2020年1月10日
#670 中村 駿太 『瞬間、瞬間、ひとつも気を抜ける場面はありません』
チーム内のライバルに、ワールドカップ2019の日本代表と日本代表最終候補の2人がいる中村駿太選手。新人の時からほぼ試合に出続けている中村選手は、今シーズンをどんな意気込みで迎えるのでしょうか。シーズンイン前週に話を聞きました。(取材日:2020年1月上旬)
◆個性をどれだけフィックスさせられるか
――トレーニングマッチにも多くのお客さんが来てくれている中、いよいよ4シーズン目のトップリーグが開幕します。今の心境は?
1月12日の秩父宮ラグビー場でグラウンドに入場した時にどんな景色が見られるのか、とてもワクワクしています。
――ワールドカップはどんな気持ちで見ていたんですか?
ベストは自分が日本代表に選ばれて、その場にいることでしたし、2019年のワールドカップに出場するということは不可能な目標ではなかったと思います。同じポジションの北出さんが日本代表に選ばれて、バックアップメンバーには後輩の康介(堀越)が選ばれていたので、もちろん日本代表を応援していましたが、どこか悔しい想い、あの場にいたかったという想いはありました。ですが、日本代表がベスト8になって、本当に感動しました。
――ネガティブになりそうなところで、どうポジティブに切り替えたんですか?
基本的に僕は、悔しくてネガティブになることがないので、自分のやるべきことをやって、4年後のフランス大会に向けてしっかりと準備をしようという想いがありました。そして目の前のトップリーグに向けて、ライバルの2人ともすごく良い選手なので、その2人にどうやって勝つか、そのために自分は何をしなければいけないのかということを意識して取り組んでいます。
――どうやって勝ちますか?
北出さんも康介も僕も、それぞれに個性があって、その個性をどれだけミルトン(ヘイグ監督)がやりたいラグビーにフィックスさせられるかだと思います。そういう面で言うと、自信はあります。
――ミルトン・ヘイグ監督がやりたいラグビーは見えていますか?
基本的にはこれまで積み重ねてきたものから大きくは変わりません。ミルトンから細かく「こういうプレーをして欲しい」とか言われていない分、自分で考えなければいけない部分がとても大きくあります。その中で、練習でのアタックやディフェンスで、自分の強みを出せるようになってきていると思います。
僕の強みはスキルの部分だと思っているので、決められたことだけをやるのではなくて、そこに自分の判断も入れつつプレーが出来るようになってきていると思っています。
――スキルの練習はいつやっているんですか?
スキル練習って、試合のインテンシティでやらなければ意味がないと思っています。サントリーの場合は練習のインテンシティが試合のインテンシティにかなり近いものになっているので、良い練習が出来ていると思います。練習の時間は他の選手と変わりませんが、そこに意思と意図を持って取り組んでいます。
――もともとスキルには自信があったんですか?
そうですね。尚且つ、そのスキルを試合で出せなければ意味がないので、練習でやっていることが上手く試合に出せていると思います。
あとはセットピースのところで、クボタとのトレーニングマッチでもそれなりに良くて、セットピースで他の2人を追い越せるかどうかだと思います。クボタはセットピースが強いチームなので、そういう相手に出来たので、手応えがありました。
◆中堅へと変わってくるタイミング
――シーズン目前の今のチームの状態はどうですか?
めちゃくちゃ良い雰囲気で、良い強度でトレーニングが出来ていると思いますし、ひとつのチームになってきていると思います。ただ、これからシーズンが深まりキツくなってきた時に、我々の力が試されるのかなと思っています。
――口調が落ち着いてきたように感じますが、それは自信があるからですか?
そんなことはないですけど、今年26歳で、四捨五入したら30歳です(笑)。後輩がたくさん入って来ていますし、若手から中堅へと変わってくるタイミングで、1年目と同じようにアタフタしていたらダメですよね。チームの中での役割も少しずつ変わってきています。
――前回のインタビューした時に比べると、だいぶ落ち着いたように感じます
そうですかね(笑)。昨年、結婚して、一家の大黒柱にならなければいけないのに、グワーって喋っていたら変じゃないですか。本当に周りの皆さんのおかげで成長できました(笑)。
――勝負の年になりそうですか?
