SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2019年12月10日

#666 松島 幸太朗 特別編『 自信 -前編-』

ワールドカップが幕を閉じた11月上旬、サンゴリアス・クラブハウスにて松島幸太朗選手の共同記者会見が行われました。今回は特別編としてその模様を2回に分けてお届けします。会見は記者からの質問に松島選手が答える形で、約1時間半にわたり行われました。(会見日:2019年11月上旬)

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◆やり切った感

Q:日本代表チームが解散してから昨日まではどのように過ごしていたんですか?

今週は少し体を動かしましたが、それ以前は何もしていない感じです。軽く汗を流す程度で、本格的には動いていません。これから徐々にという感じです。

Q:体やメンタルの疲労具合は、前回大会と比べてどんな違いがありますか?

体の具合については、1週間ちょっとくらいで回復したという感じはあって、メンタル的には前回大会よりもやり切った感があったので、ちょっと休みたいという思いがあり、いま休ませてもらっています。サントリーが始動している中で、しっかりと休ませてもらっているので、そこは有難いですね。

Q:自身の中で、前回大会との一番の違いは何ですか?

5試合通して自分のプレーをしっかりと出せましたし、安定したプレーを出せたので、そこは自信を持てるかなと思います。

Q:2大会続けて全試合出場した訳ですが、珍しいことですよね

監督も変わっていますし、そこで信頼されているということが感じ取れるので、選手として全試合に出られたことはすごく良い経験になりましたし、自信にもなりました。身体的にはキツイところもありましたが、それよりも試合に出られるというモチベーションの方が高かったので、すごく充実した大会になったかなと思います。

Q:信頼については、徐々に感じ取れるようになったんですか?

選手全員をフラットで見る人だと思うので、そこは徐々に信頼を得たという感じです。

Q:やりやすい、やりにくいと感じたところはどこですか?

求められることに対して、自分がしっかりとそれに応えてという感じです。コミュニケーションを密に取るタイプではないと思うので、難しい部分ではありましたが、そこはトニー・ブラウン(日本代表アタックコーチ)とコミュニケーションを取りながら出来たので、あとはプレーで見せていくという感じでした。

Q:リーダーズグループにはいつから入り、どういう役割を求められたんですか?

2018年の6月からだと思います。あまり喋るのが得意じゃないので、やりたくないとは言ったんですが、選ばれたからにはしっかりと発言することを意識しましたし、あとプレーのところで一貫性を出すために、自分がどういうプレーで貢献していけばいいのかを考えるようになりました。リーダーズグループに入って、チームのことをより考えるようになりましたし、その時の状況によってどうすれば良いのかを考えるようになったので、人として成長できたのかなと思います。

前回は周りについていくという感じで自分のプレーに専念しましたが、今回はチームのことを考えながらしっかりと結果を出さなければいけないという状況だったので、前回よりも自分のスタンダードが上がっているんじゃないかなと思います。

Q:リーダーミーティングで勉強になったことは?

リーチ(マイケル/日本代表キャプテン)は、本当にチームの為にどうすれば良いのかを毎日考えているような発言をしているので、やっぱり人として器がデカイなと感じました。ただ、色々考えすぎてストレスが溜まっているようにも感じましたし、それをリーダーズグループの人たちで分担することが大事になってくるので、そこは今回出来ていたんじゃないかなと思います。

Q:宮崎合宿の際にはポジションについて話をしていましたが、何か吹っ切れるきっかけのようなものはありましたか?

フルバックをやりたいとは伝えていましたが、ワールドカップという舞台は選手にとって特別なところだと思うので、そのために妥協することは必要ですし、それは飲みこんでやっていました。

後半途中でフルバックに入ることもありましたし、ポジションが変わってもすぐに対応できる力が、成長した部分でもあるので、ウイングとしてしっかりとトライを取り切れたところであったり、しっかりゲインを稼いでチームに勢いを与えるという意味では、良い仕事が出来たのかなと思います。

Q:5トライという結果については?

最後に回って来て取るという形もありましたが、みんながしっかりと繋いでくれたものを取り切らないといけないポジションで、その仕事をしっかりと出来たので、良かったかなと思います。

Q:11番と15番で、自身の中での一番の違いは何だと思っていますか?

ウイングは最後にボールが回ってくるポジションで、スペースがないと、やっぱり身体が小さいということもあるので、こじ開けるということがあまり出来ないかなと思います。やっぱりスペースが欲しいということもあって、フルバックの方が自由ですし、やりやすいです。

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◆常に次のプレーを

Q:先ほどリーチ選手の話の中で、考えすぎているという話がありましたが、具体的にはどの辺で感じられましたか?

