SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2019年4月26日

#633 須藤 元樹 『ラグビーの未来の先駆けになりたい』

インタビューをしてみて、感情や闘志を表に出すタイプから、内に秘めるクールなタイプに転向したように感じた須藤元樹選手。この1年の気持ちの動き、そして今シーズンにかける意気込みを訊きました。(取材日:2019年3月中旬)

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◆体脂肪を減らして筋力を上げる

――体が大きくなったと思ったら、逆に絞っているんですね

昨年の7月から怪我でラグビーができなかったので、自分の中でこの1年は身体づくりに専念しようと思っていました。気持ちを切り替えて、チームのサポートもしつつですが、自分の身体を変えようと思って、昨シーズンは「自分の身体をどう改造しようか」ということに取り組みました。

――どう改造しようと思ったんですか?

僕は身長が高い方ではないので、「他の選手とどう区別するか」ということを自分で考えた時に、大学からずっとやっていることですが、やはり体脂肪を減らして筋力を上げることが、自分の中で出した結論です。そうすることによって絞られる筋肉は、見た目は小さいですが中身は重いので、筋肉だけで体重を増やそうと思い、この1年間はやってきました。それとともにしっかりと食事を摂っていたので、体重もマックスで122kgまで増えて、そこから絞って今は110kgぐらいまで落ちてきました。

――改良しよう、改善しようと思ったもとは何ですか?

スピードもそうですが、持久力ですね。自分ではフィットネスが課題だとずっと分かっているので、その部分を改善するために、まず体脂肪を落とすというのが一番でした。怪我で走れなかったのでバイクをやって、とりあえずはまず身体の方から変えようということを目指していました。

――自分の感覚的に「ここはちょっと変わってきたな」というところはどこですか?

今の体重は、怪我する前と同じくらいかちょっと軽いくらいなんですが、怪我する前より体が軽い感覚があります。社会人になってから今までは自分のトレーニングに対して時間が取れていなかったので、この1年間しっかり自分にフォーカスして、リハビリもウエイトトレーニングも、結果的に「自分の中ではうまくいっているな」と感じています。

――これまでもラグビーができないことはありましたか?

大学の時は、本当に怪我が多い選手でした。大学4年間の内、2年間くらいは怪我でラグビーができなかったと思うんですよね。それなりの怪我もありましたし、それ以外にも肉離れであったり捻挫であったり、いろいろと細かい怪我をちょくちょくしていました。

――それらへの解決策が今回の体質改善へと繋がったんですか?

身体に無理な負担をずっとかけ続けたというところが大学の時にはありましたが、サントリーに入ってからは考えるようになりました。学生の時は本当にただ重いウエイトを、がむしゃらにひたすら上げていました。その無理で怪我も多くなったと思うんですが、今はウエイトトレーニングもやりますけど、ちゃんとラグビーに直結するようなトレーニングをしています。

――ボールゲームなのでボールを使ってやるところも楽しいと思いますが、自分の身体との対話も面白いところなのではないですか?

そうですね、ラグビーは本当にコンタクトスポーツなので、自分の身体なくしてはできないスポーツです。自分の身体が変わるとやっぱりパフォーマンスも変わってくると思います。特に僕のポジションは、本当に最前列で相手と組み合うポジションなのでそう感じます。パワーは数値的にも絶対に必要なんですけど、柔軟性であったり、俊敏性をもっともっと追い求めていかないと、身長も大きくない僕のスペックでは上に上がれません。そう考えるようになって、トレーニングしている最中です。

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◆納得できるシーズンを過ごすこと

――大きくない身体で頑張って日本代表にもなって、この体格でも国際的に通じるという感覚は持てましたか?

スクラムに関しては、海外の選手相手でも「絶対に通じるな」という感覚はありました。ユースの代表の時もそうですし、NDS(ナショナル・デベロップメント・スコッド)とか昨年の日本代表ツアーに行かせてもらって、ニュージーランドでハイランダーズ、ハリケーンズの下部組織と試合をした中でも、スクラムは通用していました。そこに関しては本当にやり合える自信はあります。

――そうすると、課題は何ですか?

