SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2019年3月28日

#629 仲村 慎祐 『激しいコンタクトがやっぱり一番楽しい』

気は優しくて力持ち、この言葉がぴったりくる仲村慎祐選手へのラストインタビューです。(取材日:2019年3月上旬)

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◆タックルとボールキャリー

――以前から「今年が最後かも」と言っていましたが、とうとう引退の日が来ました。どんな心境でしょうか?

「今年が最後のつもりでやって」という話はもう5年ぐらい前から既にあったし、そこから毎年最後だと思ってやってきました。「今年が最後のつもりで」って言われていたのに、引退の声がかからなかったなっていう状態を5回繰り返してきました。

なんて言うんだろうな、いろんな人がいると思うんですけど、「まだまだ俺はやれる」って思いながらやっていて、突然、「あなた引退ですよ」って言われるっていうのとは、僕の場合はまた違うと思うんですよ。もうそういうイメージはついていたし、想像もしていたので、びっくりするとか、ショックを受けるとかっていう感じではないです。「あ、来たか」みたいな。

――最後のシーズンにテーマとしていたことは何なんですか?

自分自身でテーマにしていたことは、試合に出たいっていう気持ちはもちろんありましたけど、いろんなことを考えながらやっていたので、テーマとしていたことと言われると・・・。寺田も2018-2019シーズンで引退で、あいつの引退時のメッセージの中に、「出られないなら出られないで、自分が本当にチームに何かできるのか、良い影響をどう残せるのか」という言葉がありました。例えば、寺田だったら必死になって毎週相手チームのラインアウトを覚えて、それをチームに還元するということをしていました。

僕も覚えることがとても苦手で、たまにミスしたことはありましたけど覚えました。あとは、練習を僕はここ数年休んでいないし、大きな怪我はしていないし、怪我をしたとしても休んでいないんです。そういうところで弱音を吐かなかったわけではないですけど、タフさみたいなところは、いま思うとあったんじゃないかなと思います。

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――その5年間では「毎年ここを良くしていこう、そうしたら試合に出られる可能性もある」ということの繰り返しだったと思うんですが、そこはやりきりましたか?

僕の場合、ポジションが変わったということもあって、最後の3~4年はプロップとしてスクラムを組んでいません。ロックになって、例えばラインアウトでジャンプして、ボールキャッチして、良いボールをハーフに提供する。ジャンプしたことはありましたけど、「もう今から一端のジャンパーにはなかなかなれないだろう」って思うところも正直ありました。

なので、例えば真壁さんのようなフィジカルで貢献できるようなロックにならないといけないって思ってやっていました。実際にやってみて、自分の持ち味を出せた部分ももちろんあると思うんです。敬介さん(沢木前監督)やコーチからのアドバイスも「お前はこれをやれ」というような感じでかなり絞ってくれて、主にフィジカルの部分、タックルとボールキャリーの部分で力を見せていきなさいという感じでした。

足りない部分は本当にたくさんありましたけど、「こういう場面ではこいつにボールを持たしておけば」というように、ある程度は思ってもらえるようにはなってきたのかなと思いました。

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◆逆の当たり方

――やっていて楽しかったところは?

それはもう昔から変わらないですけど、やっぱりボールを持って相手に当たりに行くとか、逆にとても大きい選手、外国人選手とかがボールをもって走ってきた時に、そこにタックル入る、その激しいコンタクトが起こる場面がやっぱり一番楽しいですね。

――そこはなぜ楽しいんですか?

他の人ができないようなプレーができるとしたら、その部分しかないんですよ。僕が今から、流とか日和佐(元サンゴリアス-現神戸製鋼)みたいに、素晴らしいパスで相手のディフェンスの穴を破って味方のボールキャリーへと持って行くみたいなことはできないし、器用にステップで抜いてライン際で走るなんてこともできないって考えたら、僕が他の選手と比べてできることと言えば、体が大きくてどんな奴も吹っ飛ばしていくような相手選手を、もしかしたら一発で止められるかもしれないし、逆に僕がボールを持って相手2人くらいを吹っ飛ばしてゲインラインをとれるかもしれないし、そういうところですよね。

――そこは自分でも通用するという感覚を社会人になってからはずっと持っていましたか?

