2019年8月23日
#650 梶村 祐介 『誰よりも走って、誰よりもコンタクトする』
日本代表候補が最終合宿に入る直前に、候補の一人である梶村祐介選手にインタビューしました。選ばれるのは合宿参加41人中31人。ギリギリの状態での梶村選手の心境を訊きました。(取材日:2019年8月中旬)
◆テストマッチレベルの試合で通用するか
――今の状態はいかがですか?
今は自分の時間でトレーニングできる期間が1週間設けられています。その前は福岡県の宗像で2週間トレーニングをしていて、そこでかなりハードなメニューに取り組んでいました。
――サンゴリアスの練習と比べると、どうですか?
サントリーは1回のトレーニングで色々な要素を入れてやっていますが、日本代表の場合は回数を分けて、1日を使ってトレーニングをするというイメージですね。日本代表も強度的にはかなりハードなので、疲れとしてはかなり蓄積されていく感覚があります。
――どのようにリカバリーしていますか?
練習後のアイスバス含め、自分でできることをやっていくしかないと思います。それでも疲労が溜まっていくのは仕方ないので、練習前の準備の段階だったり、疲労があることを前提に如何にハードなトレーニングに集中力を持って取り組めるかということを大事にしてやっています。
――食事についてはどうですか?
夏だと食事がなかなか喉を通らないこともあるので、サプリメントで補ったり上手くコントロールするようにしていました。
――体は練習によって絞られましたか?
少し体重を落としました。今の状態で試合をしていないので何とも言えませんが、コンディションは悪くないので、あとはテストマッチレベルの試合で通用するかどうか。そこは実際に試合をしてみないと分からないですね。
◆立場的には厳しい状況にいる
――日本でのワールドカップ出場に向けて日本代表候補として取り組んでいますが、どういう思いがありますか?
立場的には厳しい状況にいると思います。もちろん日本代表として活動をしていて楽しさもありますが、危機感というか、瀬戸際にいるということを常に感じているので、プレッシャーであったり焦りを感じています。いまパフォーマンスを見せる試合がないので、とにかく練習でコンディションを上げて、チームにトラブルがあった時にいつ呼ばれても良いように、準備をしておくことが大事だと思っています。
――瀬戸際だけれども、日本代表メンバーに入っているという状況についてはどう思いますか?
学生の時から2019年のワールドカップを目指していましたが、正直、社会人になるまでは難しい位置にいると思っていました。いま41人まで残ることができて、学生時代だったら41人に残った時点で満足していたと思いますが、多くの時間を日本代表として活動してきて、ここまで来たからには31人に残りたいですし、41人に残れなかった選手もいるので、そういう人たちのためにも31人の切符を絶対に取りたいと思っています。
――同じポジションに同じチームの中村亮土選手がいますが、意識しますか?
やっぱり意識しますね。僕よりも亮土さんの方が良いと僕自身が思っていますし、スタッフもそう思っていると思います。僕に足りない部分を亮土さんは持っているので、良い所をしっかりと盗んで早く追いついて、ジェイミー(ジョセフ日本代表監督)がやりたいラグビーをしっかりと遂行できるようになりたいと思っています。
――自分自身の足りないところとはどこですか?
まずはチームからの信頼と、試合の中で、僕も考えてはやってはいますが、ジェイミーのラグビーの中での場面場面での判断が、まだあまり柔軟にできていないと感じています。10番と同じ役割を求められている中で、亮土さんはそこを上手く遂行できていると思います。
――オプションの数も多いんですか?
多くはないと思います。ただ、判断するスピードであったり、判断までの過程というか、スペースを見ることや他の選手とのコミュニケーションであったり、そこが求められているレベルに達していないんだと思います。
――そこは試合に出なければ身につけることも難しい部分ですよね
練習からその部分を学ぼうとはしていますが、やっぱり成果として感じられるのは試合の中だと思います。いまそのチャンスがないということは仕方のないことなので、そこは割り切って、自分のコンディションを上げることを常に意識しています。
◆色々なことに取り組もうとしています
――8月18日からは、いよいよワールドカップ前最後の合宿に入っていくわけですが、その合宿に向けては、どういう気持ちで臨もうと考えていますか?
