2020年4月10日
#683 田村 煕 『プレーはぜんぶ繋がっている』
リザーブや試合メンバーに選ばれない時期を乗り越えて、今シーズンはほぼグラウンドにの中にいた田村煕選手。その要因、そしてさらに成長するための課題を訊きました。(取材日:2020年3月上旬)
◆ゲームタイムをもらえている
――今シーズン、先発4試合、リザーブ2試合で全試合に出場ですね
昨シーズンはリザーブが多かったんですが、今シーズンはゲームタイムをもらえていると思っています。開幕戦と第3節と2回負けていますが、開幕戦のように14人での試合となっても、例え自分のパフォーマンスが悪くても、勝たなければいけないと思っています。
――出場時間が増えている要因は?
自分の中で何かを変えたということはありませんが、う~ん、何だろう?特にないですかね。もちろんタイミングとかはあると思います。負けはしましたが第3節神戸製鋼戦のような試合で、まず先発で出させてもらうことが今まではなかったので、僕としては勝ちたくて仕方なかったんです。負けたのであまり言いたくはないですが、ラグビーに関してチームとしてやってきたことの手応えはありましたし、良かったプレーもありました。次のNEC戦でもリザーブではありましたが、使ってもらえたということも大きかったですね。
――負けはしましたが、神戸製鋼戦はチームとしても手応えがあったんですね
負けたので手応えとは言いたくないですが、神戸製鋼には、練習試合や昨シーズンの試合も含めて、あの試合の前に4回負けています。負け方と言ったら変ですが、内容や相手のメンバーを見たら、今回の試合については前向きな材料が多かったと思います。
◆真っすぐに強く蹴る
――キックについてはどうですか?
ギッツ(マット・ギタウ)と一緒に出るようになってからゴールキックはギッツが蹴っているんですが、手応えはそんなに悪くないです。自分の中の感覚とか、日々の練習のことに関してあまり大きくは変えていません。やってきたことが間違えているとは思いたくないんです。それこそ考え方次第だと思いますが、タイミングだと思いたいですし、準備は間違えていなかったと思っています。良いことがあればプラスしますが、基本的には同じことをやり続けていて良い部分がたくさんあるので、新しいことが入ってきて良いなと思うこと以外は、あまり変えることはしていないですね。
――キックを蹴る時には、具体的にどういうことを考えていますか?
試合中は、風があったり、例えば外に出すキックの時に、ここは絶対に切らなければいけないという状況では、言い方が悪いですが、最低限の距離が出せるようなところを狙うんです。練習では同じ状況でも攻めたところを狙うようにしていて、グラウンドの脇にある木を狙ったりしています。試合のグラウンドでは、ペナルティーをもらった時に、自分の中で「ここまで行ける」と思ったら、何でもいいのでそこにあるものをターゲットにして蹴っています。あまりざっくりとしたターゲットにするとぼんやりして上手く蹴れないので、例えば看板にあるこの文字とか、そのターゲットだけを見てやると思いっきり蹴れます。
――ゴールキックの時はどうなんですか?
ゴールキックは、風があってもターゲットに向かって真っすぐ、思いっきり蹴ることを意識しています。トライをしてキックを蹴るか、ペナルティーゴールを狙うかによって違ったりもしますが、トライをした後って、特に接戦であればみんな嬉しいし、そこから戻ってチームトークになるんですが、僕らキッカーはそこから全く違うことにもう一度集中しなおさなければいけません。だからタッチキックの時のようにターゲットを狙うというよりは、むしろ何も考えてないかもしれないですね。集中しているという感じです。
――風を計算して角度や向きを変えたりするんですか?
例えば右から左に風が吹いていれば、人によってはゴールの右側を狙って風に乗せてポールの間を通すように蹴る人もいると思います。僕の場合は、風に乗せるというイメージはなくて、ゴールの真ん中に真っすぐ蹴るイメージでやっています。風の程度にもよりますが、第6節の日野戦では、アップの時にゴールの真ん中を狙って真っすぐ蹴っても外れてしまったので、真っすぐ蹴る場所を少しずらして蹴るようにしました。サッカーのように曲げて通そうとするとラグビーボールって動いてしまうんですが、真っすぐしっかりと当たった時って動く幅が短くなると思っているので、真っすぐに強く蹴ることをイメージしています。
◆一喜一憂している暇がない
――自分が信じたことをやり続けて試合に出られるようになって、自信になりましたか?
