2019年12月12日
#667 松島 幸太朗 特別編 『 自信 -後編-』
(前編 のつづき)
◆ディフェンスでしっかりと守れたからこそ
Q:選手がお互いに厳しいことを指摘し合える(言わなければならない時にはちゃんと言う)関係性には、いつ頃からなっていましたか?
ジェイミーはリーダー陣はそういうことも言わなければいけないと、宮崎合宿でも言っていましたし、堀江さんとかもそういうことをずっと言っていました。ジェイミーはリーダー陣があまり言っていないと思っているかもしれませんが、細かなグループを作って話し合いはしていたので、見えないところでもしっかりと言い合えてきました。そういうことがどんどん積み重なって、良い方向に行ったんじゃないかなと思います。
Q:One Teamになれたのは、どこがターニングポイントになりましたか?
難しいですけど、本当により強い絆になったと思うのは、ワールドカップでアイルランド戦に勝って、「今までやってきて本当に良かった」と思う気持ちが、みんなから出ていた時だと思います。それ以前からOne Teamとしてまとまってきたという感じもありましたが、本当にまとまったなっていうのがアイルランド戦だったんじゃないかなって僕は思います。
Q:アイルランド戦の前はどの選手も自信を持っていたと思うんですが、どうしてそういう雰囲気になれたと思いますか?
アイルランドはあまり調子が良さそうではなかったですし、「これはいけるぞ」という感覚がみんな一致したところもあったと思いますし、ロシア戦と比べても、コミュニケーションの量が格段に多かったと思います。
Q:アイルランド戦の最中にそういう雰囲気になっていったんですか?
プレーが止まっている時も「次は何をしようか」とか、「ここが良くないから修正しよう」だったり、そういうコミュニケーションがリーダーだけじゃなくて、フィールドに立っている15人がそうでした。リザーブのインパクトメンバーが入ってきてもしっかりとコミュニケーションが取れていたので、そこは本当に大きく違ったかなと思います。
Q:アイルランド戦はキャプテンのリーチ選手がリザーブに入ったりと、チームとしても変化を持って臨んだ試合だったと思うんですが、そういう部分でも選手としたらインスパイアされたりするんですか?
リーチがリザーブになって心配とかはしていませんでした。アクシデントがあり前半から出ていましたが、後半は出てくるという安心感がありましたし、前半から出てもしっかりとインパクトを与えて、タックルも連発していましたし、ボールキャリーでもチームに勢いをつけさせるプレーをしていたので、そこは「やっぱりキャプテンだな」という感じはしました。
Q:アイルランド戦でのプレーの感触はどうでしたか?
個人のことはほぼ考えていなくて、やっぱりこのチームが勝つためにはどうすれば良いかを一番に考えていました。強い相手に対しての試合では、ディフェンスが大事になってくるので、それはみんなが考えていたと思いますし、それでタックル成功率も高かったですし、綺麗にラインブレイクされることもほぼ無かったので、意思統一が出来ていたと思います。
Q:大会期間中に「トライを取りに行く」などあえて発言をして、自分にプレッシャーをかけているようなこともあったんですか?
実際にトライを取りたいという気持ちもあったので、自分にプレッシャーを与えているという感覚はなかったですが、試合中にトライを取りたいという気持ちになれる発言だったのかなと思います。
Q:アイルランド戦でOne Teamになった瞬間などはあったんですか?
ポイントは色々ありますけど、1試合通して、みんなのディフェンスが切れることなく、最後までディフェンスのコネクションが保てていたので、それをベースにスクラムであったり、ケンキ(福岡)のトライだったり、みんながフェーズを重ねて繋いだボールをしっかりと取り切れる場面など、数多くあったと思います。その中で、やっぱりディフェンスでしっかりと守れたからこそ、そういったキーポイントのところでよりまとまってきたんじゃないかなと思います。
◆小さいコミュニケーションが大事
Q:ディフェンスについては、4年前のスコットランド戦で足りなかった部分ですか?
状況が違って、前回は中日が少なかったですし、体力的に南アフリカ戦の後ということもあって、比べることは出来ないかなと思います。前回大会でもディフェンスが悪かった訳ではなかったので、シンプルにフィジカルの疲れが出たんだと思います。
Q:松島選手はずっと試合に出ていましたが、周りの選手が変わった時に、ディフェンスなどではどういう対応をしていたんですか?
