2019年10月 4日
#656 若井 正樹 『ロマンをもって歩んでいこう!』
14年目のシーズンを迎えたストレングス&コンディショニングを担当する若井正樹コーチ。現在サンゴリアスで最もベテランである若井コーチは、いま何を考え、何を目指しているのでしょうか。4年ぶりのスピリッツ・インタビューです。(取材日:2019年9月下旬)
◆勝って欲しい
――ラグビーワールドカップ2019日本大会にサンゴリアスからは5名の選手が出場しています。その5名の活躍は、やはり気になりますか?
やはりサントリーの選手ですし、彼らが努力をしてそこまで到達したので、とても気になります。勝って欲しいですね。
――その選手が出場する時には、どういうところを見ていますか?
開幕戦のロシア戦で言えば、ポジションにもよりますが、ボールを持ってゲインできているか、流であればうまくゲームをコントロールしているか、リザーブだったヘンディ(ツイヘンドリック)であれば、早く出てこないかという思いで見ていました。北出にもチャンスが来ると思うので、しっかり牙を研いで、チャンスを掴んで欲しいと思います。
――ロシア戦でのみんなの活躍ぶりはどうでしたか?
素晴らしかったですね。マツ(松島幸太朗)にしろ、亮土(中村)にしろ、流にしろ、ヘンディも出るチャンスがありました。
――サンゴリアスで鍛えている成果が出ているんじゃないですか?
サンゴリアスで鍛えているというよりも、サンゴリアスはトップリーグで優勝することを目指してやっているので、それをベースに彼らが日本代表で更に成長した結果、あのようなパフォーマンスに繋がったと思っています。
――まだまだ続くワールドカップに期待することは?
多くの方がワールドカップを観戦していますし、楽しんでいると思います。月並みの言葉になりますが、ワールドカップが終わった後もこの盛り上がりが続いて、トップリーグの試合にも多くの方に足を運んでもらいたいです。
◆何が足りないのか考える
――あるインタビューで松島選手がスクワットの数値が90%伸びていると言っていました。この成長は驚異的なんじゃないでしょうか?
彼の経験の中で「どのくらいのレベルでないとインターナショナルでは戦えない」という基準があると思います。彼にはそのためのプランがあって、徐々に上げていって、最終的にそこまで数値を伸ばしたということだと思います。
試合期に入ると、持っているストレングスを落とさないようにするトレーニングがメインとなって、試合に向けてどうピークを持って行くかになります。合宿であったり、試合がない期間はウエイトトレーニングに向き合えるので、しっかりと重量を上げて身体を強化することができると思います。
――若井コーチがサンゴリアスに入ってきた14年前と比べると、選手の身体はかなり進化しているんじゃないですか?
ラグビー自体が進化していますし、スピードやパワーも年々上がっています。トップリーグに限らず、海外のラグビーでもフィジカルのレベルが上がっていて、どのチームもそれに合わせたトレーニングをしています。14年前を比べると取り組み方が違うので、選手の身体も全く違います。
――限界はないんでしょうか?
限界を決めれば、それが限界になります。どのチームも勝ちたいと思う中で「勝利したいのであれば、勝つために何をしなければいけないのかを常に考える」と言うことだと思います。そういう考えでいくと、改善できるエリアはフィジカルであったり、ラグビーのスキルであったり、戦術であったり、そういう改善ポイントを見極め、それを改善していくことが重要です。
――サンゴリアスで言えば、更に改善していった方が良いと考えている部分はどこになりますか?
以前はフィットネスで勝とうとした時もありましたが、今はどのチームもフィットネスやストレングスの向上に取り組んでいます。そこは持っていて当たり前のベースの部分で、プラスα として競技に特化したストレングス、試合で本当に活かせるゲームフィットネス、試合で使えるスピード、そういう部分を身につけていかなければいけないと思っています。それにはS&C(ストレングス&コンディショニング)単体でやっていては無理なので、そこはラグビーコーチと協力して作り上げていかなければいけないと思います。
――実際にやっていて、ここはまだ手を付けていなかった部分だなと気づくこともあるんですか?
実際に負けているので、何かが足りないんですよ。今までと同じことをやっていたのでは結果は同じになります。良い所は失わないようにしつつ、自分たちが変わっていかないといけません。昨シーズンのトップリーグと、今シーズンのカップ戦で神戸製鋼に負けているので、自分たちで何が足りないのかを考え、そこを改善していかなければいけません。
――その足りていない部分とは、言える範囲でどこになりますか?
うーん、それは言わないでおきます(笑)。僕の中でチームが改善しなければいけないところはあるので、次のトップリーグに向けて取り組んでいこうと思っています。
◆スーパーラグビーを経験
――若井コーチ自身から「新しいことをやっていかなければいけない」という思いが感じられるんですが、それはどこから生まれてくるものですか?