自信になりました。監督によってメンバー選考のやり方があると思うので、大事なのは上手くいった試合の次が大事で、次の週の頭の練習が大事です。良いプレーをしたからと言って、次の週の準備が変わることは絶対に良くないことですし、試合数が多いシーズンでは気が抜けません。
感覚的には、自信にはなっているんですが、毎回同じ準備をして、いつメンバー選考から漏れても悔いの無いように準備をしています。それでメンバー選考から漏れてもタイミングだなと思えるように、自分の中のやり方をあまり変えないようにしています。もしかしたら、その感覚は以前とは変わったところかもしれません。
――普段から一喜一憂せずに、心を安定させるような意識はあるんですか?
無いと言えば嘘になりますが、元々そういう感じです。喜んではいるんですが、やっぱりゴールは優勝で、負けている事実もありますからね。あとウイングで言えばトライを何本取ったとか、フランカーでは良いタックルをしたとか、言い方は悪いですけど、目に見えて結果が出る人は喜びやすいと思うんです。10番って、完璧な試合ってあまりないですし、めちゃくちゃパフォーマンスが悪くても勝てば良いですし、良いプレーをしても負けたら意味がないと思っているので、やっていて面白いんですが、そういう意味でも一喜一憂している暇がないかなと。
――ゴール成功率などは目に見えますよね?
大事だとは思うんですが、色々な仕事があるポジションなので、その中のひとつの仕事という感覚があります。大事な試合では勝敗を左右する重要なプレーではあるんですが、それ以外に戦術であったり、それをしっかりとチームに落とし込めたかとか、準備のところの方が大事で、そういう他の大事なところが上手くいっていないといけなくて、キックだけ上手くいくことってないと思います。自分のプレーだけに集中すれば周りがついてくるなんてことは無くて、周りと上手くスムーズに出来るようになればメンタル的に落ち着いて、自信が持ててキックもノッてくると思います。だから、プレーはぜんぶ繋がっていると思っています。
◆練習から完璧を求めない
――今の課題は何ですか?
やっぱり1試合の中で完璧がないんですが、どの選手でも良くない時間帯ってあると思います。今サントリーにも海外の素晴らしい選手が何人もいますが、そういう選手でも良くない時間帯って絶対にあると思います。そこでトライをされるほど悪いプレーにならなかったり、ちゃんと切り替えて挽回できたりしていますが、メンタル的に完璧にやろうとし過ぎていないから、彼らは上手くいかなかった時も焦らないんだと思います。
僕はもしかしたら、全部を上手くやろうとしてしまっているところがあるのかもしれません。ちょっと上手くいかなかった時に、「あーもっとこうしておけば良かった」って思ってしまうんです。メンタルの問題だと思いますし、そういうメンタル面が大事だと分かっています。
――そこに気が付いたきっかけは何ですか?
分からないですけど、練習中に「ギッツでもこんなミスをするんだ」ということがあります。試合中にとんでもないミスをすることは無いですが、例えば変なミスをしたとしても「次で取り返しているな」とか、「ミスを気にしないようにしているな」とか、海外で活躍している選手って、そういう切り替えが上手だなと感じます。僕も露骨には出さないようにしていますが、仮にミスを引きずっていても表には出さないですね。
試合の映像を見返す時には「このプレーの時にはどういうことを考えていた」って、既にポイントが分かっている訳です。そういうミスをした時にどうするかが、大事だなと思います。ただ、あまりネガティブに捉えているわけではないですし、これから学べる部分かなと思っているくらいです。
――そのために、普段からどういう姿勢で臨んでいるんですか?
適当なミスは良くないですが、まずは練習で完璧にやろうしないことだと思います。そうするとしっかりと判断をしてミスをした時に、「あの時にこういうミスをしたから、試合で同じ状況になった時には」と置き換えられるんです。だから、練習から完璧を求めない。練習なんだからもっと思いっきりやった方が良いし、いっぱいミスをした方が良いし、分からないことは分からないって言った方が良いし、そういうことが大事かなと思います。
――練習で思いっきりやってみて成功したことは、自分の武器になっていますか?
やっぱり通用するなって思うし、自分の強みの部分だけを頭に入れておけばいいと思っています。基本的には上手くいかないことを考えていて、グラウンド外でも、「このシーンは何となくやりにくかったな」とか「いつもここが上手くいっていないな」とか、そういうことをナアナアにしておくことが良くないと思います。そうしておくと、実際に試合でそういうシーンが起きた時に、「わーこれどうしよう?練習の時に上手くいってなかった」と思ってしまうので、自分の中でノートに書くなり、他の選手と話をするなり、本当に細かいところをクリアにするようにしています。ですので、チーム内での意思疎通は、出来ているかなと思います。
◆良いところだけを考えておけばいい
――上手くいかない時の状況ってどういう時ですか?
