2019年10月18日
#658 堀越 康介 『たくさん走ってゲインする』
日本代表最終選考合宿に参加し、最後まで代表争いをした堀越康介選手。惜しくもバックアップメンバーとなった今の心境は?そしてワールドカップを見て何を感じているのでしょうか?アイルランド戦後に話を聞きました。(取材日:2019年9月下旬)
◆モチベーションになっている
――ラグビーワールドカップが盛り上がっていますが、見ていてどう感じていますか?
日本代表の第2戦のアイルランド戦を見てすごく楽しかったですし興奮しました。勝った時には武者震いがしました。僕も一緒に日本代表の直前合宿まで参加していましたが、あれだけキツい練習をやって、しっかり1人1人考えて、リーダー中心にまとまっていったら勝てるチームになるんだなと思いました。素直に嬉しかったですね。本心で喜んでいると思うんですが、ただどこかでやっぱり悔しさというか、そういう気持ちも入り混じっていて、ある意味いまのモチベーションになっているという感じでもあります。
――中村亮土選手が以前インタビューで、前回のワールドカップで代表メンバーから落選して試合を見ていて「自分には足りなかった部分があると思った」と言っていました。その気持ちと同じような気持ちでしょうか?
そうですね。31人に入れなかった時には、「何で」とか、「悔しい」という気持ちが強かったんですが、冷静に見てみて、選ばれた選手の強みとか、大舞台でチャンスをモノにする力があると思いました。そういうところやスローイングなどが僕の足りないところだと思いました。
――サンゴリアスでは1番でプレーし、日本代表では2番でプレーしていましたが、その難しさはありましたか?
そこは絶対に言い訳にしないようにしようと思ってやってきましたし、難しさは感じませんでした。
◆今の期間が大事
――代表候補として同じチームの北出選手とポジションを争ったわけですが、それについてはどうですか?
難しい質問ですね。僕が言うのも何ですが、僕にあって北出さんにないものもありますし、その逆もあって、ジェイミー(ジョセフ/日本代表ヘッドコーチ)は総合的に見て、北出さんの方が良いと判断したと思います。僕としてもフッカーとしての差は分かっていますし、この先もこのシチュエーションは続いていくと思うので、代表メンバーがサンゴリアスに戻ってきてもしっかりとバトルをしていきたいと思います。
――バックアップメンバーとなりますが、日本代表から連絡は来ていますか?
ちょうど昨日、「各国で怪我人が出て追加召集をされている状況にあるので、バックアップメンバーの皆さんも怪我などがあったら連絡をしてください。離れていてもONE TEAMなので準備しておいてください」というような連絡がありました。なので、いつ呼ばれてもいいように準備したいと思います。
――では、日々その準備をしているんですね
準備をしていますが、気持ちとしては難しいですね。31人のメンバーから外れた時に、「メンバーから落ちた後の期間が大事」と言われました。メンバーから外れたから、そこでトレーニングもせずに腐ってしまえば、ワールドカップのために準備してきたことの意味がなくなってしまうと思ったので、そうならないために自分自身の実力を認めて、この難しい期間に自分をコントロールして一生懸命トレーニングすることで、絶対にその先に繋がると思っています。今の期間が大事だと思って、日々過ごしています。
――ワールドカップに出場しているトップ選手たちのプレーをどう見ていますか?
スローイングを伸ばさなければいけないと思っていて、オーストラリア対ウェールズ戦を試合会場で見たんですが、大一番でのラインアウトとか、「この場面でラインアウトからしっかりモールが組めれば」という場面でのラインアウトって、観客も分かっているので盛り上がっているんですよ。そういう場面でのフッカーの気持ちってどうなんだろうとか、自分だったらどうなるんだろうとかを考えながら見ていました。
「こういう雰囲気の中でいつか自分が投げるんだ」「絶対に成功させるんだ」というイメージを持てるためにはどうすればいいのかと、常に考えながら見るようにしています。ただ、今の自分ではそれについて実力不足だと思うので、練習をして自信をつけていくしかないと思います。
◆ジャパンらしい試合
――日本代表の試合を見て、選手1人1人がブレなかったですし、ピンチの状況でも慌てなかったと思うんですが、一緒に練習をしてきて、なぜそうなれたと思いますか?
僕も見ていて、そう思いました。選手1人1人に明確な役割が与えられていたと思います。その中で、アイルランド戦はほぼ全員が100%のパフォーマンスを出して、それぞれの役割をしっかりと遂行して、尚且つそれでドンドン走って、後半には相手の足が止まっていましたよね。
それは今までやって来たフィットネスの蓄積や自分の役割をしっかりと理解すること、そしてプレッシャーの中でそれを遂行する力など、そういう部分が全部重なって発揮できた試合だと思いました。今までやってきたことの全てが出たのかなと思います。勝つのであればロー・スコアでの勝利だと思っていたんですけど、我慢の時間もたくさんあった中で、ジャパンらしい試合で勝てたんじゃないかなと思います。
慌てなかったというのは、リーチさん(マイケル)が怪我をしている間に、ユタカさん(流大)とかリーダーとなる選手がたくさん出てきて、練習の時からリーダーの声にしっかりと耳を傾けてまとまっていくということができていました。だからブレずにやり切れたんだと思います。
――その文化が根付けば、日本代表は成長を続けられると思いますし、堀越選手はその一員となっていくことになると思いますが、それについてはどうですか?
