2019年11月 8日
#661 西原 俊一 『数%を上げることが僕の仕事』
常に同じペースでありながら、常に動き回っていると感じられる西原俊一コーチ。「ラグビーをやっていたわけではありませんが、スポーツの中で一番好き」と語る西原コーチが目指すところを訊きました。(取材日:2019年10月上旬)
◆更に筋肉をつけて、更に速くなるように
――ラグビーワールドカップは、どこに注目して見ていますか?
S&Cコーチなので、フィジカルの部分を中心に見ています。イングランド代表の選手を間近で見る機会があったんですが、やっぱり体が凄かったですよ。もちろん日本人との骨格の違いはあると思いますが、しっかりとした筋肉がついていて、そういう部分でも超一流選手の凄さを感じました。世界でもトップの選手たちを間近で見ることができたので、その経験は大きかったですね。
試合を見ていて感じることとしては、ひとつひとつのスピードやパワーの強さを感じます。体が大きくても速いので、個人それぞれに適した体重はあると思いますが、世界で戦うためには日本人のスピードで勝負をする選手も、更に筋肉をつけてスピードを落とさないように、または更に速くなるようにしていかなければいけないなと思いました。
――サンゴリアスの選手たちも、さらに筋肉をつけないといけないと思いますか?
そうですね。バックスの選手も体を大きくしないといけないと思います。バックローの選手たちは、体を大きくして今年のカップ戦に臨んだんです。90kg台後半だった体重を100kg超えるくらいまで増やしても、フィットネステストではパーソナルベストと同じくらいの数値を出せるようにしたので、体を大きくしてもフィットネスレベルは変わらないということはできました。それをこれからも積み重ねていかなければいけないと思います。
――怪我のリスクもあると思うのですが、そこのバランスはどう取っているんですか?
疲労度をデータで見たり、選手とのコミュニケーションですね。選手のキャラクターや年齢なども考えながら、もしどこか張っている箇所があると言えば、ウエイトトレーニングをグラウンドでのトレーニングの後に入れたりとスケジュール変更したりしてその時の状況に合わせ調整しています。
あとはトレーニング後のリカバリーが大事ですね。選手には「自分の体と話をする時間を作ってね」と伝えていて、やっぱり自分の体って自分が一番分かると思うんです。もし気になる箇所があれば、まずは自分でケアをしてもらって、それでも気になればメディカルに頼れば良いと思います。
――見ていて、もう少しやった方が良いと思う選手もいれば、やり過ぎてしまう選手もいると思いますが、そういう場合はどうしているんですか?
やらなければいけない選手はこちらで選んで追加でトレーニングをしてもらいますし、やり過ぎてしまう選手に対してはコミュニケーションを取るようにしています。
◆そこら中で話します
――選手が50人近くいるので、全ての選手の状態を把握するのは大変ですね
大変です(笑)。だから色々なスタッフ、コーチと情報共有をして進めないといけません。例えば、僕だけだったり、S&Cだけでやっていたのでは、選手の細かな情報は把握しきれないですからね。
――それにはコーチ同士の信頼関係も必要ですね
そうですね。選手って試合に出たいという想いがあるので、ラグビーコーチやS&C、メディカルに対して話すことって、それぞれニュアンスが変わってくると思うんですよ。だから、コーチやメディカルとコミュニケーションを取って、上手くその情報を汲み取ってトレーニングに反映してくことが必要だと思います。
先ほど体重の話をしましたが、例えば、あるバックスの選手が、当初は80kg代後半の体重が欲しいと言っていて、目標の体重でシーズンに入ったのに徐々に体重が減っていくこともあります。そういう情報であったり、「スピードで勝負したいって言っているよ」って他のコーチたちに伝えたりして、その選手のトレーニングメニューを見直したりもします。
――そういう会話はどこで話しているんですか?
そこら中です(笑)。チームラウンジでも話しますし、風呂とかサウナでも話したりします。
――これまでやってきている中で、やり方などは確立されてきたんですか?
正解はないので、試行錯誤しながらやっているという感じですね。選手の考え方も変わったりしますし、コンディションが違ったり、同じシチュエーションはないですからね。
――西原さんがサンゴリアスに入ってきた時と比べて、練習の強度も高くなっているんですか?