練習からも良いコミュニケーションが取れていましたし、ただ、試合の環境とは全く違って、観客の声で自分たちの声がかき消されることもあったので、プレーが止まっている時に、いかに相手のプレーを予測して、バックスリーとして「どこにキックされるかもしれない」ということを話しただけでも全然違ってきます。細かいことでも言えば意識が変わるので、そういった小さいコミュニケーションをすることが大事なんだなと、レベルの高い試合ではそういうことが力になるんだなと、改めて感じました。
Q:アタックについても6月からは戦術を変えたりしていましたが、その辺りについて、試合中は誰がコントロールしていたんですか?
週の初めに、トニー・ブラウンが各選手に「こういう戦術でいくから、こう動いてくれ」という指示があったので、それを1週間かけて、例えばキックが多くなる戦術であれば、10番としっかり話し合いながら、「どういうキックが欲しいか」だったり、「ここに立ってくれ」だったり、そういうことを話していました。試合中はあまり声が通らないので、アイコンタクトで「蹴れる時は蹴れよ」というサインを出しながらやっていました。
Q:トニー・ブラウンコーチは、松島選手にとってどんな存在でしたか?
トニー・ブラウンの考え方は結構独特で、自分にない考えを持っている人なので、その点では全部が勉強になりますし、色々な考え方が出来るので、この先のトップリーグでも使える部分はいっぱいあると思っています。そういった戦術眼を見習って、自分の考えにアレンジしていきたいと思います。
Q:どういうところが独特なんですか?
毎日ラグビーのことを考えているんだなと伝わる戦術もありますし、本当に頭が良いなと思います。練習中の戦術の伝え方も、「よくこんな考え方が出来るな」と感じることもあったので、今までにない感じの発想をしていますね。
Q:この4年間で、オフロードやキックなど、チャレンジすることを最初からやったということが、ワールドカップで活きたんですか?
最初からオフロードやキックを使っていくと言っていたので、そういった徐々に積み上げてきたスキルが、ワールドカップイヤーでしっかりと出せる環境が整いました。そういった準備のさせ方が上手いと思いました。
Q:最初の頃はアンストラクチャーからのアタックを多く、選手としては不安に感じる部分はありませんでしたか?
それまではオフロードやキックをあまり使っていなかったので、オフロードを使うことでターンオーバーを避けるというチームでやっている選手もいますが、それまでとは真逆のことをやっているので、最初はやっぱりそれが合わないという意見もありました。それでもジェイミーたちは、自分たちの戦術だったり、何を取り入れているかということを自信を持ちながら、選手たちにしっかりと訴えてきました。オフロードはその結果がワールドカップで出ていましたし、キッキングゲームも最初に取り入れた時よりも間違いなく上手くなっていますし、どこでキックを蹴るかということも、考えながら取り組んできたので、キックする時の判断能力というところが、この数年間ですごく変わったと思います。
Q:2017年のアイルランド戦辺りでは、まだ自信がなかった感じですか?
その時も「これでいいのか」という意見が多々あったと思うんですが、そこでもしっかりと自分の考えを曲げずにやっていたので、コーチ陣のやり切るメンタルが強かったなと思います。
Q:その時は松島選手が意見を言うような立場ではなかったですか?
そうですね。今でも別に言わないですけど(笑)。ここ数年間はキックをベースにやってきましたが、ワールドカップではポゼッションを取りに行くなど、急に変えることもあって、そうなったら「みんながやるぞ」という雰囲気にもなっていたので、そういうことが結果的に良かったんじゃないかなと思います。
Q:準々決勝の南アフリカ戦では、通用した部分はありましたか?
通用した部分はありますが、ちょっとのところで球出しが遅れたり、ターンオーバーされたりしたので、ラインアウトからのディフェンスだったり、スクラムだったり、スクラムからのアタックで戦術がバレていると感じることもあったので、もちろんプレッシャーが速かったということもありましたが、そういうところの壁は分厚いなと思いました。
Q:ワールドカップでベスト8からベスト4へ行くために必要なことは何だと思いますか?
僕たちみたいなチームは、自分たちの力を発揮しないといけないので、守りながらアタックするとダメだと思いますし、ベスト8以上は緊迫した状況が続くと思うので、選手1人1人の思い切りの良さが大事なんじゃないかなと思います。
Q:南アフリカが優勝しましたが、それについて思うことは?