それは瞬間、瞬間だと思います。ひとつも気を抜ける場面はありませんし、2番のジャージを着て試合に出るという自信はありますが、周りからの評価で言えば、他の2人は日本代表に選ばれて、僕は日本代表に選ばれていないわけなので、3番手と言われてもおかしくはないと思います。だから一瞬一瞬が勝負です。
――一瞬一瞬で勝負することはとても難しいことだと思いますが、どういうところに気をつけて取り組んでいますか?
2019年のトップリーグカップでは、日本人のフッカーは僕しかいませんでしたし、正直、ライバルがいなくて、上手く成長を加速させることが出来なかったと思っています。今は慢心を持てるような状況ではないですが、もう慢心することなく取り組んでいきます。カップ戦を戦っている時は、そんな感覚もなかったんですが、今はミスしたら終わると思ってやっています。ラインアウトのスローイングでも、「1本でもノットストレートをしたら来週外される」と、自分にプレッシャーをかけて取り組んでいます。
――その状況は楽しめていますか?
普通にエンジョイ出来ています。もちろん恐怖もあります。上手く言葉に出来ないですが。
◆ラグビーがやりたいという想い
――恐怖がありながらも取り組んでいくそのモチベーションは何ですか?
ラグビーが好きで、やりたいからじゃないですかね。不安はあるけど、それよりもラグビーがやりたいという想いの方が勝っているんだと思います。これまで整理して考えたことが無かったから、分からないですけどね。
昨シーズンまでは敬介さん(沢木前監督)が上手くプレッシャーをかけてくださっていて、スローイングを1本投げるだけでも震えるくらいでした(笑)。それくらいのプレッシャーを感じていたんですが、裏を返せば、それって自信が無かったと思うんですよ。今は練習や試合での成功体験があるので、ここでこうすれば出来るということが分かって来ているんだと思います。
――今、慌てふためくような状況を想像できますか?
思い描いている通りに行かなくなった時ですかね。今週はスクラム練習があまり良くなくて、少なからず不安な部分がある中でクボタとのトレーニングマッチに臨みました。このトレーニングマッチのファーストスクラムでバコーンって押されていたら平常心を保てない、焦りの状態になってしまっていたと思いますが、今のところの自分の想定が覆されるような状況にはなっていないかなと思います。例えばスクラムで言えば、周りに支えられていて、クボタ戦では由起乙さん(森川)、サミー(セミセ・タラカイ)がしっかりと支えてくれたと思っています。
――スクラムでは1列目の真ん中にいて、そこでの自覚はどうですか?
スクラムに関して言えば、もちろんリーダーシップは取らなければいけませんし、取るようにしていますが、それ以上に周りのサポートが大きいと思っています。
――他のセットプレーについてはどうですか?
ラインアウトやモールは良い感じで、自信がありますよ。クボタのラインアウトは、190cm中盤や2mクラスの選手ばかりで、逆にサントリーは小林とジョーディー(ジョーダン・スマイラー)は190cmを超えていますが、大島さんは180cmくらいですし、その中でしっかりとボールが取れているということは、スキルの部分で勝っていたからだと思うので、そこは自信になっています。
◆成功体験を得て自信をつける
――リーダーシップを意識していますか?
スクラムのところでは、もっとリーダーシップを取らなければいけないと思っています。上手くいかなかった時って、次に自分はどうしなければいけないのかということばかりを考えてしまうんですが、そういう場面でも周りにしっかりと指示を出さなければいけないと思いますし、そこを更に良くしていかなければいけないかなと思っています。
――そこが課題ですか?
そうですね。課題をクリアするためには、成功体験を得て自信をつけることだと思います。試合を重ねるごとに成果を出して、自分自身に対して自信をつけられれば、もっとリーダーシップを取れるようになっていくと思っています。
――今シーズンの目標は?
一番は怪我なく試合に出続けることですね。チームとしては、もちろん日本一です。
――フォワードとしてはどうですか?
セットピースで相手に脅威を与えられるようなフォワードパックになりたいですね。
――開幕戦に向けた意気込みをお願いします
フッカーはセットプレーの要のポジションだと思ので、そこでしっかりと相手に脅威を与えられるように頑張りたいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]