2019年6月21日
#641 小野 晃征 『 "live in the moment"その瞬間に生きる 』
10番というポジション、そしてそのキャラクターから、今後もサンゴリアスの中心選手としての活躍が期待される小野晃征選手。新しいシーズンに向けて、何を考え何を目指しているのか、現在の心境を聞きました。(取材日:2019年5月中旬)
◆グラウンドに立てるということは幸せ
――ラグビーを楽しくやっていて、かつチーム内での存在感があり、小野選手がチームにいることがみんなの安心感になっていたり、1つの核になっているように最近感じます
ひとつは周りの選手がいなくなっていっているじゃないですか。どんどんスタッフになっていたり、引退していったりしています。自分は今年トップリーグ13年目、サントリーで8年目になって、スタートよりゴールの方が近づいているというのは自分でも分かっているし、なおかつ怪我をしてプレーをしていてもしていなくても貢献出来ることはいっぱいあると思うんですけど、グラウンドに立てるということは幸せだなと感じて、毎日やっています。
――グラウンドでも楽しそうだし、オフも大切にしていて楽しそうですね
そうですね。グラウンド内で起きたことは変えられないから、これから出来ることをどう変えていくか。それに向けて次の準備として、トレーニングや試合が続いていたら、そこにもちろんフォーカスを持っていきます。でもまだ起きていない未来のことはコントロール出来ないので、その瞬間瞬間を楽しくやっていくことが大事かなと思います。家族といたら家族にフォーカスする、というように。
――それはやろうとしてもなかなか出来ないことですよね
それは難しいですよ。自分はそれが出来ているかと言われたら、きっとちゃんと出来ていないと思うんですけど、意識はしています。
――そのためのコツはなんですか?
コツはないですけど、英語で"live in the moment"、その瞬間に生きる。そういう意味で瞑想を始めました。
――今までは何かを引きずったりしていたんですか?
していました。見せないようにはしていたけど、色々なことに目を向けていたかもしれないですね。
◆毎日を頑張っていけば悔いはない
――その瞬間に生きることは、だいぶ出来てきたんですか?
個人的に、この1~2年間を考えた時にいろいろなターゲットがあって、ゴールは日本代表になりたい、サントリーで日本一になりたい、良いファミリーマンになりたい、怪我しているからリハビリしないといけない、怪我した時にチームにどうやって貢献するか、でした。それで全部を100は出来ないということに、最近気づきました。そこでどこに100を置くのかと言ったら、その時にコントロール出来ることしか出来ないというのがあります。
――いま言った項目に相対している時は100なんですよね?
そうですね。そうやって考えようとしています。家族といる時はそこに100、リハビリしている時はそこに100。リハビリしながらチームのことを考えるのでなく、それらはなるべく別にするようにしています。
――それが進んでいくと悟りに近づきますね
難しいですよ。しようと思っているだけで、実際に出来ているかは全く分からないです。
――そうしていることによって、どんな効果があるんですか?
フォーカスはしやすいです。一番悔しいのはこの1年で3試合しか出ていないし、その前のシーズンも怪我が多かったことです。3年前は全試合に出られたから、プレータイムがどんどん減っていっているじゃないですか。ただもう1回それを1つのゴールとして、まずはカップ戦を目指して良いコンディションで出来るようにしようと思っています。
――状態は今はどうなんですか?
今は悪くはないです。
――スタートよりゴールの方が近いと言っていましたが、体力的な面はどうなんですか?
体力は全然大丈夫です。
――その悔しさがある分、心も大丈夫ですね
そうですね。あと何年出来るか分からないので、毎日を頑張っていけば悔いはないかなと思います。
◆10番のレベルを上げられたらチームにとって一番プラスになる
――ニュージーランドから日本に来て、日本でもチームを変えたように、今まで環境を変えることが人生の中で何回かあったと思うんですが、それは今から考えると全部正解でしたか?
正解かは分からないですけど、僕の中では幸せだと思っています。ニュージランドと日本に住めて、なおかつ色々なチームでプレーできて、色々な選手とプレー出来て、ラグビーを通して色々な繋がりが出来たことはとても幸せなことだと思います。違う道に行っていたら、もちろんそれでまた違う繋がりができていたとは思います。
――今後はどうなんですか?
個人的にはプロなので、いずれこのチームを引退したり、離れる場合もあるかもしれません。ですので、まず自分が入ってきた環境より良くして、良いものをチームに残していきたいと思うし、自分が10番というジャージのレベルを上げられたら、このチームにとって一番プラスになると思っています。「自分の役割は果たせた」と思って終わりたい気持ちで、毎日やっています。
――今は本当にいなくてはならない中心的な存在ですよね
そうでもないと思いますし、それは非常に難しい質問だと思います。僕は選手の1人で、周りがそう思っているなら、毎日努力をしないといけません。例えば、中心選手やリーダーというのは、別にランクではないですよね。それには毎日努力をしないと、そう思われないと思っています。
毎日ゼロからチームに貢献してプラスになればと良いと思っているだけで、中心選手と言われるのはとてもありがたいけど、自分は全然そう思っていないし、そう思った瞬間にきっと満足してしまうと思います。良いコミュニケーションをとって、周りがうまく良いプレーをできることが、一番ベストなことだと思っています。
――毎日ゼロからスタートして、毎シーズンで勝った、負けた、何位という結果が出ます
勝負の世界なので、勝ち負けはあるじゃないですか。悪い経験というのはないと思うので、その経験をどう活かすかがとても大事だと思います。負けたからダメだった、勝ったから良かったで満足してしまうと、次のシーズンに悪くなったり、周りからのリスペクトも変わると思います。常にイーブンでフラットで、自分も良くなりたい、周りを良くしたい、チームを強くさせたいという気持ちだけでやっています。
――どれだけ勝とうがどれだけ負けようが、変わらないということですね
勝負の世界ではそうですね。もっとも自分がやりたくないのは、「やり切れなかった」というのが一番悔しいですね。自分たちのスタイルをやり通したとしても、どこかで手を抜いたりしていたかもしれず、それで勝てなかったことはとても残念だと思います。勝負の世界は勝ち負けがある中、それを絶対に理由にしたくないし、「この時に何をしたら良いか分からなかった」と言って負けるのが一番嫌ですね。この時にこれを分かってやったけど、相手の方が上手かったということで負けて終わるのならば良いんですけど。
――昨シーズンはどうでしたか?