ディフェンスに関しては社会人になってから、タックルを外されることもありますけど、結構入れるようになってきていると思います。ワークレートを上げるということを社会人になってから意識し始めて、その結果、ディフェンスがタックルも含めて良くなってきたなっていうのはあります。根本的なフィットネスという部分はまだまだ低いので、そのフィットネスを今回メインの課題にして、この1年間もっとやっていきたいと思っています。

――日本代表としても、今年のワールドカップに向けて入口までは来ていたと思います

チームメイトで同じ怪我を経験した選手が何人もいますし、基本的に完全復帰まで1年近くかかるということを聞いていたので、「うわー、嫌なタイミングでやっちゃったな」と思っていました。完全復帰が8月でワールドカップの開幕が9月なので、まだ間に合わない訳ではないというのが自分の中ではあります。それに、それほど焦っている訳ではないんですよね。

だから今は、自分のできることを本当に精一杯やるだけだと思っています。選ばれなかったとしても、日本代表に選ばれることが全てではないと思っているので、自分にとって良いトレーニングを積んで、自分が納得できるようなシーズンを過ごすことができれば、自分としては良いなと思います。

――2023年のワールドカップは目指していますか?

僕の年齢的に2023年と2027年は目指せると思っているので、先の話ですけど、自分のパフォーマンスが合っていれば日本代表は自然とついてくると思っています。そこは焦らずにやっていきたいなと思ますね。

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◆自分の使命

――昨シーズンのサントリーのスクラムを外から見ていてどうでしたか?

やっぱりセットピースの部分、スクラムだけじゃなくてラインアウトもそうですけど、フォワードから始まるセットピースを本当に強化しているチームが増えてきたなというのが僕の感想です。いろんな外国人選手が入ってきて、たぶんどのチームもいろいろと取り入れている中で、セットピースを大事にしてきているなというのは感じています。2年前と比べたら、どのチームも格段にスクラムの力が上がっているというのは、見ていて分かりましたね。

――復帰した時にはもう一回スクラムを自分の力で強化したいという思いはありますか?

そうですね。そこは自分の使命だと思っています。

――今のターゲットは何ですか?

今のところのターゲットは、身体を完全に治して復帰することが目標です。そこから自分のパフォーマンスを上げていって、サンゴリアスで頑張って、また日本代表に選出されれば良いなと思っています。

――今シーズンは変則的なので、そういう意味では復帰しやすいのではないでしょうか?

変則的で、6~8月にカップ戦あって、9~11月にワールドカップあって、そこからまだありますよね。なので、復帰しやすいかと言われたら復帰しやすいと思いますね。トップリーグのチームに加えてトップチャレンジリーグのチームも一緒に交ざってカップ戦を行うので、自分が復帰していくにあたって、試合を積み重ねていくっていう意味では、そこは良いかもしれません。

――今、その時のイメージをすると、どんな自分の姿が浮かんできますか?

1年以上ラグビーから離れているので、試合勘をまず取り戻さなきゃいけません。昨シーズン終盤の練習では、スクラムには徐々に参加していましたし、スクラムはたぶん、ほぼ問題ないと思います。やっぱりボールキャリアであったり、ディフェンスの部分は、勘が戻らないとできないというところがあると思います。相手との間合いであったり、ボールキャリーする時のスピードだったりとかが戻らないと、自分のパフォーマンスがちゃんと上がっていかないと思います。

まずは自分のパフォーマンスを上げていくために、試合数を積み重ねるのも大事ですけど、徐々に復帰して練習に入っていくので、試合をイメージしながらトレーニングできれば良いなと思っています。

――やっぱり他のチームが全体的にレベルアップしていますか?