単純に、自分たちに勝ったチームが優勝したということは、すごく嬉しいですし、その反面、やっぱり勝ちたかったなという気持ちがありました。決勝戦も見に行きましたけど、優勝するところを目の前で見られて、「いいな」っていう気持ちにもなったので、また次の大会で良い結果を残したいという気持ちになりました。
Q:南アフリカのキャプテンのコリシ選手のヒューマンストーリーが話題にもなりましたが、そういう話を聞いて思うことはありますか?
子どもの頃に貧しかった選手はたくさんいますし、僕自身も見てきましたし、そういった選手はハングリー精神がすごいと思います。シャークスに行った時もそうでしたし、ハングリー精神が強い選手をたくさん見てきました。コリシはキャプテンですけど、すごく情熱を持った選手で、すごく良い人で、試合後に少し話をして、人として出来上がっている選手だと思います。色々な想いがあってワールドカップに臨んだと思うので、そこは本当におめでとうと言いたいですね。
Q:やはり勝負事にはハングリー精神が大事ですか?
間違いなく大事だと思います。
Q:そういう部分も日本と南アフリカの実力に繋がっていると思いますか?
今大会での実力の差は、そこまであるとは思っていませんし、みんなの実力を示せたと思うので、これから世界から見られる目が変わってくると思いますし、海外に出て活躍できる選手がたくさんいると思うので、経験を積むためにももっと海外に出ていって欲しいなと思います。
Q:コリシ選手と話す機会は久々でしたか?
お互いに覚えていたので、試合をしたのも覚えていますし、トップレベルの大会でレベルの高い試合が出来て、健闘を讃え合いました。
Q:当時の印象は?
今は腕もごつくなっていますが、その時は細身で、捕まったら倒れる印象だったんですが、当時からキレキレでした。今は捕まってもしっかりと前に出られますし、速すぎて捕まらないという状況に持ち込むのも得意ですが、当時は小さいなという印象でした。
Q:南アフリカでは大きい選手が多い中で衝撃的な存在でしたか?
その分、キレキレだったので、そういった相手の方がめんどくさいなという印象でした。身体の大きい選手は当たりに来てくれるのでやりやすいですが、キレキレの選手は止めることが難しいので、苦労した覚えがあります。
◆もっと伸びる部分はたくさんある
Q:これから更にレベルアップしたい部分はどこですか?
いま一番考えているのは、フルバックで出ることがあれば、人を使う立場になるので、人の使い方を学んでいかないといけないと思います。マークも厳しくなっていくと思うので、人をどのように活かしていければいいのかということを、これから学ぶ部分じゃないかなと思います。
Q:内面的な部分で変えていきたいところはありますか?
う~ん(笑)。これで今のところ良い結果を出しているので、あまり変えずに、今はこのままでいいかなと思います。
Q:これまでしっかりと日本代表にコミットしてきたと思いますが、次の4年でもしっかりとコミットして、次のフランス大会にも出たいと思っていますか?
それはもちろんです。代表として次に目指すべきは、次のワールドカップなので、監督がどうなろうが、呼ばれれば日本代表に参加したいと思っています。
Q:これから成長する自信は?
自分自身、もっと伸びる部分はたくさんあると思いますし、まだ選手としても出来上がっているとは思っていないので、そこは貪欲にやっていきたいと思います。
Q:4年後にどんな結果を残したいかということは、誰かと話をしましたか?
さすがにまだ話していないですけど、みんなベスト8以上と思っていると思いますし、ベスト4以上を狙えるチームにしないといけないと思います。次の大会に行くためには、選手としてはもう始まっているので、今の時期に休むんじゃなくて、どん欲に試合に出たいということを伝えていきたいと思います。
Q:改めて、一言で言うと、このワールドカップは自分にとってどんな大会でしたか?
"自信"ですかね。チームとしても個人としても、本当に自信がついた大会でした。
Q:大会が大いに盛り上がりましたが、どう見ていましたか?
日本のラグビー界にとって、良い勢いがついて来ているので、この勢いを無くしたくないですし、選手としてはしっかりとプレーに集中します。PRなどについては協会やリーグに任せないといけないので、選手としてはプレーに集中して、最高レベルのパフォーマンスをみんながトップリーグで見せるということだと思います。レベルの高い試合をやっていきたいと思います。
◆MVP、優勝
Q:テレビやメディアに出る機会が増えたと思いますが、松島選手の世の中は変わりましたか?
