SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2019年7月 5日

#643 タイ マクアイザック 『選手が楽しく感じる時、僕も楽しく感じています』

サンゴリアスの新しいフォワードコーチとして加入したオーストラリア人のタイ・マクアイザック コーチ。日本での経験が豊富な新任コーチは、サンゴリアスでどんなことをやろうとしているのでしょうか。たまに日本語で答えてくれるマクアイザックコーチに話を聞きました。(取材日:2019年6月中旬)

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◆貢献できる場、成長できる場

――まず、サントリーに来るということを決めた一番のポイントは何でしょうか?

サントリーというチームは歴史もあり、日本だけではなく世界でも高い評判があります。このチームに入れるのは良い機会ですし、チームに対して自分自身も、何か貢献できることがあるのではと思って来ました。

――外から見ているサントリーと、実際に入ってみたサントリーの違いは?

以前、トヨタ自動車や豊田自動織機にいたんですが、そこから見ていたサントリーは、ある種のブランド力があり、サントリーのスタイルのラグビーをしていて、いつも面白いと感じながら見ていました。最近の数年で、試合のスタイルは明らかに変わってきていると思いますが、いまサントリーを中から見て、他のチームと試合をする上で、戦略面やテクニック面で自分が貢献できることがあるなと思っています。

――監督が決まる前にコーチが決まるという珍しいパターンでしたね

そうですね、監督より先にコーチを選ぶというのは、明らかに珍しいことです。ヘッドコーチや監督より先にアシスタントコーチを雇うのは珍しいですが、これは、これまでとは違う大きな変化をもたらすものだと思っています。良いチャレンジができる環境でもあります。

――もともとオーストラリアから日本に来るということを決めた、その動機は何ですか?

素晴らしい経験になる、と思ったからです。オーストラリアにいた時も、日本とラグビーをしたり話に聞いたりしたことがありましたが、日本にはみんなが一生懸命に取り組む文化がある、ということを知っていました。そういう環境の中でコーチをするというのは、良い経験だと思ったのです。

そういう熱心なメンバーに囲まれて、みんなが毎日1%でも向上しようと思いながら努力して練習に取り組んでいる環境というのは、コーチとして自分が貢献できる場であり、また自分が成長できる場でもあると思ったのです。

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◆発見し、学び、スキルを上げていく

――そう考えて日本に初めて来てみて、どうだったんですか?

初めて日本に来た時に驚いたことは、学び方のスタイルでした。言われた通りに練習するんです。例えばコーチが、「こういうふうにトレーニングしよう」と言うと、その通りに選手がやります。もしコーチが「A→B→Cと走りなさい」と言うと、選手は完璧にその通りに走ります。でも実際のラグビーでは、A→B→C と走ろうとしても、AとBの間に人が立っていることもあるわけです。だから言われた通りにやってきて、実際の場面になった時に、最初はどう動けばいいのかということに葛藤します。

――それは良いことなんですか?

はい、たくさんの良い側面があると思います。テクニックを学ぶ時に、「これはこういうふうにやるべきテクニックだ」と言われて、その通りに練習することで形になります。オープンスキルの向上のためにも、特定のクローズドスキルをしっかりつけること、その練習をすることは良いことです。クローズドスキルの練習は、言われた通りにやる人が時には多くなかったりしますが、だからこそコーチングはやりがいのあることに感じます。

――日本の選手の一つの課題として判断の部分があると思います

サントリーは少し違います。2003年に私が学生で初めて日本に来たときと比べると、今のラグビーは400%変わりました。選手の試合でのセンスも、判断するセンスも向上しました。それは、以前よりも、高校や大学の時から、選手が良いコーチングを受けられるようになっているからだと思います。以前は、サントリーのようなクラブチームでも、今のような良い判断を促すようなコーチングは受けられていなかったと思います。高校や大学のコーチも、今は経験を積んでいて、選手の判断力や理解力がより上がっていると思います。

