2020年3月 6日
#678 江見 翔太 『ディフェンスが一番のチームになる』
チーム内の競争が激しければ激しいほど、選手たちは自ら成長していくのではないでしょうか。先週の小澤選手に続き、今週もまた落ち着きのあるインタビューとなりました。(取材日:2020年2月下旬)
◆幸せな気持ちで取り組めています
――2年ぶりのトップリーグで、開幕戦でのリザーブも含めれば第6節まで3試合に出場して3トライですね
すでに2敗してしまっているので、トップ4に残るためにはここからの試合が重要ですし、ヤマハやパナソニックの上位チームとの対戦も残っていて、絶対に落とせない試合が続いていく上、ボーナスポイントもしっかりと取らなければいけないと思っています。その中で、僕自身としては、しっかりと結果を残していきたいと思っています。
――日野戦では1トライ取りましたが、全体的にどうでしたか?
日野戦では前半30分の時にHIA(Head Injury Assessment)で一時退出して、後半から戻りましたが、10分くらいで入替となってしまって40分くらいしかプレー出来ませんでした。ですので、パフォーマンス的には不完全燃焼でした。
――トヨタ自動車戦については?
トヨタ戦については、前の週の東芝とのトレーニングマッチでしっかりとアピール出来て、チャンスをもらうことが出来ました。しっかりと準備をして臨んだ試合だったので、アタックもディフェンスも100点満点ではなかったですが、まずまずのプレーが出来たかなと思います。
――リハビリ期間が長く、ようやくトップリーグでプレーが出来ていると思いますが、やはり楽しいですか?
楽しいですよ。「ラグビーやってるなー」って感じています。リハビリ期間は辛かったんですが、そこで新しい考え方や見え方が出来るようになったので、良い意味で幸せな気持ちで取り組めています。今シーズンは体制が変わって、やっているラグビーにも変化が出てきているので、そういった意味で新しい環境で取り組めていると思いますし、新しいチャレンジも出来ていると思います。
――新しい考え方とはどういったものですか?
沢木さん(前監督/現サンウルブズコーチングコーディネーター)のアタッキングラグビーでは、みんながオプションになって空いているスペースを攻めるという、ボールを保持して相手を崩していくというラグビーから、今はどちらかと言うと、相手によって攻め方を変えつつどう崩していくかというラグビーです。ベースの部分は変わらないんですが、崩し方の部分をよりシステマチックにやっています。その考え方が自分の中で新しいかなと。
◆選手の意見を取り入れてくれる関係性
――チームとしての戦い方は自分たちで考えるんですか?
トップリーグカップ2019の時から、選手主導で考えて、選手とスタッフが上手くコミュニケーションを取って「どういうラグビーをやっていきたいか」を考えてきました。そこでコミュニケーションが取れているから、出来ているところがあると思います。すべてを落とし込まれてやっているわけではなくて、選手も考えてやっていますし、スタッフも選手の意見を聞いてくれて、それを取り入れてくれたりしています。もちろん様々なシチュエーションをスタッフが考えてくれている部分はありますが、そこで上手くリンク出来ていると思います。
――どういうラグビーをやりたいんですか?
僕らはアグレッシブ・アタッキング・ラグビーなので、アタックをするためにどうしなければいけないのかを考えています。アタックをするために、今シーズンのチームとしてのゴールは、ディフェンスが一番のチームになることを掲げています。トップリーグの中でディフェンスが一番のチームになりたいわけじゃなくて、アタッキング・ラグビーをやるためにディフェンスでしっかりとボールを奪い返して、アタックに切り替えるためにやっています。
――ずっと攻め続けることが理想ですか?
ボールを手放さなければいけない状況はあると思いますが、いかに自分たちがコントロールしてボールを運べるかだと思います。
――ディフェンスについても、選手主導で考えるディフェンスとスタッフから落とし込まれるディフェンスのバランスが大事になるのでしょうか?
やっぱりディフェンスでもゲインラインを押し上げていくことが理想で、スタッフから「この場面ではシステマチックにやっていこう」と落とし込まれる部分もありますが、机の上で考えたこととグラウンドで実際に起きることとは違うこともあるので、そこで選手からも意見が言えて、その意見を取り入れてくれる関係性は出来ていると思います。
◆良いところをアピールしていく
――お互いに意見を言い合いながらチームを作り上げている途中ということでしょうか?
それはあると思います。トップリーグに向けて10月からチームが始動して、色々と模索しながらという部分があって、その上でワールドカップメンバーや新しい外国人選手が加わりました。監督も外国人ですし、チームとしても、コーチングスタッフの中でも、よりコミュニケーションを潤滑にするために取り組んでいると思います。
最初の頃は、言葉ひとつのニュアンスで外国人選手には伝わるけれど、日本人選手には伝わらなかったりしたので、上手く噛み合わないこともあったりしました。今は共通のワードであったり共通の認識が持てているので、作り上げているものがどんどん積み上がっていっているのかなと思います。
――新監督はどうですか?
すごくポジティブだと思います。コーチングスタッフにもメディカルスタッフにも外国人スタッフが入ってきて、その人たちも明るくて、怪我をしている選手たちから話を聞くと、「メディカルのスタッフが明るいからやっていけている」と言っていました。そういう意味では、良い意味で海外チームのような雰囲気があるのかもしれません。
――ポジティブの意味としては、良いところをよく見るというところもあるんですか?
