SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2019年7月26日

#646 田村 煕 『良いと思うまで蹴り続ける』

サンゴリアス3シーズン目を迎えた田村煕選手。ジャパンラグビートップリーグ2020でのスタメン出場を目指して、今どんなことを考え、どんなことにチャレンジしているのでしょうか。トップリーグカップ2019のプール戦第4節に向けての練習後に聞きました。(取材日:2019年7月上旬)

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◆ボンッとペチッ

――全体練習後、ゴールキックの練習をしていましたが、そういう時は何を考え、何に気をつけて練習しているんですか?

この前の栗田工業戦がひどかった、というよりこれまでのカップ戦でのゴールキックの成功率がひどいですね。今日に限っては、次の試合まで間隔が短いショートウィークということもあり練習のボリュームのことを考えますが、キック自体に関してはもう一度良かった時の感覚、スタイルに戻るためにと考えて練習しました。ゴールが入った入らなかったということではなく、自分の形で蹴ることが出来ているか、足に当たっているかを確認していました。このあと今週のどこかで時間を作って、めちゃくちゃキックの練習をすると思います。

――感覚としてはどこを大切にしているんですか?

ボールを蹴った時に足のスイートスポットに当たっているか、その時の感覚と音ですね。良いキックの時って、だいたい良い音がするんです。

――どんな音がするんですか?

重めのボンッて音です。ずれていると、音が軽かったり、ペチッて音がします。

――今日の練習ではどうでしたか?

ダメです(笑)。この前の栗田工業戦もダメでした。

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――ダメなときに修正する方法はあるんですか?

人によって違うと思いますが、まずは本数を蹴らないと、良い時の感覚が掴めないですし、僕の場合は蹴り続けないと感覚がずれてきてしまいます。逆に試合でめちゃくちゃ良い所に当たったけど、定めている角度が悪くて外れたり、足には当たってないけど入っちゃう時もあって、その時点で一貫性がないので、いつでも同じ感覚で真っ直ぐ蹴られるように練習しています。

――栗田工業戦の時のように1本目から続けて入らなかった時は、どう修正するんですか?

毎試合、何トライ取るかは分からないので、だから「この1本で決める」というイメージでやらなければいけないんですが、僕は駒沢での試合が初めてで、芝生の感覚が他の競技場と違ったり、陸上トラックがあって広く感じましたし、景色が変わるだけで感覚が変わってしまいます。ですけど、いつも同じ会場で試合が出来るわけではないので、どの競技場でも同じ感覚で蹴れるようにならなきゃいけないと思っています。

試合中の修正については、ルーティンではないんですが、僕の中で大体このくらいの位置に立って、このくらいの歩数で蹴るというものがあって、まずは試合前のウォームアップで蹴ってみて、今日は体がかぶせ易いとか、開いているとか、その時の感覚で角度などを微調整しています。ウォームアップでその日の感覚を掴みたいんですが、アップの時にコンバージョンのことだけを考えるのは難しいので、結局は1週間どういう練習をして、良い感覚を自信を持って掴めたかが大事になるのかなと思います。

――基本的には微調整をしないで蹴られたら良い感覚の時ですよね

そうですね。いつもの練習のようにすんなり入れれば良いんですが、そうではない時が結構あるんですよね。良いキッカーはそういうのがなく、すんなり入れるのかもしれませんが、その日によって体の感じも絶対に違うので、僕は微調整をしながらやっています。今日は感覚が違うなと思っていても、試合に入ったら蹴れてしまったりするので、そこの一貫性が出てくるまで練習するしかないのかなと思います。

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◆自信を持って蹴ること

――シーズンによっても蹴り方が変わってくるんですか?

この前みたいに1回外したから大きく変えるとなると、特にシーズン中ですし、何が正しいかが分からなくなってしまいます。ただ、キックが明らかに届いていないとか、真っ直ぐ当たっていない、ボールが曲がっているとか、そういう状況だったらやり方を変えますが、基本的には変えずにやっています。

――ゴールキックが微調整しなければいけない時はプレー中の他のキックも微調整しなければいけないものですか?