――いろんな国の人たちが来て日本の選手が影響を受けた部分もありますね

海外から異なるスタイルを学び続ける環境があったことが、選手のレベルが上がっていることに貢献しているのは事実だと思います。実際、多くのオーストラリアやニュージーランドなどの子どもたちは、友達同士でのスポーツ、ラグビーなどの中で自らどんどん学んでいきます。自分たちが何をしているかを理解していきます。コーチたちからこれはこうやってやるものだ、これが上手くいく、と教えられるというより、これが自分には効果がある、というのを自分で発見し、学び続け、スキルをあげていく力自体も向上させていくんです。

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◆自信と誇り

――選手としてスーパーラグビーやオーストラリア代表チームを経験していて、自分自身はどんな選手だったと思いますか?

自信はありました。これまで、ラグビー社会の中で、年齢を重ねるにつれていろんな試合をしてきました。代表チームやプロチーム、いろんなチームに所属する中で、僕はその自信を養ってきました。試合も、スーパーラグビーから世界一レベルのものまで、いろいろな相手との試合を経験してきましたから。

――良い選手でしたか?

はい、自信があるのと同じくらい自分のことを誇りに思っていました。そのために毎日熱心に練習にも励んできて、自分自身をスキル的にも成長させてきましたので、それが自信に繋がっていました。世界のトップの選手たちはみんな自信を持っているし、それがあることが勝利に繋がります。

――プレーヤーとコーチというのは全く違うと思うんですが、コーチングというのはいつ頃から興味を持ったのですか?

そもそも僕自身は、高校の先生、体育の先生の経験があります。この教師経験があるというのは、1つの理由です。もう1つは、ラッキーなことに僕はラグビーを始めたのがかなり遅かったんですが、プロになって世界レベルの選手になるまでが早くて、とても早くいろんなことを学んできています。その時に考えてきたことの経験を活かせないかと思ったんです。

――そもそもなぜ先生になろうと思ったんですか?

オーストラリアのラグビーユニオンの選手会から、ラグビーのプレー以外にプラスで何か勉強することを薦められていました。選手を終えた後のキャリアを見据えて、別のことを勉強することが推奨されていたんです。だから僕は選手だった時に、先生になろうと思って勉強しました。ちなみにその時に僕の奥さんはすでに学校の先生でした。

「なぜ先生か?」と言われると、当時はあまり大きな理由はなかったですね。プロ選手でいる時には、日々の合間に結構自由に使える時間があったので、その時間に「何かしないと」と思って、それで勉強しました。僕の姉も先生でしたし、そして僕の奥さんも先生ですが、それが影響しているわけではないと思います。

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◆「パチッ」と気づく瞬間

――では、教える楽しさって何ですか?

選手や学校の生徒が成長しているのを見ることです。例え1%だとしても、20%だとしてもです。彼らが、こうやるんだと気づいて、「パチッ」と気づく瞬間を見ることはたくさんあります。こういう時が、ティーチングでもコーチングでも醍醐味です。

また、練習自体を選手や生徒が楽しく経験できるように、練習に試合を組み込んで、スキルを学んでいけるようにもします。その過程で選手が学びを得ていくことを見るのも好きです。彼らが楽しさを感じる時、僕も楽しく感じています。

――ラグビーの面白さというのはどこにありますか?

ラグビーはいろんな要素で成り立っていて、試合の中にもいろんな要素があるゲームだ、ということです。僕は、若い頃は、ラグビーリーグの中でプレーをして育ちましたが、他のスポーツもしていました。ラグビーリーグは、キャッチ、パス、タックル、キャッチ、パス、タックル、キャッチ、パス、タックル・・・とてもシンプルなゲームです。でも、ラグビーユニオンは、スクラム、ラインアウト、キャッチ、パス、タックル、と多くの部分があって、その方がもっと楽しいと思いました。それに、友達もたくさん選手としてプレーしていましたので、一緒にプレーすることも楽しんでいました。

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――ポジションはフッカーですよね。その面白さは?

