2019年7月19日
#645 西川 征克 『負けたら次に向けて成長しなければいけない』
ベテランとしての落ち着きと、日本代表を経験しての自信を、最近の態度や雰囲気から感じさせてくれる西川征克選手。新しいシーズンに入って、何をテーマに何を目指しているのでしょうか?(取材日:2019年7月上旬)
◆ついていくのに必死
――今日の練習はどうでしたか?
自分のミスばかりでチームのリズムを乱してしまいました。
――それはスキルの問題ですか?
いや、頭の問題です(笑)。チームがやろうとしていることに、頭が追いついていない状態です。
――それは新しい試みなんですか?
今シーズンからフォワードコーチも変わってやっていることが新しいので、チームの合流が遅れた分、出遅れています。
――その部分に関して、解決策は見えていますか?
もう覚えるしかないですね。覚えられていなくてミスするとテンションが下がってしまうので、しっかり覚えます。ミスをしなければ、テンションが上がることはないですが正常に保てます。最近はテンションが下がることがそんなになかったんですけどね。久々です。今はちゃんと理解して取り組むということしか出来ないですかね。もうチームについていくのに必死です(笑)。
◆ベーシックな部分を高める
――すでにカップ戦は始まっていますが、チームが始動して今の時期の心境はシーズンごとに違うものですか?
シーズンを重ねるごとに余裕は出てきましたね。心境としては「やるしかない」という部分は変わりませんが、しっかりと準備して取り組むというコントロール的な部分は、出来るようになってきたと思います。今日は凹んでいますが(笑)、心に余裕が持てるようになってきて、準備の仕方や方向性という部分は、ここ最近のシーズンは上手くいっていると思います。
――シーズン終盤にピークを持ってくるために、今の時期はどんなことに気をつけているんですか?
ベーシックな部分を高めることと、あと怪我をしてしまうと、それまでやってきたことの半分くらいは無駄になってしまうので、怪我をしないということに気をつけています。
――ベーシックな部分については、毎シーズン積み重ねていく感じなんですか?
基本的には積み重ねが多いと思います。だから毎年やってきていることが積み重なってきて、心にも余裕が出来てきているのかなと思います。
――今日のテンションは別にして、今シーズンはここまで順調に来ているんですか?
日本代表の合宿に参加させてもらっていたので、今シーズンはこれまでとは少し違うかなと感じています。
――昨シーズンが終わって日本代表の合宿があってと、オフはなかったですよね
オフについては別に気にしていないですね。僕がサンゴリアスで1年目、2年目の時には、今よりも強度の高いハードなトレーニングをやっていたので、オフがあるかどうかは自分の中ではそんなに気にはなりません。
ただ、代表合宿に参加していたのでチームの合流が遅くなって、今シーズンに関してはスタッフも大きく変わってやることもあって、チームに追いつくことに今は手一杯という感じになっています。
◆フィジカル面とスキルの部分
――日本代表への再合流はイメージしていますか?
別にイメージはしていないというか、執着はしていないという感じですね。30歳を超えて初めて日本代表に呼ばれましたが、それはサンゴリアスで良い準備が出来ていたから呼ばれただけであって、もう一度このチームで良い準備をしていれば、結果としてついてくるものかなと思っています。だから、ワールドカップにフォーカスしていないというか、サンゴリアスとしてトップリーグに向けて良い準備をして成長はしていかなければいけないので、その中で結果としてワールドカップに繋がっていけばいいかなと思っています。
――これまで縁がなかった日本代表に参加して、そこで新たな欲は生まれませんでしたか?
あのフィジカルレベルで試合をすることはあまり経験することがなかったので、すごく楽しかったんですが、なんだろうな、日本代表に呼ばれるに越したことはないと思うんですが、ベースがなければ呼ばれもしないと思うので、僕の中では"自分の成長を目指す"ということに近いかもしれないですね。ベースの部分をしっかりと高めることが、日本代表に繋がるのかなと思っています。
――もう少し具体的に言うと、ベースの部分を高めるための課題は何ですか?