それは間違いないと思います。日本人のレベルも上がっていると思いますし、外国人選手の枠が増えたので、どのチームも積極的に外国人選手を使って、なおかつ日本人選手も強化しようという狙いもあると思います。サントリーはそれほど外国人選手に頼らず、昨シーズンは最後日本人だけでやりましたよね。あれは本当に他のチームにない強みだと思っています。外国人選手に頼るのも良いと思いますが、日本人の力を上げていかないと、今後の日本のラグビーに未来はないと思うので、サントリーはその先駆けになりたいですね。

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◆地道にゆっくりゆっくり

――今の時点でラグビーをやっていて、一番面白いと思う時は?

ラグビー全体として、やっていて良かったと思えるのは、やっぱり優勝した時です。それはもう間違いないんですけど、試合を一つ一つ勝っていくのも喜びですし、例えばフィットネスのテストであったり、ウエイトのテストであったり、目標を自分で決めて、それを達成できた時は良かったと思います。でも、そこで満足しないでさらに上の目標へという、その小さな積み重ねで優勝に近づくと思います。一番は優勝の時ですね。

――今は一つ一つの積み重ねを通じて毎日喜びを味わっている感じですか?

そうですね、地道に。そんなにすぐに目標というのはクリアできないので、地道にゆっくりゆっくりやっています。あとは、僕は趣味がいろいろあるので、ラグビーからちょっと離れるっていうのも、オフの時は大事です。

――何をやっているんですか?

ダイビングとか、サバイバルゲームとか、いろいろやっています。釣りとかもします。その切り替えは、本当にスポーツ選手にとって大事だと思います。

――ワールドカップの話も今の話も「ゆっくり焦らずに」ということですが、そこは何か自分で戒めている部分があるんですか?

焦っても仕方ないなって、自分の中にあるんですよ。今までずっと順調といえば順調にきていて、1年目から試合に出させてもらって、日本代表にも入って、自分の中で「良い流れできているな」って思っていたんですけど、そこで怪我をしてしまいました。それでちょっと道が遠くなっちゃったんですけど、自分の性格上、焦っても今まで良いことなかったんです。

時間はかかりますがまだ先もありますし、「そんな考えで良いのか」って言われるかもしれないですけど、僕はしっかり自分のペースでやっていけば、結果はついてくると思っています。

――焦っても良いことがないという経験があったんですね

ありました。細かい怪我の繰り返しとかです。焦って復帰して、また怪我してっていうのがありました。怪我をしてしまうのは仕方がないので、「怪我をしっかりと完治させてから次のステップ向かおう」って自分は思っています。

――これ以上やるべきか、やらないべきか、という見極めもまた毎回大変だと思います

そうですね。やっぱりプッシュしなければいけない時は、プッシュしなければいけないんですけど、その反面、やったらやった分だけしっかりと体を回復させなければいけません。また同じ怪我をしてしまったら意味がないので、リカバリーに関しては人一倍気を遣うようにしています。

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◆「よっしゃ!」

――以前より真面目な顔というか取り組み方がより真摯になったというか、まっすぐ向いている感じがしますが、自覚はありますか?

自分の中では変わってないと思っているんですけど、社会人になるとやっぱりいろいろな人やチームとの接触や関わりが多くなるので、いろいろな影響を受けて、自分の中でちょっとずつ変わっているのかなと、少し思います。

――完全復帰は?

完全に実力が戻るのが1年って言われているので夏くらいですかね。試合にもリハビリの一環として時間を限定して徐々に出させてもらう予定なので、カップ戦にも出られるんじゃないかなと思います。そこでしっかり自分のパフォーマンスを元に戻して、なおかつ上げていくために、リハビリをもっとやってかなきゃいけないです。

――その時ファンにはどんな姿を見せたいですか?

皆さん期待してくださっていることは、まずやりたいと思います。やっぱり僕のイメージって、スクラムを押し込んで、ペナルティをとって、「よっしゃ!」っていうのがあると思うんです。まずそこはやるとして、復帰した時にはそれだけじゃなくて、ボールキャリーとかディフェンスで、さらにチームを鼓舞できる姿を見せたいなと思っています。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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