SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2019年11月22日

#663 鈴木 伸行 『トレーナーは一生の仕事』

いつも誰もが気軽に話しかけやすい雰囲気を醸し出している鈴木伸行トレーナー。ふだん接している選手たちの日本代表での活躍を、どんな思いで見ていたのでしょうか。そして自分自身の目指すところは?ワールドカップ期間中に訊きました。(取材日:2019年10月中旬)

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◆サントリーの選手が良いパフォーマンスかどうか

――ラグビーワールドカップではどんなところを見ていますか?

サントリーの選手が良いパフォーマンスかどうかというところが一番気になりますね。見ていて非常に良い状態だと思っています。亮土(中村)は初めてのワールドカップですが、開幕戦からずっと出ていて、物怖じもせずに良いパフォーマンスを出していると思いますし、流もそうですね。マツ(松島)は前回のワールドカップを経験していますし、サントリーのメンバーで先発で出ているメンバーは凄く良いパフォーマンスなので、安心して見ていられますね。

――具体的に言うと、どの辺を見ているんですか?

プレーを見ています。僕はラグビーをプレーした経験はないので素人目になってしまいますが、それぞれのプレースタイルがあるので、例えばマツで言えばボールをもらった後のスピードであったり、流で言えば全体的なアタックが上手くいっているのかというところですね。

――サンゴリアスでプレーしている時と違いはありますか?

ワールドカップが特別なものだと思うので、表情なども違うように感じます。国の代表として世界で放送されている試合なので、表情であったり、あとは開幕戦で勝って勢いが出たので、そこでの自信なども見えたりします。

――日本代表の活躍をトレーナーとしてはどう思いますか?

ワールドカップ前の試合で、フィジーに勝ったかと思えば、南アフリカ戦に大敗したりして、「いけるんじゃないか」という意見と、「ジェイミー・ジャパンじゃ厳しいんじゃないか」という意見に分かれていたと思いますが、ワールドカップは結果が全てだと思うので、前回大会の成績を上回っていて、トップリーグの各チームの強化も間違っていなかったと思いますし、日本代表として進んでいった道も間違っていなくて、ベストな方法を選択して、今の状態になったんだと思います。

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◆選手と近い位置

――サンゴリアスの中にいて、この4年間はどう良くなってきたと思いますか?

選手の自主性は大きく変わってきたと思っています。選手からこうした方が良いんじゃないかという意見も出てきますし、コーチ陣もそういう取り組みをしていますし、トレーナーとしても選手からどこが痛むかを聞いて、出来るか出来ないかをこちら側だけで判断するのではなくて、選手自身で自分の体がどうなっているのかを考えさせる取り組みをしています。1人のアスリートとしての成熟度が増すようなこのような取り組みは、チームとしては年々いい方向に向かっていると思います。

――選手に任せることで、全てを与えるよりももどかしさもあると思うんですが、そこのバランスはどう取っているんですか?

少しの情報で判断できる選手と、これまでそういう経験が少なかった選手とでは、大きな差が出てくるので、選手のキャラクターを自分の中で予め理解をした上で声を掛けたり、選手によって与える情報量を変えたりしてコミュニケーションを取っています。

――選手の特徴はどうやって把握しているんですか?

普段の会話だったり、練習前の準備の仕方だったり、トレーナールームで治療をしている時での発言だったり、あとはトレーナー間で話をしたりして、その選手の特徴を少しずつ積み上げているような感じです。実際に話をすることで違った面も見えてきたり、もう少し情報を与えた方が良いかなと思うこともあるので、見たり聞いたりしたことだけじゃなく、実際に選手と話をして擦り合わせをしながら対応しています。

――口数が少ない選手にはどう接しているんですか?

僕の場合は、選手とトレーナーという立場で線を引かれて話をされるということが少ない方だと思います。どちらかと言えば、選手と近い位置で話をされることが多いので、あまり話をしてくれなくて困ったということはないですね。

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――線を引かれないのはなぜだと思いますか?

良くも悪くも僕のキャラクターなのかなと思います。僕は学生の時からこのチームに関わらせてもらっているので、選手としたら話しやすいのかなと思いますね。バランスが大事だと思うので、あまりフレンドリーすぎると、僕は良いんですけど、見え方があるから気を付けさせることもあります。

僕に言いやすい選手もいれば、もしかしたら僕には言いにくくて、小川さんやサポートトレーナーに話をする選手もいると思います。同じ色を持ったトレーナーが3人いるチームよりも、別のキャラクターを持ったトレーナーが3人いるチームの方が、選手の情報は集めやすいんじゃないかなと思っています。

――では周りからどんなキャラクターと思われていたいですか?

