2019年5月10日
#635 森川 由起乙 『「自分に勝ったな」というシーズンにしたい』
社会人1年目でレギュラーの座を掴んだにもかかわらず、2年目からはリザーブの位置に甘んじている森川由起乙選手。その状況に対する危機感、改革すべき点、そして今シーズンにかける思いを訊きました。(取材日:2019年3月中旬)
◆つかみかけているところ
――昨シーズンは全試合に出場しましたが自分自身での評価は?
全試合に出られたこと、そして怪我なく出られたのは良いことですけれども、10試合のうち4試合しかスタートで出られていないので、チーム内での競争としては、もう完璧に負けてしまいました。ここ3~4年、ずっとリザーブでの出場が多い中で、スタートで出た時に自分の持ち味だったり、アピールしないといけないところを、まだ出し切れていません。いつスタートがまわってくるかも分からない状況で、スタートで出てアピールできる機会に全然アピールし切れませんでした。そうしてスタートに定着できないまま、ずっとリザーブに居続けてしまいました。
――そう話しているコメントの切れが良くありませんが、その原因は?
もちろん僕自身、強みとは言えないスクラムの部分も、「昨シーズン1年ですごく伸びた」とも感じていますし、練習でも良いスクラムも増えてきています。ただ、掴みかけているところでの波があって、チームからの信頼を勝ち取れなかったと思います。そして良いスクラムを組み続けるために、自分自身がもっと感覚や、自分の強みを出すためのスクラムのセットアップの部分で、こだわりきれていませんでした。
それで試合でなかなか結果に結びつかないというか、そういうスクラムが多いと分かりました。やっぱりサントリーではスクラムで信頼が取れないと出られないというのがはっきりしているので、今シーズンはその信頼を勝ち取らないと、自分自身の良さも出せないですし、強みでバトルもできません。「今シーズンはまずそこの土俵にしっかり立って、プレーしたいな」と思っています。
――その出し切れなかった強みというのは何ですか?
フィールドプレーもやりたいんですけど、スクラムがうまくいっていないと、そっちに意識を持って行かれてしまい、試合に出た時に自分自身で焦ってしまいます。久しぶりのスタートというので、変に自分で自分にプレッシャーを与えて、ちょっと消極的なプレーをしたりしていました。覚えているのは、豊田自動織機戦で、スタートで出て後半始まってすぐ、僕のちょっとした消極的なプレーで、真壁さんにパスしてしまうプレーがありました。そのプレーの後すぐに代えられたんですよね、後半4分くらいで。
その時もやっぱり自分の弱さが出てしまいました。せっかくチャンスを与えられたにもかかわらず、そして僕がスタートで出るということは他の1番の選手が出られないということなので、それをもっと考えないとダメですし、「日頃からの準備が足りていなかったな」と思っています。準備力と、あとはもうメンタルですね。昨シーズンはメンタルですごく考えさせてもらった1年だったかなと思います。
◆ちょっとモヤモヤする
――その準備不足というのは、どうすれば解消できるんですか?
相手の分析であったり、常日ごろからの練習での自分の強みを出すための準備であったりだと思います。
――その自分の強みというのはフィールドプレーですか?
そうですね。主にタックルとボールキャリーです。あとはサポートプレーですね。
――自分の強みを出せた時はどうだったんですか?
出せる時は、いつもリザーブの方が多いんですよね。思い切っていて、準備もできている。でもスタートとなると、自分自身そこのマインドセットが全然できていないんです。
――今まで大学の時あるいはサントリーに入った頃はスタートからの出場だったと思いますが、その時のマインドセットと今は違うんですか?
そうですね、スタートから離れすぎてしまって...。あとは、スクラムの大事さも分かって、やればやるほど難しい。やっぱりスクラムがうまくいかなかったら、頭の隅っこには常にスクラムがあるので、「先手を打てなかった」という気持ちになります。
――スクラムは成長した1年だったという思いもありますよね
いや、成長したと思うんですけど、試合でなかなか押す機会がありませんでした。練習で押せても、試合でなかなか押す機会がなかったので、「なんでやろう?」とちょっとモヤモヤする感じがありました。
――そこが気になるということはタイプとしては完璧主義ですか?
