SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2019年5月31日

#638 辻 雄康 『Never give up』

新人最後、3人目は長身の辻雄康選手。慶應ボーイならではのラグビーへの気持ちを、存分に話してくれました。(取材日:2019年5月5日)

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◆なぜラグビーをやっているのか

――ラグビーはいつからやってきましたか?

小学校からです。ラグビーを通じて人間力を先輩や監督から教えていただいて、そういう生き方に魅力を感じてラグビーをずっとやってきました。

――ラグビーを通じて学んだということは、指導者は厳しかったんですか?

厳しかったです。協調性や自己犠牲の精神を教わってきたから、自分はここまで来られたのかなと思っていて、苦しい時に諦めない気持ちは、ラグビーを通じて人一倍感じて来ることができたのかなと思うんです。
そして、周りの世界を見なかったり、小さい世界で昔からいた仲間だけで固まっていたりするところがある学校だったんですが、そういうのは自分はあまり好きではないので、いろんな人と喋ったり、新しい体験をしていきたいと思っていました。自分の中でラグビーをやる上での信念を持って、それをずっとやってきました。

――苦しかった時はいつ頃ですか?

きつい時は、毎場面そうです。あとは痛い時、怪我している時、試合に出られない時、うまくいかない時。そういう時に自分が「なぜ入部してきたか」を大学時代はずっと考えましたし、ただなんとなくラグビーをやるのではなくて、「自分はなぜラグビーをやっているのか」を毎日グラウンドに出る前、ミーティングに出る前にしっかりと思い出して、自分の夢や目標を心でイメージした上でラグビーをやってきました。

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――それは何のため?

僕は小学生の頃からずっと慶應でラグビーをやっています。慶應の黒黄ジャージってとても憧れがあるもので、秩父宮に早慶戦を昔から観に行っていて、「あのグラウンドに立ちたいな」と思っていました。黒黄ジャージを着て試合に出ている先輩がとても輝いて見えて、いつか自分がその舞台に立ちたいとずっと思っていました。

ラグビーを始める前は、自分がそんな舞台に立てるなんて全く思っていませんでしたし、大観衆の中で自分が注目されることなんて自分の人生ではありませんでした。そういう時に秩父宮の大歓声の中でプレーしている先輩が、とても輝いて見えました。その時は「ここに入りたいな」というよりも「凄いな」と思っているだけだったんですが、ラグビーをやっていって辛い時に諦めない経験を繰り返しているうちに、自分の可能性がちょっとずつ見えてきて、「もしかしたら自分もあの舞台に立てるんじゃないか」とか「小学校の頃からやっている仲間と一緒にあの舞台に立てるんじゃないか」と思うようになりました。

そうやっていくうちに輝いていた先輩方など昔の頃の思い出が自分の中で大きくなってきて、大学でラグビー部に入部することを決めました。大学でラグビーをやっているうちに、仲間と自分のアイデンティティが自分の人生の中で一番の存在になって、「本当に優勝したい」と心から思うようになりました。練習が始まる前に気持ちをイメージして、イメージしながら練習に入るように毎回していました。

――目指していた大学ラグビーに入ってみてどうでしたか?

自分と同じ気持ちを持ってラグビーをやっている先輩が多くて、特にコーチ陣が慶應に愛着を持って、黒黄ジャージに誇りを持ってラグビーをやっている感じがしました。歴史がある学校なので、ただ所属しているからとかではなくて、「慶應は自分自身」みたいに思っている先輩や指導者が多くて、そういう人たちとやっていると感化されますし、自分の気持ちは「この人たちと一緒に叶えたい」と思う気持ちは大きくなっていきました。良い伝統もたくさんありました。

1年目は本当に全然ダメで、ただがむしゃらにやって、けれど上手くいかないことがたくさんありました。でも自分なりに諦めないということを座右の銘みたいに決めているので、絶対に諦めないで頑張り続けようと思って、今の自分になれたと思います。でも、まだまだ足りないので、これからサントリーで試合に出るためにさらに頑張りたいと思います。

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◆後悔しないために

――座右の銘は"諦めない"ですか?

