います。もう一つ誇れるところで、負けちゃった時こそ真価が問われると言うか、チームとは何かが問われると思うんです。勝っていればチームの雰囲気は悪くなることなんて絶対にないので、例えば準決勝、決勝で負けて優勝を逃してしまったら、その後にコスさん(小野)とかがよく言っていたんですが、「ひとりにしない」って。
本気でやっていればいろんな気持ちがある中で、飲みに行かないで帰ったりとか、ひとりにしないことって、とっても大切だと思うんです。多分「俺のせいで負けた」とか思う人もいるかもしれないし、最後に勝利できなかったらその1年間が無になるような感覚がある中で、ひとりにさせないというのは大切なことだと思います。そしてそこでまたひとつになることで、勿論やっぱり無じゃないし、積み重ねだと思うので、そこでチーム力が試されると思いますし、その人の人間性も試されると思います。9年間の中で9位になった時もありましたし、その中でまたこうやって変わらずに常勝チームでい続けるというのは、そういう文化があるからだと思っています。
◆全力を尽くしていくことが大切
――改めてラグビーの面白さは?
ラグビーは生涯の友を得られるスポーツということです。あと、僕がラグビーから学んだことと言ったら、「リロードする」(reload:積み直す)ことです。準備をして挑戦をして全力を尽くす。勿論、結果がダメな時も必ずあるし、一方、成功することもあると思います。その結果がどちらにしても、また準備をして、挑戦していくこと。その繰り返しがラグビーだと思っています。毎回のプレーが80分間あって、そこで普通のプレーも良いプレーもたくさんあって、その積み重ねで勝つことに向かっていけるというのが、ラグビーの面白いところだと思います。
――サンゴリアスのメンバーへメッセージをお願いします
・・・・・・チームというのは、毎シーズン、選手も変わればスタッフも変わるし相手も変わる。シーズンというのは毎回同じものはなく、毎シーズン全力を尽くしていくことが、本当に大切だと思っています。その中で辛い時とか良い時とかあると思いますが、その瞬間瞬間を楽しんでいって欲しいです。そこにはサンゴリアスだったら、ハードワークというものが絶対についてくると思いますが、その中でしっかりと自分の個性を出しながら、笑顔でサンゴリアスファミリーとして、一人一人が頑張っていって欲しいです。
――ファンへのメッセージをお願いします
2019年が終わって、新しい日本ラグビーの歴史が創られてきていると思います。日本でのラグビー、というのをどう創っていくかは、サンゴリアスのファンもそうですし、ラグビー界全体のファンの皆様が創っていくものだと思います。ですのでサントリーをぜひ応援してもらいたいです。これからもサントリーは日本のラグビーを創っていくと思いますし、僕も今回引退して外側からサンゴリアスを見ていくことになるので、一緒にサンゴリアスを応援していきましょう。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]