2019年8月19日
#649 田原 耕太郎 『選手からエナジーが出てくるチーム』
今シーズンのトップリーグカップ2019では監督代行を務めた田原耕太郎コーチングコーディネーター。何を目指してマネジメントし、どんな部分が達成できたのでしょうか?カップ戦準決勝の翌週、話を聞きました。(取材日:2019年8月上旬)
◆一番やったことはディスカッション
――まずは、トップリーグカップ2019準決勝敗退となりましたが、その結果についてはどうですか?
サンゴリアスは勝たなければいけないチームで、結果が全てなので、それはすごく残念です。
――このカップ戦に向けて、チームを作る上でどういうことを考えていたんですか?
昨シーズンからいろいろなことを反省して、新しい取り組みをしました。アグレッシブ・アタッキング・ラグビーという変わらないクラブのスタイルがあって、プレーしてる選手が本当にボールを欲しがったりとか、「サンゴリアスでプレーすることが楽しい」と本当に思っているか、そういう根本的なところって、僕は口で伝えても難しいと思います。本当に「このチームでプレーしたい」、「この仲間と一緒に戦いたい」とか、そういう部分ってグラウンドの中はもちろんですが、グラウンドの中だけじゃカバーできない部分もあると思っています。
そういう考えのなかで、いろいろとチームにアプローチをしてきました。それでパナソニックに勝った時はすごく自信になりますし、勝つということには何かしらの理由があって、チームのステップがひとつ上がるタイミングだったんじゃないかなと思っています。
――狙っていたことはある程度は実現できましたか?
もっと上手くできると感じた部分もありましたし、パナソニック戦までは自分たちがやろうとしていることが出来た部分と、自分たちでゲームを難しくしてしまっているところがあって、自分たちにフォーカスを向けるべき反省点がたくさんありました。相手があってのことなので、いろいろなプレッシャーからそういうプレーをしてしまったり、普段であればやらない判断をしてしまうとか、そういう部分が出てしまったと思います。
――選手が「サンゴリアスでプレーすることが楽しい」という思いを持つために、どういう新しいことをやったんですか?
一番やったことはスタッフも含めてディスカッションを多くしました。もちろん僕はコーチの経験がないですし、僕よりも経験あるコーチたちがたくさんいるので、その中でしっかりとディスカッションをして、まずはスタッフがクリアにならなければいけないと思いました。
そして、選手の中にそれぞれの役割を持ったリーダーを立てて、そのリーダーと担当のコーチがしっかりとディスカッションをして一方通行にならないようにクリアにして、それを他の選手に落としていくという方法を取りました。
やり方としては正直時間もかかりますが、そういうことが今のチームにはすごく必要だと感じたので、そういうやり方を取りました。強くする方法ってたくさんあると思うんですが、とても成果が出たと思います。
◆時間を無駄にしたくない
――今年はワールドカップもあり、とても難しいシーズンだと思いますが、チームとしてはどう捉えて、どうチームに浸透させていったんですか?
外から見ている人たちにとっては、今年はワールドカップがあって、トップリーグは来年1月から開幕となるので、今回のカップ戦の位置づけは、それほど高いものではなかったかもしれません。ただ、中にいる僕たちとしたら、目の前に勝負があったら、やっぱり負ける訳にはいかないですよね。それをリードする立場になりましたし、一番はここにいる仲間の時間を無駄にしたくないと思いましたね。
彼らが毎日毎日ハードワークする中で、「じゃあカップ戦は重要じゃない」なんてことは絶対に言えませんし、やっぱり1日、1%でも彼らを成長して欲しいと思います。あとはまだ監督がいないという状況の中で、いろんなことにチャレンジ出来る良い機会だと捉えました。なので、カップ戦があったことは、僕らにとってもすごく良かったと思っています。
――そういった状況の中で、特に成長を感じた選手は?
