2019年7月12日
#644 中靍 隆彰 『いいコンビをいっぱい作っていきたい』
優勝した2016-2017シーズンに、17トライを挙げて最多トライゲッター、そしてトップリーグMVPを獲得した中靍隆彰選手。その後の2シーズンでの試行錯誤を経て挑む、新たなシーズンへの意気込みを聞きました。(取材日:2019年6月下旬)
◆もがいていた
――昨シーズンを振り返って
昨シーズンは調子は悪くなかったんですが、個人としては、ウイングだったらトライっていう結果があると思うんですけど、なかなか簡単にはその結果がついてこなかったので、すごく悩んでましたね。そう考えると、良くはなかったと思います。
――全体的な結果としては良くなかったが、調子は良かったということですか?
そうですね。ただ、なんでそうやって結果が出ないかをずっと考えて、もがいてたと言えばもがいていたと思います。
――そうすると相当苦しいシーズンだったんじゃないですか?
開幕戦で怪我をして、その怪我の影響でずっと部分的に筋トレができない状態だった中、毎試合騙し騙しやっていました。そういった面でも、いつもとは違うシーズンだったかなと思います。
――我慢と、もがいているのと、両方でしたか?
そうですね。チームとしても、すっきり勝つ試合が少なかったので、そういうチームに貢献したいという思いがあったんですが、なかなか上手くいきませんでした。
◆足が速いことをどう活かせるか
――その理由は色々考えられると思うんですが、その辺の整理はどのようにしているんですか?
本当に色々理由はあると思うんですが、自分がコントロール出来るのは自分のことなので、僕はまず自分がどうしたらもっと良くなるかということを中心に考えてました。
でもよく敬介さん(沢木前監督)から、「もっとチームメイトのことを知れ」と言われていました。それをミーティングでもよく言われていて、僕じゃない人がボールを持った時、たとえばヘンディ(ツイヘンドリック)が持った時に、ヘンディがどういうプレーをするか、その特徴を頭に入れていればもっと違う動きが出来るし、ボールのもらい方も違ってきます。自分ではない人が、どういうもらい方をしたりプレーしたりするのかを、もっと考えてプレーすればトライ出来るようになるというのは、シーズン通して教えられていたので、それはそうだなと思っています。
もっと周りの選手のことを知った上で、自分の特徴は足が速いことですから、それをどう活かせるか。他の誰かが抜けた後に、自分がボールをもらいに行けば、簡単にトライになります。そういったトライをもっと増やしたかったんですが、結局そんなにトライの数も増えずにシーズンが終わってしまった形です。
――MVPをとったシーズンは、トライが取りやすい環境だったわけですね
まぁ自分なりに良かった時と、いまと何が違うのかなと考えたりもしたんです。あんまり過去を振り返るのは嫌なんですが、そういう意味で考えたりはしました。自分としては、過去と比べても、原因は出てこず、出来ることに集中しようという結論になりましたが・・・。
――いま大変な状況になってますか?
いまメチャクチャ悩んでいるかというと、そうではないんですが、昨シーズンはずっと公式戦を戦いながら悩んでいたので、確かに苦しかったですね。
――そこをいま引きずっていないというのは、何か見つけたり決めたりしたんですか?
昨シーズンはもう終わったから、引きずっていないというのはあります。やってみないと分からないと思いますが、カップ戦が終わりトップリーグが始まった時に、自分が試合メンバーに選ばれつつも、そうやってチームに貢献出来なかったら悩むと思います。
◆自信はまずカップ戦で
――貢献できそうな予感は何かしていますか?
その自信をつけるためには、毎日のトレーニングとか過ごし方だと思うので、そういった意味で、その様な毎日の過ごし方は出来ていると思います。いまは毎週の試合に向けてしっかり良い準備が出来ていて、結果が出ているという自信はあります。またワールドカップが終わってトップリーグが始まる時には、外国人選手とか日本代表メンバーがいっぱい帰ってきてレベルが上がるんで、そういった中でも自分が活躍出来るんだという自信は、まずカップ戦でつけていきたいと思っています。
――カップ戦に臨む時に、自分が変わるために何かテーマを持ってやってるんですか?
たくさん伸ばさないといけないところは自分の中にもいっぱいあると思いますが、ただ、いろいろ伸ばさないといけない中で、自分に絶対にこれだけはある、っていうのは、まずスピード。そのスピードをさらに速くしたいという思いがありますし、誰にも負けちゃいけないところは、しっかりと芯をブラさずに持っています。あと、ラグビーは総合的なスポーツなので、他にもブレイクダウンだったり、タックルだったりを伸ばしていきたいなと思ってます。
――スピードというのは、体感的により速くなったと感じられるものなんですか?
一番成果が出づらいとこかなと思います、スピードは。正直、トレーニングをやったからその分絶対速くなるとは限らないですし、全然やってない人がずっと速かったりするのが足の速さだと思うんです。その中で、でも、ただ単にまっすぐ走るだけじゃなくて、質は変えられると思います。アジリティ、一瞬のスピード、体の動き方とかは変えられると思ってます。
――スピードに衰えは感じていないんですね
そうですね、あまり感じたことはないですし、あんまりそういうのは口には出さないようにしています。もう7年目ではありますけど、まだ28歳なので、まだ全然大丈夫だと思います。
――ワールドカップや日本代表については?
