SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2019年12月20日

#668 中村 亮土 『終わりと始まり』

ワールドカップ日本代表12番として全5試合に先発出場した中村亮土選手。中心選手のひとりとして活躍したワールドカップを振り返り、今後への展望を語ってもらいました。(取材日:2019年11月上旬)

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◆自分のやるべきことをやるだけ

――ワールドカップが終わって、世界は変わりましたか?

変わりましたけど、変わっていくのはまだまだこれからかなと思っています。これからどう変わっていくかが楽しみですね。

――具体的に、いま感じる変わったこととは?

世の中の反応と、子どもたちが公園でラグビーをするようになったり、幼稚園の運動会にラグビーが入ったり、これまではラグビーが生活の中にあるということがなかったので、そういうことが嬉しいですよね。

――日本開催だったので、変わっていく様子を肌で感じたりもしましたか?

大会期間中はあまりテレビを見ませんでしたし、情報をコントロールしていた部分もあって、どれだけ盛り上がっているのかをあまり知らなかったんです。テレビを全く見なかったわけではないので、盛り上がっている様子を見たりもしましたが、実際に肌で感じたのは、鹿児島に帰って母校に行ったり、色々なところに行かせてもらって、そこで「やっぱり凄かったんだな」って思いましたね。

――実際にスタジアムでの雰囲気はどうでしたか?

開幕戦ではもっと緊張したり、込み上げてくるものがあったり、もっと色々なことを感じて高ぶると思っていましたし、そういう経験をしてみたいという思いがあったんですが、それが全くなかったですよ(笑)。僕としてはいつもと同じ試合というメンタルで臨めたので、「もうちょっと色々な感情を味わいたかったな」と思いました。

――それはいつも心がけていたことが開幕戦でも出せたということですか?

自信があったんじゃないですかね。緊張することもなく、自分のやるべきことをやるだけという明確なものがあって、それを遂行できる自信もあって、それがあったから今までと違った感情にもならず、いつも通り出来たと思います。そして、周りの固さも感じていましたね。ちょっと余裕があるからこそ、空気感にも気づけましたし、「なんかちょっと、ガチガチやん」っていう(笑)。

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◆キツい時にどれだけやれるか

――あのスタジアムの雰囲気であったり、観客のリアクションであったり、そういう部分は初めての経験だったと思うのですが、それについては何か感じましたか?

ワールドカップ期間中で、しかも日本開催でないと味わえないようなスタジアムの雰囲気はありましたね。何が違うかって口では上手く表現できないんですが、独特な雰囲気を感じました。

――そういう雰囲気を感じながらも自信が揺るがなかったのは自分に対しての自信だけじゃなく、チームメイトやコーチなどへの信頼がなければいけないと思いますが、周りへの信頼はどの辺りから持てたと思いますか?

厳密に言えば、宮崎合宿が終わってからだと思います。他のみんなが言っている通り、めちゃくちゃキツかったんですよ。自分もそうですけど、周りのみんなも1日1日出し切っていて、そういう毎日を過ごし合宿を終えたことで、チームに対しても自分に対してもリスペクトが生まれました。「みんな凄い。この合宿をよく乗り越えたな」と。キツい時にどれだけやれるかという人間に対して信頼が生まれると思いますし、チームで乗り越えたことでチームに対しての自信も生まれたんだと思います。誰も逃げずに、本当に凄いと思いましたね。

――コーチやスタッフを信頼していなければ、厳しいトレーニングに立ち向かうことも難しいと思いますが、それについてはどうですか?