決勝で5対55で負けましたが、50点の差はないと思っていますし、外からしか見ていなくてグラウンド内で何も出来なかったというのは悔しいです。50点の差はないと思うので、なんでだったんだろうと、いま自分の中でもずっと考えています。
――そこは今シーズンの課題ですか?
課題だと思います。
◆自分に合ったトレーニング
――代表への想いは?
もちろんあります。それにはまず、プレー時間を増やしたいですね。ゲームを続けて何試合かやって自信をつけて、もし選ばれたら絶対に行きたいと思っています。試合に出ていないのでアピールする場もないし、日本代表のコーチの計算の中に入らないのも当然だと思っているので、まず出来ることは目の前のサントリーの試合に出ることです。そして良いパフォーマンスをして、ちょっとでも名前を出せるようにしたいです。
――ワールドカップに向けて盛り上がっていけばいいですね
個人的にワールドカップの開催地に住んだことはないので、どう盛り上がっていくのかは分かりません。2011年のュージーランドで開催されたワールドカップの時は日本にいました。2007年も2015年も、選手としてワールドカップに行った時は数週間前に現地に着きましたが、世界のファンもワールドカップ開幕の1~2週間前からどんどん日本に入ってくると思うので、どれだけその人たちとうまく盛り上げられるかが大事かなと思います。
――新しいことにチャレンジすることが今のラグビーの楽しみですか?
上手くなりたいです。昨シーズンやってきたことが今シーズン通用するか分からないし、ラグビーはルールがよく変わるのでプレースタイルも変わって、トレーニングの方法も進化していっていると思うので、それにしっかり備えて自分に合ったトレーニングをしていきたいと思います。ベンチプレスが30kg強くなったらラグビーが上手くなるというスポーツではないし、それが本当に自分の武器になるかと言ったらならないと思うし、いまは自分に合ったトレーニングを頑張ってやっています。
――以前「あのプレーはどうやって考えてやったか?」と聞いた時に「何も考えていません」という答えが返って来ましたが、そういうプレーはどうやって生み出すんですか?
最近もそれをよく聞かれます。「なんでその時にできたの?」って聞かれても、僕も分からないんですよね。ニュージーランドで6歳~19歳までやっていたんですけど、ラグビーの練習は週2回しかありませんでした。ラグビーの練習に行って、ラグビーを決められた時間やり、練習の最後に足りないところ、キャッチパスやキックを30分練習して、1時間30分なんです。
でも、練習の中でキックもパスも、きっと色々な状況判断をしているんですよね。ラグビーをしに行ったら、ラグビーの場面や色々な動きが見ることができていると思うんです。日本でクリニックをしていてよく見るのは、みんなラグビーをしに行っているけど、まず30分パス、30分タックル、30分別のことをしてから、最後に15分ラグビーをやろうということになるんですよ。スキルをとても練習していますが、ラグビーが少ないですよね。
日本は技術はあるけど、それを色々な状況判断をしなければいけない場面、動いているパーツの中でそのスキルを活かせるかといったら、どっちが正解かは分からないですけど、考え方はニュージーランドと逆です。なので、自分はきっと考えていないんです。キックをしないとダメという考えより、あそこにどうやってボールを運ぼうというプロセスを考えるように、きっと勝手になっていると思います。
――その中で自分の中で良いと思うものを選んでいるということですね
そうですね。自然と体が動いたかもしれないです。
――今シーズンの目標は?
まずこのメンバーでカップ戦を戦って優勝を目指す。1回そこで区切って、ワールドカップに出る選手を応援する、出られたらしっかりパフォーマンスを出す。もう1回リセットして、次のトップリーグが始まります。ゴールは優勝ですけど、個人的には日々成長して、グラウンド内、グラウンド外でできることはやっていきたいと思います。
――目の前のことに集中するというのは今シーズンのテーマでもあるんですか?
僕だけのテーマです。楽しんでやるしかないですね。次のことだけ考えればそれはコントロール出来ることじゃないじゃないですか。コントロール出来ないことを考えても疲れるだけで、じゃあ今は何が出来るか、リカバリーが出来る、明日の練習を頑張る、それは今だけしか出来ないです。瞑想を始めたんですけど、本当に良いと思います。
――「今に集中する」というのは、やりたくてもなかなか出来ないですよね
それはとても難しいことで、でもなんかやってみようと思いました。面白いですよ。ラグビー選手はフィジカルは鍛えますけど、メンタルは鍛えないじゃないですか。トップの本当にエリートはメンタルの勝負と言っているけど、メンタルのトレーニングはほとんどしないですからね。自分で自分をどうやってコントロールするか、これは面白いです。
――それが習慣になっていったら、いつでもゾーンに入れるようになりますね
はい、楽しみです。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]