2020年2月21日
#676 森川 由起乙 『自分が居心地良くなるためには相手も居心地が良くなければいけない』
浮き沈みなく安定することがテーマだと、前回のインタビューで語っていた森川由起乙選手。今シーズンその課題を克服したかに見えますが、本人はどう思っているのでしょうか。現状そして目標をベースに聞いてみました。(取材日:2020年2月上旬)
◆開幕戦で1番
――今シーズン、プレーが安定してきたのではないでしょうか?
自分の不安であった部分とか、自信はあっても確信に出来ていないこととか、そういうことをひとつひとつ消していって、それによってチームからの信頼も得ることが出来て、今シーズンの開幕戦で1番をつけることが出来たと思っています。
安定してきたかどうかは考えていなかったですけど(笑)、自分の持ち味であるフィールドプレーを出すためにもスクラムの安定感などがないとブレてしまいます。そういった意味でも、サントリーに入って今が一番スクラムが安定しているので、フィールドプレーも出せているのかなと思います。
――自信が確信にという話がありましたが、どうやって自信を確信に変えることができたんですか?
今までチーム内で良いスクラムが組めても、試合になると急いでしまい、反則を取られてしまったりしました。全然実力が出せなかったんですけど、今は落ち着いて1、2、3番が信頼し合って8人でスクラムが組めています。普通にスクラムを組めて、普通にペナルティーが取れるようになってきました。練習が練習で終わらずに、練習でやったことが試合での武器になってきたので、そう感じたんだと思います。
――視野が広がったんでしょうか?
これまではひとつの組み方しか出来なくて、自分がどういうスクラムを組めば強いのかも分かっていませんでした。その基礎となる部分を、アオさん(青木佑輔スクラムコーチ)と話をする日々の中、自分でも映像を見ながら研究して、組んだ後の自分の癖であったり、対3番と戦う時にどういう組み方をした方が良いのかとか、ずっと取り組んできました。スーパーラグビーの試合でのスクラムなども見てきました。
けど、急に良くなったんですよ。いつ良くなったのかも分からなくて、2019年の春シーズンは全然良くなくて、カップ戦では慎太郎さん(石原)が日本代表でチームを離れたので、耕太郎さん(田原コーチングコーディネーター)から「次からはスタートで行くから」と言われて、そこから責任感などを感じたと思います。
先発だとプレー時間も長くなりますし、自分がやりたいこととか、どうすればチームに貢献できるかなどを考えて、より一層スクラムを考えるようになりました。責任感も大きかったので、やるしかないという状況になったことが影響しているのかもしれません。本当に必死に何事にも取り組んで、いつもはシーズンオフになるとスクラムの形などを忘れてしまっていたんですが、トップリーグのシーズンインにも自分のベストの形で持って行けたので、しっかりと身についていると感じました。
◆修正することが出来るようになった
――責任感を持つということがポイントだったんですね
ずっとリザーブが多かったので、出場時間も短かったですし、スタートから出てゲームをコントロールするということに慣れていなかった部分もあったと思います。カップ戦でスタートから出て、それを経験できたことが良かったのかなと思います。
――プレッシャーもあったと思いますが
リザーブでは経験する時間が短いですし、試合の感覚も全然違うので、そういった意味でカップ戦でしっかりと経験が積めて、それが自信にも繋がったと思います。結果として優勝は出来ませんでしたが、スクラムでは通用した場面がたくさんあったので、ポジティブに考えられ切り替えられました。
――外側から見る目も持てるようになったんじゃないですか?
これまでは試合の途中でスクラムを立て直すことが出来ませんでしたが、今では多くのスクラムを見てきましたし、自分の癖も理解しているので、2番とコミュニケーションを取って、修正することが出来るようになったと思います。
――自信を持つことで安定したんですね
プレッシャーはありますけど、やっぱり楽しいですよね。指摘をされ続けたスクラムも、最近は指摘されなくなりましたし、自分で考える形に対して皆がサポートしてくれています。だからこそ、自分で自分のスクラムを見なければいけませんし、何が悪いのかにも気づいていかなければいけません。そして、分かったからには共有しなければいけませんし、チームでどういうスクラムを組んでいくのかを、言っていかないとダメだと思っています。
「このスクラムはどっちが悪いんだ?自分が悪いのか?」ということもなく、だいたい分かるようになりました。上手くいかない時って誰かのせいにしてしまいがちですが、そういう部分で少し余裕が持てています。コミュニケーションの質であったり、コミュニケーションの取り方だったり、喋り方もそうですが、「俺はこう思っているけど、どう思う?」とか、良いコミュニケーションの取り方が出来ていると思います。相手もコミュニケーションが取りやすいようになっていると思うので、スクラムで自分と関わる人とは上手くコミュニケーションが取れていると思います。
――そこが楽しめているところですか?