2018年11月のツアーで、チームの方向性ややり方が固まって、「これをやったら勝てる」ということが明確になってきたので、選手としたら「確かに、これをやっていたら勝てるようになるわ」って思えるようになって、そこから信じ始めましたね。

その前の6月辺りからそういった雰囲気が出始めて、11月のツアーでは結果は出ませんでしたが、試合のレビューをした時に「これが大事って言っていて、出来ていなかったよね」って分かって、「自分たちがやろうとしたことが出来ていれば、確かに勝てるわ」って思えましたし、自分たちがやろうとしていることをしっかりと出来るように、細かいところにこだわってやっていこうと思えました。そこからは疑うことなく、ずっと信頼してやってきました。

――チームから「俺たちは勝てる」という雰囲気が出ていましたし、それが揺ぎませんでしたね

改めて、本当に良いチームだったなって思いますね。様々なチームから選ばれた寄せ集めのチームなのに、こんなに良いチームになって、そういうところに携われたのは初めてでした。

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◆日本代表メンバーが次に繋げていかなければいけないこと

――次回のワールドカップに活かすところはどこだと思いますか?

考え方とかは間違っていなかったと思います。メンタルやマインドセットの部分や、最後で裏切らないような、信頼関係が築ける構成であったり、そういう部分を大事にしていたので、そこは本当に大事だなと思います。「最後はこいつに託そう」と思えるような選手がチーム全員ではなければいけないということは、どのチームにも言えることですし、信頼している仲間と試合をするのと、信頼関係が出来ていない仲間と試合をするのとでは全然違ってくると思います。ただ、そういう関係はすぐに作れるものではありませんし、築き上げていかなければいけないものなので、この日本代表メンバーが次に繋げていかなければいけないことだと思っています。

――信頼関係を築く過程での選手同士のコミュニケーションはどうでしたか?

コミュニケーションは多かったと思います。グループでパッと集まって話をしていましたし、合宿などでは練習前に絶対に集まっていましたし、一緒に練習メニューを見て「この練習では、これを意識してやろう」とか、「昨日はこういうことが出来ていなかったけど、こういう意識を持てば次の練習にも活かされるよね」とか、繋がりを持ってコミュニケーションが取れたと思います。あと、「このグループがこうするためには、こっちのグループに対してこういうことを求めよう。もっとこういうことをやってもらおう」とか、そういう話がお互いで出たりしていました。それはフォワードとバックスというグループだけじゃなく、タイトファイブとバックロー、ウイングとか、9番10番12番のグループとか、そういうグループでも話していました。

――リーダー役の選手たちが、かなり考えてやっていたんですね

そうだと思います。「ミーティングをオーガナイズしてやっていこう」とリーダーグループで話していましたし、それがリーダーの役割のひとつでもあったので、そこはキツかろうが、天候がどうであろうが、そういうことに左右されずに継続してやっていました。

――リーダーグループのひとりとして、そういう経験をしたことは、どう身になっていますか?

試合をしている時は、仲間の声って聞こえにくかったりするんですが、練習の時から「こういうことを意識して、こういうパスが欲しい」と毎回コミュニケーション取ることで、言わなくても分かるような関係性になっていくことが分かるんです。それは時間をかけて話をしてきたからこそ出来たことであって、それがなかったら全然違うチームになっていたと思います。

――日本代表としての活動は、重ねた方が良いということですね

同じ時間を過ごしてやっていった方が良いと思います。時間をかけなければ出来ないこともありますし、ただ時間をかけるだけじゃなくその中での質も大事になるので、そこは大事になってくると思います。

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◆メンタルと実力がマッチ

――個人としては、上手くピークを合せられたと思いますか?

体のコンディションとしては、今回のワールドカップの時が一番良かったですね。調整が上手くいったと思います。メンタルは一定を保てたと思います。

――どうして出来たと思いますか?

何でですかね(笑)。自分に疑いがなかったのかなと思います。それこそ、ワールドカップ前のスピリッツ・オブ・サンゴリアスのインタビューで、「今は別に焦らなくていい」という話をしたと思いますが、ターゲットに向けて焦ることなくやって来たことで、全ての意識をそこに持って行けたかなと思います。

――中村選手は以前のインタビューで「やるべきことが分かっていて、自分は大丈夫だ」ということを言っていて、ワールドカップ期間中には、他の選手もそういうマインドになっていたように感じました。どうすればそういうマインドになれるんでしょうか?