普段はふざけていたり、何でも話せる人だけど、やる仕事だったり、メディカルのことになったら信頼できると思われるようなキャラクターですかね。話しやすいから治療をしてもらおうということではなくて、トレーナーとしての治療やリハビリなど、信頼できるからお願いしたいと思ってもらえるように、すみわけはしたいと思っています。

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◆選手と感覚をすり合わせます

――自分のトレーナーとしてのスペシャリティーは何だと思っていますか?

僕は比較的、治療に関しては不得意ではないのかなと思います。自信があると言えば、まだまだな部分もありますが、多少なりとはストロングポイントになっているのかなと思います。

――治療をする時に気を付けていることは何ですか?

感覚的な部分もあるので難しいんですが、触った時の皮膚感であったり、筋肉を触った時の固い柔らかいだけじゃなく、ここが気になっているんじゃないかなって感じる時があったりします。そこは選手の経験の差もあったりして、その感覚が選手とバチッと合う時もあれば、僕がここだろうと思って話しかけても、あまりピンと来ていない選手もいたり、逆に選手からここが気になると言われて触っても、本当にここなのかなって思う時もあったりして、選手によって変わってきます。

そういう場合は、選手の経験に合わせて、僕が絶対にここが原因で痛みが出ていると思うところでも、選手に上手く響いていないようだったら、体の仕組みなどから説明をして選手が納得して治療を受けられるようにしています。

選手が気になるところと僕が気になるところが同じであれば問題ありませんが、そこが違う時に、まず選手が気になるところを治療してみて、それでも良くならなければ違う個所を提案してみて治療をするということもあります。そうやって選手と感覚をすり合わせたりします。

――外国人選手は日本人選手と違いますか?

いや、一緒だと思いますよ。鍼治療は世界的に見ればポピュラーというわけではないので、好きな人もいれば好きじゃない人もいます。今までの治療やコンディショニングの経験もありますし、特に日本にくるような外国人選手は、ある程度、自分の中で正解を持っていたりするので、僕が良いと思う方法で治療をするというよりは、選手の要望を聞いて治療をしてみます。その上で僕のことを信頼してくれていれば、新たな治療方法を提案していって、僕の治療がその選手の中での正解になっていって、一緒にベストなコンディションを作っていければ良いなと思っています。

――選手が50人近くいて、全員にやるのは大変ですね

全員にやるのは大変なので、先ほども言った選手が自分自身の体を考える力が大事で、本当に必要だと思う時であったり、診てもらった方が良いと思う時にトレーナールームに来てくれれば、こちらとしても優先順位がはっきりできて、より効果的に出来るのかなと思います。

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◆国を代表して戦う場に立ちたい

――面白いと思う時ややっていて良かったと思う時はどんな時ですか?

練習前の準備でアドバイスしたことを積極的にやってくれていたり、自分で考えてリカバリーしていたり、自分自身でベストなコンディションになるために努力している姿を見ると嬉しいですし、そういう積み重ねが強化に繋がると思っています。

――鈴木さんにとっては、良いトレーナーになるためにはどういう積み重ねが必要だと思いますか?

頭でっかちにならずに、他のスタッフや経験ある選手から吸収したり、学ぶということを怠らずにいけば、少しずつでも成長していけるかなと思っています。

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――そうしていく中で、今シーズンの目標は?

チームとしてはトップリーグ優勝だけです。僕個人としては、怪我人を少なくすることと、メインはリハビリになります。リハビリをしている選手はプレーができずストレスを抱えているので、復帰した時にはリハビリ期間があって良かったと思ってもらえるようなプランニングだったり、リハビリメニューができれば良いかなと思っています。

――将来的な目標はありますか?

ラグビーに限らず、日本代表のトレーナーを、いつかしてみたいと思っています。国を代表して戦う場にいられるのは、限られた人間にしかできないことですし、そういう場に立ちたいと思います。日本代表に行くべくして行けるようなトレーナーになりたいですね。

――いつ頃には実現したいですか?

40~50歳代ではそういう立場になりたいですね。僕としては死ぬまでにそういう立場に行ければいいかなくらいで思っているので、一生の仕事としてやっていきたいですね。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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