フィジカル面が代表に行って一番弱かったと痛感しましたし、あとはスキルの部分だと思います。今まではただ単に走って、タックルして、ジャッカルしてという感じでしたが、今のラグビーをやるためにはそこにオプションをつけなきゃいけないなと、とても感じています。パススキルなどのスキル系を磨いていかないと、サンゴリアスでも厳しくなってくると思います。
――スキル面を伸ばすためにチーム練習以外でも取り組んでいるんですか?
ベースの部分ですが、パスであったりキャッチであったり、定期的に取り組んでいます。
――ベースの部分に取り組むのは面白そうですね
そうですね、今まで「ボールを持ったら、とりあえず当たれ」としか言われずに10年間もやってきましたからね(笑)。オプションが増えることは良いことですが、それにまだ技術がついてきていないので、もう一度ベースの部分を高めて、その先で何が出てくるかはまだ分かりませんが、何か開ける道があるんじゃないかなと思っています。
――伸び盛りなんじゃないですか?
衰えているところもあるんでしょうけど、伸ばせるところを伸ばさないと。もう歳も歳なんで(笑)。
◆大きな楽しみを得るためには苦しむことも必要
――いま感じるラグビーの楽しいところはどこですか?
分からないですけど、一番楽しめるのって、優勝した時にグラウンドに立っていることだと思います。まあ、日々のトレーニングの中にも小さな楽しさはあると思うんですけど、結局は優勝することが一番の楽しみかなと思います。
――でも、いきなりは優勝できないですよね
だから、その途中は苦しいですよ。優勝までにはしんどいことの方が多いと思います。
――特に昨シーズンは苦しい思いをして、最後に楽しむことが出来ませんでしたね
弱かったんだなと思います。勝負の世界では勝ちか負けしかないので、負けたら弱かったというだけであって、じゃあ次に向けて成長しなければいけないということだと思います。負けたことをずっと悔しがっていてもそのままなので、「負けた。じゃあ成長しましょう」ということで、それに対してそれぞれがターゲットに向かって、段階的に成長していかないと、今シーズンもまた勝てないと思います。
――心のベーシックな部分が安定していると思うんですが、キャリアを積んできたことによって得られたものですか?
キャリアを積んできたことによってだと思います。1年目、2年目の時なんて、心も体もボロボロでした(笑)。
――どうやって乗り越えたんですか?
乗り越えられたかは分からないですけどね(笑)。
――当時と今とを比較して、やはり今の方が楽しいですか?
どうですかね。当時は結果が出ていましたし、それが最終的には楽しさになっていたと思います。けど、試合に出られなかったので、そういう意味では半々かもしれないですね。やっぱり大きな楽しみを得るためには苦しむことも必要だと思います。
◆どこかで引き締めるところは必要
――いま苦しんでいますか?
今日は苦しんでいます(笑)。
――その苦しみはいつまで続くと思いますか?
10年やってきて頭を使うチームになってきたと思うので、そこをしっかりと理解さえできれば、苦しみよりも「成長するためにどういう方向に行けるんだ」ということが見えてくると思います。
――キャリアを積んだことでの落ち着きや考え方を感じますが、若手に対しては何かアドバイスしていますか?
チームに合流して、まだ3週間くらいしか経っていないので、まだ自分のことだけで手一杯です。頭でやってきたというより、ずっと理不尽でやってきたので、今は逆に僕が教えてもらっています。
――今シーズンの目標は?
優勝に向かっていきます。それに対してこのチームが新しく変わっていく中で、優勝すれば正解で、優勝しなければ正解ではなかったということだと思うので、今の環境をしっかりと理解して、優勝に向けてやっていきたいと思います。
――選手それぞれが自立することがテーマになりますか?
いま監督がチームにいない中でやっているので、どこかで引き締めるところは必要になると思います。
――ベテランとしてそこの役割もあるわけですか?
僕は口では言えないので、態度でしっかりと示して、緊張感ある雰囲気に持っていければと思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]