そうですね。良いところをよく見ますし、日本人って良い試合でも「あのパスはもっと精度高く出来たかもしれません」というネガティブな部分ばかりをピックアップしがちだと思いますが、外国人って良いところをアピールしていくイメージなので、そこはすごく大事なところなんだなと思いました。
――そこがどう自分に影響を与えていますか?
メンタルの部分はもちろんですが、プレーが変に保守的にならないと思います。自分が上手く発言できる場になっているので、質問することが恥ずかしいということはありませんし、オフロードパスのようなフィフティ・フィフティのようなプレーにもチャレンジしていこうという雰囲気があります。チャレンジする姿勢が大事だと改めて感じましたし、そこがポジティブな状態に繋がっているのかなと思います。
◆スピードはこれからも上がる
――ライバルが多いポジションですが、自分の課題とスタッフからの課題は一致しているんですか?
足りない部分は自分自身で分かっているつもりですし、他の選手のプレーを見て「ああいうプレーが出来ればな」と思うこともあるので、そこは上手く自分で取り入れつつ、自分の強みは消さないようにと考えています。僕はどちらかと言うと、弱みを消していくよりも強みをどんどん大きくしていって弱みを見せないようにする方かなと思います。
同じウイングでも選手によって特徴は違うので、他の選手の良いところを盗もうとしてもすぐに出来ることではありません。それよりは自分の強みをより出せるような位置でボールをもらうとか、自分の強みを出せるようなディフェンスをするとか、そういうことを考えています。
――江見選手の良いところはやり切るところではないかと思います
アタックでもディフェンスでもやり切った結果がダメな方に転がっても、やり切っていると分かれば味方がサポートしてくれますし、例えばディフェンスで中途半端な位置だと味方もサポート出来なかったりしますが、前に詰めるなら詰めてしまった方が、それに味方が反応してくれます。
昨年の怪我する前あたりからディフェンスを強化しようと思っていましたし、怪我をしている時にもヤスさん(長友泰憲/広報兼普及)とかと話をしたりして、ディフェンスの上がり方とかは少しは上手くなったかなと思います。
――長友さんから教えてもらっているんですか?
そうですね。僕から聞くこともありますし、ヤスさんからアドバイスをくれる時もあります。ヤスさんは、いまチームがやっているような、前に出てウイングをシャットアウトするようなディフェンスが上手いので、前に出るタイミングとかどこを見ているかとか、そういうことを聞いたりしていました。
日本でラグビーワールドカップがあり、会場でも見ることがありました。ウイングがどのタイミングでどう上がっているのか、後ろのスペースをどう守っているかを直接見ることが出来たので、とても良い機会になりました。
――ディフェンスがアタックにも良い影響を与えていますか?
アタックは昔ほど思い切りの良さがなくなったかなと思います(笑)。スピードはこれからも上がると思っているので、そこは焦らずに取り組んでいこうと思います。
◆焦らないようになりました
――今の課題は何ですか?
ディフェンスの上がり方は良くなったので、あとは仕留めるところだと思います。そこをチームとしても確固たるものにすることだと思います。そのためにタックル成功率も上げていかなければいけないと思いますし、裏のスペースに対しても、マツ(松島幸太朗)が後ろにいれば安心ですが、ポジショニングチェンジしていて後ろにマツがいない状況でも、「江見がいるから大丈夫」と思ってもらえるようになりたいです。課題ということで言えば、良くなってきているところを更に大きくしていくという感じですかね。
――視野が広がったように感じます
ディフェンスの話ばかりになってしまいますが、前の状況を見たり、後ろから誰がサポートしてくれているのか、内側に誰がいるのかが見えるようになってきたと思います。
――怪我のケアについては?
筋肉系の怪我で苦しみましたし、今は温かくなったり寒くなったりと気温差があって怖いので、朝、筋肉を温めるようにしたり、試合前の移動では座りっぱなしになるので、そういう状況でも筋肉をほぐすことを意識しています。自分でストレッチの器具を持ち歩いて、どこでもストレッチが出来るようにしています。怪我をしたことでよりケアをするようになりましたね。以前からケアの重要性は理解していたつもりでしたが、より身に染みました。
――チームとしても個人としても、どういう姿になっていきたいですか?
神戸製鋼に対して、昨シーズンのリーグ戦と決勝、2019年カップ戦の準決勝、そして今シーズンのリーグ戦で負けて4連敗中で、その試合すべてに僕自身が絡めていなかったので、それが悔しいですし、チームが負けているのも悔しいです。トップ4に残れば、どういう組み合わせになるかは分かりませんが、また神戸製鋼と対戦することになると思うので、その試合に出場して勝つことを、個人的にはターゲットにしています。そうなれば日本選手権優勝も見えてくると思うので、そこを目指していきたいと思います。
もちろん試合には出たいですが、例え、自分のパフォーマンスが出せた上でのメンバー外であれば焦らないようになりました。またチャンスは巡ってくると思っていますし、しっかりと自分のパフォーマンスが出せて満足できるプレーが出来ていて、それを評価してもらえていれば、特に焦る必要はないと思っています。
もちろん出られる試合は全部出たいですし、毎週、次の試合のメンバーに選ばれるように試合後のオフを過ごしています。ただ、そういう状態でもメンバー外になった時に、どうチームに貢献するかを考えるようにしていますし、そういうマインドになっています。
なんやかんやで、4月からは7年目になるんですが、自分でもビックリですよ。ですので、そういうチームでの役割も必要になってくるのかなと思いつつ、まだまだ心は子どものままなので(笑)、ラグビーを楽しみながら頑張りたいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]