そこはそうでもないかなと思います。全部に共通しているもので一番は体重移動だと思うので、緊張したり「入れなきゃいけない」と思ってガッと力が入ってしまったりして、いつもより早く踏み込んでしまったり、いつもゆっくり時間をかけて蹴るところで急いで蹴ってしまったりするとミスすると思います。共通しているとは言い切れないかもしれませんが、メンタル的なものはあると思います。

――蹴ってみて自分のメンタルに気づくこともありそうですね

ありますね。試合の日の調整はアップであったり、試合の始めに少しするくらいで、僕としては、それまでにどれだけグラウンドで蹴ってきたか。1週間であったり1ヶ月単位であったりプレシーズンであったり、体の感覚や足の感覚をどれだけ掴めたかということを考え、自信を持って蹴ることが良いフォームに繋がると思っています。だから、その日の感覚というよりは、まずはグラウンドでしっかりと蹴りたいタイプですね。

――1回の練習でどれくらいの本数を蹴っているんですか?

本数までは数えていませんが、そもそも自主練が好きで、高校生の時は本数を決めずに納得がいくまでずっと蹴っていたりしました。今もそうなんですけど、体もだんだん変わってきて、疲労が溜まるとは思いたくないですが溜まるようになってきて、この日は蹴る、この日は数本で終わると決めてやるようにしています。少なくとも1本は蹴るようにしていますけど、感覚が掴めたら1本で終わる時もありますし、良いと思うまで蹴り続ける時もあります。

――左足でも練習しますか?

ゴールキックはないですけど、プレー中のキックは左でも蹴ります。

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◆まだ売り物とまでは言えない

――ディフェンスの裏に蹴るグラバーキックのタイミングが、周りの選手と合ってきたように感じます

外の選手がよくコミュニケーションを取ってくれることが大きいと思いますし、みんなが周りをよく見てくれるようになったので、僕としてのポイントはキックのスキルだけですね。

――キックに関しては自分の売り物だと思いますか?

売り物にしていかなければいけないのでやっている感はありますけど、今の段階ではまだ売り物とまでは言えないかなと思います。あれだけ外していますからね。

――では、今の売り物は何ですか?

10番はなんでもやるポジションなので、何か1つこれに自信を持ってというのは難しいですね。スクラムにこだわりを持っているポジションもあれば、ラインアウトにこだわりを持っているポジションもあって、僕の場合はそれがキックなのかもしれないですね。怪我とかだったら別ですけど、調子が悪いから他の選手に代わってもらうとかができないので、自分で解決しなければいけないプレーだと思います。強みじゃないとは思っていないですけど、いま自信を持って「強みです」と言えるほどの精度ではないと思います。

――タッチキックの時には何を考えているんですか?

この場面では絶対にタッチに出さなければいけないとか欲張りたい時もあるんですが、あまり深く考えず、基本的にはターゲットを決めて、そこに思いっ切り蹴り込むイメージです。

ゴールキックもタッチキックもプレー中のキックも、人によって蹴り方が全然違いますが、僕が思うのは、どの種類のキックでも真っ直ぐ飛ばなければコントロールできないということですね。自分がどうやって蹴ったらボールが真っ直ぐ飛ぶかということを知るようにしています。

――風の影響もありますよね

この前の栗田工業戦では、外から見たら風が強く吹いている感じはなかったかと思いますが、グラウンドに立っていると風が舞っているような感じで、右から左に風が流れていると思って右側に蹴ったら、そんなに風が流れていなかったりしていて、風の感覚もいつもと違うように感じました。ただ、それは仕方がないことなので、その状況でも決めなければダメですね。

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◆どう準備をするか

――クラブハウスで声を掛けると、いつも「全然ですよ」って返事が返ってきますが、そこに込めた思いは何ですか?

まずはスタメンで出続けていないですし、相当良いパフォーマンスをしないと試合には出してもらえないですからね。あんな素晴らしい選手がいるので、まあどの監督でもそうだと思いますが(笑)。1週間の練習を通じて素晴らしくて、試合でも影響力のあるプレーができなければいけませんし、それが1試合だけではダメなので、そういう意味での「全然」です。

――その「全然」には、悔しさであったり、自分に対する不甲斐なさであったり、そういう色々な思いが込められているように感じます

たぶん悔しいのが一番大きいと思います。こういう思いができるのは、他のチームでもなかなかないと思いますよ。神戸製鋼の日本人のスタンドオフの選手も相当悔しい思いをしていると思いますし、他のチームのなかなか試合に出られていない選手も、僕と同じような思いをしていると思います。

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学生の時に試合に出られなかった時とは違い、今は自分の120%の力を出しても試合に出られるか分からないと思います。その中で一番フラストレーションが溜まるのは、「パフォーマンスは悪くない。パフォーマンスが悪いから使っていないわけじゃないんだよ」ってことですよね。パフォーマンスが悪くないのに試合に出られないってことは、同じポジションの選手のレベルの高さがあるってことです。ただ、それが現実ですし、その状況を分かった上でこのチームに入ったんです。

――自分の中では120%を出し続けることを考えているんですか?