みんなが頑張っていましたけど、小林も頑張っていましたし、大越元気も頑張っていましたし、タロウ(竹本竜太郎)も頑張っていました。伸びたというより、僕の中では「それぐらいやるだろうな」という感じです。彼らはこれまでコンスタントに試合に出てパフォーマンスを発揮するという機会がなかなかないですよね。サンゴリアスにいる選手ならコンスタントに試合に出続ければ、これぐらいに成長するだろうなという感覚はありました。
――では、期待通りといった感じですね
だから、彼らが予想以上に活躍しているとは思わないですし、どちらかと言うと、あのくらいやるだろうという感じです。
――結果論ではありますが、練習試合も含めて、神戸製鋼にずっと負けていますよね
昨シーズンのリーグ戦、決勝と負けて、今シーズンのカップ戦でも負けましたが、確実に近づいているとは思います。ただ、今シーズンに関しては新しいラグビーをやっていて、そのラグビーをやり始めてまだ4ヶ月で、神戸製鋼は昨シーズンも含めて16ヶ月になる訳です。その差が、準決勝に関しては出たと思います。
お互いに上手くいかない時間帯があって、それを修正する経験や回数などは神戸製鋼の方が圧倒的で、スムーズに次のことが出来ていたと思います。僕らはその経験が少なくて、それは選手のせいではなく、僕らがそういうことも予想して準備しなければいけなかったと思います。ただ、神戸製鋼に負けてクリアになったこともありますし、方向性とかも見えた部分があったと思っています。
――2シーズン前まではサンゴリアスがずっと神戸製鋼に勝っていた訳ですが、これほどガラッと変わるものですか?
神戸製鋼を見ていても良いチームだと思いますし、僕らが勉強しなければいけないところもいっぱいあります。ただ、簡単に変わった訳ではなくて、それだけ色々なことをやっていると思います。
神戸製鋼はすごく伝統あるチームですし、良い選手がいるだけでチームが変わる訳ではなくて、いろいろなことをチームがひとつになって変えていっていると感じます。もちろん素晴らしい外国人選手がたくさんいますが、その中で日本人選手もしっかりと機能しているので、そういうところを見習わないといけないと思いますね。
◆分からないことは分からないと言う
――役職としてはコーチングコーディネーターとなりますが、カップ戦に関しては監督というつもりで取り組んでいたんですね
カップ戦に関しては、僕がその役をやっていましたね。
――それについては、不安や迷いなどはありませんでしたか?
ひとつ僕の中で決めたことは、「分からないことは分からないと言おう」ということです。リーダーシップを発揮しないといけない立場でもありますが、そこのバランスを取るようにして、任せるところは任せる、分からないことは分からない、クリアじゃないのであればディスカッションするということを丁寧にやると決めて取り組みました。いろいろなことがある中で、誰かが決めなければいけないことは僕が決めると、意識してやってきました。
――その役割は自分に合っていると思いますか?
それは僕がどうこう言うよりも周りの評価だと思うので、僕が合っていると思っていても、周りが合っていないと思えばそうだと思いますし、僕が言えることではないかなと思います。
――やっていて楽しかったですか?
もちろんプレッシャーもありますし、楽ではないです。僕は敬介さん(沢木/前監督)のことを横でずっと見ていたので、コーチとしては敬介さんの足元にも及びませんが、敬介さんの気持ちも少し分かった気がします。サンゴリアスというチームは多くの人たちに支えられていて、負けていい試合なんてないです。ただ、勝つことはそんなに簡単なことではないですし、その中で僕がやらせてもらうということは、光栄なことだと思います。
大変なことこそ、結果が出た時に嬉しいじゃないですか。そういうのがサントリーのカルチャーなのかなと思いますね。ただ、先ほども言いましたが、そこで自分だけでやろうとしないということだけは決めていました。やっぱり一番悲惨なのは、僕が鼻息荒く、分かったふりをしてやって、選手・スタッフの大事な時間を無駄にしちゃうことだと思っていたので、そこだけはすごく気にしていましたね。彼らは監督を選べないじゃないですか。大事な彼らの時間なので、そこを無駄にしたくないという気持ちでした。またワールドカップ後にはミルトン(ヘイグ/監督)が来るので、ミルトンが指揮をとることにスムーズに入っていけるように、リンクするようなラグビーを意識していました。
――ミルトン・ヘイグ監督とはそういう話もしているんですか?