まだシーズン序盤ですし、4節を終えて2勝2敗という状況で、開幕から3節までは先発で出場しましたが、まだ何も残せていなくて、結果は最後にしか出ないので、まだまだだと思います。
◆組みやすい位置を見つけると成長していける
――スクラム以外についてはどうですか?
まだまだ本調子ではなくて、もっともっと目立っていかないといけないと思います。スクラムが安定して、フィールドプレーが普通だったら、普通の1番の選手だと思います。スクラムが脅威になって、フィールドでも相手に嫌がられるようなプレーをしていかないと、ずっと1番をつけ続けることは難しいと思っています。サンゴリアス内でも、もっともっと競争していかないと自分自身も成長していかないので、アグレッシブにチャレンジしていかなければいけないと思います。
――アタック、ディフェンスそれぞれのフィールドプレーについてはどうですか?
タックル回数は多くなっているんですが、精度の部分ではまだまだ低いので、回数はそのままで90%、100%と精度を上げていきたいと思います。どこのチームにも脅威となる選手が多いので、ひとつのミスも出来ない状況だと思います。ミスを恐れる必要はないと思いますが、チャレンジしていきながら精度を上げていきたいと思います。
今までは、特にスクラムで、自分のことでいっぱいいっぱいでしたが、スクラムの土台が出来たので、周りを見る余裕が少し出てきていると思います。そこで勘違いしてはダメですが、そういう部分も含めて自分自身にしっかりと矢印を向けて、まずは勝つことが優先で、その中でチームに貢献できるようにやっていきたいと思います。
僕はあまり喋ることが得意な方ではないので、プレーで示し、まずはフォワードが相手より優位に立ち、サンゴリアスらしい試合展開に持っていき、勝つラグビーをしていきたいと思います。
――祝原選手のインタビューで「森川選手が教えてくれて感謝している」と言っていましたが、実際にはどういう意識でやっているんですか?
僕もアオさんに教えてもらいましたし、チームとしてスクラムを武器にすると言っているので、同じポジションとか別のポジションとか関係ないですし、試合ではどういうメンバーでスクラムを組むかも分かりません。自分が誰と組んでも100%のスクラムを組むためには、色んな人とコミュニケーションを取らなければいけませんし、色んな人と組まなければいけません。イワ(祝原涼介)も僕と同じでフィールドプレーが武器で、スクラムでの不安が取り除かれることによって、本来の力が発揮できると思っています。
ポジション争いに負けることは怖いんですが、イワは僕と似ていると思っていますし、見ていて「過去の自分と同じところで悩んでいるな」って感じているので、「俺はこういう組み方で良くなったけど、イワにはイワの組みやすい位置があるから、その位置を見つけるとどんどん良くなって成長していける」という話をしたりします。だから、僕がやっていた練習以外での練習を、練習後に一緒にやったりもしています。
――優しいんですね
いやいや、そんなことないです(笑)。
◆色々な対戦相手の3番と組みたい
――どういう姿を理想としていますか?
試合の流れを変えられるのって、スクラムであったり、フォワードだと思うんです。ボールが動き始めれば誰もが頑張りますが、そのボールが投入されるところは絶対にフォワードになるので、そういった局面で試合の流れを一気に持ってこられるようなスクラムが組めるように、サンゴリアスとしての武器にしたいと思っています。
――スクラムでは特にコミュニケーションが重要になりますか?