最初の頃は全然できなかったですね。覚えたきっかけで言うと、エディーさん(ジョーンズ/元サンゴリアス監督)の時なんです。高校生の時からずっと当たり方とかが変わっていなかったんですが、そこをエディーさんが変えてくれました。今までと逆の当たり方をしたんです。ちょっと言葉で説明しづらいんですけど、それはボールキャリーでもタックルでも同じなんだという話で、逆のことをしたら、うまくいくようになりました。

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――同じというのは?

コンタクトの瞬間はタックルもボールキャリーも一緒なんですよね。説明が難しいんですけど、今までの当たり方だと自分の体重を活かせていなかったんです。自分の体重プラス相手の体重を自分の筋力のみで持ち上げているみたいな当たり方だったんですけど、重力も使って、自分の走ってきた運動エネルギーに加えて、自分の体重と重力を使って相手にたたきつけるみたいなイメージなんですよ。

――そうやってアドバイスされて直している時って面白いんじゃないですか?

面白かったですよ。体重はあるし、持久力は自信ないんですけど、瞬発力で言ったら足もそんなに遅くはないんですよね。なのに、なんで止められるんだろうとか、思ったよりゲインできないとか、なぜそうなのか自分では分からなかったんですよね。

そしたら、エディーさんから「なんか当たり方が変だぞ」みたいな感じで、はっきり「変だぞ」とは言わなかったですけど、ちょっと冗談で僕の真似したりとか、ちょっと笑いながら「お前いつもこんなんだぞ」みたいな感じで言ってくれて、それである時に「こうじゃないんだ、こうなんだ」みたいな感じで、本当に簡単に教えてくれて、それが確か帝京との練習試合か合同練習の時だったと思います。

それをその日、ディフェンスに相手のフォワード選手2人来て、僕はなんの小細工もなく、フェイントもなんにもかけずに普通にその当たり方をしたら、2人が吹っ飛んだんですよ。それで「あれ?」ってなって、そこからずっとそうやってきたという感じです。

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◆落ちながら当たる

――それは次に誰かに教えられるものなんですか?

教えられると思います。でも、自分は自分の感覚で磨いてきて、感覚で覚えている技術で、しかも簡単にエディーさんに教えてもらったことなので、ちゃんと考えられるかは分かんないです。もしかしたら、体形が似通ってないとダメとか、場合によってはこういう選手はやらない方が良いとか、あるかもしれないですから。でも似たような大きいけど不器用という選手はいると思うので、そういう選手はやってみても良いのかなとは思います。

――文字で伝わるかどうかは分かりませんが、どんなことですか?

この間も高校生にちょっと教える機会があったんですけど、以前の僕と同じような当たり方をしてしまっている高校生が結構いました。特にタックルで多いんですけど、これからタックルに入るぞという時、高校生はやっぱり低く入れって言われるんですよ。相手の膝とか膝より下を狙えって言われるし、たぶん高く行ったら怒られたりするから、それで身構えちゃっているんです。低く入らなければいけないと考えすぎて、まだ敵が10メートルも先にいるのに低くなっているんですよ。膝を折り曲げて低くなった状態だけど、相手はその姿勢を見て走ってくるわけですから、簡単にかわされてタックルに入れなくなっちゃいますよね。そういうところがまずひとつあります。

コンタクトが起こる直前まではリラックスして「自然体になっていなさいよ」って言われています。そして、コンタクトが起る瞬間に低くなる。ただ、低くなるのも低くなってからタックルに入ろうとすると、しゃがんで立つみたいな動作になっちゃうんですよね。しゃがんで立つ動作ってただでさえしんどくて、スクワットじゃないですか。だから、せっかく助走つけてきているのに、しゃがんで立つことによって一回ゼロになっているんですよ。