本当に大丈夫だと思っていたんでしょうね。昨年の11月の時もそう思っていて、「オールブラックスに勝てるじゃん、イングランドに勝てるじゃん」と思えるところまで来ていたんですよ。そういうメンタルで試合に臨んだんですが、試合では負けてしまいました。それは、その時は実力が伴っていなかったんだと思います。それから合宿を重ねて自分たちの実力を底上げ出来たので、メンタルと実力がマッチしてワールドカップの状態までいけたんだと思います。

――ワールドカップ直前の南アフリカ戦では上手くいかなかったと思いますが、そこでは揺るぎませんでしたか?

それは全然問題なかったですね。「これさえしておけば勝てるのに」ということが明確になっていましたし、傍から見たら「そんなに良い試合じゃなかった」って思われたかもしれませんが、僕らとしたら意外とやれていたと思っていました。そんなに悪い内容じゃなくて、「なんでこれで自信をなくすの?」って思っていました。「良いゲームをしていたけど、最後のこの部分だけできていなかったから、こういう結果になった。そこだけであって、他のところは大丈夫だった」っていう思いがありました。実際に強かったんですが、お互いに余力を残した感じと思いましたし、やり切った感もなくて、あの試合で自信がなくなるということはありませんでした。むしろ、逆に自信になりましたよ。

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◆ベストを出せていたとしても勝てなかった

――ワールドカップでの5試合の中で、一番印象に残っている試合はどれですか?

色々な印象があるんですが、未来のことを言うのであれば、最後の南アフリカ戦ですね。あの強さにはビビりました。本当に強かったです。他とは一段階違うなと思いましたね。前半は2点差だけでしたが、特にフォワードの部分で巻き返せるような状況じゃありませんでした。推進力であったり、セットプレーであったり、コンタクトであったり、全てを含めてフィジカルの部分が違いました。

――これから乗り越えられるものですか?

乗り越えられると思います。そこはすぐにはできない部分だと思っていて、この土台をベースにして、時間をかけてやるしかありません。

――ワールドカップ前に感じた、オールブラックスに勝てるとか、イングランドに勝てるという思いはありますか?

あの南アフリカには、今のところはありません。あの南アフリカに対して、「これをやっていたら勝てたな。こうしておけば勝てたな」という思いはありません。あの試合でベストを出すことは出来なかったと思いますが、例えベストを出せていたとしても勝てなかったと思います。

――それが決勝トーナメントに進むチームの実力でもあるし、そういう舞台で力を出せるかどうかの違いもありましたか?

違いますね。まずグループステージを必死に戦って勝ち上がったチームと、どこか余力を残して、決勝トーナメント前に12日間あいて優勝を目指しているチームとの差は、全然違いました。その週の疲労感も違って、みんな限界に近かったと思います。それが今の日本代表の実力だと思います。

――そこで優勝チームとの力の差を実感できたことは大きいですよね

だから、逆にこのレベルまで持って行ければ良いんだなと思えましたね。あのレベルに達すれば世界一が見えると思いますし、ワールドカップで優勝できるのかなと思います。

◆フィジカルでトップにならないといけない

――個人的に通用した部分と、更に伸ばさなければいけないところはどこですか?

そこが難しいところで、僕1人がレベルアップしたところで何も変わらないんですよ。チームとしてまとまった強さ、例えばフィジカル、それが強くならないと勝てないと思います。まとまった強さを生むために僕がやらなければいけないことは、まずはフィジカルの部分で、もっとハードに戦わないといけないと思いますし、それを打開できるような突破力やスキルを更に持たないといけないと思います。

――こうすればそれが身に付く、というビジョンは見えているんですか?

