2019年6月28日
#642 森﨑 陸 『学び続け、成長し続ける』
ニュージーランドからやって来た森﨑陸選手。19歳、チーム最年少の新人の意気込みを訊きました。(取材日:2019年6月中旬)
◆ニュージーランドにワールドカップを見に行った
――高校卒業後すぐにサンゴリアスに入ったんですか?
直接ではなく、ニュージーランドの高校に行っていて、卒業したあと昨年1年間はクラブラグビーでプレーしていました。ですので、ニュージーランドのラグビーシーズンの途中に来たという感じです。
――高校の頃はどこでラグビーをやっていたんですか?
高校の時は学校のチームでやっていました。
――高校を卒業してクラブでラグビーをするのはニュージーランドでは普通なんですか?
そうですね。高校を卒業したら大体みんなクラブでプレーします。スーパーラグビーとか州代表は、クラブラグビーから選ばれたりします。クラブラグビーでは皆、働きながらか、勉強しながらやっていますが、僕は専門学校で勉強をしていました。
――何を勉強していたんですか?
英語です。今は喋れるだけなんですけど、それをもっとアカデミックにというか、難しい英語を学ぶことをしていました。
――学べましたか?
はい、どうですかね(笑)。でも、ラグビーをメインにやっていたので、英語はちょくちょくという感じです。
――ニュージーランドへはいつから行ったんですか?
中学3年の時から行ったので、2015年からです。きっかけは2011年にニュージーランドへワールドカップを親と観に行って、その時にちょうど高校も見学しようかとなって、見学に行きました。練習を見た時にとてもレベルが高くてスキルもすごかったので、「ここに来たい」っていう気持ちになりました。父がラグビー好きでワールドカップを観に行くというので、僕もついていったという感じです。
元々、僕が生まれる前から親は僕をニュージーランドへ留学させたかったみたいです。なぜかは聞いていないんですが、僕の名前をつける時も「りく」というのは海外でも呼びやすいようにということもあったらしいです。
◆キックは得意
――ニュージーランドにラグビーを観に行く前からラグビーをやっていたんですか?
はい。兵庫県でラグビースクールに通っていて、5歳の頃からラグビーをやっていました。
――5歳の頃に初めてラグビーに触れた時はどうでしたか?
最初はそんなに好きじゃなかったと思います。親がラグビーをしていて、小さい頃から連れて行かれるというパターンでした。そういう感じで行っていたんですが、大きくなるにつれてだんだん好きになっていきました。最初は練習でコーチが怖くて、たまに「行きたくない」とか言っていたような記憶があります。小学校3~4年生の頃からだんだん面白くなってきて、好きになっていくという感じですね。
――どの辺が面白かったですか?
小学生の頃はスタンドオフをやっていて、いろいろ考えるということもあるし、タックル出来たり、当たれる面白さですね。
――他のスポーツには興味はなかったんですか?
小学生4年生~6年生の2年間だけ、友達に誘われてサッカーをやりました。でも、それも右足のキックが上手になるためにということでサッカーを始めたんです。もともと小学校にラグビーをしている友達があまりいなくて、ほぼサッカーばかりだったんです。サッカーも楽しかったんですけど、中学生でどっちを選択するかという時に迷わずラグビーにしました。
――ラグビーで才能は感じていたんですか?
昔からずっと父とキックの練習をしていて、兵庫県の県大会では、上手いというよりはキックが出来るという感じでした。
――今もキッカーですか?
今はゴールキックは蹴っていないです。でも、スクラムハーフとしてキックは大事なので、そこは得意としているところです。
◆最終的に僕が選んでいる
――お父さんの情熱が凄いですよね
そうですね。今考えるとそう思いますね。でも、父が押し付けたとかではなくて、最終的に僕が選んでいる形なので、なぜかそのようになっているんだと思います。
――高校でのラグビーはどうだったんですか?
ハミルトンボーイズという高校でやっていました。ニュージーランドではサニックスワールドユースに一番出ている学校で、1軍で最終的に出られたという感じですね。
――日本に来たんですか?
僕らの代は2位で行けなかったんですが、1軍に入るのも難しいと言われているくらいの高校だったので、そこが大きいですね。僕のチームメイトでは同い年でチーフスで出ている人もブルーズで出ている人もいますし、U20のニュージーランド代表に選ばれている人もいます。
――スクラムハーフにはいつなったんですか?
ニュージーランドに行った時なので、中学3年生の15歳の時からです。ニュージーランドのコーチに上を目指すならばスクラムハーフがいいと。サイズも小さかったし、「ハーフにチェンジしてみたら?」と言われました。
――ウイングはなかったんですか?
なかったです。僕はあんまり足が速くない方だと思っているので、ウイングは出来ないかなと思って(笑)。
――スクラムハーフに対する自信はどうだったんですか?
スタンドオフにちょっと似ている部分もあるので、自信はありました。戸惑わずにチェンジ出来ました。「やっぱりスタンドでやらせてください」じゃなくて、「分かりました。ハーフを目指してみます」という感じです。
◆テンポよりコントロール
――自分で自分を分析するとどんな選手ですか?
テンポというよりコントロール系のハーフだと思っています。それからニュージーランドにはフィジカルが強い選手がいっぱいいるので、そのフィジカルの部分も鍛えられていると思います。そこも僕の強みだと思っています。
日本のハーフはアタック中心で、ディフェンスが得意じゃない選手が多いというイメージなんですが、ニュージーランドではポジションに関係なく、ハーフでもジャッカルを求められたり、タックルも求められたりしたので、フィジカルという部分も強みだと思っています。何が得意とかではなく、オールラウンダーということが自分の強みだと思います。
――その中でもキック?
