SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2019年6月 7日

#639 石原 慎太郎 『一生に一度しかないチャンス』

1シーズンのブランクを経て復活した石原慎太郎選手。その間にどんなことを考え、いま何を目指しているのか?じっくりと話を聞きました。(取材日:2019年5月上旬)

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◆できるっしょ

――復帰おめでとうございます

ありがとうございます。

――完全に復帰したのはいつですか?

4月1日にチームの始動とともにみんなにも報告をして、無事に復帰することになり、そこから合流しました。

――ブランクは何ヶ月でしたか?

8ヶ月。怪我した後のこの期間は本当にいろんな人と出会って、僕自身も8ヶ月という感覚はないです。気がついたら8ヶ月経っていました。もちろん出来るトレーニングはしていましたし、復帰するまでに筋トレや走ることは出来ていたので、そういうことをやっている時間でした。
重い怪我でしたが、これでラグビー人生が終わる感じはしませんでした。2~3ヶ月くらいは走ったり、踏ん張ったりすることもダメでしたから、もちろん落ち込んだ時もありましたけど、「いや、できるっしょ」と思っていました。

――そう思い続けて見事に復帰しましたね

今回復帰してみてからも、同じようなステップがありました。できる、できる、できるって思いました。テビ(テビタ・タタフ)に思いっきりタックルされた時はめっちゃ弾かれましたけど、「できるじゃん、全然大丈夫じゃん」っていう気持ちになりました。本当に一番ありがたいのはこのチームがもう1回使ってくれる決断をしてくれたことが本当に嬉しくて、サントリーに頭が上がらないところはありますね。

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――いろいろと経験したんですね

いろんな人に出会いました。凄いと言われるいろんな先生のところに行って、いろんな人に会いましたし、酵素風呂に通いました。砂風呂みたいな、米ぬかでやっているんです。自然の力でバクテリアが働いて育って、それによって砂自体に熱が発するというものです。それに入ってからどんどん良くなっていて、僕は本当にそれに救われたと思っています。

そこは体温を上げると良いということで、がん患者の方が多いんです。それ以外にもスポーツをやっている方も来ていますし、僕は今も疲れが溜まったなと思った時には行きます。本当に良くしていただきましたし、いろんな人と出会った力で復帰できたと思います。

――この8ヶ月は視野を広げるという意味で価値がありましたね

いま僕がポジティブな状態にいるから言えるのかもしれないですが、怪我して良かったと思っているんです。僕としては、今回の怪我が無ければラグビーを見る目も変わらなかったし、酵素風呂にも出会わなかったし、いろんな人と繋がれなかった訳ですから。

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◆架け橋

――ラグビーの見る目はどこが変わったんですか?

客観視できるようになりました。リハビリ期間はスタッフミーティングに入れてもらって、スタッフがハードワークしているところも間近で見てきました。

――怪我している時にですか?

怪我している時です。敬介さん(沢木/前監督)が「やれることないんだからスタッフミーティング入れ」って言ってくれて、全部入れてもらいました。その姿を見られたことで、僕が復帰した時には、スタッフに対して今までちょっと疑問を抱いていたところも変わってきました。お互いWIN-WINじゃなければいけない、どっちかが上ということもないし、どっちが下でもない。

WIN-WINな状態でやっていくことによって、チームが1つになっていくことを僕は実感しました。スタッフが考えていることも分かるし、選手が考えることも分かるということが僕の強みだと思うので、良い方向に行くための架け橋となって、うまく伝えられる立場になれればと思っています。

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――グラウンドの中ではどうですか?

今までは自分のパフォーマンスだけを高めれば良い、それがプロとしての役目だと思っていたんですが、コーチングスタッフがあれだけハードワークして考えてくれたプランニングをやるから意味があるんだと思いました。ただがむしゃらに自分だけ良ければ良いじゃなくて、そして結果だけ勝てば良いんじゃなくて、コーチングスタッフが落とし込んでくれたことを表現して勝つことで、コーチングスタッフもWINになるし、僕らもWINになる。そしてチームとしてハッピーになるんだと思います。

この経験で得たことは絶対に頭から抜けないです。まだ実際に試合はしていないですが、今日のアタック練習をしていても、ずっとミーティングで言っていたことは残っていますし、それをどうみんなに意識してもらえるかを考えています。僕がコーチングスタッフのような立場で言ってしまうのはまた違うと思いますし、そこはまだ模索中です。

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◆一歩目が進み出す

――「何のために勝つのか?」というところですよね

そうですね。そこは大きいですね。特にサントリーは会社でもハードワークしている選手が多いので、日本一を目指すのと仕事もハードワークしなきゃいけないという両方で、まさにハードワークなんです。だからそこは大きいと思うんですよ。今は監督はいなくて、傍から見ればフワフワしている状態と思われるかもしれないですが、真之介(垣永)をはじめとするリーダー陣やコスさん(小野晃征)とも話して、もしこの監督がいない3~4ヶ月で僕らが変われたら、このチームは本当に凄いチームになると思うんですよ。