人によって受け取り方が違うんですが、例えば「今回は自分のミス」と思っていても、お互いに自分のミスと思っていて、変に気を遣って言い出せない時もありますし、もしかしたら根本的にそのプレーの前の段階で「こうだったから良くなかった」という場合もあるので、そこは話をしないと分からないですね。そういう細かいところの感覚は「あの時はこう思った。この時はこう思った」と共有しないといけません。
特に10番は仲間に合わせなければいけないポジションなので、「自分が悪かったじゃなく、自分の感覚で動いてもらえるようにしているな」というところが、試合に出ている選手を見ていると勉強になりますね。そこが面白いところでもあります。
――その他に課題はありますか?
試合に出し続けてもらっている間は、課題という捉え方をしない方がいいと思っていますし、良いところだけを見ておけば上手くいっているんだから、そのままやればいいと思っています。試合に出られていない時は良くないところを直していって100%に近づこうとしていたと思いますが、これからは上手くいっている時も上手くいっていない時も、ムラを出さないために、基本的に良いところだけを考えておけばいいと思っています。
基本は自分にベクトルを向けるんですが、なぜ出来なかったのかをしっかりと話して、その原因が自分であれば練習しなければいけないということだと思います。上手くいかなくなって試合に出られなくなったら、またそこから頑張ればいいだけなので、試合に出られなくなったらどうしようとかは考えてないですね。
◆全部が大事
――やっていて面白そうですね
サントリーに入って1試合も出られなかった時も経験していますし、それがワーストケースだと思っています。ずっと外から見ていることも、たまに試合に出ることも、先発やリザーブも、色々な立場を経験させてもらっているので、「試合に出られなくてどうしよう」とは思わないです。面白い時期でもあるんですが、試合に出られている分、どういうメンタルで練習しなければいけないのか、何が大事かということを一応分かっているつもりです。変なことを気にしないで、そのままやり続ければいいかなと思っています。
――チーム内の競争が激しさを増してきていますよね
練習から楽しいと思ってやっています。1年目の試合に出られない時も、サントリーの練習はキツいですが良いレベルで練習が出来るので、楽しいと思っていました。コーチも良い練習を組んでくれて、毎回同じ練習の繰り返しじゃないので、毎日いい気分でグラウンドに来られています。これまでと比べられないですが、全体として選手数が増えているので、同じ1キャップでも本当に頑張らなければ取れない1キャップになっていると思います。その点は難しいですが、試合に出た時にみんな達成感がありますし、勝つためにやっているのでメンバーに入っただけで達成感を得ていてはダメだと思いますが、でもそう思えるくらい、どの選手でも自信を持って試合に出られるくらいの練習をしていますし、良いことではあると思っています。
――今シーズンの目標は?(※4月2日に日本選手権の中止が発表され2020シーズンが終了)
全部勝つことです。サントリーだから大勝しなければいけないとか、トップ4に入るのが当たり前で、そこから負けられない戦いが始まるとかじゃないんです。サントリーはもうチャンピオンじゃないので、目の前の試合で思いっきり戦えばいいし、そこに出られる人が頑張ればいいと思うし、その前の練習からもっと頑張る必要があると思います。
ボーナスポイントがどうだとか、この試合が山場だとか、僕は無いと思っていて、全部が大事だと思っています。みんな1キャップを取ることがどれだけ大変かを分かっているはずだから、まずは全部勝つことが目標です。そして、相手がどうこうじゃなくて、サントリーがどういうラグビーをするかを示すことが大事だと思います。今それが出来始めているので、本当にちょっとずつかなと思います。
――日本代表についてはどうですか?
呼んでいただけるなら頑張りますけど、もともと代表に入りたいからチームでパフォーマンスを出すという考えが全くないんです。サンウルブズには一度行きましたが、代表関係で呼ばれたのが、U17日本代表で、それ以降は呼ばれていません。ただ、高校でも大学でも、最後の年にはベストのパフォーマンスを出していた自信はあります。
だから、選ばれたのなら頑張りたいですが、「日本代表のために絶対にチームでパフォーマンスを上げるんだ」と言えるタイプではないですし、サントリーで自分が納得できるプレーをしたいと思っていて、その結果として日本代表があるのかなと思います。優先順位じゃないですけど、日本代表のためにとバンって言う感じじゃなくて、サントリーの試合が大事です。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]