そうですね。"諦めない"。自分の中では"Never give up"ですね。

――実際に数万人の前でプレーしてみてどうでしたか?

「とうとう来たな」という感じでした。「いま自分が生きているんだな」という感じがしました。

――それはどんな感じなんですか?

初めてグラウンドに立った時は普通の呼吸ではいられないくらい、鳥肌と緊張感と高揚感に頭が支配されました。試合に出ていた時もアップの時も本当に夢中で、その時間を今でも鮮明に覚えています。ただがむしゃらに今までやってきたことを出そうと思って、その試合では頑張っていました。

――出せましたか?

最初の方は出せたんですが、自分がオフサイドをしてペナルティゴールを入れられて、結果的に試合に負けました。今でも思い出すとその時の後悔が本当に大きくて、それをしないために、練習で絶対に規律を守ろうと思いました。チームで動く大切さを、身を持って実感したというか、1つのミスでチームが変わったり終わったりしてしまうんだなということを実感しました。

「自分が絶対に後悔しないように毎日の練習をやろう」ということを、その時に改めて思い、今までそうしてきました。ですが、「後悔しないために」、「自分がミスしないために」と練習するということが、自分の中の臆病な部分に変わっていたのかもしれないということを、いま話していて思いました。

――それは大学時代には気づかなかったんですか?

気づかなかったですね。

――それはプレーに影響しているんですか?

プレーに影響しましたね。ミスはもちろん少なくなりましたけど、思いきりの良さが低学年の時の方がありました。プレーが成長して行ったという自覚はありましたが、それ以外の試合に入る気持ちなどを考えると、何も考えないで夢中になってやっている時の方が、自分としてもインパクトを残せているし良かったなと思います。最後の試合を振り返ると、「何が何でもやってやる」という気持ちがラグビーには一番欠かせないところなのかなと思いました。

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◆抜けているところがあります

――その気持ちを持ってサントリーに入って来たんですね

そうですね、その気持ちを全部ひっくるめて、サントリーに入って来ました。自分が生きている中で結果がほしいと思って、自分が試合に出て結果を残すことや優勝することが、自分の価値を決めるんじゃないかと思っています。ただ楽しく生きるのも良いと思いますが、そういうチャレンジをしてみたいなと思うんです。ラグビーで得られる高揚感や達成感は、ラグビーでしか味わえません。

サントリーの練習に来た時に、本当に素晴らしい選手、尊敬できる選手がたくさんいて、この中で自分が結果を残せたら自分はどう感じるんだろうと思ったので、「サントリーに入りたい」と思いました。「大学で活かした経験を、自分がここでもう1回使えたら」と思います。

――サントリーに実際に入って約1ヶ月、どうですか?

全ての部分でレベルが高く、それにこだわっていると思いました。1人1人が自分の人生をかけて、スタッフや選手全員がこのチームで優勝するために動いているわけで、その人たちへの感謝、お互い尊敬し合うということ、これらを自分はもっと大切にしなければいけないということを、サントリーに入って学びました。自分はちょっと抜けているところがありますが(笑)、自分だけではないということを学んだ気がするので、そこをもっとしっかりしなければと思いました。

――抜けているというのは?

いろんなことを全部いっぺんに考えられないような感じになるので、それがスケジュール管理とか要領よくやるとかに関わってくるのかなと思います。

――要領よくやることが良いことかどうかは分からないですよね?

そうですね。没頭して1つのことに集中してやることは、ラグビーをしている最中では自分は得意だと思います。その時に1つ1つ諦めなかったり、やりきったりすることは良いと思うんですけど、他のことですよね(笑)。例えば自分が今までして来なかったことをするとか、トレーニング以外で試合にもっと詳しくなるとか、しっかり情報収集を自分からするとか、そういう当たり前のことなんですが、もっと自分は新しいことに興味を持ってやっていかなければいけないと思います。

――そう思うきっかけがあったんですか?

それはもちろん。怒られましたから。

――それは社会人として、ということですか?

そうですね。社会人としてということで、会社とチームというのは同じカテゴリーで考えなければいけないということを感じて、だからこそサントリーというチームなんだと自分がミスして実感しました。

――ラグビーに関しての仕事という意識は?