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なので、どうすれば良いかと言うと、リラックスしているから上体は上がっていて、自然な状態で助走をつけて加速して、相手と当たる瞬間に低くなりながら当たるみたいな。上半身を折りながら当たることによって加速も殺さずに上半身が落下する重さも加わるっていう感じです。

それをタックルでもボールキャリアでも、両方で使えるということです。特にタックルで相手と当たる前に低くなると、相手に分かっちゃうんですよ。「あ、この高さに入ってこようとしているな」っていうのが分かっちゃうので、それをギリギリまで悟らせないようにするんです。フェイントの意味も兼ねて、どこに入ってくるのか分からない、ギリギリまでためた方が良いです。

――話で聞くと簡単ですが、その癖を直すのは大変ですね

そうですね。最初は頭では分かっているのに昔と同じことをやってしまうこともありました。敬介さんも同じことを教えてくれたので、きっとこの方法は間違いではないんだなと思います。

――要するに、低くしてしまうと伸び上がる感じになってしまうんですね

そうです。低くなって伸び上がると、この低くなった瞬間ってスピードがゼロなんですよ。そこから作ろうと思っても、せいぜい20とか30ぐらいなので、今まで助走でためてきた50を0にして30で当たるみたいな感じになってしまいます。そうではなくて、一回ゼロにする分を無くせば、50で助走してきて落ちる力の30を加えて、80で当たれますよね、みたいな感じですね。

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◆プロップかロックか

――プロップでずっとやりたかったのか、その話も含めてロックの方が最終的には面白かったのか、どちらですか?

コンタクトが好きなので、そのコンタクトの回数が増えたっていう意味では、ロックの方が楽しかったかもしれないですね。

――でもやっぱり第一列でのスクラムにもこだわりはあったんですよね

そうですね。いろいろやったんですけど、なかなか上手くいかなかったですね。本当にアオさん(青木スクラムコーチ)にもヤマさん(山岡前フォワードコーチ)にもとても苦労をかけたと思います。いろんなことを教えてくれましたし、僕のために様々なサポートをしてくれました。けれど、プロップをやっていた最後の方には、もう訳がわかんなくなってしまっていました。頭では分かっていても体で再現できてないっていうことが、とても多かったんです。

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見た目は理想とされるものと同じになっていても、なぜかその体勢は僕にとってはとても苦しくて、力が入らないということがあって、何故だろうって思っていました。単純に筋力不足だったっていうオチだと嫌だったので、結構筋トレも頑張りました。例えばスクワットだったら、部内で一番をとろうとして、実際にハーフスクワットの重さだと一番をとっていたんですけど、それでもスクラムには活かせませんでした。

――エディーさんが教えてくれたようなものが、そこにもあったら良かったですね

いや、実際にあったけど僕が拾えてない可能性の方が大きいと思うんですよ。

――逆に言うと、コンタクトの方は拾えたってことは、そっちにセンスがあったってことですね

そう言ってもらえると嬉しいんですけれど。

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◆ビッグタックル

――恵まれた体格で、日本代表キャップもあり、いつかきっと花開くだろうと皆が思っていたと思うのですが、自分で考えて一番惜しい時っていつでしたか?

一番惜しい時は、2017-2018シ-ズンじゃないですかね。あの時は、コンタクトでも確実に2018-2019シーズンより良かったです。あの年はタックルが特に良くて、敬介さんがいつもタックルを教えてくれて、タックルのドリルの時間があったんです。いつもウエイトの後にやってもらっていて、みんなに教えることと、僕に教えることではちょっと違っていました。エディーさんの時のことにも繋がると思うんですけど、「お前はもう低く入るな。体もでかいし、パワーもあるんだから、もう高く入って良いから、とにかく自分の力が一番発揮できるフォームで入れ」って言われていました。

例えば、サイズの小さい選手が相手の膝に入る、太ももより下に入るフォームと、僕が相手の同じ場所に入るフォームって違うと思うんですよ。僕にとってはとても窮屈なフォームになっていて、「その体勢ではお前のパワーは発揮できないだろ」って。「だからお前は腰とか腹狙って良いから、パワーを発揮して入りなさい」っていうことです。