それはすぐには出来ないので、やり続けるしかないと思っています。今までやって来たことがワールドカップの舞台で出たので、今までやってきたこととこれからやっていくことをミックスすれば、もっと違う僕という選手が出来るのかなと思っています。

――ワールドカップの結果は、日本代表の努力もあると思いますが、2015年から各チームが努力をしてきた結果でもあったと思います。そういう意味で、この経験をもとにサントリーというチームが、次に目指すための課題はどう考えていますか?

ラグビーはフィジカルのスポーツなので、まずそこで戦えないと勝てないと思います。トップになるためにはフィジカルでトップにならないといけないと思います。それプラス、サントリーはボールを速く展開してアタックするチームカラーがあって、日本代表もその特性は一緒だと思っています。キックの使い方であったり、ボールの回し方も含めて、参考になる部分はあると思います。あと、オフロードパスなど細かいスキルを使った今らしいラグビーを、取り入れられるところは取り入れていった方が良いのかなと思います。

――ワールドカップを経て、更に自信がつきましたか?

日常から得られる自信とワールドカップで得られる自信は変わらないと思っています。例えば、「練習で成功しました。試合でちょっと良いプレーをしました。練習で出来るようになりました。試合で出来るようになりました。ワールドカップに出ました。良いプレーしました」っていう感じで、本当にちょっとずつなんですよ。ワールドカップに出て良いプレーをしたからと言って、急激にボーンって自信がつくわけではないんです。本当に土台からしっかりと作ってきて、ここで自信をつけたのは、その前段階があったからであって、次で更に自信をつけるためには、ワールドカップでこういうパフォーマンスがあったからというように、本当に一歩一歩という思いがあります。だから浮かれることもありませんし、いつも地に足をつけてやっていきたいと思っています。

――中村選手は前回のワールドカップで最後に選ばれず悔しい思いをしたと思いますが、日本代表に選ばれながらワールドカップの試合には出場できなかった同じサントリーの北出選手に何かありますか?

メンタルが強いと思いますよ。やっぱり、ちゃんとしています(笑)。本当に苦しい立場だったと思いますし、腹が立つこともいっぱいあったと思うんですが、芯に強さを持っていると思います。だから安心していたというか、僕も同じような経験をしたことがありますが、あまり心配をせずに見守っていたという感じはあります。そういう経験を乗り越えた選手は絶対に飛躍してくれると思いますし、して欲しいなと思っています。これからあいつの時代が来ますよ(笑)。大丈夫です。

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◆突破力とフィジカルを持ち合わせてコントロールする部分も

――今後、目指すところは?

いま12番には2種類いるんですが、突破力を重視したスタイルの選手が、いまの世界の12番です。僕はちょっと違って、10番と一緒にゲームコントロールして、ボールの運び方を考えながら動かして、全体を取りまとめていくような12番を目指していますし、そうなりたいと思っています。その上で、突破力を重視している選手に負けないくらいの突破力とフィジカルを持ち合わせて、自分の持ち味であるコントロールする部分も出来るような選手になりたいですね。

いま世界の12番でコントロールできる選手って、オーウェン・ファレル(イングランド代表)と僕とか、本当に少ないんですよ。突破力を重視している選手って、10番の動きであったり、コントロールすることってすぐには出来ないので、コントロールも出来てフィジカルなプレーも出来る選手になれるのは、限られた選手だけなんです。僕はその可能性があると思うので、そういう姿を目指してやっていきたいと思います。

――今回のワールドカップは、中村選手にとってどんなものでしたか?

難しい質問ですね(笑)。本当に、終わりでもあり、始まりなんですよ。僕は10年間、ここだけを目標にしてやってきたので、目標を達成しちゃったんですよね。でも、南アフリカという最強の敵と出会えて、「2023年も絶対にやりたいわ」という思いも生まれたので、もし今年のワールドカップに出られず、そういう経験が出来ていなかったら、ラグビーに対して魅力を失ってしまっていたと思いますし、いま持っているような気持ちもなかったと思います。ワールドカップに出て、経験をさせてもらったことで、次の未来を見出せたと思うので、終わりと始まりが重なった大会だったと思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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