1試合を通して完璧なパフォーマンスをし続けて、試合が終わった後に「今日は完璧だった」って思えるようにやろうとすると案外できないので、練習の1つのセッションからどうやったら良いパフォーマンスが出せるのか、そのためにどう準備をするかを考えるようにしています。試合に関しても、アタックでもディフェンスでも目の前のプレーをいかに精度高くやるかという部分で大きな差があると思います。試合に出ている選手はそれができていると思いますが、簡単なようでとても難しいことです。

――精神的にはチャレンジしていくんですか?それとも守りですか?

守ってやって勝てるようなもんじゃないですね。高校からラグビーを始めて大学とやってきて、ある程度競争しながら試合に出る回数が多かったんですが、今のような状況を経験することはあまりありませんでした。守ってやれるほどの余裕もないですし、出ている選手と比べると経験も少ないので、強みをどれだけ出せるかだと思います。失敗を恐れずにチャレンジしていくしかないのかなと思います。

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◆「全然」

――その状況でやっていくためには、心のコンディションを整えることが大事ですね

本当にそうですよ。バランスは難しいと思いますが、まずはチームが勝つことが一番です。とは言いつつも、みんな試合には出たいですし、試合に出て活躍したい、勝ちに貢献したいという思いがあって、僕がサントリー1年目の時に、試合に出たくても出られない思いというのは学んでいるつもりです。そして、今度は試合に出られるのに出られないという状況なので、どう気持ちをコントロールするかですね。

――気持ちをどうコントロールしているんですか?

まずはすんなり認めることは絶対にしないようにしています。傍から見たら仕方ないと思うかもしれないですが、自分が出られなくて当たり前と思ってしまったらダメだと思いますし、「なんで試合に出してもらえないんだろう」と思えるようなパフォーマンスを常に出していかなければいけないですし、その準備をしなければいけないと思っています。

――田村選手が「全然」と言わなくなったら危険信号ですね

もしかしたら他の人は試合に出られなくなっていくことに対して隠しているのかもしれないですけど、僕はそれができるほど余裕がないって感じです。仮に試合に出る回数が増えて、スタートから出してもらえるとなっても、ずっと「全然」って言うかもしれないですね。

――自分の中で「ここまで頑張ればスタートで出られる」というビジョンは見えているんですか?

試合に出られるようになっても、そういうのはないかもしれません。そこで自信を持って「これ」と言い切れないのは、経験がないからだと思います。その中でしっかりとやっていくしかないと思っています。

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◆ラグビーはずっと楽しい

――今の目標は?

スタメンで出ることです。他のチームを見ても、日本人の10番って少なくなってきていて、うちもコスさん(小野晃征)が12番に入ったりしていますし、ポンポン新しい人が出てくるポジションでもないですからね。

――イメージする最終的な姿と比べると、現在はどの辺りに来ていますか?

道半ばにも行ってないんじゃないですかね(笑)。さっき言ったように、「ここまでやったらこれ」というのが無いですし、他のポジションでも一緒ですけど、どんどん色んな選手が入って来ますからね。

10番の難しいところであり面白いところでもあるんですが、トライを取るとかラインブレイクするとか、目立つプレーが多いわけではなくて、コンスタントに高いレベルで毎試合どれだけチームに貢献できたかというポジションです。これだけやれば良いということがないので、だから難しいポジションでもあると思います。

――いまやっていて感じるラグビーの楽しさはどこにありますか?

基本的に、ラグビーはずっと楽しいですよ。本当にラグビーしている時は楽しくて、その中で試合に出られないのが悔しいだけで、試合に出られなかった1年間も、出られるようになった昨シーズンも、ラグビーをやっている時はずっと楽しいですよ。このチームは優勝を何度もしているチームなのでプレッシャーも大きくて、もちろん試合では緊張もしますけど、ラグビーが面白くないと感じたことはないですね。

――ラグビーのどこが楽しいと感じますか?

分からないですけど、試合って面白いじゃないですか(笑)。練習試合でも気持ちが入っていないと、周りから見てすぐに分かりますよね。そして公式戦になると、また違った雰囲気になりますし、スイッチが入っていないと周りから見ていても「今日のサンゴリアスは体を当てられてない」って分かると思うので、それがやっている側も面白いんだと思います。

――全部スイッチが入っているというシーズンにしたいですね

そういうシーズンにしたいですね。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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