歩いている時はいつもノートを持っていますし、あとは顔がすごく疲れていそうでした。ワールドカップの最初の頃はスッキリした表情をしていたと思いますが、徐々に身体にも疲れが見え始めましたし、やっぱりキャプテンとして当然プレッシャーがあったと思います。その重圧に耐えられる精神力はありますが、みんなに言わずに解決することもあったと思うので、みんなが積極的にリーチと話すようにしたり、リーチも積極的に若手の選手と話したりしていたので、すごく良かったと思います。

Q:その中で自身の役割としては、どういうことを意識していましたか?

戦術的なところではプレーで見せていくことを意識して、オフフィールドのところではいつも通りに接するようにしていました。僕はそんなに考えないでやっていました。

Q:前回のワールドカップの出場した選手たちが柱になっていたように感じましたが、ワールドカップを1度経験していると全然違いましたか?

そうですね。僕は今大会はすごく落ち着いて試合に臨めたので、前回大会の経験が活きているんじゃないかなと思います。

Q:それは準備であったり、試合でのパフォーマンスですか?

会場の雰囲気のところで、経験が活きているんじゃないかなと思います。そんなに緊張せずに、前半から何をしなければいけないのかという考え方ができていました。

Q:前回大会を経験していない選手には、どういうことを伝えたんですか?

チームディナーなどの場でグループ分けをして、前回のワールドカップはどうだったかという話を、堀江さんとかもしていました。僕の場合は、「感情は高ぶると思うけど、いかに冷静さを保って次のことを考えられるかということがプレーに出ると思う。常に次のプレーを予測していかなければいけない」ということを話しました。

Q:大観衆の中で冷静さを保つことは難しいと思うんですが、自分なりのやり方があるんですか?

緊張してきたら、いつも以上に周りの選手と話すことが重要になってくると思うので、1人で考えて黙ってしまうのではなく、周りの選手と話しをして、いつもの環境を自分で作ることが大事だと思っています。

Q:おまじないみたいなものはありますか?

それは全くないです(笑)。

Q:自分らしさが出せたと思うプレーや、自分の中で新しい感覚が得られたと思うプレーはありましたか?

ボールキャリーの際に、ステップワークで前に出られることが多かったので、すごく自信になりました。試合をする毎にマークが厳しくなってきて、その中でスコットランド戦でラインブレイクも出来ましたし、前をしっかりと見て相手の弱い部分にボールキャリーが出来ていたので、その見極めが良くなったんじゃないかなと思います。

Q:自分の中でのベストプレーは?

スコットランド戦でのラインブレイクもそうですし、南アフリカ戦でのハイボールキャッチであったりですね。ワールドカップ前の南アフリカ戦ではハイボールでやられたので、スキル的にはハイボールキャッチが成長したと思います。

Q:ワールドカップ前の南アフリカ戦と、ワールドカップでの南アフリカ戦で、ハイボールの処理について良くなったのは、具体的に何が要因だと思いますか?

意識もありますし、しっかりと相手に体をぶつけに行って、フィジカルのところで負けないということを意識しました。それが最初の1本目から出せていたので、気持ちの面で楽に試合に入れました。

Q:かなり練習をしたんですか?

1週間の練習で南アフリカ戦以外についてもやっていましたが、意識の部分で、より取らなければいけないという意識になりましたし、そこからジャパンのカウンターが始まるので、バックスリーがしっかりと取らないと試合にならないと、ワールドカップ前に学びましたね。バックスリー全員がしっかりと取れていたので、成長した部分だと思います。

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◆疲れた時も力が出るような身体

Q:決勝トーナメントで更に上に行くためには、これからどういう力をつけた方が良いと思っていますか?

あとは戦術を選手同士で話し合って思い切って変えてみたり、グラウンドレベルと外から見ている感覚は違うと思うので、コーチ陣の意見を聞きつつ、自分たちが実際に戦った感覚を大事にしていきながら、どんどん変える思い切りの良さが大事なんじゃないかなと思います。

Q:コンディションのピーキングが上手くいったのかなと思いますが、その辺りはどうですか?

サンウルブズに出ていたら試合数も多くなって、後々になって身体に支障が出てきたりするので、そこはジェイミーと話しながら上手く出来たかなと思います。あとはプレシーズンのキツイ部分を休まず出来たので、そういうキツイ部分をしっかりとやったことで、今大会で最後までやり切れる力がついたんじゃないかなと思います。

Q:プレシーズンからフィジカルを強化してきたと思いますが、どう強化してきましたか?

プレシーズンにウエイトトレーニングなどをしっかりとやり込めたので、疲れた時でもしっかりと力が出るような身体に変わっていったことが、一番のところだと思います。

Q:4年前とは違いますか?