あれだけトップダウンのシステム、完璧な組織ができあがっていた中で、さらに自主性が加わったら、恐ろしいことになるんじゃないかなと思います。ただ自主性だと言って自分の思いだけを主張するだけでは、組織にはならないということをこの2ヶ月間で分かりました。組織の中で自主性を出すというのは、僕が1人で考えているだけとは違うんですね。みんなのゴールは個人それぞれが人間として成長していくことだと思いますけど、組織としてのゴールは目に見える結果を出すことがゴールで、そこの差異もあります。

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どっちも疎かにしてはいけないですし、監督が来るまでの間しか出来ないことなので、今の状態をいくらでもネガティブに捉えることは出来ますが、監督がいない中でやるっていうのは、逆に言えば一生に一度しかないチャンスじゃないですか。みんながみんな良いチャレンジを出来ると思うので、楽しみです。

――共通の理念ができれば良いですね

ただ、正直まだ分からないですね。難しいです。模索していきます。特に社員選手はいつ引退することになるのか分からない。それで終わった時に、「ラグビーがなくなって俺は何をすれば良いんだろう」と。仕事も言われたことだけやっていて、「やばい、どうしよう」となってしまう。そこで自分から一歩目を動き出せるかどうかですよね。

それが僕らで言うリーダーグループで、そのグループの中でカルチャー、ラグビーにおけること、リカバリーにおけること等に枝分かれしていきます。そしてその中で上からの指示ではなくて、自分たちで「こういうことをやりたい」ということを考えることによって、一歩目が進み出します。

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◆ワールドカップに出る

――日本開催のワールドカップを前にした心境は?

諦めていないですよ。もちろん。

――まだチャンスがある?

僕にはもう画が見えていますからね。手帳に予定が入っているので。

――どんな風にですか?

ロシア戦は背番号1で活躍。とりあえず全部スタメンで出るんですけど、3試合目で大暴れというのが手帳に書いてあります。

――鍵は4試合目と言われていますが?

いやいや、3試合目で大暴れして、4試合目でチームが大喜びするという画が見えています。それだけを見てやっているので。今は自分のレベルアップと、サンゴリアスが好きだからやっていますけど、僕の今年のゴールはワールドカップに出ることです。ラグビー選手である以上、それを目指さないでどうする。いま名前が入っていないからとか関係ないでしょ。いつチャンスが来るか分からないです。何が起こるか分からない、誰も予想できない。いまいくらCMに出ていても、最後にフィールドに立っているのが日本代表じゃないですか。

――そこに向けての準備は万全ですか?

準備万全です。準備というのはサンゴリアスで100%やること。カップ戦が開幕した時に大暴れすることです。それをジェイミー(ジョセフ/日本代表ヘッドコーチ)が「えっ、石原復帰しているじゃん。めちゃめちゃパフォーマンス良いじゃん」となって、パシフィックネーションズだとギリギリなので、その前くらいに招集されて、最後に石原が入るという画が見えています。ワールドカップに出るというイメージを持たずに生活していられないです。

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◆昔のものが見直される

――怪我の間に、ワールドカップを含めて、将来のことを考えましたか?

酵素風呂をやりたいんですよ。酵素風呂に出会って救われたと僕は自覚しているので、酵素風呂をみんなに知ってもらうというのも1つですけど、そこから枝分かれした何かが出来れば良いなと思っています。ラグビー選手で毎週、酵素風呂に通っている選手なんてほとんどいないと思います。ただ体を酷使するラグビーにおいてはリカバリーにぴったりだと思います。

いま僕の頭の中では、日常生活とか世の中ではITとかそういったものがどんどん新しくなっていく、便利になっていく。ただ自分の体に対してのリカバリーや健康においては、より昔のものや元々あったものが見直されるタイミングじゃないかなと思っています。

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――健康というテーマになったらサントリーとも繋がりますよね

もちろん!それに関しては、僕は深い意味で言っている訳ではないですが、このオフ期間にオーストラリアに行っている選手もいて、どうしても向こうでやっているものが最先端という部分があります。確かに最先端のものを入れれば勝てるという文化なんですけど、日本人として今まで先祖代々やってきたことで、何か見落としていることがあるんじゃないかと思います。

――ファンの皆さんへ

フィールドに立っている僕だけを見てくれたら嬉しいです。僕のプレーは見ても見なくても、ただ「あ、石原出ている」と思ってくれればそれで良いです。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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