2020年1月17日
#671 大越 元気 『速く動いて速く仕留める』
開幕戦でリーグ戦初キャップを獲得した大越元気選手。ワールドカップ期間の特別な体験も含め、これまでと何がどう変わったのでしょうか。現状の想い、そして今シーズンへの展望を訊きました。(取材日:2020年1月上旬)
◆ボールを速く出す
――開幕戦の東芝戦がトップリーグでは初出場でしたね
カップ戦しか出られていなかったので、素直に嬉しかったですね。短い時間でしたが、メンバーに入るためにずっと準備をしてきたので、初めてトップリーグの試合に出場できて嬉しかったです。
――もっと早い時間から出たかったんじゃないですか?
ウズウズしていました(笑)。
――後半30分過ぎ、あの場面での出場で、どういうところを意識したんですか?
まずは1トライを取りに行くことを考えましたし、「残り時間も少ないから、どんどんボールを出してテンポを上げるように」と指示を受けていました。もう少し出場時間が長ければ、コントロールしなければいけない場面もあったと思いますが、あの時間帯であれば速くリサイクルしてトライを取りに行くということが最優先でした。自分が考えていた状況とは違いましたが、あの状況にしっかり対応してやろうと思っていました。
――意識したことは出来ましたか?
そうですね。結果として、サム・ケレビが1つトライを取ってくれました。彼の個人技の部分もありますが、ボールを速く出すということに関しては出来たかなと思います。
◆自分が何をしなければいけないか
――開幕戦のメンバーに入るという意識はどの辺りから持っていたんですか?
トップリーグカップ2019が終わってから、ずっと意識してきました。カップ戦に出場し、神戸製鋼に負けて悔しい想いもしましたし、そこからオフに入り、ワールドカップがあり準備期間が長かったので、そこでもう一度自分なりに準備をして、チームが再始動する時には100%以上の力が出せる状態になっていようと思っていました。日本代表選手が戻って来ても練習試合などでしっかりとアピールして、トップリーグのメンバーに入ることを考えてきたので、カップ戦が終わってからずっと開幕戦をターゲットに準備をしてきました。
――自分ではどこが良くなったと思いますか?
試合の戦術であったり、チームの決め事であったり、この試合で自分が何をしなければいけないか、フォワードにどう指示しなければいけないかという部分が合宿でクリアになって、そこが良くなったと思います。
――なぜクリアになったんですか?
今までは、そこを「もっと理解しなければいけない」と、剛さん(有賀バックスコーチ)や他のスタッフからも言われていて、まずはそこを変えなければいけないと思って取り組みました。
――どうやって変えていったんですか?
本当にラグビーに向き合うと言うか、準備であったり、映像を見返したり、グラウンド外のところで如何に勉強をするか、そういう時間が格段に増えましたね。
――それは意識の問題ですか?
意識的にそういう時間を増やしました。やっぱり試合に出させてもらうことになれば、そこには責任がありますし。そのための準備をしなければいけないと、試合に出られない期間で学んできました。
◆改善点のアドバイス
――今は自信を持っていますか?
もっともっとやらなければいけないと思いますが、ベースのところで言えば、ある程度は自信がついたかなと思います。
――それにはワールドカップ期間中にイングランド代表チームに参加した経験も活きていますか?
その経験も自信になりました。ワールドカップ期間中はチームのオフ期間でしたし、自分としても開幕の東芝戦に向けて頑張ろうと思っていた時で、たまたまエディーさん(ジョーンズ/ディレクターオブラグビー)にあのような機会をいただき、トップの選手と一緒に練習をさせてもらい、とても刺激になりました。あそこでエディーさんから「ここは良い、ここはダメ」と、良い所は褒めてもらい、改善点のアドバイスももらうことが出来たので、とても自信になりましたし、ワールドカップの準優勝チームに帯同できたことは、とても有意義な時間でした。
――具体的にどういったアドバイスがあったんですか?
ラックに入る時に、投げる方向によって斜めに入るのではなく、しっかりと真っ直ぐ入って、両サイドをしっかりとチェックすることと、「ボールを速く捌くことが持ち味なんだったら、もっと速くボールを出すためにフォワードを動かすコミュニケーションを取るように」と言われました。
――フォワードにどう動いてもらうかも大事なんですね
そうですね。フォワードにしっかりとドライブしてもらい、自分が捌きやすいところにボールを出してもらうように言うこと、あとボールを速く出すためには、僕の技術の部分もありますが、フォワードに一歩二歩頑張ってもらうことが速い球出しに繋がると言われ、フォワードとコミュニケーションを取ってコントロールした方が良いと言われました。
◆人として学ぶことが多かった
――イングランド代表に帯同することは、どうやって決まったんですか?