もちろん話していますし、彼からの希望であったり、逆に僕から「いまはこういうラグビーをしているけど、改善点などはありますか?」などアドバイスをもらったり、いろいろと情報を交換していました。
◆責任感は倍以上
――カップ戦が終わり、監督の役割も終わりになるんですか?
もちろん、そうなります。
――与えられたチャンスでやり切りましたか?
勝てなかったですからね。チームミーティングでも言いましたが、結果はすべて僕の責任です。ただ、結果だけじゃない、彼らがこれまで積み上げたもの、次に繋がるものがいっぱいあると思います。新しい試みをして0から1にしたもの、今までサンゴリアスがやってこなかったものがある訳です。0から1にしたものがあって、でも1では勝てなかった訳です。それが良いと思うのであれば、2とか3とかにしていかないといけません。それには時間が必要ですし、みんなが本当に良いと思うことであれば、みんなで2、3、4、5と積み上げていきましょうと話しました。
――選手たちは手応えを感じる表情をしていましたか?
まあ、僕にはそういう顔をするかもしれないですけどね(笑)。それも含めて、春シーズンでは僕も正直に話をしましたし、彼らが違うと思ったことは言ってきてくれましたし、僕はそういうチームであるべきだと思います。その中で決めるところは僕が決める、ということを繰り返すだけです。やるのは選手なので、選手がいろんなことを考えて、ゲームではカオスなこともいっぱいある訳で、そこで彼らがどうするかということも、今回勉強になったと思いますし、そういう力はついたと思います。
――コミュニケーションを密にとっていると、一方で馴れ合いという怖さもあるかと思います。その中でコミュニケーションを密に取りながら、且つ練習や試合では厳しさもありつつできていたと感じますか?
昨シーズンのやり方が良いとか悪いとか、そういう話ではなくて、昨シーズンは勝てなかったので何かを変えなければいけないということもありましたので、先ほど言ったような新しい取り組みをしました。そういうスタイルを取り入れるときに、起こりうるネガティブな部分も事前に想像が出来きます。それを春シーズンの最初のミーティングで話しました。
経験ある優秀な監督がいなくなってのデメリットとしては、緊張感であったり、そういうところがなくなるかもしれないけれど、そこがチャレンジだと選手に伝えました。選手たちも理解していましたし、僕もそこはいつも気にしていました。絶対に緊張感は必要で、それはなぜかと言えば、試合の中では絶対に緊張感があるからです。トレーニングから試合と同じ状況でやらなければいけないんです。
そして、次の問題としては、その緊張感を誰が作るかということになります。昨シーズンで言えば、その部分を敬介さんが作ってくれていて、そこを選手たちが意識してやっていました。ただ、晃征(小野)がある時、僕に言ってきたのが「耕太郎さん、今年のチームはもしかしたら緊張感が昨シーズンより落ちているかもしれません。でも、責任感は去年の倍以上あります」って言われました。そのとき「確かにそうだな」と思いましたし、選手が主体的になるということは選手に責任が出る。選手が自分たちのチームを良くするための厳しさとか、仲間のためにこうしなければいけないとか、グラウンド内外でそういう責任感が出てきて、そういうことがチーム愛に繋がると思います。そういうところは確実に良くなったと思います。
◆ノンメンバーとミーティング
――コーチとしての可能性は、自分自身で感じることはありましたか?
僕がいくら「自分は良いコーチだ」と思っていても、評価は周りの人がすることです。(笑)。もともとやりたかったことではあるので、もちろん大変ではありますが、情熱的に出来るフィールドだと思います。
――やっていて面白かったところはどこですか?
