2019年11月29日
#664 北出 卓也 『ワールドカップに出るために何をしなければいけないか』
日本代表キャップ1を獲得しワールドカップメンバーに選ばれた北出卓也選手。残念ながらワールドカップでの出場はなりませんでしたが、この貴重な経験から得たものは?ワールドカップ大会終了直前に話を聞きました。(取材日:2019年10月下旬)
◆悔しさをモチベーションに
――ラグビーワールドカップでの日本代表は解散となりましたが、いまの心境は?
チームの目標であったベスト8は達成することができ、そこに関しての喜びはありますし、日本がラグビーで盛り上がって、いままで見たこともないくらい人気が出ているので、とても嬉しく思います。ただ、その反面、試合に出られなかったという悔しさが半分以上あるので、それをモチベーションにして頑張っていきたいと思っています。
――試合のメンバーに入れずチームが勝つということを繰り返したわけですが、その時の心境はどうでしたか?
週初めにチーム内でのメンバー発表があったんですが、まずそこで落ち込んで、ただチームのためにやらなければいけないことはあるので、次の日くらいから相手チームの分析を始めて、それを試合の日まで続けていました。試合に勝った嬉しさは一瞬だけで、その後から「試合に出たかった」という悔しさが出てきて、「次は出たい」という想いになって、また週初めにメンバー発表があり、試合に出られないということを繰り返しました。メンタルをキープしていくことが難しくて、試合に出てしっかりとパフォーマンスを出しているメンバーと、試合に出ていないメンバーとの気持ちのギャップは、正直ありました。
――試合に出たら良いパフォーマンスが出せるという自信はありましたか?
それはありました。あと自分の力を試してみたいという想いもありました。
――一番落ち込んだのは第3戦サモア戦でのメンバー発表なんじゃないかなと思います
当たりですね(笑)。開幕戦に出られなくて、第2戦のアイルランド戦はメンバーを変えないだろうと思っていたので、可能性があるならばサモア戦だろうと、自分でも思っていましたし、周りからも言われていたので、それでメンバーに入れなった時は、メンタル的に一番キツかったですね。
――メンタル的に厳しい時がありつつも頑張れた要因は何だと思いますか?
ワールドカップという舞台ですし、国を背負っているわけなので、そんなことで不貞腐れている時間がないというか、それならばチームのため、勝利のためにやるしかないと思っていました。
――試合には出られませんでしたが、ワールドカップの日本代表に選ばれて良かったと思いますか?
日本代表に選ばれて良かったと思います。選ばれていないと感じられないものって、いっぱいありました。例えば、ワールドカップの雰囲気ですね。ワールドカップ期間中のチームの雰囲気、宿舎での雰囲気、試合会場の雰囲気とか、それは選ばれていなければ感じられないものだと思います。試合には出られませんでしたが、あの緊張感の中でしっかりとしたパフォーマンスを出すことは、とても難しいことなんだろうなと実感しましたし、もっともっとレベルを上げないといけないと思いました。
◆フィジカルの差
――前回のこのスピリッツ・オブ・サンゴリアスのインタビューが1年前くらいで、そこで日本代表に選ばれたいと言っていました。その目標を達成したことについてはどうですか?
サンゴリアスで積み上げてきたものが結果に繋がったので、やってきたことが間違っていなかったという自信になりました。
――もっと早くから代表に呼んで欲しかったという想いはありますか?
選ばれたい気持ちはありましたが、やっぱりサンゴリアスで結果を出さないと代表には繋がらないと思っていたので、選ばれたいという想いを強く持つというよりは、サンゴリアスでパフォーマンスを出すということに気持ちを置いていました。
――サンゴリアスでのパフォーマンスのどこが良くて代表に選ばれたと思いますか?また、代表に選ばれてもあと少しで試合に出られなかったのは、どこが足りなかったと思いますか?
