2019年10月25日
#659 江見 翔太 『サンゴリアスのラグビーを学び直す』
ラグビー界では珍しい学習院卒の江見翔太選手。早い時期に頭角を現わしましたが、その後怪我に苦しみました。今シーズンの本格復帰に向けて準備する江見選手に話を聞きました。(取材日:2019年10月上旬)
◆自分の体と向き合えた時間
――ワールドカップが盛り上がっていますが、見ていてどうですか?
雰囲気が日本じゃないみたいで楽しいですよね。しっかりとお祭り騒ぎになっていると思います。外国人のお客さんも多いですし、互いの国が入り混じって自国を応援しているところを見ると、素晴らしいなと思います。
これまで、ニュージーランド対南アフリカ、アイルランド対スコットランド、オーストラリア対ウェールズの3試合を会場で見て、この後のイングランド対アルゼンチンも会場で見る予定です。
――会場で見ていると、いつもの試合とは雰囲気も違いますよね
会場で見ていてもそうですし、テレビで見ていてもそう感じます。それに日本が良い試合をして勝っていて、いろんなメディアで取り上げられていますよね。開幕前からバラエティ番組でも取り上げられていましたが、日本が勝つことによっていろいろなところで細かな解説付きで振り返りの映像が流れたりしていて、ラグビーも変わりつつあるのかなって思いましたね。
――どれも面白い試合ばかりですよね
レベルが高いですし、どんどんラグビーのトレンドが変わってきている中で各チームの特徴が出ているので、見ていて面白いですね。ただ、10月なのに暑くて湿度が高いので、どのチームも対応するのが大変そうですよね。いつもトップリーグがこの時期に試合をしていて日本の選手は慣れているかもしれないですが、それがどれだけのアドバンテージになるかどうかですね。
――日本代表が勝っている要因は何だと思いますか?
ジャパンのスローガンである"ONE TEAM"になっていて、勝てるという自信を持ってしっかりと準備しているところかなと思います。ジェイミー(ジョセフ/日本代表ヘッドコーチ)になって、これまでの試合を見ていると、もっとキックを多用してくるのかと思っていましたが、プール戦第2節まで終えてキックをあまり蹴っている印象がないので、ワールドカップに向けた準備でいろいろな戦術も含めて、あえてそういうことをしてきたのかなと思います。
――日本代表の試合を見ていると、やはりあの中に入っていたかったと思いますか?
それは思います。同期の亮土(中村)とか、流、北出、マツ(松島幸太朗)という1つ下の代のメンバー、あとヘンディ(ツイヘンドリック)を含めて、サンゴリアスのメンバーの活躍を見ると、出たかったなって思いますね。選ばれるかどうかはありますが、昨シーズンは怪我でなかなか出られず、そういうシーズンが続いていました。でも、その期間は、自分の体と向き合えた時間とプラスに捉えています。
◆土俵に立ちたい
――怪我で出られない期間が続くというのは、これまであまり経験のなかったことですか?
筋肉系の怪我で、これまでそういう怪我をしてきませんでした。これまではどんどん鍛えて走っていれば問題なかったんですが、筋肉がどこまで張っていれば止めた方が良いのか、どういう状況だと疲労が溜まっているのか、どういうケアをした方が良いのか、そういう部分で「今日はこういう調子だから、こういう準備をしよう」とか「この部分が張っている」ということを感じながら、いつものルーティンに加え重点的にほぐしたり、アフターケアをしたりしています。今までもやっていたつもりでしたが、より考えて準備するようになりました。
――怪我との向き合い方や対処法が、身についてきたと思いますか?
これまで体の使い方やトレーニング方法を、ある程度は理解しているつもりでしたね。いろいろな考え方があって、どういうアプローチをしていくかによってトレーニング方法やリハビリの方法があるんですが、最終的には"グラウンドで良いパフォーマンスを出す"ということになるので、いろいろな意見を聞き、良い部分を取り入れつつ、自分に合っていることを続けてきました。
――今の状態はどうですか?
チームの再始動が10月21日からで、まだラグビー的なことはやっていないので、自分の状態が何%かということは言えないんですが、徐々に入っていってラグビースキル的なことをやっていき、11月の合宿にしっかりと参加し、1月からのトップリーグのメンバーに選ばれるように、その土俵に立ちたいと思います。
――そういう経験を経て、どうレベルアップしていると感じますか?
正直、ラグビー的なことをやってきていないので、いちからのスタートというか、昨シーズンから変わった部分や新たに取り入れたことを、僕はほとんど経験していません。これまで培ってきた部分はありますが、初心に戻って、いちからサンゴリアスのラグビーを学び直す気持ちでやっていきたいと思います。
――新人の頃を思い出していますか?
あの頃と立場が変わっていますし、学習院大学から無名の状態でサンゴリアスに入って、他のメンバーとはフィジカルを含めかなり差を感じ、何もかも劣っていると感じながらのスタートでした。今は、サンゴリアスやサンウルブズで経験したこともあるので、自分の強みであるボールキャリーやフィジカルの部分は、自信を持って出していきたいと思います。
◆ボールを持ったら何とかしてくれる
――現時点での課題は何ですか?