まだ2019年の大会が終わったわけではありませんが、2023年に向けて頑張りたいと思っています。ただ、まずはサンゴリアスでのポジション争いに勝たなければいけませんし、チームからの信頼を更に得なければいけないと思うので、目の前のことをしっかりと頑張りたいと思います。
◆投げるボールの球種を増やす
――今の課題は何ですか?
スクラムに関しては、だんだんとスクラムが分かってきて、良いコミュニケーションが取れるようになってきたので自信がついてきました。そこはずっと日本代表で積み重ねてきたものを、サンゴリアスでも周りの選手と一緒にやっていきたいと思っています。
スローイングについては、昨シーズンよりも成長していると思います。自分のフォームをルーティン化して乱れなければ良いボールが投げられるようになっているんですが、本当にハイ・プレッシャーの中でも同じように投げられるかと言えば、それについてはまだ北出さんの方が上だと思います。客席からでしたがワールドカップの歓声を間近で感じられたので、普段の練習からあのような雰囲気の中でも投げることをイメージして、緊張感を持ってやることが大事だと思います。
――スローイングについては、投げるタイミングも大事になると思います
そこが難しいですね(笑)。日本代表の練習でも僕が思い描いているボールの軌道とジャンパーのタイミングが少し合っていない時があって、そういう状況の時に解決するための引き出しが足りないのかなと思います。そこでパニックになってルーティンが乱れて変なボールを投げるということがありました。そういうところをジェイミーにしっかりと見られていて、信頼を得られなかったのかなと思います。
それを改善するためには、投げるボールの球種を増やすことが大事かなと思っています。日本代表とサンゴリアスのラインアウトではボールの球筋が違うので、そういう投げ分けができるようになることと、あとは自信を持つことが大事だと思います。北出さんに聞いたことがあるんですが、あの人はセンスでやっていて、あの人の感覚で投げてめちゃくちゃ上手いんですよ(笑)。「パッと真っ直ぐ投げたらええだけやん」って(笑)。
僕の一番の課題はメンタルの部分だと思います。北出さんは「無になる」って言っていて、「感情を無にして、言われたサインを思ってパッと投げるだけ」って言っていたんですが、僕の場合は無になれないんですよね。「考えずに自分のルーティンにだけ集中しろ」というアドバイスもいただいたんですが、自分に自信が無かったり、過去のミスにとらわれてしまっていたり、試合で一度ミスをしたらそれを引きずってしまったりしてしまうので、そこを改善しなければいけないと思っています。
日本代表にメンタルコーチがいて、「ホリはラインアウトでミスをしたらジャンパーに謝っているけど、謝らなくていい。俺のボールをジャンパーが取れって。取れないジャンパーが悪いというメンタルで投げないとダメだよ。そうじゃなければプレッシャーに勝てないよ」と言われました。確かにそうだと思いました。
――そのためには自信が必要だと思いますが、かなり練習をしているんですか?
練習しています。サンゴリアスが今は個人練習期間なので、チームで練習することは難しいんですが、イメージして投げることはできるので、例えば試合終了間際のゴール前ではどう投げるかとか、そういうことをイメージしながら投げています。自信を持つことは、成功体験の積み重ねしかないと思うので、これからもしっかりとトレーニングしていきたいと思います。
◆「ここは絶対に負けない」という能力を伸ばす
――今シーズンの目標は?
一番はやっぱりサンゴリアスで試合に出ることです。フッカーには北出さんと中村駿太さんがいて争いが激しいですし、1番はより選手が多くポジション争いが激しくて、どのポジションでも簡単には試合に出られないと思うので、まずはチームでの競争に勝たなければいけないと思っています。そして、1月からのトップリーグの開幕戦に出場して、そこから試合を重ね、最終的には優勝できるように頑張りたいと思います。
――ポジション争いに勝つためには何をしなければいけないと思っていますか?
平均的なプレーをしていては絶対に試合には出られなくて、「こいつはここで何かをしてくれる」とか「こいつにボールを渡せば絶対に何かをしてくれる」というような特化した能力がなければ、絶対に試合に出られないと思います。サンゴリアスでは、どのポジションでもそういう選手でなければいけないと思っています。
「ここは絶対に負けない」という能力を伸ばしつつ、自分の課題を上手く改善していくことができれば試合に出られると思っているので、それをしっかりとやっていくだけと思っています。
――自分の強みは何だと思っていますか?
一番はボールキャリーのところです。僕はコンタクトエリアでのプレーやコンタクトすることが大好きなので、そこでは負けたくないと思っていますが、ボールキャリアーとしてたくさん走って、どこにでも顔を出して、ボールをもらったら絶対にゲインするような選手になっていかなければいけないと思っています。そこではどんな選手にも負けないようになっていきたいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]