4年前もキツイことはしましたが、今回はプラスαで個人でも取り組んできたので、そういったところもプレーに影響していると思います。

Q:そのプラスαの部分は、具体的にはどういったことをしたんですか?

自分の中であまり強くないと思う部分を、しっかりとケアしたりリハビリしたりすることを怠らずにやって、あとは身体作りの中で、プロテインやリカバリーフードをしっかりと摂取して、怪我をしにくい体に作り上げることが出来たんじゃないかなと思います。プレーに一貫性を出せたのは、プレシーズンの時にしっかりとトレーニングを積み重ねてきたものが結果として出たと思います。

Q:あまり強くない部分とは、どこですか?

内緒です(笑)。

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◆One Teamがテーマ

Q:以前、今大会はもっと上位に行けると思ったと言っていましたが、そう思った時期や感覚を教えてください

たぶんアイルランド戦で、自分たちの戦術やラグビーで勝ち、そこでチームとしての自信が一気に上がったと思います。次のサモア戦でも苦しい展開の時はありましたが、そこでしっかりと勝ち切れる強さもありました。チームとして自信がついてきたのは、アイルランド戦以降だと思います。

Q:あれだけ自分たちのラグビーが出来ていると、いけるんじゃないかという気持ちも強かったですか?

その力はあったと思いますし、試合に出ていない選手もいましたけど、ベスト8のところで勝っていれば、試合に出ていない選手が大事になってくると思いますし、そういう選手が出るとなれば、チームとしての勢いが更に増したんじゃないかなと思います。

Q:松島選手は大会前からベスト4と言っていましたが、その思いはいつ頃から持っていましたか?

単純にキツイ練習をたくさんしていましたし、PNC(パシフィック・ネーションズカップ)でしっかりと勝ち続けたという自信もありましたし、その中でも自分たちのやりたい戦術が大会を通して出来たので、それがワールドカップに向けての自信に変わったと思います。

Q:大会前からチームの中でもベスト4という話は出ていたんですか?

まずは先を見据えすぎずに、しっかりとベスト8にいくという目標があったから、プール戦の1戦1戦を大事にすることも出来たと思いますし、先を見据えすぎないということが大事だと思うので、そこはチームとして一歩一歩踏み出せたんじゃないかなと思います。

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Q:なぜベスト8という目標を達成できたと思いますか?

ワールドカップで急に成長する選手やチーム、逆にそうじゃない選手やチームというのは、すごく分かれると思うので、前回もそうでしたが、今回のジャパンもその勢いに全員が乗れたことが大きかったと思います。それまでにキツイ練習をやってきたということもありますし、キツイ練習が報われたという思いが大きくなって、勝って行くことでそれが確信へと変わっていったと思います。

Q:One Teamを実感しましたか?

そうですね。One Teamがテーマなので、それはワールドカップ前から感じていました。

Q:色々な背景を持った選手たちがOne Teamになった訳ですが、そういった強みも感じましたか?

チームディナーに行くことがよくあって、そういう食事であったり、飲みであったり、そういう場でしっかりとコミュニケーションを取ってきたので、みんなが自然と打ち解けあえたんじゃないかなと思います。

Q:色々な国から来ている、色々な経験を持った選手が集まったことで得たチームの強みや学んだことなどはありますか?

お互いの癖などは、合宿をしたことでより分かったことがありました。例えば、簡単にペナルティーをしてしまう選手がいればそこを指摘したり、ワールドカップではペナルティーが命取りになる場合があるので、上辺だけじゃなく、そういうところも指摘し合える関係性を作れたと思います。

Q:リーダーズグループ以外で、トンプソンルーク選手や堀江翔太選手などは、どういった存在でしたか?

やっぱりリーダーズグループに入っていなくても、自然とリーダーになってくれる選手がたくさんいたので、トンプソンや堀江さんは練習中も練習が終わった後も、どんどん発言をしてくれていました。それはチームにとってデカい存在だったと思います。

Q:あえて言われなくても、ベテランとしてやってくれていたんですね

そうですね。普段言わないことであったり、厳しい意見を素直に言ってくれるので、そういうところでまたチームがまとまることが出来たんじゃないかなと思います。

Q:バックスでは、そういう存在はいましたか?例えば田中フミさんとか

そうですね。フミさんとか。って、フミさんって言うのがちょっと気持ち悪いですね(笑)。フミはチームが良い方向にいっていなかったら、言う時はちゃんと言っていて、チームの中で一番意見を素直に言える選手だと思います。そういう選手がいるのといないのとでは、だいぶ変わってくると思います。

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(次回へ続く)

(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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