2年前の神戸製鋼戦で、慎太郎さん(石原)と北出と元樹(須藤)で、自陣ゴール前5メートルでターンオーバーしたスクラムがありました。やっぱりあぁいうスクラムが、サンゴリアスではすごく信頼を勝ち取りますし、あのような局面で力を発揮するということが、選手1人1人に求められている役目ですし、フォワードのあるべき姿だと思います。
僕自身、「なぜ出られないか」ということをはっきりスタッフから言われていますし、分かっています。だからあのようなスクラムを1本でも多く組んで、実践で結果に残るように組んでいかないと、いつまでたってもリザーブだったり、メンバーからはずれたり、たまにスタートだったりと、定着し続けられないと思っています。
僕自身も「昨シーズン本当に100パーセントでやり切ったか」と問いかけられたら、「まだまだやり切れていない」と思うんです。スタッフや仲間にはっきり指摘されても、それをクリアできないということは、自分自身に問題があるので、「その部分をもう1回覚悟を決めて、これを1年間やっていかないと」と思っています。そうしないと、5年目のシーズンも6年目のシーズンも7年目のシ-ズンも、終わって振り返った時に、たぶん「何も変わっていないのではないか」と思います。そこのマインドの部分、メンタルの部分を、ガラっと変えなければいけないと思っています。
◆今までは言い訳していた
――具体的にはどう、ガラっと変えますか?
言い訳をしないとか。今までは言い訳していましたね。「いや」「でも」と言いがちで、なんか変な固定概念というか、認められないっていう気持ちがあったんだと思います。
――そこを今シーズンは認めて、認めた上でまずどこからやり始めて、どういうふうに精神的なものを上げていくんですか?
シーズンが深まった時やしんどい時に言い訳をしがちなので、そこでも今やっている自分に必要な取り組みを、しっかり1年通して続ける。あとは、オフの日の使い方ですね。もっともっと自分自身、相手を知らないと自分の強みのスクラムも出せないと感じたので、相手のビデオを見て、相手の3番やそのチームのスクラムの特徴を知るとか、そういうところも徹底的にやっていきます。1人でできなくても、誰かを捕まえてそういうことをやり続けるってとこです。
――オフの時間の使い方や取り組み方が、結構大きな課題ですね
沢木さん(前監督)が納会の時に言った、「一流の選手は、監督やヘッドコーチが変わっても定着し続ける。それはやっぱり自分のプレーを持っているし、自立しているし、言い訳しない。監督が代わって、使われなくなったと言い訳する奴は、一流じゃない」という言葉にすごく共感しました。アンディ(フレンド/元ヘッドコーチ)から沢木さんに代わって、僕はずっと出られなかったんですが、沢木さんがいた3年間、「ずっと言い訳し続けていたんだな」と思いました。
気付いてはいるものの改善できないということは、絶対的に100%自分に原因があるので、まず矢印の方向を常に自分に向け続けるということで、言い訳も出なくなるだろうという考えです。それは口で言うのは簡単ですが、これまで分かっていても出来ていない、周りから見ても出来ていないということは、改めて今シーズン1年間やり続けてみて答えが分かるものだと思うので、まずはその言葉をしっかりと受け止めて、今回は自分が変わる大きな機会だと思っています。
沢木さんがチームを離れる時に声をかけてくれて「メンタルの浮き沈みが激しい。そこはお前の心の準備であったり、弱さである。そこが良い時には良いプレーをするし、そこが悪い時には酷いプレーをする。でもその酷いメンタルの時の方が多いから、出られていないし、使おうと思わない」という感じのことを、これほどはっきりと言われたわけではありませんが、こういうことだと感じ取れることを言われました。
そこでも僕自身は100%受け入れられずに、「あんなにスクラムが伸びたのに」とか「もっとこう実践的にスタートからやってみたい」という思いの方が強かったし、「どうやったら選ばれるんだろう」ということばかり考えていたんです。結果ばかり求めちゃっていたんですね。
オフになってそこをもう一度考えて、今シーズンは「結果はついてくるもんや」と思って、まずはその細かい部分にこだわって、ちっちゃな目標をいくつも決めて、ひとつずつクリアして、シーズンに入っていきたいです。それでシーズンに入った中でも、慎太郎さんやホリ(堀越)や金井さんとの4人でしっかりとコミュニケーションをとって、しっかり1番のジャージを着られる回数を増やしたいです。
◆口だけでは終われません
――かえって厳しく言われなくなる環境になるという意識が自覚を生んだということですか?