まずはサンゴリアスで良い結果を出すことです。チームが優勝して、そこでMVPをとったシーズンのように活躍すれば、さらに上のステージが開けると思います。まずはそのステージが開ける段階まで戻ることが必要だと思います。もしまた今シーズンのトップリーグで活躍して、優勝もできれば、また日本代表に呼んでくれっていう気持ちになると思いますが、今はまだそこまでになれていないという感じでしょうか。ですので、フォーカスしているのは、いまはサンゴリアスのことしかないです。
◆他の人と違う持ち味
――チームが優勝することに対する自信は?
メンバーは揃ってますし、環境も練習内容も良いので自信はありますが、他のチームも強化してるので、簡単じゃないと思います。でも、負けたくないっていう思いは強いです。2シーズン前と3シーズン前に優勝して、やっぱり優勝の後の喜びを知ったので、昨シーズン決勝で負けたっていうのは悔しいです。
――3シーズン前の優勝の時と、2シーズン前の優勝の時と、結果から見ると、3シーズン前の優勝の方が活躍していたと思いますが、そこの違いというのは何かありますか?
たしかに比べると3シーズン前の方が活躍していたと思います。試合の内容としては2シーズン前の優勝も貢献できていたと思いますが、トライの数は減りました。戦い方が変わったということもありますが、ただそれを解決するためのシーズンが昨シーズンだったんです。「よっしゃ今度はいっぱいトライとってやろう」と意気込んで臨んだシーズンだったんですが、なかなかチームも自分も苦しみました。苦しかったなって感じてます。
――昨シーズンの大きなテーマである「他の選手を理解して、よく知る」ということは、いま自分の中でどの辺までいってますか?
それは今シーズンも引き続いているテーマというか、ウイングにとってずっと必要な能力だと思っています。昨シーズンはそれが完全にできたかというとそうじゃなかったので、今シーズンはもっとそこにアンテナを張っていきたいなと思います。
――この人の動きはよく分かるとか、この人はちょっと想像しなかった動きをするとか、選手によって違うんですか?
やっぱり、毎日こうやって練習していると、想像を超えるような形はなかなかありません。ただ、攻撃の決まりごとの枠にとらわれていると、いきなり誰かが抜けた時に、反応が遅くなってしまうんです。次に備えていると遅くなってしまうので、たとえば、誰誰だったらここでいくかも、というのを頭に入れて、先に反応する、それが出来れば他の人と違う持ち味になると思ってます。
――かなり高度ですね
難しいですね。たとえば昨シーズンあったのは、あるサインプレーで順番に僕がもらうところを、僕にパスをする選手の前が空いていれば、パスダミーをしてそのまま前に行く訳です。それは、相手の立ち位置から考えるともしかしたら行くんじゃないか、その選手だったらそういうプレーをするんじゃないか、と思ってれば、順番に合わせないで、その選手が抜けた時にすぐにもらえたりするんです。でも、そればかりに合わせていると、予定通りにパスが回ってきた時のポジションが浅くなったりするんで、そこがまぁ難しいところです。
――そこで予想が当たった、当たらないっていうのは?
例えば4人パスを繋ぐ状況で、僕が3番目だとすると、やっぱりラグビーは前にはボールを投げられないので、だいたいはパスを繋ぐたびに少しずつ後ろに下がっていきます。その中で、1人目や2人目がどういう動きをするのか、たとえばこの選手だったらパスをせずに抜けるんじゃないか、とプレーを見ながら思っていれば、間の選手を飛ばして、ウイングが先に前に出て反応をするという事もありえます。
――それを体験するには回数の限界があると思うんですが、それを補う話し合いは、他の選手とするんですか?
そういった意味でのコミュニケーションが普段の練習から大事だと思いますし、そういう高いレベルのコミュニケーションをしないといけないと思います。割とそういうプレーについて話す機会は、特に今シーズンは、自主的に自分たちでやらなければいけないって思っているので、増えてきていると思います。
――求めていることはとても高度で、スピードが重要になりますね
そうですね、僕がフィジカルでいまのトップレベルの人たちに勝てるレベルを、これから身につけるのは理論上無理だと思うんです。継続して鍛えはしますけど、いまある武器を最大限に活かせるようにしていきたいなと考えています。ただ、今のところは口だけになっていると思うので、体力も割とある方だと思うんで、地道に地道に、色んな抜けそうなところを走り回ったりもしたいです。
それにコミュニケーション、たとえば今シーズンだったらテビ(テビタ・タタフ)とか、そういう匂いがプンプンするんですよね、実際に抜けたりする。普段の練習からしっかりと、どういうふうにしたいのかコミュニケーションをとって、これからのカップ戦で、抜けるラインのいいコンビをいっぱい作っていきたいなと思ってます。
――今シーズンの目標は何は?
目標は、いまも変わらないですね。優勝すること。その優勝に、トライをたくさん取って、めちゃくちゃ貢献したいです。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]