選ばれた要因としては、ジェイミー(ジョセフ/日本代表ヘッドコーチ)が会見で言っていましたが、ラインアウトの精度のところで、僕自身が思っているのはディフェンスとワークレートの部分だと思っています。
これからもっと伸ばさなければいけない部分としては、まずはスクラムワークのところだと思います。ワールドカップでもティア1のチームに対して日本がスクラムを押す場面もありましたが、ああいうところをもっと僕がフッカーに入って引っ張っていけるようになりたいと思います。あとアタックとディフェンスの両方で、もっとフィジカルを上げないといけないと思います。準々決勝で敗れた南アフリカ戦でも、見ていてフィジカルの差を感じました。
日本としてもフィジカルは上がってきていて、アイルランドやスコットランドにも通用していた部分はあったと思いますが、ベスト8という舞台での南アフリカの集中力やフィジカルは一段上をいっていると感じましたし、そういうところで通用するためには、アタックでもディフェンスでもフィジカルを上げないといけないと思いましたね。
――日本代表のフィジカルはかなり上がっていたと思いますが、ここから更に上げるためには何が必要だと思いますか?
僕が感じたことは、経験がとても大事だと思いました。日本がワールドカップまでにティア1のチームと何試合か行ったことでワールドカップで通用した部分もあったと思うので、僕としてはそういう経験をもっと積みたいと思っています。
――開催国としてのアドバンテージもありましたよね
ワールドカップでは次の試合までに1週間空いていたので、体を休めるという部分でもアドバンテージはあったと思います。
――強豪国のフィジカルを経験するためには代表の試合や、スーパーラグビーのサンウルブズなども経験の場になるかもしれませんね
サンウルブズがスーパーラグビーであと1年となって、スーパーラグビーを経験できなくなることは選手としても痛い部分ではありますが、検討されているプロリーグが上手くいき、清宮さん(克幸/日本ラグビー協会副会長)が言っている世界的なリーグとなり、より世界的な選手が増えていけば、リーグ自体のレベルやフィジカルレベルは自ずと上がると思うので、そういう意味でもプロリーグは絶対に成功しなければいけないと思っています。
◆もっと上を見なければいけない
――2015年の前回大会の結果を受けて、トップリーグの各チームもかなりの努力をしてきたと思います。その成果が2019年で出たと思いますが、この4年間でのチームの強化はどうでしたか?
サンゴリアスはハードなトレーニングが文化のひとつでもありますし、他のチームのフィジカルレベルが上がっていることも実感していました。そういう意味でもトップリーグ自体のレベルが上がってきたのかなと思います。トップリーグに世界的な選手が増えてきたことによってレベルが上がったことは間違いなくあると思いますし、プロリーグもそういう形でレベルが上がっていくのかなと思っています。
――今回のワールドカップでの経験を、どうサンゴリアスで活かそうと思っていますか?
まず僕個人としては、サンゴリアスのレギュラーを取る、レギュラーを守るということを考えてやっていましたが、もっと上を見なければいけないと思いました。日本代表の2番としてワールドカップに出るために何をしなければいけないかを常に考えてやっていかなければいけないと思っています。
――中村亮土選手は、2015年に悔しい思いをして、2019年には中核を担いましたね
この間、2人で飲みに行ったんですが、亮土さんはエディーさん(ジョーンズ/前回大会での日本代表ヘッドコーチ・現イングランド代表ヘッドコーチ)の時にもそういう経験をして、ジェイミーになってからも出られないことが多かったみたいですが、2018年のイングランド代表との試合で良いパフォーマンスを出せたことが、ターニングポイントになったと言っていました。自分の武器は何かを考え、ディフェンスを武器として努力を重ねて、ワールドカップでもすごいタックルを決めていましたよね。自分の武器は何かを考えることは大事だと思いますし、それを信じで伸ばしていって、大事な試合でそのパフォーマンスが出せれば自ずと信頼されていくと思います。そういう部分で勉強になりました。
――改めて、1月から開幕するトップリーグに向けた意気込みをお願いします
目標は優勝しかありません。その中で、次は日本代表では僕が2番をつけるという気持ちを持って、パフォーマンスでしっかりと表現したいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]