高くなっていると思います。ラグビー界の流れもありますし、世界で活躍している海外の選手がチームに加われば、必然的に強度が高くなりますね。
◆怪我をさせないこと
――やっていて面白いと感じるところはどこですか?
今年のカップ戦からジムのことをやっていて、もともとジムのことをやりたかったので楽しいですね。体の見た目が変わるじゃないですか。体つきという結果が目に見えるので、ジムは好きですね。ただジムでの数値だけじゃなくて、結局はグラウンドでのパフォーマンスが上がることが一番だと思います。
――海外の事例などを学んだりしているんですか?
学ぶこともありますし、S&Cコーチ同士で、どの方法が良いかを話したりしています。あと、チーム内で選手のこれまでの数値などを蓄積しているので、それはチームにとっての財産だと思います。
――その部分が西原さんのスペシャリティですか?
だとは思っていますが、結果が全てです。負けてしまったのでまだまだなんだと思います。
――どこが足りないと思いましたか?
結局はグラウンドでのパフォーマンスだと思います。パフォーマンスに関わるベースのストレングスをもう一度見直して、もしかしたら数%の部分かもしれませんが、その数%が上がることでパフォーマンスに繋がるのであれば、そこを上げることが僕の仕事だと思っています。
――一番気をつけていることは何ですか?
怪我をさせないことですね。怪我をするとラグビーができなくなってしまいますし、ラグビーができないとその選手のレベルアップに繋がらないと思うので、ラグビー選手を見ている以上は、そこに気をつけています。シーズン毎に比較しても、怪我の件数自体は下がってきていると思います。
――目標は何ですか?
チームとしては優勝することです。あとは長期的なところで言えば、世界基準のフィジカルを備えられるようにしていくことが、僕の大きな仕事だと思っています。海外のチームなどを参考にして、体重に対してどのくらいの数値を出せれば良いのかという基準を設定しているので、サンゴリアスの選手がその世界基準を超えられるようにしていきたいですね。
――良いところを伸ばすよりも、足りない部分を伸ばしていくという感じでしょうか?
それは選手によって変えようと思います。選手の状態を考えてやらなければ怪我を増やしてしまいますからね。
◆コンタクトが好き
――ラグビーのどこが魅力ですか?
僕はラグビーをプレーしていたわけではありませんが、今まで見てきたスポーツの中で一番好きなスポーツだと思います。根本の部分でコンタクトが好きということもあって、もともとはサッカーをやっていたんですが、その頃からコンタクトは好きで、大きな選手にも当たり負けしていなかったと思います。
それ以降でコンタクトしたのがトップリーガーでした。高校や大学レベルのコンタクトを知らず、ラグビーのコンタクトを経験したのがいきなりトップリーガーだったんですが、楽しいと思いました。僕の生まれは徳島県で、周りにラグビーと接する環境がありませんでしたが、もし子どもの頃に身近にラグビーがあればやっていたと思います。だから、チャンスがあれば、これからもラグビーに関わっていきたいと思っています。
――将来描いている夢は何ですか?
いろいろなカテゴリーを見てみたいという想いはあります。高校のチームのジムを見たこともありますし、いま自分の子どもが中学生なんですが、息子が通っているクラブチームに行って、ラグビーを見たり一緒にプレーしたりもしています。
――若年層世代を教える魅力は何ですか?
子どもは成長が早いですし、どうすれば上手く伝わるのか、楽しく上達するためにはどうすればいいのか、そういうことを考えると楽しいですね。僕はラグビーコーチではないですが(笑)、サンゴリアスで経験したことを、上手く噛み砕いて子どもたちに伝えられればと思っています。
――立派なラグビーコーチだと思います。その経験も身についてきているんですね
息子が2人いて、次男のチームを見ていて、小学4年生の時から見ているんですが、その時は弱小チームだったのが、6年生のチームになってシーズンで何十試合やっても3~4試合しか負けなくなりました。そうなると子どもたちも更に本気になりますし、そういう姿を見ていると面白いですよね。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]