やっぱり勝った時ですね。勝ってみんなでロッカーで喜ぶ瞬間とか、今年の春に関しては、網走で神戸製鋼に負けて、みんなでどうしようかを考えて、カップ戦でも負けてしまいましたが、そういう経験であったり、選手とそういう時間を共有できたり、同じターゲットに向けて試行錯誤する時間とか、その時はすごく苦しいですが、そういうのは貴重な時間だなと思いましたね。
――今後のチームの予定は?
9月からは個人トレーニング期間、チーム練習は10月中旬頃から、またスタートします。
――これからの立場であるコーチングコーディネーターとは、どんな役割なんでしょうか?
僕の中ではファシリテーターのような、みんなが上手く回るようにやるということです。
――いま考える、サンゴリアスの課題は何ですか?
カップ戦を終えて、良いチームになっているとは思います。ただ、考えなければいけないのは、良いチームを競う大会に出ている訳ではないので、やっぱり勝たないといけないんですよ。確実に良いチームになっているとは思いますが、勝てなかったということは、何か改善しなければいけないことがあります。その中で間違えてはいけないのは、方向性がどうだったかということは明確にしなければいけません。方向は合っているけど時間が足りなかったのか、そもそも方向が間違っていたのか、そこを見極めなければいけません。
負けたからこの部分をまた0からにして、じゃあ今までの時間は何だったんだとなります。僕はそういう状況ではないと思うので、いま向かっている方向に、僕より経験のあるミルトンが来てそこにプラスα をしてもらって、トップリーグで勝つというイメージを持っています。本当の意味で選手からエナジーが出てくるとか、そういうチームにはできたかなと思います。
僕はいつもメンバー発表の時にノンメンバーとミーティングをしていました。メンバーに入れない一番辛い瞬間だと思いますが、彼らと話していると、僕もノンメンバーの時間が長かったので、チームの状況ってすごく分かります。自分がメンバーに入れなかった状況で、そこでチームのためにどういう振る舞いをするのかは、それは選手自身のチョイスです。「チームのためにお前はどうしたいのか。こうした方が良いと思えばそうすべき」だと思います。僕は自発的に「チームのために何かしたい」と思うようなチームになって欲しいと思っていますが、そこは僕がこうしろとは言えないことです。それは誰か言われてやるものではないです。その部分はカップ戦を通じて素晴らしいチームになっていると思います。そこは僕の力ではなくて、100%彼らが自分たちでそういうチームを作った証です。そこは続けていくべきだと思っています。
――その自覚を持っている選手は、若手とかベテランとかは関係ありませんか?
関係なかったですね。ここにいる選手で頑張っていない選手はいません。ただ現実的に試合のメンバーは23人しか選べないので、そこで残ったメンバーがすごく大事です。彼らがどういう目をしてトレーニングをしているかということです。
僕はサンゴリアスに17年いて選手もスタッフもやらせてもらって、いろいろ優秀な監督を近くで見させてもらいました。でも、今のやり方って、どの監督もやっていませんでした。だから、僕はいまやるべきだなと考えました。ただ、そこで絶対にやっちゃいけないことはカルチャーを壊すことです。サンゴリアスはサンゴリアスの絶対に変えてはいけない大事なものがあります。それを壊さない範囲で、今の状況だったらチャレンジ出来ることを、自分なりに考えてやってきました。サンゴリアスが次のステージに行くために、何かエッセンスになればいいなという思いでした。
――ミルトン・ヘイグ監督が来ても、引き継いでいって欲しい部分ですね
僕がどういう思いでやっているのか、そのために何をしているのか、ということはミルトンともコミュニケーションを取っていました。ただ、ミルトンが来て最初は変える部分もあるかもしれませんが、そこは僕が上手く軌道修正しながらやっていかなければいけないと思っています。今はミルトンも同じ考えを持ってくれていますし、そこはスムーズに入っていけると思っています。
――コーチングコーディネーターとしての今後の目標は?
まずはミルトンを100%サポートすることですね。あとは選手、スタッフたちが能力を最大限発揮できるようにサポートするということですね。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]