ガッキーさん(稲垣啓太)もしっかりとキャラがついて、田中フミと松田力也も積極的にテレビに出ていたので、みんな変わったなっていう印象です(笑)。僕は控えめにやらせていただいています。
Q:今まで東北や熊本の復興に力を入れてきましたが、そのモチベーションは?
やっぱりSNSなどでも子どもたちからのメッセージが届くので、そういった子どもたちのためにも、被災された子どもたち、その家族、試合にも来られない状況にある人たち、大変な思いをしている人たちは、まだたくさんいて、そういう人たちに身近で見てもらいたいという思いがあります。それがどういったきっかけになるかは分かりませんが、いい方向になってくれればいいなと思っています。これからも続けていきたいと思います。
選手としてはプレーを見せることが分かりやすいと思いますし、あとは触れ合いだったり、子どもたちにラグビーの良さを教えることを、代表であったり、トップリーグでもどんどんやっていければ、もっと盛り上がっていくんじゃないかなと思います。
Q:今回は桐蔭OBは1人だけでしたが、4年後は多くの桐蔭OBがワールドカップに出られると思いますか?
堀越も直前まで入るか入らないかというところで、彼自身もすごく悔しがっていましたし、その悔しさが次のモチベーションになると思うので、ハングリー精神がある選手の1人だと思っています。
早稲田大学の斎藤君も何かの記事で読みましたが、ハングリー精神があるようなことを言っていましたし、ハーフも良い選手が増えているので、そういうところのレギュラー争いが面白くなるんじゃないかなと思います。
Q:トップリーグに向けた意気込みをお願いします
個人としてはMVPを取れるような、質の高いプレーをやっていきたいと思います。チームとしては、昨シーズンは決勝で敗れているので、またそういう舞台に行けるように、そして優勝できるように、また新しいチームになると思うので、優勝を狙っていきたいです。
Q:普段、街中で声を掛けられるようになりましたか?
帽子をかぶっていないと、すぐにバレてしまうので、帽子を被れる時は被るようにしていますが、被っていない時はすぐに声を掛けられるようになりました。
Q:日本代表について、次の4年間に向けて、どういう形で進んでいった方が良いと思いますか?
ジェイミーが続投することが日本代表にとって一番良いと思います。やってきた4年間の積み重ねだと思うので、その積み重ねを継続してやっていって欲しいと思っています。あとは選手たちがトップリーグのチームに帰っても、自分のスキルを落とさないよう、今のスタンダードを落とさずに、しっかりと練習から励むことだと思います。
Q:日本代表の強化について不安に思うことや、楽しみに思うことはありますか?
プロリーグができるような話も出てきて、この先の日本のラグビー界がどうなるかは分かりませんが、新しいリーグが日本の選手のためになっているということが大事になってくると思うので、多くのスーパースターを呼ぶことは試合が面白くなると思うんですが、やっぱり試合に出られないと成長もできないので、そこがどうなるのかなという感じはします。
Q:これまでサンウルブズが準代表のような形になっていましたが、それがなくなる可能性がることについてはどう考えていますか?
無くなってしまうことがあれば、どんどん海外に出ていくようになればいいと思いますが、そう簡単にはいかないと思うので、まずはまたサンウルブズがスーパーラグビーに残るような状況になって欲しいなとは思います。
Q:他の競技でもハーフの選手が活躍をしていますが、モチベーションになっていますか?
これからもそういう選手は増えていくと思うので、そういう選手の活躍は刺激になりますし、それで自分も今大会で活躍も出来たので、それを見て刺激を受ける選手が出てくるような良い環境にしていきたいと思います。
Q:最終的にはワールドラグビーの年間最優秀選手になりたいというような思いはありますか?
そのために海外でプレーするというのも、1つのデカい理由になると思うので、やっぱりいち選手としてそういうのを狙えるような立ち位置に行って、しっかりと世界に通用するような選手になって、そういう賞を狙える選手になっていきたいと思います。
Q:トップリーグで対戦が楽しみな選手はいますか?
開幕戦が東芝で、リーチが意気込んでいたので、リーチと徳永をしっかりと潰していきたいと思います(笑)。
Q:世界の選手ではどうですか?
スーパースターがたくさんくるので、ワールドカップで戦った南アのダミアン・デアリエンディとは、試合をするのが楽しみです。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]