そうですね。自分が居心地良くなるためには隣とのコネクションを保たなければいけませんし、相手も居心地が良くなければいけません。"自分だけ"という考え方が一番の割れ目になります。自分だけが調子が良ければいいというものではなくて、みんなの調子を合わせないと8人では押せないと思いますし、そういった意味でコミュニケーションは大事ですね。
あと選手がいつ入れ替わるかは分からないので、誰と組むことになっても毎回同じ自分のルーティーンを守れるように、他のポジションの選手とコミュニケーションを取ることは欠かせません。
――コミュニケーションの方法としては言葉と体があると思いますが
例えば2番が駿太(中村)であれば、悪い癖が出ないようにレフリーのコールがかかるまでずっと話し合ったりしていますし、北出とだったら、「この位置にいて欲しい」と言われるので、その位置にいることを意識して臨みますし、終わった後にどうだったかを毎回聞くようにしています。ホリ(堀越)も大体そんな感じで、人によってコミュニケーションの取り方が全然違いますし、僕が求めることと相手が求めることも全然違うので、自分の要望を伝えつつ、相手の要望に応えながらやっています。
スクラムはフッカーが変わるだけで全然変わってきます。身長も違いますし、考えていることも違うと思いますし、攻め方も変わってきます。個々の組み方は自分の得意不得意があって、そこを理解した上でサンゴリアスのスクラムが組めるようにしています。
――そうなってくると、他のチームも含めて色々な人と組みたくなりますよね
なりますね。ですが、サンゴリアスのフッカーはかなりレベルが高いと思っています。その中でもアオさんが一番凄くて、そのアオさんにみんなが教わっています。他のチームの状況は分かりませんが、サンゴリアスでは1番も2番も3番も競争率が高くて、誰がメンバーに入ってもおかしくない状況です。どのチームの選手も成長段階で、怪我もあるので全く気を抜けない状態です。
僕としては色々な2番と組みたいというよりも、色々な対戦相手の3番と組みたいという想いがありますね。まだ日本代表にもなっていないですし、サンゴリアスの公式戦でしか対戦相手と組まないので、もっと引き出しが欲しいと思っています。
◆分析されても勝つスクラムを組むにはどうすればいい
――日本代表についてはどうですか?
なりたいですけど、そこはあまり意識し過ぎずというか、まずはサンゴリアスで試合に出続けることが一番だと思っています。過去を見ても、サンゴリアスでしっかりと試合に出て活躍している人が日本代表に選ばれているので、まずはそこを目標にして、サンゴリアスで試合に出続け活躍することを考えています。
――それが今シーズンの目標でもありますか?
そうですね。あとはチームとしても個人としても結果を出したいですね。昨シーズンのトップリーグの決勝は5対55で大敗して準優勝だったので、どこが相手であろうが、最後は一番上に立ちたいです。それに僕は1番をつけて優勝したことがないので、しっかりと1番のジャージを着て優勝したいと思います。
――そのために大事なことは何だと思いますか?
どのチームもレベルが上がっているので、ディフェンスから入る試合が多くなっていると思います。第3節の神戸製鋼戦が、試合の入りとしては一番良かったんですが、その後お互いにミスが多くなったと思います。やってきたことは間違っていませんが、勝ち切るための熱量が上回れなくて負けてしまったり、普段しないようなミスをしてしまっていたので、そういうところでの経験不足などで負けていたと思います。
僕らはもう失うものはないですしチャレンジャーです。てっぺんを取るまではずっとチャレンジャーですし、簡単には取れないと思っているので、まずは僕自身が試合でのひとつひとつのプレーの精度を上げてチームに貢献することと、それをチーム全員が同じ方向を向いて練習から出し切ることを積み重ねていけば狙えると思います。
力は十分にあると思いますし、噛み合った時って誰も負ける気がしないですし、試合を見ている人も「これがサンゴリアスやな」という試合展開になると思います。そういう状態になればてっぺんを取れると思うので、そういう状態になれるように、まずはスクラムで試合をコントロール出来るように、毎試合そういうスクラムを組めるようにやっていきたいと思います。
――100%楽しめていますか?
毎回のスクラムが楽しいですね。チーム内でのスクラムでもやってやられての関係なので、「分析されても勝つスクラムを組むにはどうすればいいんやろう」とかを考えてやっているので楽しいですし、相手チームと組むスクラムはもっと楽しいですね。相手にプレッシャーを与えられるようにはなってきましたけど、急ぎすぎもダメですが試合の序盤で優位に立てるようなスクラムがもっと組めるようになりたいと思っています。
80分をかけてスクラムでジャブを打ち続けて勝つというよりも、前半のうちに勝って、あとの40分間はずっと勝ち続けるという方が、チームにとっても良い勢いをつけられると思うので、80分の中でどれだけ早く相手よりも優位に立てるかを研究しながら精度を高めていきたいと思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]