最初にどういう形で声がかかったかは分からないんですが、何人か練習に参加した中で、ずっと呼んでもらったのが、たまたま僕だったという感じです。オーストラリア戦前の1週間、大分での合宿にも1人で参加させてもらったので、本当に素晴らしい経験をさせてもらい、感謝しかありません。
――ヘッドコーチのエディーさん以外にも、イングランド代表の選手やコーチなどから得たものはありますか?
イングランド代表の選手たちは本当にトップレベルの選手たちです。同じポジションのベン・ヤングスはスキルも高いですしキックもとても上手い選手なので、キックの技術を教えてもらいました。それ以外で言えば、人として学ぶことが多かったと思います。
僕は部外者なのに、良い形で迎え入れてくれて、練習にすんなり入れるようにコミュニケーションを取ってくれました。僕の方が参加させてもらっている立場なのに、最後はジャージをプレゼントしてくれて、「手伝ってくれてありがとう」と言ってくれました。そういう気持ちを持って接してくれて、本当に人として素晴らしい選手ばかりだったと思いました。
ワールドカップという大事な時期に、自分のことで精いっぱいな選手もいたと思うんですが、そういう状況の中でも僕に声を掛けてくれたり、アドバイスをしてくれました。大分では寝食を共にしたので、逆に気を遣ってもらったりして、本当に素晴らしかったです。
――イングランドが準優勝で悔しかったですか?
おこがましいんですが、悔しい気持ちになりました(笑)。
◆自分にベクトルを向けて
――サントリーの中でのチームNo.1は小ささだと自ら言っていて、イングランド代表の中に入ってもそうだったと思うんですが、そこで改めて感じた自分の武器は何ですか?
運動量です。速くポイントに行って、速く捌くこと。ディフェンスではピンチを察してそこにいて、小さくても体を張るというように、速く動いて速く仕留めるというところで勝負しなければいけないと思っています。
――そのモチベーションは何ですか?
今、素直にラグビーを楽しめていると思っています。気持ちに迷いがあると最初の一歩二歩が遅れたりするんですが、それが今スムーズに出ているので、本当に気持ちって大事だと思っています。そして、そのことによって楽しさを感じていますし、充実していると感じています。試合にも出させてもらって、「だったら、チームにために絶対にやらなければいけない」って思えて、そういう気持ちがあれば、更に一歩二歩と前に出ますし、チームのために自分の持ち味を出さなければいけないと思えますよね。
前回のこのインタビューで「過去は過去なので、今それを全部バッとそぎ落として、まずいちから始めなければ」と言いましたが、変なプライドは捨てて、いちからサントリーで頑張るという気持ちになってから、ベクトルを自分に向けて、考え方なども含めて変われたかなと思います。
――そこに気が付くのは、なかなか難しいことですよね
1年目の時にはもっと出来ると思っていましたし、そこでなかなか上手くいかずムズムズするような時に、当時現役だった宮本啓希さん(主務)にアドバイスをいただき、「自分にベクトルを向けて、変わらなアカン、変わらなアカン」と口酸っぱく言っていただきました。本当に感謝していますし、早いのか遅いのかは分かりませんが、そこに気づけたのが前回のインタビューのタイミングでした。
――宮本選手は現役を引退して主務となり、ずっとチームにいるわけですが、今でも色々と話をしたりするんですか?
試合のメンバーに入れば「おめでとう」と声を掛けてくれますし、試合の後などには「今日、良かったやん」って言ってくださったり、そういうのが本当に自信になりますし、「変わらなアカン」と言われた時期もあったので、そんな啓希さんからそういう言葉をいただけるということは、少しずつ変われているのかなと思います。
◆リスペクトしていますが負けたくない
――同じポジションに強力なライバルたちがいるわけですが、今はどんな気持ちで臨んでいるんですか?
「絶対に9番で試合に出たい」という気持ちは常に持っています。ユタカさん(流)もジャド(リチャード・ジャッド)もアッシーさん(芦田一顕)も、全員が良い選手でリスペクトしていますが、負けたくないですし、負けるつもりもなくて、それはユタカさんに対してもそうで、常にチャレンジする気持ちを持って臨んでいます。
――今シーズンの目標は?
本当にチームとして日本一になりたいので、それに対して自分が出来ることを、しっかりとひとつひとつやっていくことです。細かく言えば、しっかりと試合のメンバーに入って、9番で出場する試合を多く作って、その試合で勝って自信をつけて、しっかりと日本一になりたいと思います。
――開幕戦では負けましたが今の状況はどうですか?
終わってしまったことは仕方がないので、しっかりと反省して、もう切り替わっています。負けたからと言ってチームがやっていることが間違えているとは誰も思っていません。やることはブレていませんし、アグレッシブにアタックすると共に、ディフェンスにも力を入れてきたので、今シーズンは違うサントリーを見せるという想いが、良い方向に行っていると思っています。
――5月にはどういう姿になっていると想像していますか?
ここから全て勝って、ボーナスポイントもしっかりと取っていって、「トップリーグで優勝できて良かったな」って、みんなが笑顔になっていることを想像しています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]