ラグビーでお金をいただいているということを自覚することも、もちろん大切なことだと思います。

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◆小学生だけどラガーマン

――物事を結構突き詰めて考える方ですか?

そうですね。そうかもしれません。意味を考えます。本物を掴みたいですね。

――今のところ掴みたい"本物"とは?

自分を自分で誇れる結果がほしいです。

――それはラグビー選手として?

もちろん。ラグビー選手としてです。いま自分はラグビーをやっているので、もちろんそうですし、自分の人生はラグビーをやってきたので、それがラグビーだったという感じですね。

――なぜラグビーを始めたんですか?

それは父の影響です。父がやっていたので、なんとなくという感じで小学校5年生からラグビーをやっていました。それで中学時代に1度ラグビー部を退部したんですが、その時に今まで自分が普通に過ごしてきたラグビーの生活、友達と集まったり、ラグビーをしに部活に行って帰って来てごはんを食べるという生活が、自分にとってどれだけ大事な存在だったのかということに気がついたんです。そこで僕はラグビーをできている大切さに気づきました。

ラグビー部を1度退部したのは、一時期ラグビー以外でいろいろと壁にぶち当たって学校にも行けなくなっていたんですね。でも、母親をこれ以上悲しませるわけにはいかないなと思ったんです。ここで自分がずっと外れて行ってしまって、親に顔向けできないような人生を送っていたら、自分のせいでいろんな人を傷つけてしまうので、そこで諦めたくないなと思いました。

その時が今振り返っても一番きつかったですし、その時に一歩踏み出せた経験は僕の人生でも大きな一歩だったのかなと思います。それでもう1度ラグビー部に入らせてもらって、その時に自分の居場所はやっぱりここなんだと思って、自分の中で「幼稚舎生だけどラガーマン」みたいな気持ちが自分の中で起きてきました。

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◆努力の仕方を選ばなくちゃいけない

――松岡修造さんの甥っ子ということでトップアスリートが親族にいますが、何か影響を受けましたか?

影響は受けていないですね。もちろん僕もおじのことを尊敬していますが、結果を残している自分のおじが尊敬する父親が、僕の祖父になります。その祖父がずっと言っているのが"Never give up"です。これは松岡家の家訓なので、自分はそれを忘れないようにしようと思いましたし、自分の中で諦めない心が一番大切だと思いました。
自分が今ラグビーをやっている上で一致するところがあるので、直接的に修造さんから何か影響があったという感じではありません。祖父が言っているそういう気持ち、その言葉を大切にしようと自分が思っているだけであって、何か影響を受けているというよりも、もっともっと身近です。

――一般論としておじさんは良い影響を与えてくれる場合が多いと思います

良い影響を受けています。修造さんはいろんな人にインタビューしていていろんな人の話を聞いたことを、会った時に僕に教えてくれることが多いんです。「ストレッチは本当に大事だよ」と言われたら僕は真に受けてストレッチをしますし(笑)、言われたことは何でもやろうかなと思います。でも、僕がラグビーをやり始めたきっかけになったりとか、修造さんみたいになりたくてとか、そういうことは全くないです。

――子どもの頃から大きかったんですか?

そうですね。中学校に入学する時点で170cmあって、そこから1年間でいっきに13cm身長が伸びました。小学生の頃はクラスで後ろから2番目くらいだったんですけど、そこからいっきに伸びました。母親が180cmあるので、母親に似たと思います。

昔から自分に自信がなかったんですが、ラグビーを通じて自分が努力して得るものがあったら自信がつきます。そういうことを自分はラグビーを通じて教わった気がするので、自分の中でラグビーはやっぱり大きいです。

――ずっとラグビーをやろうと思ったのは?