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それを実際にやって、その年は結構ビッグタックルがありました。外国人選手を仰向けにしたりして、とても爽快感がありました。夏合宿の網走での何試合かでもビッグタックルがあり、その合宿のMVPをいただいたので、あの時が今までの自分の中では、かなり良かったんじゃないかなと思います。

――それでもなかなか使われませんでしたね

ラグビーっていろんなことができないといけないじゃないですか。なので、何て言うんでしょうね、平均のスポーツという言葉もありますけど、そういう意味ではかなり凸凹な能力というか、ダイヤモンドグラフで表したら、かなりヘンテコな形をしていると思います。そういう意味で、使いづらい選手ではあったのかなと思います。

――そこには悔いは残っていませんか?

そういう感じはしないですね。

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◆ラジオ

――今後やっていきたいことは何なんですか?

どういう部署に行くかはまだ分かりませんが、もちろん仕事は頑張りたいです。仕事をまずしっかりやって成果を出すことが前提なんですけど、あとはちょっと有難いことに真壁さんとのラジオがあります。

――ラジオとは?

スマートフォンアプリの「海賊ラジオ」っていう番組があるんです。いろんなパーソナリティや有名人が熱いトークを繰り広げているアプリがあって、そこから真壁さんがやってみませんかっていうお話をいただいたんです。それで真壁さんから「ちょっと一緒にやってみない?」ってお話をいただいたので、やらしていただくかもしれないです。

――なぜ真壁選手にパートナーとして選ばれたんだと思いますか?

真壁さんに聞いた限りでは、要は真壁さんってめちゃくちゃウイスキーに詳しくて、もうプロ顔負けというか、巷のバーのマスターより知っているかもと思うくらいなんですよ。自分でも言っていますけど、要はウイスキーオタクなんです。けど、このラジオは、ラグビーを今まで知らない人たちとか、ちょっと興味持った人たち向けにやりましょうという趣旨なんです。

でもラグビー選手がただラグビーの話をしていても、あまりラグビーを知らない人たちにとっては、それって退屈なんじゃないのかなっていう話で、当たり前すぎてしまうのかなと。じゃあ、ラグビー選手だけど、真壁さんだったらウイスキーのように、何かに特化してというか極端な知識を持っている人たちで雑談の中でやっていった方が、キャッチ―なんじゃないかって考えたそうです。

それで僕がサブカル方面に若干強めなので、主にミリタリー関係とか大好きで、そういう意味でウイスキーオタクとミリタリーオタクで面白いことが起るんじゃないのっていうことみたいです。たぶん、僕はちょっとオタク気質があります。自分が好きなものとか、体験して興奮したものとかを、人に伝える時ってちょっとオーバーなくらい妙に熱がこもっているかもしれないです。

――人を説得する話力を持っている人だと思いますが、コーチはどうですか?

コーチですか。そうですね、中学生とか高校生とか、そういうコーチングはとてもしてみたいとは思うんですけど、言うほど簡単な話ではないと思うので、もしそういう手助けを必要としている学校の監督やコーチ、もしくは母校なんかで、別に商売としてではなく、希望があれば教えられる範囲では積極的にやっていきたいと思います。

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――ファンへラストメッセージをお願いします

なかなか試合には出られませんでしたが、スター選手でもなんでもないのに、名前を覚えてくれて、いつも声をかけてくれる人たちがたくさんいるので、本当にそういう方たちには感謝しかありません。本当にありがとうございました。同時に、僕はサンゴリアスを引退しますけど、もちろん試合へ応援に行ったりは当然しますし、もしかしたら別のメディアだったりで、見たりする可能性もあると思います。これが今生の別れというわけではないので、今後ともよろしくお願いします。

またサンゴリアス関係で言えば、僕も今度は選手じゃなくて、皆さんと同じ立場でいちファンとして応援する側に回るので、そこも温かく受け入れていただけたらなと思います。一緒にサンゴリアスを応援し続けていっていただければ嬉しいです。よろしくお願いします。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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