そうですね。確かにその沢木さんの最後の言葉は「あ、僕のことやな」と思いました。「一流ってそうだよな」と思って、再認識というか、初心に戻れたというか。やっぱりラグビーって、走って当たって、チームメイトと喋って、相手も分析して、心技体の全部を使うスポーツです。ただポテンシャルだけとか、「このくらいやったらいけるやろう」とか、そういう浅はかな考えで臨んでも怪我をするだけですし、上手くいかない。上手くいっている時もあるけど、ずっとは上手くいかない。やっぱりそういう波が出てくるので、そういう中でこれまでの考えを一掃して、徹底的に分析して、徹底的に自分を知って、自分の弱さを知って、そこを改善するために、時間の使い方もしっかりと計画的に動いてみようと思っています。
――今シーズンの具体的な形に見える目標は何ですか?
自分に勝ち続けることです。これだけこういうことを喋ったら、口だけでは済まされません。結果はシーズンが終わってみないと出ませんが、今までの意識では2~4年目と一緒ですし、たぶんこの先もずっと変わらない自分のまま、サンゴリアスを引退するだけというのが目に見えています。
サンゴリアスでラグビーをやらせていただいているだけで、素晴らしいことなんですけど、ここで僕のラグビー人生をどうするのか。ラグビーができるということは何なのか。引退者の言葉とかいろいろ聞いていたら、そういうことも感じて、この現役中に自分に負けるということは、とても悔いが残ることと感じましたし、「すごくもったいないことやな」と思いました。
ラグビーが人生の全てではないですけれども、この限られた人生の中で気持ちが折れていたら、この先も何かあれば「こんぐらいでいいや」と決めちゃうと思います。その「こんぐらいでいいや」と思わずに、自分の限界を決めずに、苦手なことにもしっかり挑戦して、最後にシーズンが終わった時に、「自分に勝ったな」というシーズンにしたいと思います。
――今の気持ちを忘れずに毎日何かを見返すとか、毎朝改めて考えるとか、何か仕組みは持っているんですか?
今シーズンの目標を書いて、目に見える冷蔵庫とかに貼っています。
――なんと書いてあるんですか?
自分に勝つ。言い訳しない。
――それは毎日できていますか?
継続的にやっています。与えられたメニュープラス自分のメニューをやって、スーパーラグビーを見たりとか、自発的にまだまだもっともっとしないといけないと思っています。
――今トライアルしていることは楽しいですか?
楽しいですね。自分で決めたことなので。僕自身、様子を伺いがちなので、様子を伺うぐらいやったら、一発バーンっていって、怒られた方が良いなと。ちょっと消極的な部分があるので、もっと大胆にいっても良いかなと。今シーズンは「もっと大胆に行こうかな」と思っています。もう5年目で27歳で、サントリーでのラグビー人生ももう半分あるかないかぐらいだと思っています。例えばちょっとグラウンドで肩を当てるとなった時にも、しっかり一発目から先手を打てるように。そういうところからバチッと、いつでもスイッチを入れられる状態を今シーズンは常に作り続けたいと考えています。
――体調は良いですか?
体調はもう絶好調です。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]