フッカーというのは、スクラムの真ん中にいて、実際には見た目ほど面白くないんです(笑)。自分がスクラムをコントロールして、率いているとき、みんなの集中やエナジーを感じて、力を引き出してスクラムを組んで、ラインアウトを投げて、そして誰よりもみんなの動きをわかっていなければなりません。同様に全体の攻撃や守りのプレーも把握していないといけません。フッカーの関わることはとても多いんです。それが面白いです。

――フッカーが全体練習でうまく投げられなかった時、全体練習が終わったらすぐそのフッカーとマンツーマンでスローの練習をしていましたね

1対1のフッカートレーニングのベーシックなテクニックに関しては、だいたい3つか4つの基礎的なポイントがあると思います。毎回そのポイントに集中して投げて、そしてそれぞれのポイントをうまくすることができれば、ラインアウトは成功するものです。だから僕は、選手と1対1のトレーニングを強化します。

時々ラインアウトで投げる時に、いろんな動きを意識しすぎると、そのテクニックを忘れてしまいます。ですのでラインアウトの時には、投げるテクニックに集中させ、確実にその基礎的なポイントができているかに集中させます。テクニックを正しく習得するには、その都度ラインアウトのボールの動きがどうかということだけでなく、どのタイミングで投げるべきかということも身につけていき、勉強します。フッカーがラインアウトの際に学ばなければいけないことは、たくさんあるんです。

――選手時代にフッカーでフォワードを見ているコーチとしては、青木コーチもいますが、2人の役割分担は?

これはとても良いことです。2人の似たような役割を持つ人間がいることで、2人分の目があります。2人とも選手時代はフッカーとしてプレーしていて、ラインアウトについてもスクラムについても、お互いにアイデアやテクニック的なこと、集中すべきポイントについてなどを共有しあうことができます。常に2人の目でものを見ることができるので、1人では見きれないものも見ることができる。これは例えば、僕がある選手を見ていて、その間に彼がまた別の選手を見ているということもできるんです。

――そうすると、今シーズンのサントリーはセットプレーが強みになりますね

そう、その予定です(笑)。

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◆セットプレーを最高のプレーに

――ご家族は日本に来ていますか?

日本に来る予定です。2人の息子がいて、今度小学生になります。この2年間、日本の幼稚園に行っていました。今は学校が休みで、オーストラリアで小学校入学前のスク―ルに行っていますが、またすぐ日本に戻ってきます。彼らは英語と日本語が両方話せます。でも、このオーストラリアにいる期間に日本語を少し忘れているかもしれません。奥さんもオーストラリア人です。

――タイさんは日本に来て、もう10年くらいですか?

初めて来たのは9年前です。その後一度オーストラリアに戻って、スーパーラグビーでコーチをして、学校のラグビーのコーチをして、また日本に来ました。また日本に来てからは6、7年目になります。

――その日本で今年ラグビーワールドカップがあります

はい、楽しみですね。全部のワールドカップが楽しみです。

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――今シーズンのタイさんの目標は?

今シーズン、強化していきたいことは、セットプレーを最高のプレーにすることです。このトップリーグカップで、試合を積み重ねて、それを成長させていくことが目標です。

――サントリーというチームのどこが好きですか?

人が良いです。素晴らしい人たちの集まりです。選手もよく練習するし、スタッフもとても素晴らしいです。みんなよく働くし、そしてファンに対しても振る舞いも素晴らしいです。他の国から来るっていうのは大きなことですが、本当によくサポートしてもらっています。本当にそれには感謝をしています。サポートの体制がとても素晴らしいクラブです。家庭に関することも、より良い状況になってきました。家族を巻き込んで、良い状況が作れています。

仕事にかける時間が多いわけですから、特に子供がいるような家庭にとっては、環境がよいことは大事です。自分のまわりにどんな人がいるかというのは、仕事をする上でとても重要ですし、その環境を享受できることは大事です。その結果、仕事への姿勢や、学びを吸収する力も上がります。自分がやろうとすることの助けになってくれる存在がいることは、とても大事なことです。だからとても感謝しています。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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