ワールドカップのメンバーは、先日のPNC(パシフィック・ネーションズカップ)からは大きく変わることはないと思っています。ただ、入れ替えが無いわけではないと思うので、とにかく僕は宗像合宿で準備してきたコンディションをしっかりとアピールすることと、もう一度ジェイミーがやろうとしているラグビーにしっかりとコミットするということを考えてやっていきたいと思っています。
――サンゴリアスに入った当初と今とを比べて、どこが成長していると感じていますか?
社会人になったばかりの頃は、言われたことをやるということはできていたと思います。「ボールを持ったら前に出る」とか、シンプルですが言われたことは必ずやろうと思って取り組んでいました。1つしか出来ていませんでしたが、いまはそれができることは前提で、色々なことに取り組もうとしています。やろうとしていることが、まだ高いレベルに達していないということはありますが、同時に色々なことをやろうとする意思はあるので、そこは成長しているのかなと思います。
――具体的に言うと、色々なことを同時にやるとは、どういうことですか?
例えばですが、以前であれば「ボールキャリーをしっかりやりなさい」と言われたら、1試合の中でボールキャリーだけにフォーカスして、そこができればまずまずだと思っていました。今はそこだけできたとしても、上のレベルでは戦っていけないので、そこができることは前提で、それに加えて今までできなかったスペースにボールを蹴ったり、時間帯を考えたオプションの選択であったり、そういう部分も少しずつですが考えられるようになってきているので、成長はしているのかなと思います。
――そこに関しては、試合以外ではどう学んでいっているんですか?
チーム内の上手い選手を見て、例えば、ティモシー・ラファエレと亮土さんの2人は上手いので、キックの選択という部分で参考にしています。
――社会人になってから改善された部分はありますか?
ディフェンスのコミュニケーションはかなり良くなっていると思います。学生の頃はわりと一人でディフェンスをすることが多かったと思います。アタックは自分から好んでやっていましたが、ディフェンスは好んでできていなかったので、チームでディフェンスをするためにコミュニケーションを取るということは大きく変わったところだと思います。
――ディフェンスが得意になりましたか?
まだ正直、得意とまでは言えないですね(笑)。ボールを持った時のプレーの方が好きですし、まだまだ得意なプレーとは言い難いと思います。ただ、周りと同じレベルまでに持って行かなければ上のレベルでは通用しないので、成長はしていますがまだまだ課題なのは変わらないですね。
◆キックと考えるというところ
――成長してきたことで見えた課題はありますか?
現状だとキックのところと、いま12番は10番と同じようなプレーを求められていて、10番と同じくらい考えてプレーしなければいけないんですが、まだ10番ほど考えられていないと感じています。いまそこまで考えようとするとパンクしてしまうような状態だと思うので、キックのところと考えるというところは、まだまだ課題が多いと思います。
――自分の中で、他のポジションも選択肢としてはあるんですか?
大学生まではウイングをやったりしましたが、このレベルでセンターとウイングを兼任することは難しいと思っています。僕は12番、13番でスタメンを取らなければ試合のメンバーには入れないので、そこは絶対にブラさずにいきたいですね。
――今の目標は?
僕は遠い目標を立てることが苦手なので、まずは網走合宿で自分が準備してきたことをしっかりと発揮して、ワールドカップメンバーである31人の枠を取りたいと思っています。
――ワールドカップメンバーに選ばれたら、大会でどんなところを見て欲しいと思いますか?
自分の強みであるボールを持った時のプレーと、あとPNCメンバーから落ちた時の悔しさは、メンバーに入った人にはない想いだと思います。ボールを持っていない時には誰よりも走って、誰よりもコンタクトして、一番ハードワークできると思いますし、グラウンドの中で一番走っている選手が僕だと思うので、そこを見て欲しいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]