大学2年生の時です。それまではあまり思っていなくて、ただ慶應で優勝することが自分の中での目標だったんですけど、自分と向き合って、こういうふうにスポーツをしたいとか、大学に入ってからオフの使い方や、自分で自分の体の使い方を考えて、自分の中で取り組むことが新しい経験でした。

高校生の頃は甘いんですけど、先生や先輩から言われたことをただがむしゃらにやる性格だったので、大学時代はもっと自分に向き合って自分のことを考えて、プレーに直結する努力をしてきました。それが自分の中で活き活きしている感じがして、尚且つ最初に言った達成感や価値をさらに掴めたら、「自分のことをもっと誇らしく思えるかな」と思ったんです。それでラグビーをやろうと思いました。ラグビーをやろうというよりは、サントリーでやれることが嬉しいです。

――自分で考えなくちゃいけないと思った元は何ですか?

それは結果が出なかったからです。ただチームでやっている動きをずっとやっていて、全く結果が出なくて、夏合宿は本当に死ぬほどつらい練習だったんですけど、その時の体脂肪検査で脂肪が増えていて筋力が減っていたんです。「なんで僕はこんなにつらいことをやっているのに・・・」と。

努力していればただ結果が出るというわけではない、ということに気づいたんですね。努力の仕方を選ばなくちゃいけないんだということに初めて気づきました。ただ頑張れば頑張るほど結果が出るんだと思っていたのが、そうじゃないんだなと思って、自分の中でいろいろ考え始めました。

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◆サントリーでラグビーをしたい

――自分のラグビーの売り物は?

ワークレートです。ただ地味なプレーをするということではなくて、ボールを持って何回前に出るかとか、自分の勢いがあるプレーでチームにどのくらい影響を与えられるかを常に意識しているので、ボールキャリーとワークレートの数ですね。人よりボールを持って前に出ること。あと、セットプレー、ラインアウト。僕はキャッチとジャンプが得意だと思っているので、その競り合い戦には絶対に負けたくないです。

――キャプテンシーはどうですか?

周りの気持ちを考えるということを常に意識しています。それが自分の短所ではなく、長所に変わらなければいけないと思っているので、慶應時代は副キャプテンだったんですけど、いかに周りの人のモチベーションを上げるかを考えていました。みんな同じ気持ちを持って入部してきたはずですが、毎日のきつい練習を同じリズムで繰り返していると、そういうことを忘れちゃいそうになると思うんですよ。

ただなんとなくラグビーをやっている、やらされている、楽しい時は楽しい、つらい時はつらいみたいになってしまうと思うんですが、そこで「日々のプロセスをしっかり大事にしよう」ということをみんなにずっと言っていました。自分はそういうことを意識してみんなに取り組んでもらおうと思ってやってきたので、ただがむしゃらにやって結果を待つだけではなくて、1日1日1つのことにこだわれる努力をしようと、影響力を与えられるプレーヤーやキャプテンでありたいと思っていました。

――キャプテンになっても良い感じですね

本当ですか。自分が抜けているのもあるので、キャプテンになれなかったんだなと思います。

――将来どんな選手になりたいですか?

サントリーで試合に出て、日本代表に呼ばれたいです。

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――今シーズンの目標は?

試合に出て活躍することしか考えていません。もちろん新人賞を取れるように頑張りますが、それをイメージしているというわけではありません。ただ試合に出て結果を残して、このサントリーのメンバーに必要とされる存在になりたいです。

――それを達成するための今の課題は?

神戸製鋼に大差で負けて、たくさん点を取られたので、ディフェンスができる選手が必要とされるかなと自分は思っています。自分は大学時代からディフェンスができなくて、1年生の時から毎日ずっと練習をしていたんですが、自分の中ではそれが一番練習してきたことになりました。さらにもっと上手くなって、そういうプレーを試合で見せたいなと思っています。なので、ディフェンスを評価されるような存在になりたいと思っています。

――言い残したころは?

ラグビーをやりたいとイメージするのではなくて、サントリーでラグビーをしたいと思って、ラグビーをやろうと思いました。

――サントリーのその魅力は何ですか?

学生時代、サントリーの練習に参加した時に1人1人が本当にプライドを持ってやっていました。周りに素晴らしい選手がいて、環境も良いと思いました。ここで結果を残して、自分がリスペクトしている選手たちに認められることってどういう気持ちなんだろう、自分の人生って、そういうことで価値が生まれるんじゃないか、試合で活躍できたらどのくらい嬉しいかなと思って、サントリーでラグビーをやってみたいと思いました。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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