そうですね。キックは得意です。あとはタックルとフィジカルです。
――性格はどうですか?
強気です。ハーフはもちろん冷静に見ないといけないポジションなんですけど、誰かが走って来たら僕は思いきり行きますね。そこはニュージーランドで学んだのかなと思います。負けず嫌いだと思います。
――今の時点でラグビーの面白さはどこですか?
ハーフという部分で、どうやったらみんながうまく抜けて行ってテンポよく行けるかを考えながらプレーすることや、トライを獲った時のみんなの喜びとかが楽しみだったりします。あとは、タックルで当たることが気持ちが入って好きです。
――当たるのが好き?
当たるのが好きというか、もし相手のハーフがラインを抜けて来た時は「よし、止めてやろう」というような、そういう気持ちになる部分が好きです。
◆5年間積み上げてきたニュージーランドでの経験
――どんなきっかけでサントリーに入ったんですか?
昨年の11月くらいから「日本でも試してみたい」と思っていたんですが、たまたまサントリーさんから声がかかりました。
――自分では「日本でやりたい」という気持ちがあったんですか?
そうですね。5年間ニュージーランドでやってきて、その5年間で積み上げてきたニュージーランドでの経験やスキルを活かして、中学生までしかいなかった日本でどこまで出来るのか、どこのレベルにいるのか、どうやったら通用するのか、トップリーグで通用するのかをみてみたかったんです。そして、この素晴らしい環境でもやってみたかったというのが大きいです。
――ニュージーランドに未練はなかったんですか?
なかったです。高校を卒業した時点では、卒業してからすぐに日本へ行っても試合に出られるという状況ではないと思っていました。それならばニュージーランドで1年間プレミアというグレードで試して、もしプレミアでスターティングとして通用するのであれば、日本でも試してみたいなと思っていました。昨年、高校を卒業してプレミアの一番上のグレードで出ていたので、「よし、チャレンジしてみよう」と思いました。
――オールブラックスは目指さなかったんですね
僕はオールブラックスと日本代表だったら、日本代表を選びます。日本人だし、やっぱり自分の国なので、国を選ぶならば日本代表でプレーしたいなと思っていました。
――お父さんはサントリー入りを喜んでいましたか?
喜んでいました。最初は本当に信じてもらえなくて、「ほんまか?」って言われました(笑)。
◆ラグビーに対する思い
――小野選手から何か言われていますか?
小野晃征さんだけではなくて、いろんな人に「ニュージーランドみたいに気楽にやっていけ」と言われました。小野晃征さんには僕から聞くことの方が多いです。あとは小野晃征さんがスタンドに入った時は学ぶことが多いです。
――それはどんなところですか?
リーダーシップを大きく感じましたね。マット・ギタウ選手もそうなんですけど、チーム全体を考えたりラグビーに対する思いが素晴らしいです。練習の時は集中してやりますし、毎回の練習後も残っての自主練習を欠かさずに実践しているし、ラグビーに対しての姿勢や強い思いを感じます。どういうところを見ているか、という点でも素晴らしくて、ユニットミーティングがあるんですけど、見る部分が違います。
例えば、ディフェンスの時にタックルしたらすぐに戻りましょうと言い合うんですけど、それをなぜしないといけないのかというところまでしっかり理解している。それをただやるのではなくて、そうしたらセットが早くできてその分ディフェンスのノミネートができるということなど、しっかり理解してやっていると僕は感じました。やっぱりそこはトップレベルだなと思います。
◆努力を止めない
――いつから練習に合流したんですか?
3週間前です。まず素晴らしいと思ったのが環境ですね。この設備、ジム、食堂、メディカルルーム。僕はニュージーランドのチーフスの下のアカデミーに入っていたんですけど、スーパーラグビーのチームより環境が素晴らしいし、トレーナーをはじめスタッフの皆さんがしっかりと気にかけてくれて、僕はラグビーだけに集中できます。
プレーヤーもそうですし、みんな良い感じで迎えてくれて、ラグビーに集中して毎回良い感じで出来ていますし、ラグビーが楽しいというのが一番です。あとは練習の中のスキルの高さやフィジカルももちろん強いですし、練習の時は集中してチーム一丸となってやっているというのが正直素晴らしいなと思いました。
――今シーズンの目標は?
スタートで9番のポジションをとるというのはもちろんなんですけど、それを踏まえた上で僕が一番目指しているのは、ハーフとして成長し続けることです。流さんをはじめ、いろいろな人から得るものが多くて、僕にとって毎日が勉強でいかに吸収するか、それでどうやって成長して上にいくかというところです。チームが勝つのもそうなんですけど、そのために成長し続ける、ハーフとして学ぶ。
――プロとしてサントリーに入ったということはラグビーで生きていくという意思表示でもあるわけですが、その意気込みや心構えは?
僕はずっとプロでやっていきたいんですが、正直そこはあまり大きく考えていないです。まだ若いし、ここにいる今、どれだけラグビー選手として成長できるかを考えています。
――今はスタート地点という感じですか?
もちろんです。サントリーに入ったら僕なんて一番の下のレベルなので、得るものを得て、そこからという感じですね。
――そこから上がっていくためのテーマは何ですか?
謙虚、努力し続ける、それを止めないという気持ち。サントリーのハーフとしてもちろん先輩たちに負ける気はないですが、やっぱり得るものは多いので、謙虚な気持ちを忘れずに、ずっと努力し続けて、学び続けるということですね。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]