まずはしっかりと1年間戦える体を保ち続けるための準備、ケアをすることと、体と向き合うことを継続させることはやっていかなければいけないと思います。あと、ウイングのポジションにテビタ・リーが入って、彼は僕と同じようなタイプで、違うところはスピードと年齢と国籍くらいかなと思います。ますますポジション争いが激しくなったので、そこは負けないように、「日本人のウイングも活躍できるんだぞ」というところを見せたいと思います。
――改めて、自分自身のセールスポイントは?
ボールを持ってのアタックだと思います。「ボールを持ったら何かしてくれるんじゃないか」という期待感を、しっかりと結果に現せるようなプレーができればと思います。あと、ディフェンスのところに課題があると思うので、そこの安定性を上げていきたいと思います。しっかり止めてくれるウイングがいればチームを救える部分もあると思うので、ディフェンスのところをより学びつつ、しっかりと前で止められるような、他のウイングにはない部分を出していきたいと思います。
――ワールドカップ開催中ではありますが、4年後を考えていますか?
考えています。2023年はフランスでワールドカップが開催されるので、今後トップリーグがどうなるか分かりませんが、その時にはプレーヤーとしてしっかりと評価されるような選手になって日本代表に招集されて、日本代表に定着していきたいと思っています。
◆舌を思いっ切り上に付き出す
――いろいろな苦労をしてきて、いま感じるラグビーの面白さは?
早くみんなと一緒にグラウンドでプレーしたいですね。これまでずっとリハビリメニューしかやっていないので、サンゴリアスメンバーとラグビーがやりたいです。個人トレーニングを1人で黙々とやっていくことはできますが、やはりラグビーは1人ではできないスポーツで、相手あってのパスやキャッチですし、アタックもディフェンスもそうですし、今それが出来ていないので、ラグビーに飢えていますね。
あと、自分がどれくらいできるのかを試したいですね。問題なく走れていますし、フィットネスレベルは他のメンバーよりも、もしかしたら上からも知れないんですが、それがラグビーでどれだけ使えるのかという部分が分からないので、正直不安ではありますが、楽しみな部分でもあります。
――怪我をしたことで気づいたこともありますか?
僕の場合、疲れてくると下半身が上手く使えず、腰を使ってしまう癖がありました。ステップを切るにしても、重心移動ではなく腰で行ってしまって、他の筋肉よりも張るようになって、それが影響して、他の部分も張ってしまったりしていました。姿勢を良くすることと、体幹を鍛えること、そしてお尻や太ももを使うことを意識することで改善できると思います。
――自身の体を細かくチェックできるようになったと思いますが、以前からできていたんですか?
これまでは少し偏りがあったかもしれないですね。体は全部繋がっていますし、僕の義理の父の知り合いに中西哲生さん(サッカーコーチ)がいて、久保建英選手のキッキングコーチや姿勢を指導したりしているそうで、僕もご縁があって指導してもらったことがあって、体の使い方を教えてもらいました。
肩甲骨の使い方や胸椎や首の位置、あと舌の使い方も大事と教えてもらいました。立った状態で舌を思いっ切り上に付き出すと内臓が引き上がるそうです。内臓がストレッチされてしっかりと上に上がって、逆に緩めたい時は少し前かがみになって下に出すと良いそうです。初めてやった時は首が攣りそうになって、「変な使い方をしているんだよ」と指摘されました。その他にもいろいろなストレッチを教えてもらって勉強になりました。
――その方法を取り入れているんですね
取り入れさせてもらって、自分のその日の体の調子を見るようにしています。これまでも「ここをこうすると、こうなる」という部分的な動きしか理解していなくて、体の動きを連動させた知識をもっと身につけたいですし、サンゴリアスのトレーナー、メディカルやその他の方のアドバイスなどをもらいながらやっています。
ただ、専門的なことになるので、身につけるためには時間がかかりますね。なので、自分の体に良いと思う部分だけを取り入れさせてもらって、自分の体のチェックとメンテナンスに活かせればと思っています。
――ファンに向けてメッセージをお願いします
昨シーズンの開幕前に怪我をして、それから怪我を繰り返し、トップリーグには1試合も出られませんでしたし、今年のカップ戦にも出られなかったので、落ち込んでいる時期もありました。ずっとリハビリばかりで、「自分は何のスポーツの選手なのか」と思うこともありましたし、周りからも「陸上部?」とイジられたこともありました(笑)。いま振り返れば「気にしてくれていたんだな」と思いますが、当時はイライラした部分もありましたね。
カップ戦が終わってオフ期間になってからは、クラブハウスに集まった何人かと一緒にグラウンドに入ったり、パスやキャッチをやったりして、徐々にできるようになってきました。あと、たまに学習院に遊びに行って元気をもらったりもしていました。少しずつ元気を取り戻しつつあって、10月21日の再始動、11月の合宿、1月の開幕へと、徐々に準備ができているかなと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]