同じことをずっとやっていたら、僕自身が飽きてしまうからでしょうか(笑)。選手も一緒だと思います。新しいことというよりも、それをやることによって選手のパフォーマンスが、少しでも向上することはないかということを常に考えています。
――海外のチームから学ぶこともあるんですか?
これまで研修などで海外のチームに行くことはありましたが、今年の2月半ばから3ヶ月間ブランビーズ(オーストラリア・クラブチーム)に加わらせてもらい、初めてスーパーラグビーを経験しました。その中でスーパーラグビーではどういう準備をしているのか、ブランビーズのスタッフがどういうことをやっているのかということを、一緒に仕事をしながら学ぶことができました。
――日本でやっていることとは違うことをやっていましたか?
違うことというより、自分自身が新しい環境に入って、新しいスタッフや選手と英語で仕事をするということで1ヶ月くらいはパニック状態でした(笑)。最近その様な経験をしていなかったので、そういうところがとても新鮮で刺激になりました。
僕はブランビーズの中では4番目のS&Cコーチでした。ゼロからのスタートで、僕のことを知らない人たちの中に入って認めてもらえるのかとか、そういう経験ができてということは大きかったですね。
――ブランビーズでの経験を得たことで、サンゴリアスで新たなアイディアが浮かんだりしましたか?
そうですね。ブランビーズもそうですし、オーストラリアで色んな人に出会って色んな考え方に触れて刺激を受けました。色々なトレーニングの方法に触れて、その中で良いと思ったトレーニングはサンゴリアスで取り入れていこうと思っています。
――トップリーグとの共通点もありましたか?
スーパーラグビーの難易度というものは非常に高くて、シンガポールも含めれば6ヶ国の中で、時差を飛び越えて戦わなければなりません。その中で選手のコンディションを上げていかなければいけない難しさがあって、そこが大きな違いです。S&Cやメディカルの腕の見せ所だと思います。
その中で優勝するチームは本当にすごいと思います。フィジカルや戦術、スキルだけじゃなく、如何に選手のコンディションを試合に向けて上げていくかというところが重要になってくると思います。
――14年前と比べて、怪我についてはどうですか?
怪我が多いシーズンもあれば少ないシーズンもあるんですが、基本的にはしっかりとトレーニングをしていないと怪我が起きると思います。怪我が多いシーズンはトレーニングが足りないということではなくて、強化の仕方を変えなければいけないということになると思います。怪我をさせないように、尚且つ最大限の効果があるトレーニングをしていると思っていても、振り返った時に正しくなかったということもあると思います。それをもとに、次はどうしなければいけないのかということを考えます。怪我を起こさせないためには、しっかりと色々な角度からトレーニングをすることが重要です。
◆我慢比べが問われるスポーツ
――先ほど良い所は失わないようにしつつ改善していくという話がありましたが、選手全員が改善されていけばチームとしては大きな効果が得られますよね
そこがコーチとしての醍醐味じゃないですかね。チームスポーツなので、45人~50人くらいの選手がいて、全員キャラクターは違いますし、年齢もスタイルも違っていて、そういう選手1人1人が成長できるように導いていくというのがコーチの仕事だと思います。
――そのためにメンタルの部分の話もしたりするんですか?
選手が自分の子どもだったらと考えます。子どもに成長して欲しい、良くなって欲しいと思うのは、親の心情だと思います。そのため選手へのアプローチは1人ずつ違います。選手に変化があった時には「どうしたのかな?」と気づきますし、その選手にあった対応をします。毎日、子どもにメンタルの話はしませんよね(笑)。何でもかんでもやってあげたら子どもだって嫌がります。そういう意味で、気にしつつも放っておく時は放っておくことも大切です。僕のスタイルはそういう感じですかね。
――若井コーチにとっての目標は?
短期の目標は、次のトップリーグで日本一を取ることです。
――そのモチベーションは何ですか?
勝負の世界でやっているので、やるからには絶対に日本一になりたいと思います。
――個人的な目標はありますか?
その時の目標に全力で取り組んでいくことですかね。ロマンを持って歩んでいければよいです。
――ラグビー以外の競技にも興味はありますか?
ラグビーは元々自分が経験した競技だったので、そのアドバンテージはあると思いますが、僕は色々なところを見てみたいタイプなので、将来的に良い話があれば興味を持つかもしれないですね。
――ラグビーの魅力は何ですか?
エキサイティングなスポーツですし、我慢比べが問われるスポーツだと思いますね。メンタルの強さが結果に直結します。技・体と共に心も鍛えなければいけないスポーツです。
――スポーツやラグビーに携わる仕事の魅力は何ですか?
常に自分たちがやったことに対しての結果が表れるというところです。選手の成長が見られ、自分の成長を感じられるとこだと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]